タイムトラベル同好会

小松広和

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第2章 謎の転校生

第10話 萌という女

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 翌日から俺の生活が一変した。萌はチャンスがあれば話しかけてくる。それに対して俺は適当な返事をする程度で接する。下手に嬉しそうな顔をすればクラスメイトの男子に暗殺されかねない雰囲気なのだ。
「ねえ、今日の帰り一緒に帰ろう」
「部活があるから無理だ。てか何で俺がお前と帰らねばならんのだ?」
「萌は宮本君が好きなんだよ。一緒に帰りたいじゃん」
「どうしてあったばかりの人を好きになるんだ?」
「もう、私達は許嫁でしょ?」
「だから、お前がいい加減なことを言うたびに俺の生活はどんどん危うくなるんだぞ」
「どう危うくなるの?」
「それはいろいろだ」

 この女は恐らく俺をからかっているのだろうが、その割にはなかなかしぶとい。いくら冷たくしてもこの態度を続けている。何が目的なんだ? 本当に俺が好きなのか? 教室に入ってすぐ好きになるわけがない。やはりからかっていると考えるのが普通だろう。                                                                          
「ところで宮本君て何部に入ってるの?」
「タイムトラベル同好会だ」
「何それ?」
「何でもいいだろ」
「じゃあ、萌もその部に入る。いいでしょ?」
「もちろ・・・・」
と言いかけ俺は考えた。それは部員が増えるのは大歓迎だ。しかし、もしこいつが入部すればどうなる? 何か嫌な予感しかしねえ。

「ねえ、いいでしょう?」
「ダメだ。現在定員オーバーだ」
「どういうこと?」
「とにかく今は無理なんだ」
ちょっと長く話しすぎたようだ。周りの生徒ががやがやと話し始めている。何しろこいつら許嫁説を真剣に信じてやがる。少しでも仲の良い素振りでもしようものなら噂に尾ひれが付きかねない。女子には喜ばれ、男子には妬まれる。何という人生だ。何度も言うが俺は女にもてたいと思ったことは一度もない。

 俺はこの場をトイレに行くことで切り抜けた。男子トイレは唯一の逃げ場になっている。萌は朝登校してからずっと俺をつけ回しているのだ。教室では席が隣、休み時間はくっついてくる。こんな状況では許嫁説の信憑性が上がる一方ではないか。従って放課後になるとホッとする。なぜか部活の時間になると萌は追っては来なから不思議だ。

 俺は部室でタイムマシンを作りながら体を休めていた。この時間が一番落ち着く。
「真歴。随分転校生と仲がいいそうじゃない」
前言撤回。ここはここで苦労が絶えないようだ。
「あ、そうだ。お前さ休み時間俺の横にいてくれないか? そうしたら転校生も俺に話しかけてこなくなるかもしれねえ」
「嫌よ。妙な噂が立つに決まってるもの」
「どんな噂だ?」
「それは許嫁と正妻が・・・・とか」
「何だそれ?」
「とにかく無理なの!」
いい方法だと思ったんだが、胡桃が嫌だというのなら仕方ないか。

 俺は胡桃と別れ帰宅の途に着いた。胡桃は友達と帰り、俺は一人で帰る習慣になっている。暫く歩くと突然萌が目の前に現れた。
「随分遅い帰りね」
「こんなところで何してるんだ?」
「宮本君を待ってたのよ」
「なぜだ?」
「話がしたかったからかな?」
これはもしかすると好都合なのではないだろうか? 萌と二人きりで話すチャンスだ。

 俺は落ち着いた声で続けた。
「いつも話してるじゃないか」
「だって、ちゃんと答えてくれないし」
萌は手を後ろで組んだまま数歩歩いた。そしてこちらを振り向き、
「ねえ、萌と付き合ってよ」
と言った。

「い、いきなり、な、何言い出すんだ!」
俺は驚きのあまり身構えてしまった。なぜ、こんな重要なことを簡単に言えるのだ?
「だって、好きなんだもん」
「だいたいお前って何者なんだ?」
「何者って失礼ね」

 俺は明らかに動揺している。硬派で女に興味はないと断言している俺だが、こんなことを言われるのは初めての経験だ。どうしたらいいかわからなくなるのは当然のことだろう。
「いきなり許嫁なんて嘘を付いたりして、どういうつもりなんだ?」
「嘘じゃないわ。これから頑張ってそうするつもりだもん」
何なんだこの破壊力抜群の言葉は! こんな可愛い子からこんなことを言われると硬派を止めようかと思ってしまうではないか。

「あ、会ったばかりの人を好きなるわけないだろ!? イケメンならともかく俺の顔はありきたりの平凡なレベルだ」
俺の声は完全に上ずっている。
「会ったばかりじゃないわ。萌ずっと影で片思いしてたのよ」
「嘘つけ!」
「本当よ。萌、隣の学校に通ってたんだけど、偶然会った宮本君に一目惚れしちゃったの」
何か嘘くさい話だ。一目惚れしたくらいで転校して来るか?

「俺のことを好きだって言う女は今までいなかったんだ。そんなレベルの男に一目惚れなんて信じられねえな」
「本当よ。信じて」
萌は瞳を潤ませながらこちらを見つめてくる。俺はこの手の表情に弱い。しかも女に免疫がないため、どうしていいかわからなくなってしまうのだ。今まで俺は母親と胡桃くらいしか接した女がいないんだから仕方がない。第一、胡桃がこんな表情をするわけがない。

「分かった。分かった。信じるよ」
俺は適当な返事をした。
「うれしい!」
萌がいきなり腕にしがみついてきた。
「わあ、な、な、な、何すんだ!」
「だって、嬉しかったんだもん」

 俺は慌てて萌を振りほどくと咳払いを一つして言った。
「いいか、俺は女には興味ないんだ。だから誰とも付き合わない。以上」
「え~。宮本君て同性に興味があるの~? 萌ショック!」
「違~う!」
「だってそういうことでしょ?」
「俺は硬派なだけだ!」
「硬派って何?」
「女といちゃついたりしない男のことだ」
「ちょっとハードル高そうだけど、絶対諦めないよ」
そう言うと萌は俺の前から立ち去っていった。嵐のような女だな。本当にわけのわからん存在だ。
 
 それにしても俺のキャラが変えられそうで怖い。女にもてるというのはこういうことなのか? 考えてみれば俺の周りには可愛い女なんて存在しないからな。どう考えても胡桃はこれに該当しないだろう。萌がしがみ付いた腕が何だか熱く感じられた。
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