【完結】聖女の仮面を被った悪魔の女に断罪を~愛するあなたが婚約を破棄すると言うのなら、私は悪役令嬢になりましょう~

あろえ

文字の大きさ
43 / 48

第43話:本会議2

しおりを挟む
 城内の会議室に有力な貴族たちが集まると、静かに本会議が始まった。

「まずは俺の口から父上の容態について話そう」

 レオン殿下が国王代理という立場なので、グレースが婚約者であったとしても、隣に座ることは許されない。二人とも離れて座っている姿を見て、少しホッとしている。

 真剣な表情で話すレオン殿下が、王子らしく堂々と振る舞っているから。

 どうやら今日は媚薬を盛られていないみたいね。グレースを負かすなら今がチャンス……と言いたいところだけれど、厄介なことになったわ。

 宿敵ともいえるウォルトン家の当主、バルデス・ウォルトンが参加しているんだもの。

 お父様でも手を焼く相手に挑まなければならないなんて、気が重いわ。私にはまだ早い相手だし、ロジリーが追い詰めてくれるといいのだけれど。

 嵐の前の静けさと言わんばかりに、本会議は流れるように進んでいった。

 国王様の容態、国民への情報開示、レオン殿下の即位……。どうしても必要なことではあるので、大多数の貴族が無言で頷き、次々に国の方針が決められていく。

 いくら王国とはいえ、王族がすべて独断で決められるものではない。各貴族の意見を聞き取り、民意を大切にしないと国は荒れるから。

 特に、隣国が驚異と呼ばれるうちは、丁寧に反乱の芽を摘み取る必要があった。確実にウォルトン家が悪だと判明していても、証拠がなければ反乱が起こりかねない。この王国はいま、とても不安定な状態にあった。

 そして、すくすくと育ち続けた反乱の芽を叩き潰すかのように、一つの嵐がやって来る。

 王家の家臣を代表して、ロジリーが立ち上がったのだ。

「グレース公爵令嬢は、婚約者に相応しくありません。王妃不適合としか言いようがなく、多くの貴族たちが反対しております」

 すでに王妃反対の署名が提出されているが、まだ過半数は取れていない。この場で中立派の貴族たちを味方に引き入れ、大勢の人を納得させる必要がある。

 反対に票を投じれば、ウォルトン家と敵対する意思表示になるため、かなりハードルが高い。しかし、この日のためにロジリーたちは準備を続けてきた。

「たった一ヶ月の付き合いしかありませんが、これほど問題が山積みな貴族令嬢は初めてです。ウォルトン家で礼儀作法を教えているのか疑問に思うほどでした」

 ロジリーは軽くウォルトン家を挑発するが、イラッとするのはグレースだけで、当主バルデスは表情一つ変えていない。

 その余裕の表情を浮かべる仮面の下では、いったい何を考えているのだろうか。

 今となっては、レオン殿下の誕生日パーティーが吉にも凶にもなったように感じる。王妃の器ではないグレースを証明する形にはなったが、ウォルトン家を陥れたことで、本会議にバルデスを引っ張り出してしまった印象があった。

 ウォルトン領の仕事を放り出し、一ヶ月近くも王都に滞在しているのだから。

 下手に反抗していなかったら、私ももっと甘く見られていただろう。本会議が始まってから、バルデスの視線をチラチラと感じるので、様子を見られている気がする。

 まずはグレースを黙らせないと、バルデスも出てこないと思うが。

「はーい。王城の教育は厳しすぎると思いまーす。いくら王妃教育とはいえ、限度がありまーす」

 とても緩い感じで主張するグレースは、ロジリーに怖気づくことはなかった。ナタリーの厳しい王妃教育を受けて、怒られ慣れてしまったのかもしれない。

「王妃教育を短期間で終わらせなければならないのなら、厳しくせざるを得ません。考えが甘すぎるのではないでしょうか」

「じゃあ、うちのメイドが失踪したことについてはどう思うんですかー? 王城のメイド業が厳しすぎた影響で、優秀な人材が潰れちゃったんですけどー」

 使い捨てようとしていたくせに、いったいどの口が言うのだろうか。王妃教育が厳しいことは貴族たちの常識でもあるので、明らかに話をすり替えようとしている。

 王城でイジメられている悲劇のヒロインだと思わせれば、もっと我が儘を言える立場になるため、グレースは責任を押し付けたいのだ。

「メイドには平等に接していますし、国を支える城内の仕事が厳しいなど、当然のことです。王妃教育も同じであり、横暴な態度を取るグレース公爵令嬢は、王妃の器ではありません」

