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第40話:シャルとルチア3
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空腹状態だったルチアは、最初の勢いのまま、ペロリッとごはんを平らげた。
後で注文したとはいえ、私が紅茶を飲み終わるよりも先に食べ終わるのは、どういうことなのだろうか。彼女を一言で表すとしたら、食欲旺盛という言葉がピッタリだと思う。
早くもお土産のサンドウィッチを選ぼうとするあたり、本当に食欲旺盛である。
「もうそろそろお話を聞いてもよろしいですか?」
「へっ? あっ、はい。そ、そうでしたよね」
事情を話すという約束を完全に忘れていたみたいで、さすがにルチアも恥ずかしそうに顔を赤くしていた。
しゅんっとして身を縮こめるあたり、とてもわかりやすい女の子だろう。そして、少し儚い表情を浮かべているので、見た目通りに良い状況とは言えそうになかった。
「こう見えて私は貴族なんですが、三年前に父ちゃんと母ちゃんが倒れてから、かなりカツカツなんです」
なるほどね。一家の大黒柱が倒れ、収入を得ることができなくなってしまったのね。よく聞く話ではあるものの、一番揉めやすいことではあるわ。
領地経営していない貴族の場合、職を失うと一気に没落するケースが多い。一代限りの男爵家であれば、金銭事情はかなり厳しいだろう。
まともにフォローしてあげられる人が周りにいたら、領主や国に申請して助成金を得られたはずだけれど……、寄ってきたのはハイエナだったわけだ。
「幸いなことにウォルトン家と知り合いだという商人さんが助けてくれて、治療してもらえるようになったんです。でも、大人二人分の治療費は思った以上に高くて……」
「ご両親の状態や貯金にもよると思いますが、子供には難しい金額だったんでしょう。貯蓄していたお金では払えなかったんですか?」
うつむいたルチアは、言いにくそうに口をモゴモゴとさせていた。その部分が一番聞きたい私が、ここで引き下がることはない。
「その……ウォルトン家を紹介してくれた商人さんに、お仕事を紹介してもらったというか……なんというか……」
妙に歯切れが悪いのは、悪事を働いた自覚があるからだろう。ルチアみたいな女の子が、罪悪感を感じないはずがない。
やっぱりこの子がルイスを陥れ、詐欺に加担していたのね。仕事と言い切ってしまうあたり、他にも犠牲者がいるはず。黒幕もウォルトン家で間違いなく、組織的な犯行だったんだと思うわ。
でも、慰謝料を手に入れても、まだルチアはお金を欲している。今度は悪事に加担することなく、正当な方法で働いているのだ。
彼女の後悔している表情を見れば、あまり強く言うことはできない。ましてや、今の私はメイドのシャルであって、ローズレイ家のシャルロットではないのだから。
ひとまず、話を進めるために声をかけるとしよう。
「アルバイトのお金を貯めているのは、まだご両親が回復していないからですね」
「あっ、はい。毎月治療しなければならないらしくて、今は父ちゃんも母ちゃんもウォルトン領に住んでいます。でも、仕事ができるくらい元気になったんですよ。お金は……相変わらず必要なんですが」
「回復魔法でも月に一度治療が必要なら、なかなかの重症ですね。適切な治療を受けても長引く方は珍しい印象です」
「あまりない魔力障害みたいで、対処が難しいと聞いています。でも、私がグレース様の真似をしてみたら、たまたまうまくいったことがあったんですよ。グレース様が褒めてくださって、学園に推薦までいただいちゃいました、えへへへ」
「それで学生をしながら、バイトで治療費を稼いでいたんですね。昨日の出来事を見る限り、残念な結果だとは思いますが」
グレースの判断が正しいのかは別にして、ルチアは魔力暴走の恐れがあると判断された。もしも本当だったら、このまま魔法を使い続けると、近いうちに死ぬ恐れがある。
当然、本人にとっては深刻な問題であり、ルチアは苦笑いを浮かべていた。
「仕方ないんです。私、人に言えない悪いことをしちゃったことがあるので、バチが当たったんですよ。神様が回復魔法を使わせてくれるなら、頑張ろうと思って勉強していたんですけど……」
「ご両親の治療を自身でされたい気持ちはわかりますが、今は優れた魔導師に任せるべきでしょう。違う職に就いて、お金を稼ぐしか方法はありません」
