それは春の光の中で

リゲイン

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その瞬間、涼しい夜風が吹き込んで

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すっかり夜の風に包まれていました。初夏の夜の乾いた風が寮の中にも吹き込んできます。

寮の顔合わせは夕食後すぐに始まりました。



見知った顔の方がいます。

「今年の寮長を務めさせていただきます。霧島 青です。生徒会副会長も兼任しています。生徒会活動と両立して頑張りますが、皆さんのご協力も必要です。慣れない寮生活は大変かもしれませんが、寮生の自覚をもって規律ある生活を望みます。よろしくお願いします。」

霧島先輩でした。

「はぁ、すごいなぁ・・・」

ため息がもれました。周りの子たちは少し緊張気味。私はみんなより一足早く出会っていて、あの中庭の出来事や生徒会室の事もあってそれほどでも。相変わらず凛としていて素敵さにときめいていました。

新入生の自己紹介は淡々と過ぎていきます。みんな大体名前と「よろしくお願いします」だけです。真由さんもそんな感じでした。
私といえば「東乃はるです。憧れのここに入学できてこれからの生活楽しみにしています!私、生徒会に入会に入る予定です!皆さんのお役に立てるように頑張ります!」なんて思いっきり空振りした模様です。真由さんも心なしか「大丈夫かな?」って顔してます。そうですよね。また荷ほどき済んでないんですから。

同じ寮内に霧島先輩がいる。どこか安心できました。もちろんべたべたに頼ることはできませんが。私はあの日であった霧島先輩の気さくな感じ好きです。

顔合わせはほどなく終わりました。寮での生活のあれこれや心構え、そんなレクチャーの顔合わせでそんなに時間はかかりませんでした。

部屋に戻って自由時間。といっても私はコツコツと荷物整理です。真由さんは机で勉強しています。
「あの、まゆさん?」
ちょっと寂しくて声を掛けました。
「何ですか?今新しい教科書に目を通しているので集中させてください」
真由さんは…なんかちょっとそっけない気がしてしまいました。でもそれは当たり前で、だって昨日初めて知り合ったんですから。

実家から持ってきた荷物は多いような気もしましたが、案外少なくて、始めてしまえばそれほどの時間をかけることなく終わりました。最も、もっと早くからやっていればよかったんですけど・・・

「真由さん!荷物整理終わったよ」
「そうですか。お疲れ様です」
真由さんは顔を向けることなくまた黙々と教科書を読み始めます
「真由さんも学区外なんでかすか?
「私は学区内です。でも寮に空きがあったので寮に入ることにしました」
「へぇーなんで?」
「ぶしつけな質問ですね。いろいろあるんです。それだけです。あまり踏み込んだ質問には答えられません」
静かに怒られました。真由さん、どこかいつも影がある印象です。私はもっと真由さんと仲良くしていきたい。せっかくおなし部屋になれたから、いっぱいおしゃべりして仲良くしたいなぁ。

暇を持て余しました。高校入学を折りに買ってもらった携帯電話をまじまじと見つめていました。といっても通話は基本部屋ではできません。そもそも携帯の所持は認められていますけど通話は所定の場所で長電話は禁止。
「あ、一応実家に電話しておこう」
「独り言が大きいいですよ」
「すびま゛ぜん」

談話室の一角にちょっとした個室があります。公衆電話があります。今は携帯があるのでもっぱらここが携帯電話の使用できるスペースです。
「もしもし、おかーさん?」
「はる!連絡が遅い!!」
のっけから怒られましたよ・・・
「えとね学校内迷ったりしてなかなか荷ほどき出来なかったよ・・・ははは・・・」
「ははは・・・じゃないがや!そんなんでしっかりやっていけるの?」
「うん。根拠はないけどやってみるよ!!あとねおかーさん、私生徒会に入るよ!!」
「大丈夫かね?おかーさんしんぱいがね」
「大丈夫!私皆の役に立ちたいんだ!」
「あんたのそーゆーとこはよーしっとる。でも身をわきまえなくちゃならんこともあるがね。あんたの空回りで周りに迷惑かけたらあかんよ」
「はーい。がんばるよ。じゃあ時間だから切るね」
「しっかりやるんよ」
母は終始心配していました。空回り娘をお嬢様学校に入れたのは母にとっては心配だったかもしれません

電話も終わり部屋へ戻りました。真由さんはまだ机に向かってます。
あれ?心なしか前のめりで肩がかすかに揺れています。
「真由さん・・・寝てます?」
「ノックしてから入ってください。マナーです」
「あ・・・ごめんなさい」
わかりにくいでしたけど・・・真由さんもしかしたら泣いてる?でもそれを確認する気はありません。
「えとね・・・お母さんに近況伝えてきたよ。生徒会はいるって言ったら余計に心配されちゃった。へへ・・・」
「そーですか。」
それ以上の会話が続きませんでした・・・うーん・・・どーしたらいいのかな?
「私はもう寝ます・はるさんももう消灯ですから」
「うん。おやすみなさい。真由さん」
「おやすみなさい」

私は・・・どうしてこの学校を選んだか・・・どうして寮生活を選んだか・・・ベットに入って少し思い出してみました。
わたしは、中学の時は控えめであまり積極性のある女の子ではありませんでした。もしかしたら今の真由さんと同じようなタイプだったかもしれません。真由さんはわかりませんが、私は友達も少なくあまり目立たずそんな性格でした。ホントは皆とわいわいしたいのになんか私の中の何かがそうさせてくれず、なかなか打ち解けるようなことができなくてどこか寂しかったです。同じ学区の高校に通ってそこで明るく振舞ったりして中学の同級生とかに変な目で見られるのが嫌になったのが一番の要素かもしれません。でも何よりどこかで聞いたこの学校の校風がきっと私を変えてくれる。心の中で芽生えた気持ちを私は実現したかったのです。私を知る人のいない新しい土地の学校で中学の時に感じた疎外感から解放されて私の新しい生活で生きてみたい。もちろん高校生程度で人生云々語るのは早いのも重々承知です。でも変わるときって大きな出来事を機にきっと変わりやすいと思ったことも事実で、私は決断しました。私は私を変える。私の生きたい方向に足を向ける!そう気持ちを据えました。もちろん家を離れる寂しさや心配もありましたが、それも含めて変わるチャンスだったから。

眠気が来ました。思い出は確実に私を夢の世界へいざなっていきます。明日からは本格的に学校が始まります。目が覚めて、真由さんが起きてて、身支度して、朝ごはん食べて・・・・迷いながら教室に行くんだなぁって。また見ぬ明日を思い浮かべて私は就寝しました。真由さんもおなじかな?なんて思いながら。

その晩は、真由さんは泣いていたみたいです。何を思って泣いたのかはわかりません。もし辛かったら気軽に相談してほしいな・・・・
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