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第31話:グレースの臨時講師3
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「あなたのために言ってあげてるのよ。もう魔法を使うのはやめておきなさい」
険しい表情で辛辣な言葉を浴びせかけるグレースは、明らかに様子が変だった。
いったいどうしたんだろうか。可愛い女の子に嫉妬して攻撃的になるのは想像が付くが、グレースと敵対した女の子は平凡にしか見えなかった。
化粧もしていないし、髪の毛も寝癖が付いているような子で、裕福な家系ではないと一目でわかる。グレースが嫉妬するようなところは一切見当たらず、ただの八つ当たりとしか思えない。
「えっと……」
あまりの突然な出来事に動揺を隠せない女の子は、言葉を失っていた。半泣きになっている姿を見れば、どれほど怖かったのかよくわかる。
さすがにメイドとしてボーッと見ていることはできないので、私はグレースを抑えに、ソフィアは女の子のフォローに入った。
「グレース様、落ち着いてください。臨時講師の立場としては、少々言い方が厳しいと思います」
「生意気ね。メイドのくせに、私に文句があるの?」
メイドを蔑むことが多いグレースだが、今まで人前で口調が乱れることはなかった。明らかに目つきが悪いし、イライラがヒートアップしそうな雰囲気すらある。
さっきまで口説いていた男の子も見ているんだし、いつもだったら冷静になるはずなのに。この子がグレースの逆鱗に触れるような行動を取っていたとは思えないけれど、何か問題があったかしら……。
「おやおや、どうしたのかね」
緊迫した空気に助け舟を出してくれたのは、先ほど挨拶した学園長だった。グレースを気遣ってくれていたから、様子を見に来てくれたのだろう。
さすがにグレースもまずいと思ったのか、学園長に向けて深々とお辞儀をする。
「申し訳ありません。私のせいです。彼女の魔力が暴走しそうな気配があったので、ついカッとなって止めてしまいましたの」
グレースの言葉に、教室は騒然とした。
自分の魔力がコントロールできなくなり、魔法が暴発してしまう現象『魔力暴走』。自分の意志とは関係なく魔法が発動するため、周囲に大きな被害が出るケースが多い。
その原因は不明であり、魔力暴走の兆候が見られた段階で魔導士を引退することが推奨されていた。暴走してしまうと、体内の魔力が枯渇するまで魔法が止まらず、死に至る可能性が高いのだ。
「なんと! それは仕方がないが……、この子の魔力が暴走しそうだったのかね。ルチアはとても優秀な子だと思っておったのじゃが」
学園長もよく知っている子だったのか、ルチアと呼ばれた女の子は、顔色をうかがうようにグレースを見つめていた。
しかし、グレースがルチアに向ける眼差しは相変わらず険しいものがある。
「普通の方ではわからないと思いますが、魔力暴走する際には波長が変わります。この子のように基礎的な訓練でその傾向が見られるのであれば、魔導士の道は諦めさせるべきです」
何の迷いもなく言い切ったグレースに対して、ルチアは恐る恐る口を開く。
「あの、私の魔力は別に――」
「受け入れたくない気持ちはわかるわ。でもね、早めに受け入れた方がいいと思うの。魔力暴走させて誰かを傷つけたいのであれば、話は別よ」
「そういうわけではありません。あの……私の顔を覚えていませんか? ウォルトン公爵家の推薦で学園に来ているのですが」
ルチアは庇ってくれることを期待しているのだろうが、それは無理な話だ。顔を覚えているのか確認している時点で、ほとんどん面識がないことを表している。
「三年前、グレース様に回復魔法の素質があるとおっしゃっていただき、今日まで頑張ってきました。私の魔力におかしいところは感じませんし、誤解ではないでしょうか?」
「聖女の私にしかわからないことがあるの。魔法の素質が悪い方向に開花したのは、とても胸が痛いわ。残念だけど、ウォルトン家の推薦は取り消すしかないようね」
「そ、そんな……!」
才能のある子が埋もれないようにするための施策として、学費が免除されるシステムがある。それが三大貴族による推薦だった。
ルチアみたいなリアクションを取るとしたら、推薦が取り消しになれば、自主退学の道しか残されていないのだろう。学園で勉強しようと思えば、学費以外にも色々お金はかかるから。
彼女の肩を持ってあげたいけれど、今回ばかりはグレースが正しい。魔力暴走する者を学園に置いておくのは、リスクが高すぎる。
最悪、魔力暴走して学園の生徒も巻き込むことになるかもしれない。
「こんなことを言わなければならないなんて、私もツラいのよ。わかってちょうだい」
ポケットからハンカチを取り出したグレースは、涙を隠すように顔を覆った。厳しい指摘をさせてしまったことに申し訳なく思ったのか、学園長がグレースの背中を優しくさすっている。
この光景を見れば、誰もがグレースの言葉を疑おうとは思わないだろう。でも、私は違った。
今日という日ほど、グレースが怖いと思ったことはない。私の角度からはグレースの口元が少しだけ見えるのだが、不気味な笑みを浮かべているのだ。
グレースは涙を拭くためにハンカチを取り出したんじゃない。笑うことが我慢できなくて、ハンカチを取り出したのよ。
本当にルチアは魔力暴走するのかしら。いったいグレースは何を考えているの?