「あっ、いえ。その……父ちゃんと母ちゃんの治療は気にしていないんです。昔やった悪いことを償うために、人の命を救ってあげられたら、と思っていたので。自己満足なのかもしれませんが、それしか思い浮かばないんですよね」
己の罪を話せば、処罰されて仕事ができなくなってしまう。そうすれば、両親の治療費が払えなくなるので、自首することができない。
そのため、大勢の人に貢献できる道を選ぼうとした。自分の罪が軽くなることを信じて。
「後悔されているんですね。その悪いことについて」
「仕方ないと自分に言い聞かせても、納得できませんでした。聖人メイドさんに話しても、気は晴れないものですね」
たとえ私が本当に聖人メイドであったとしても、ルチアの心は軽くならないだろう。根本的に間違っているのだ。
「懺悔しただけで楽になるのなら、後悔などしていません。ルチア様が抱えている苦しみは、罪を償い、許された者だけが解放されるものです。本当はどうするべきか、わかっているんじゃないんですか?」
ルチアはとても反省しているし、後悔している。両親が治療を必要しないほど元気だったら、すでに自首していたかもしれない。
「本当に聖人メイドさんみたいですね。心が見透かされているような気がして――」
ルチアの声を遮るように、ゴーンと夜の九時を知らせる時計がなった。知らないうちに随分と話し込んでいたらしい。
やってしまった……と私が思うのは、王城で働くメイドは日が暮れるまでに帰らなければならないから。ロジリーの厳しい説教を受けるのは間違いない。
「あっ、いけない! バイトの時間!」
そして、ルチアもアウトみたいだ。夜もバイトをするなんて、随分と無茶な生活をしているように思う。
仕方ない。夜に巡回する騎士を捕まえて、ルチアと一緒に行動するとしよう。学園の生徒が事件に巻き込まれたら洒落にならないし、私も変な事件に巻き込まれたくはない。
「街の中とはいえ、夜は危険です。念のため、一緒に行動しましょう。バイト先はどこですか?」
「王城の外壁清掃をやっているので、聖人メイドさんと同じです」
かなり近場に接点があったのね。今まで全然気づかなかったわ。
でも、それより言いたいことがある。
「そのあだ名はやめてくださいね。私の名前はシャルです。聖人メイドではありません」
後で注文したとはいえ、私が紅茶を飲み終わるよりも先に食べ終わるのは、どういうことなのだろうか。彼女を一言で表すとしたら、食欲旺盛という言葉がピッタリだと思う。
早くもお土産のサンドウィッチを選ぼうとするあたり、本当に食欲旺盛である。
「もうそろそろお話を聞いてもよろしいですか?」
「へっ? あっ、はい。そ、そうでしたよね」
事情を話すという約束を完全に忘れていたみたいで、さすがにルチアも恥ずかしそうに顔を赤くしていた。
しゅんっとして身を縮こめるあたり、とてもわかりやすい女の子だろう。そして、少し儚い表情を浮かべているので、見た目通りに良い状況とは言えそうになかった。
「こう見えて私は貴族なんですが、三年前に父ちゃんと母ちゃんが倒れてから、かなりカツカツなんです」
なるほどね。一家の大黒柱が倒れ、収入を得ることができなくなってしまったのね。よく聞く話ではあるものの、一番揉めやすいことではあるわ。
領地経営していない貴族の場合、職を失うと一気に没落するケースが多い。一代限りの男爵家であれば、金銭事情はかなり厳しいだろう。
まともにフォローしてあげられる人が周りにいたら、領主や国に申請して助成金を得られたはずだけれど……、寄ってきたのはハイエナだったわけだ。
「幸いなことにウォルトン家と知り合いだという商人さんが助けてくれて、治療してもらえるようになったんです。でも、大人二人分の治療費は思った以上に高くて……」
「ご両親の状態や貯金にもよると思いますが、子供には難しい金額だったんでしょう。貯蓄していたお金では払えなかったんですか?」
うつむいたルチアは、言いにくそうに口をモゴモゴとさせていた。その部分が一番聞きたい私が、ここで引き下がることはない。
「その……ウォルトン家を紹介してくれた商人さんに、お仕事を紹介してもらったというか……なんというか……」
妙に歯切れが悪いのは、悪事を働いた自覚があるからだろう。ルチアみたいな女の子が、罪悪感を感じないはずがない。
やっぱりこの子がルイスを陥れ、詐欺に加担していたのね。仕事と言い切ってしまうあたり、他にも犠牲者がいるはず。黒幕もウォルトン家で間違いなく、組織的な犯行だったんだと思うわ。