 きっちりとロジリーに意図を読まれ、適切な形で反撃されたグレースは、ぐうの音も出ないほど沈黙した。

 国王と共に国の顔になる存在が王妃なのだから、妥協など許されるはずがない。

 失速したグレースをたたみかけるように、ロジリーの毒舌が火を噴き始める。

 貴族としての振る舞いができていなかったり、メイドに横柄な態度を取っていたり、自己主張が激し過ぎたり。実際にあった出来事と一緒にグレースの実態が紹介され、本会議は異様な雰囲気になり始めていた。

 正当な理由で王妃不適合の烙印を押され、レオン殿下の婚約者に相応しくないと証明されたのだ。それも、たった一か月で。

 三大貴族にもかかわらず、そんな甘い教育をしてきたとなれば、ウォルトン家の看板に傷がつく。さすがに中立派も傍観できない状況に刻一刻と近づいていくが、そんなに甘い家系ではない。

 そんなことを考えいているのも束の間、ウォルトン家の当主バルデスが、満を持して重い口を開き始める。

「王家の信頼を得ている貴族たちが反論したくなる気持ちは理解できる。だが、ワシには初めからグレースが拒まれていたとしか思えない」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

婚約破棄されましたが、おかげで聖女になりました

瀬崎由美
恋愛
「アイラ・ロックウェル、君との婚約は無かったことにしよう」そう婚約者のセドリックから言い放たれたのは、通っていた学園の卒業パーティー。婚約破棄の理由には身に覚えはなかったけれど、世間体を気にした両親からはほとぼりが冷めるまでの聖地巡礼——世界樹の参拝を言い渡され……。仕方なく朝夕の参拝を真面目に行っていたら、落ちてきた世界樹の実に頭を直撃。気を失って目が覚めた時、私は神官達に囲まれ、横たえていた胸の上には実から生まれたという聖獣が乗っかっていた。どうやら私は聖獣に見初められた聖女らしい。 そして、その場に偶然居合わせていた第三王子から求婚される。問題児だという噂の第三王子、パトリック。聖女と婚約すれば神殿からの後ろ盾が得られると明け透けに語る王子に、私は逆に清々しさを覚えた。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

氷の公爵は、捨てられた私を離さない

空月そらら
恋愛
「魔力がないから不要だ」――長年尽くした王太子にそう告げられ、侯爵令嬢アリアは理不尽に婚約破棄された。 すべてを失い、社交界からも追放同然となった彼女を拾ったのは、「氷の公爵」と畏れられる辺境伯レオルド。 彼は戦の呪いに蝕まれ、常に激痛に苦しんでいたが、偶然触れたアリアにだけ痛みが和らぐことに気づく。 アリアには魔力とは違う、稀有な『浄化の力』が秘められていたのだ。 「君の力が、私には必要だ」 冷徹なはずの公爵は、アリアの価値を見抜き、傍に置くことを決める。 彼の元で力を発揮し、呪いを癒やしていくアリア。 レオルドはいつしか彼女に深く執着し、不器用に溺愛し始める。「お前を誰にも渡さない」と。 一方、アリアを捨てた王太子は聖女に振り回され、国を傾かせ、初めて自分が手放したものの大きさに気づき始める。 「アリア、戻ってきてくれ!」と見苦しく縋る元婚約者に、アリアは毅然と告げる。「もう遅いのです」と。 これは、捨てられた令嬢が、冷徹な公爵の唯一無二の存在となり、真実の愛と幸せを掴むまでの逆転溺愛ストーリー。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

婚約破棄、承りました!悪役令嬢は面倒なので認めます。

パリパリかぷちーの
恋愛
「ミイーシヤ! 貴様との婚約を破棄する!」 王城の夜会で、バカ王子アレクセイから婚約破棄を突きつけられた公爵令嬢ミイーシヤ。 周囲は彼女が泣き崩れると思ったが――彼女は「承知いたしました(ガッツポーズ)」と即答!

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

処理中です...