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第35話:ルイスの浮気2
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週に一回しかない休みを使い、久しぶりに私服を着た私はカフェで紅茶をたしなんでいた。
目的はただ一つ。気が重たそうな雰囲気でカフェに入ってきた人物と、二人きりで話せる場所が欲しかったからである。
「ルイス様~! こちらですー!」
元気な声と爽やかな笑顔を作った私は、ルイスに向かって大きく手を振った。
どこからどう見てもローズレイ家らしくない振る舞いだが、こういった些細な行動を積み重ねていくことで、いざというときの助けになる。変装したシャルロットだと疑いをかけられては、陰で動くことも難しくなるのだから。
ただ、ソフィアがいなくて残念そうなルイスは、複雑な表情で向かってくるが。
「君からの手紙だったとは思わなかったよ」
「私からの手紙だと伝えたら、受け取ってももらえないと思いましたので。変に期待させてしまったことについては、謝罪します」
「いや、構わないが……、君は本当にソフィアと仕事だけの付き合いなのか? あんな手紙を送ってくる人物は、心当たりが一人しかいないんだが」
向かい合って座ったルイスが緊張しているので、私の正体に気づいたのだろう。ルイスの家系は王家と交流が深いし、バレたところで問題はないと思う。
昨日の手紙には、『ソフィアへの浮気について話したい』という文言と、場所と日付しか書かなかった。それだけで私の正体にたどり着くのは、ソフィアの友達が少ないことが原因だ。
婚約破棄された後、ソフィアの周りにいた人たちは加速していなくなったから。
上辺だけの付き合いだったのなら、余計な付き合いがなくなり、良い面もあったと思う。でも、ソフィアの一人称が『ボク』ということもあり、馬鹿にされたり、陰口を叩かれたりされることが次第に増えていった。
そんな言葉を一言一句漏らすことなくメモし、名誉棄損という罪状をチラつかせたのは、当時の私である。よって、わざわざソフィアとの浮気話を蒸し返す人物など、シャルロットしかいなかった。
「いつかは来ると思っていましたよね」
「……正直、今日も一発くらいは殴られる覚悟をしてきた」
「物騒ですね。メイド業に勤しむ私はそのような野蛮な行動を致しませんよ」
「メイドの君は、な」
冷ややかな眼差しを向けてくるルイスは、随分と私のことを理解してくれている。当時、ルイスの元へ殴り込みに行こうとした私は、ソフィアに止められていたため、あながち間違ってもいなかった。
ローズレイ家の人間としては失格でも、まだ若い私は歯止めが利かない一面がある。
親友を泣かせた罪は重いと思っているし、ソフィアの未練が残っていなかったら、左頬が腫れ上がる程度のビンタで許してあげるつもりだった。もちろん、右頬はソフィアの分に残しておくとしてね。
今となっては、本当にやらなくてよかったと思うけれど。
「変に謝られるのは嫌いですし、普通にお話を聞いても大丈夫ですよね?」
公爵家のシャルロットとして話した場合、伯爵家のルイスは謝ることに徹するはず。そのため、あくまでメイドのシャルに向かって話してもらいたかった。
ビンタしない分、ちゃんと話してね、という意味でもある。
「……ソフィアには内緒にしておいてくれ」
よかった。しっかりと話が聞けそうで何よりだ。
「これはお節介になりますが、ちゃんと話し合わない限り、前には進めないと思いますよ」
「心配しないでくれ。俺はもう、彼女を愛する資格がないんだ。今以上の関係を望んでいないよ」
真面目すぎるルイスは、浮気した罪が重いと感じて、ソフィアと婚約してはならないと考えているらしい。
詰まらない維持を張るくらいなら、二度と浮気しないと誓って、再婚約すればいいのに。
数日前、似たようなことで落ち込んでいた私が言える立場でもないが。
「欲がありませんね。まあ、安心してください。私は口が堅い女です。ソフィアさんに話さないと約束しましょう」
「助かるよ。これで少しは安心できたが、冷や汗は止まらないな。戦場に向かう方がマシな気分だ」
「女性の扱いに上手なルイス様にしては、珍しいですね。何か悪いものでも食べましたか?」
何とも複雑な顔を向けてくるルイスに、私は満面の笑みで返してあげた。
女の子っぽく話すお前が怖いと言いたいのか、ニコやかな笑顔を向けてくるお前が不気味と言いたいのか。どちらにしても、口にしないのは正解だと思う。表情に出すのは、不正解だけれど……まあいいわ。大目に見ましょう。
数年前のルイスの浮気に何か隠されているのなら、私とレオン殿下にも影響する可能性があるのだから。