でも、慰謝料を手に入れても、まだルチアはお金を欲している。今度は悪事に加担することなく、正当な方法で働いているのだ。
彼女の後悔している表情を見れば、あまり強く言うことはできない。ましてや、今の私はメイドのシャルであって、ローズレイ家のシャルロットではないのだから。
ひとまず、話を進めるために声をかけるとしよう。
「アルバイトのお金を貯めているのは、まだご両親が回復していないからですね」
「あっ、はい。毎月治療しなければならないらしくて、今は父ちゃんも母ちゃんもウォルトン領に住んでいます。でも、仕事ができるくらい元気になったんですよ。お金は……相変わらず必要なんですが」
「回復魔法でも月に一度治療が必要なら、なかなかの重症ですね。適切な治療を受けても長引く方は珍しい印象です」
「あまりない魔力障害みたいで、対処が難しいと聞いています。でも、私がグレース様の真似をしてみたら、たまたまうまくいったことがあったんですよ。グレース様が褒めてくださって、学園に推薦までいただいちゃいました、えへへへ」
「それで学生をしながら、バイトで治療費を稼いでいたんですね。昨日の出来事を見る限り、残念な結果だとは思いますが」
グレースの判断が正しいのかは別にして、ルチアは魔力暴走の恐れがあると判断された。もしも本当だったら、このまま魔法を使い続けると、近いうちに死ぬ恐れがある。
当然、本人にとっては深刻な問題であり、ルチアは苦笑いを浮かべていた。
「仕方ないんです。私、人に言えない悪いことをしちゃったことがあるので、バチが当たったんですよ。神様が回復魔法を使わせてくれるなら、頑張ろうと思って勉強していたんですけど……」
「ご両親の治療を自身でされたい気持ちはわかりますが、今は優れた魔導師に任せるべきでしょう。違う職に就いて、お金を稼ぐしか方法はありません」
「あっ、いえ。その……父ちゃんと母ちゃんの治療は気にしていないんです。昔やった悪いことを償うために、人の命を救ってあげられたら、と思っていたので。自己満足なのかもしれませんが、それしか思い浮かばないんですよね」
己の罪を話せば、処罰されて仕事ができなくなってしまう。そうすれば、両親の治療費が払えなくなるので、自首することができない。
そのため、大勢の人に貢献できる道を選ぼうとした。自分の罪が軽くなることを信じて。
「後悔されているんですね。その悪いことについて」
「仕方ないと自分に言い聞かせても、納得できませんでした。聖人メイドさんに話しても、気は晴れないものですね」
たとえ私が本当に聖人メイドであったとしても、ルチアの心は軽くならないだろう。根本的に間違っているのだ。
「懺悔しただけで楽になるのなら、後悔などしていません。ルチア様が抱えている苦しみは、罪を償い、許された者だけが解放されるものです。本当はどうするべきか、わかっているんじゃないんですか?」
ルチアはとても反省しているし、後悔している。両親が治療を必要しないほど元気だったら、すでに自首していたかもしれない。
「本当に聖人メイドさんみたいですね。心が見透かされているような気がして――」
ルチアの声を遮るように、ゴーンと夜の九時を知らせる時計がなった。知らないうちに随分と話し込んでいたらしい。
やってしまった……と私が思うのは、王城で働くメイドは日が暮れるまでに帰らなければならないから。ロジリーの厳しい説教を受けるのは間違いない。
「あっ、いけない! バイトの時間!」
そして、ルチアもアウトみたいだ。夜もバイトをするなんて、随分と無茶な生活をしているように思う。
仕方ない。夜に巡回する騎士を捕まえて、ルチアと一緒に行動するとしよう。学園の生徒が事件に巻き込まれたら洒落にならないし、私も変な事件に巻き込まれたくはない。
「街の中とはいえ、夜は危険です。念のため、一緒に行動しましょう。バイト先はどこですか?」
「王城の外壁清掃をやっているので、聖人メイドさんと同じです」
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でも、それより言いたいことがある。
「そのあだ名はやめてくださいね。私の名前はシャルです。聖人メイドではありません」
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