険しい表情で辛辣な言葉を浴びせかけるグレースは、明らかに様子が変だった。
いったいどうしたんだろうか。可愛い女の子に嫉妬して攻撃的になるのは想像が付くが、グレースと敵対した女の子は平凡にしか見えなかった。
化粧もしていないし、髪の毛も寝癖が付いているような子で、裕福な家系ではないと一目でわかる。グレースが嫉妬するようなところは一切見当たらず、ただの八つ当たりとしか思えない。
「えっと……」
あまりの突然な出来事に動揺を隠せない女の子は、言葉を失っていた。半泣きになっている姿を見れば、どれほど怖かったのかよくわかる。
さすがにメイドとしてボーッと見ていることはできないので、私はグレースを抑えに、ソフィアは女の子のフォローに入った。
「グレース様、落ち着いてください。臨時講師の立場としては、少々言い方が厳しいと思います」
「生意気ね。メイドのくせに、私に文句があるの?」
メイドを蔑むことが多いグレースだが、今まで人前で口調が乱れることはなかった。明らかに目つきが悪いし、イライラがヒートアップしそうな雰囲気すらある。
さっきまで口説いていた男の子も見ているんだし、いつもだったら冷静になるはずなのに。この子がグレースの逆鱗に触れるような行動を取っていたとは思えないけれど、何か問題があったかしら……。
「おやおや、どうしたのかね」
緊迫した空気に助け舟を出してくれたのは、先ほど挨拶した学園長だった。グレースを気遣ってくれていたから、様子を見に来てくれたのだろう。
さすがにグレースもまずいと思ったのか、学園長に向けて深々とお辞儀をする。
「申し訳ありません。私のせいです。彼女の魔力が暴走しそうな気配があったので、ついカッとなって止めてしまいましたの」
グレースの言葉に、教室は騒然とした。
自分の魔力がコントロールできなくなり、魔法が暴発してしまう現象『魔力暴走』。自分の意志とは関係なく魔法が発動するため、周囲に大きな被害が出るケースが多い。
その原因は不明であり、魔力暴走の兆候が見られた段階で魔導士を引退することが推奨されていた。暴走してしまうと、体内の魔力が枯渇するまで魔法が止まらず、死に至る可能性が高いのだ。
「なんと! それは仕方がないが……、この子の魔力が暴走しそうだったのかね。ルチアはとても優秀な子だと思っておったのじゃが」
学園長もよく知っている子だったのか、ルチアと呼ばれた女の子は、顔色をうかがうようにグレースを見つめていた。
しかし、グレースがルチアに向ける眼差しは相変わらず険しいものがある。
「普通の方ではわからないと思いますが、魔力暴走する際には波長が変わります。この子のように基礎的な訓練でその傾向が見られるのであれば、魔導士の道は諦めさせるべきです」
何の迷いもなく言い切ったグレースに対して、ルチアは恐る恐る口を開く。
「あの、私の魔力は別に――」
「受け入れたくない気持ちはわかるわ。でもね、早めに受け入れた方がいいと思うの。魔力暴走させて誰かを傷つけたいのであれば、話は別よ」
「そういうわけではありません。あの……私の顔を覚えていませんか? ウォルトン公爵家の推薦で学園に来ているのですが」
ルチアは庇ってくれることを期待しているのだろうが、それは無理な話だ。顔を覚えているのか確認している時点で、ほとんどん面識がないことを表している。
「三年前、グレース様に回復魔法の素質があるとおっしゃっていただき、今日まで頑張ってきました。私の魔力におかしいところは感じませんし、誤解ではないでしょうか?」
「聖女の私にしかわからないことがあるの。魔法の素質が悪い方向に開花したのは、とても胸が痛いわ。残念だけど、ウォルトン家の推薦は取り消すしかないようね」
「そ、そんな……!」
才能のある子が埋もれないようにするための施策として、学費が免除されるシステムがある。それが三大貴族による推薦だった。
ルチアみたいなリアクションを取るとしたら、推薦が取り消しになれば、自主退学の道しか残されていないのだろう。学園で勉強しようと思えば、学費以外にも色々お金はかかるから。
彼女の肩を持ってあげたいけれど、今回ばかりはグレースが正しい。魔力暴走する者を学園に置いておくのは、リスクが高すぎる。
最悪、魔力暴走して学園の生徒も巻き込むことになるかもしれない。
「こんなことを言わなければならないなんて、私もツラいのよ。わかってちょうだい」
ポケットからハンカチを取り出したグレースは、涙を隠すように顔を覆った。厳しい指摘をさせてしまったことに申し訳なく思ったのか、学園長がグレースの背中を優しくさすっている。
この光景を見れば、誰もがグレースの言葉を疑おうとは思わないだろう。でも、私は違った。
今日という日ほど、グレースが怖いと思ったことはない。私の角度からはグレースの口元が少しだけ見えるのだが、不気味な笑みを浮かべているのだ。
グレースは涙を拭くためにハンカチを取り出したんじゃない。笑うことが我慢できなくて、ハンカチを取り出したのよ。
本当にルチアは魔力暴走するのかしら。いったいグレースは何を考えているの?
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