【完結】聖女の仮面を被った悪魔の女に断罪を~愛するあなたが婚約を破棄すると言うのなら、私は悪役令嬢になりましょう~

あろえ

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第36話:ルイスの浮気3

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 私の正体がシャルロットだと発覚し、妙にルイスは緊張している。そのため、落ち着きを取り戻すのに紅茶を注文して、クールダウンすることになった。

 店員さんがそれを持ってきてくれると、ルイスはすぐに口にするが、気持ちが落ち着いているようには見えない。

 それほど浮気したことを話したくないのかと察すると、さすがに罪悪感が湧いてしまう。

 本来なら、ソフィアとルイスだけの問題であり、第三者の私が関与するべきではない。親友とはいっても、やりすぎている自覚はあった。

 ここまで来たら後に引けないし、引く気もないが。

「あれは、貴族の付き合いでパーティーに招かれた時のことだ」

 話す気持ちが整ったのか、ルイスは重い口を開いた。

「パーティーが終わった後、貴族専用の宿屋に案内されると、部屋に不審者が現れたという女性が階段から逃げてきたんだ。彼女の必死の形相と乱れた衣服を見て、俺はすぐに部屋へと向かった」

 以前、記憶がないって言ってた割には、けっこう情報が細かいわね。衣服が乱れていたなんて、忘れていてもいいじゃない。そういうところを覚えているあたりが、やましい印象を抱くのよね。

「彼女の泊まっていた部屋は三階だったんだが、静かなものだったよ。部屋にも廊下にも誰もいなくて、人が隠れている様子もなかった」

「階段でも人にすれ違わなかったんですか?」

「ああ。三階まで勢いよく上ったからな」

 女性が襲われたばかりとはいえ、人とすれ違わないなんてことがあるかしら。女性がすごい形相で三階から逃げてきたのなら、普通は叫び声や物音で大騒ぎになるわ。いち早く駆けつけるべき宿の警備兵がいないのも、不自然よね。

 こんなことを瞬時に考えてしまうのは、職業病ともいえる。人を裁くローズレイ家にとって、人の話から過去の出来事を明確にイメージし、本当にあった出来事を探らなければならない。

 そのため、些細な違和感が生じると、必要以上に考えてしまうのだ。

「現場に不審者はいなかったが、襲われた女性のことを考えれば、それで終わらせるのは申し訳なくてな。一応、違う部屋を手配してもらうように交渉して、新しく案内された部屋も確認――」

「ちょっと待ってください。そこまでやる必要はありましたか? 違う部屋を手配するのも、本人にさせればいいと思うんですが」

 今日は仕事ではないので、変なところに首を突っ込むのは許してほしい。ソフィアの気持ちを考えると、黙って聞いてはいられなかった。

 ルイスが女性に優しい人であったとしても、婚約者がいる身なら、もう少し考えを改めるべきだろう。貴族専用の宿なら、従業員さんがうまく対処してくれたはずなのに。

「少しでも安心して過ごせる環境を作るのは、騎士の務めだ。女性が怯える姿を見て、放っておけるわけないだろ」

 敵から身を守ってあげるという意味では……まあ、納得できないことはない。ルイスは真面目だし、そこが良いところでもあるとは思う。

「わかりました。続きを話してください」

「……いや、そこから記憶がない。新しい部屋の確認をしている途中から、プツリと記憶が途絶えている」

 ん? これだけ鮮明に覚えているのに、ここから記憶がないの……?

「次に覚えているのは、ベッドの上だ。裸の女性が俺の腕の中で寝ていて、朝を迎えていた。一夜を共に過ごした、その事実だけが今も残っている」

 普通に聞いたら、彼が誤魔化している、もしくは、言いたくないことを隠していると思われるだろう。でも、この状況で私に嘘をつくとは思えない。

「では、ルイス様の意志で何かした記憶はないんですね?」

「絶対にあり得ないと誓おう。今でも無意識に自分がそんな行動を取ったことを恥じている」

 浮気した話とは思えないほど、唐突に話が終わってしまった。鮮明に覚えている部分が多いだけに、急に記憶が途絶える方が違和感は強い。

 女性の乱れた服なんて覚えてるくらいだし、もっと刺激の強い行為をして、忘れるとは思えない。正義感で動いていたルイスが女性を襲うとも考えにくく、本当に記憶があれば、しっかり頭を下げて謝罪するだろう。

 私の考えすぎかな。宿と被害女性の対応が怪しく思えてくるわ。

 まず、三階の部屋に不審者が現れたのなら、侵入経路がわからない。窓からやってくることはないため、部屋で襲われるにはドアを開ける必要がある。

 女性が知らない人を部屋に入れる可能性は低いし、その状況だと一階まで逃げることは困難だ。もみ合いになって衣服が乱れていたのなら、騒ぎにならない方がおかしい。

 ましてや、不審者に襲われた被害女性と男性騎士のルイスを二人だけにするなんて、貴族専用の宿がする対応ではない。普通は女性スタッフと警備兵が付き添い、対処に当たるはず。

 うーん……加害者の話だけで決めつけるのは良くないのだけれど、どうにもきな臭い話になってきたわね。

「ちなみに、ルイス様はまだソフィアさんのことが好きなんですよね?」

「……答える必要があるか?」

「それはもう、とても重要ですよ。言葉にしないとわからないこともありますから」

 呑気なことを聞いているが、私は頭の中で情報を整理している。ルイスが騙されている考えた方が、うまく話がまとまるから。

 朝まで添い寝するほど女性がルイスを受け入れていたのに、慰謝料を請求するなんておかしな話よ。結婚を見据えたハニートラップと言われた方が、まだ納得できるもの。

 つまり、罪の意識を植え付けるための添い寝であり、最初から慰謝料目当てだったと考えるべきだ。

 被害女性が大袈裟なことを訴えてきても、ベッドの上で裸になっていれば、言い逃れはできない。多くの慰謝料を手にするのは容易であり、典型的な陥れる策の一つになる。

 記憶がない理由はわからないが、真面目な人間であればあるほど、後悔の念に囚われるだろう。罪を犯したという事実と、何もしていないと思う無責任な気持ちがぶつかり、罪悪感が加速する。

 もう二度と、好きな人を愛してはいけないと思わせるほどに。

「俺はソフィアを幸せにすることはできない。それが答えだ」

 でも、どんな人であったとしても、人は幸せになる権利がある。罪を償うことと、後悔し続けることは違うから。

「答えになっていません。愛しているのか、愛していないのか、どちらかでお答えください。嘘はつかない、そういう約束ですよ」

 そして、ここまで深く問い詰めるのには、とても大きな理由があった。

 浮気されても気持ちの整理が付かないソフィアは、ルイス以外に婚約する気はない。彼女とっての幸せは、そこにしかないのだ。

 こういった機会でもない限り、に直接聞かせることはできないから、しつこく聞いているだけ。いわゆる、お節介というやつである。

「……愛しているに決まっているだろ。俺に愛する資格がないだけで」

 その言葉が引き金になってしまったのか、ルイスの背後でニョキニョキと生えてくる人物がいた。

 ルイスの脳天にバシンッとチョップする、照れまくりのソフィアである。

「その資格は、ボクが許可するよ」

 ソフィアの顔が真っ赤になっているのは、言うまでもないだろう。とても世話の焼ける親友だが、久しぶりに幸せそうな顔を見れたので、これでよしとしよう。
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