「嘘を言わない限り、私は怒らないと誓いましょう。何かするつもりもありませんので、詳しい話をお聞かせください」
目的はただ一つ。気が重たそうな雰囲気でカフェに入ってきた人物と、二人きりで話せる場所が欲しかったからである。
「ルイス様~! こちらですー!」
元気な声と爽やかな笑顔を作った私は、ルイスに向かって大きく手を振った。
どこからどう見てもローズレイ家らしくない振る舞いだが、こういった些細な行動を積み重ねていくことで、いざというときの助けになる。変装したシャルロットだと疑いをかけられては、陰で動くことも難しくなるのだから。
ただ、ソフィアがいなくて残念そうなルイスは、複雑な表情で向かってくるが。
「君からの手紙だったとは思わなかったよ」
「私からの手紙だと伝えたら、受け取ってももらえないと思いましたので。変に期待させてしまったことについては、謝罪します」
「いや、構わないが……、君は本当にソフィアと仕事だけの付き合いなのか? あんな手紙を送ってくる人物は、心当たりが一人しかいないんだが」
向かい合って座ったルイスが緊張しているので、私の正体に気づいたのだろう。ルイスの家系は王家と交流が深いし、バレたところで問題はないと思う。
昨日の手紙には、『ソフィアへの浮気について話したい』という文言と、場所と日付しか書かなかった。それだけで私の正体にたどり着くのは、ソフィアの友達が少ないことが原因だ。
婚約破棄された後、ソフィアの周りにいた人たちは加速していなくなったから。
上辺だけの付き合いだったのなら、余計な付き合いがなくなり、良い面もあったと思う。でも、ソフィアの一人称が『ボク』ということもあり、馬鹿にされたり、陰口を叩かれたりされることが次第に増えていった。
そんな言葉を一言一句漏らすことなくメモし、名誉棄損という罪状をチラつかせたのは、当時の私である。よって、わざわざソフィアとの浮気話を蒸し返す人物など、シャルロットしかいなかった。
「いつかは来ると思っていましたよね」
「……正直、今日も一発くらいは殴られる覚悟をしてきた」
「物騒ですね。メイド業に勤しむ私はそのような野蛮な行動を致しませんよ」
「メイドの君は、な」
冷ややかな眼差しを向けてくるルイスは、随分と私のことを理解してくれている。当時、ルイスの元へ殴り込みに行こうとした私は、ソフィアに止められていたため、あながち間違ってもいなかった。
ローズレイ家の人間としては失格でも、まだ若い私は歯止めが利かない一面がある。
親友を泣かせた罪は重いと思っているし、ソフィアの未練が残っていなかったら、左頬が腫れ上がる程度のビンタで許してあげるつもりだった。もちろん、右頬はソフィアの分に残しておくとしてね。
今となっては、本当にやらなくてよかったと思うけれど。
「変に謝られるのは嫌いですし、普通にお話を聞いても大丈夫ですよね?」
公爵家のシャルロットとして話した場合、伯爵家のルイスは謝ることに徹するはず。そのため、あくまでメイドのシャルに向かって話してもらいたかった。
ビンタしない分、ちゃんと話してね、という意味でもある。
「……ソフィアには内緒にしておいてくれ」
よかった。しっかりと話が聞けそうで何よりだ。
「これはお節介になりますが、ちゃんと話し合わない限り、前には進めないと思いますよ」
「心配しないでくれ。俺はもう、彼女を愛する資格がないんだ。今以上の関係を望んでいないよ」
真面目すぎるルイスは、浮気した罪が重いと感じて、ソフィアと婚約してはならないと考えているらしい。
詰まらない維持を張るくらいなら、二度と浮気しないと誓って、再婚約すればいいのに。
数日前、似たようなことで落ち込んでいた私が言える立場でもないが。
「欲がありませんね。まあ、安心してください。私は口が堅い女です。ソフィアさんに話さないと約束しましょう」
「助かるよ。これで少しは安心できたが、冷や汗は止まらないな。戦場に向かう方がマシな気分だ」
「女性の扱いに上手なルイス様にしては、珍しいですね。何か悪いものでも食べましたか?」
何とも複雑な顔を向けてくるルイスに、私は満面の笑みで返してあげた。
女の子っぽく話すお前が怖いと言いたいのか、ニコやかな笑顔を向けてくるお前が不気味と言いたいのか。どちらにしても、口にしないのは正解だと思う。表情に出すのは、不正解だけれど……まあいいわ。大目に見ましょう。
数年前のルイスの浮気に何か隠されているのなら、私とレオン殿下にも影響する可能性があるのだから。
「嘘を言わない限り、私は怒らないと誓いましょう。何かするつもりもありませんので、詳しい話をお聞かせください」
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