それは春の光の中で

リゲイン

文字の大きさ
上 下
5 / 7

そして季節は梅雨に向かって

しおりを挟む
新緑の季節も過ぎ、乾いた青空がだんだん白んで湿気を帯びてきました。季節は夏の始まり、梅雨を迎えました。
私といえば無事生徒会に入り、日々勉学と生徒会活動にいそしんでます。勉学はまぁ、何とかついていけてます。得手不得手はありますが、まぁ何とかどうにかです。
生徒会活動は日々雑務に追われてます。コピーや書類の作成。諸先輩方のサポートがメインです。直接かかわる先輩は庶務係の森田先輩。明るくて優しいとても素敵な先輩です。ことあることに、「大丈夫?疲れた?あめ食べる?」って言いながら愛用のピンクのポーチからあめを出してきます。もちろんありがたくいただいて、二人で舐めるんですが、森田先輩は笑顔で飴を口に放り込むと
「がりっ」
かみ砕きます。森田先輩曰く「あめの味を一気に堪能できる合理的な食べ方だよ」といいます。それでいて先輩は一度も歯医者に行ったことないそうです。虫歯もゼロ。笑顔の時の白い歯と方八重歯がとてもきれいです。

そんな森田先輩と今取り組んでいるのは文化祭のあれこれ。大体の事は生徒会長の紫さん。副生徒会長の青さん。二人で決まります。それを加納先輩と丸井先輩が文章化して細分化していきます。それを森田先輩か「ええよ。ええよ。」と言いながら実際の作業に移していきます。各部活の出し物の申請。会場の使用許可。各委員への役割分担。もちろん役なしの私たちもそれをサポートしながら文化祭へ向けての準備を進めていきます。

学業の合間を縫っての活動はなかなか大変です。学生の本業は勉強。それは疎かにはできません。とはいっても授業中はウトウト。ノートも後で見返したら何が書いてあるのかまったくもって理解不能なんてこともしばしば。もう一度原点に戻ってしっかりやらないと。私、決意だけはすくにします。

寮では相変わらず無口な真由さんとの共同生活。別に真由さんは常に怒ってるいるわけではないと思いますが、あまり長い会話はありません。ほかの寮生たちはこの時期になると段々慣れたり打ち解けたりして、廊下の前を通ると話し声や笑い声も聞こえてきますが、少し静かな私たちの部屋。基本真由さんは私に不干渉で一人黙々と次週にいそしみ、本を読んだりしています。時折見せる悲しい表情に私は声をかけようとするのですが、どうにも話しかけられず私ももやもやするのです。

 5月も下旬今年はこの時期に梅雨入りしたとみられるという発表でした。2・3日しとしと雨が続いただけでその次からはまた乾いた初夏の風禍福転機でした。たっぷり雨を浴びた学校の木々たちはしっかり緑を濃くさせ、紫陽花も薄い青を帯びた花玉を作っています。夏空の青里紫陽花の水のような青がまじりあって不思議な青の世界。
 より緑の深まったあの中庭で紫会長と青会長を見ました。まぁ、それ自体は特に珍しいことではなく私ももう見慣れてきた光景です。
誰がいつ手入れしているのかわからないけど、手入れの行き届いた神秘的な中庭。そこにこの学校を代表する会長と副会長が二人。心なしかここにいる二人はほかで見る二人より穏やかでとてもリラックスしているように見えます。

「やぁ、はるさん。どう?少し休んでいかないかい?」
青先輩が声をかけてくれました。あまりこの中庭でお茶に誘われる生徒会の人はいないと聞きますがなぜか私はよく遭遇しそして声をかけられます。
「そうね、急ぎではなかったら寄って行ってもらうとうれしいわ」
紫先輩もそういって椅子へいざないます。少しお姫様になった気分です。

いつものように椅子に腰かけ、対面には紫先輩。青先輩が紅茶を淹れてくれます。本格的な紅茶です。
「お菓子がないのが残念ね」紫先輩はすでに注がれた紅茶を含み、そっとカップをソーサーに戻します。
「まぁ、こうして気兼ねなくお茶が楽しめるだけでも存外心が落ち着くものだよ」
「先輩方以外はここをあまり使わないんですか?」
「そうね、大体この場所はあまり知られていないのもあるし、必ずここを通らないといけない場所もないわ。だからこそ私たちの癒しの場所よ。適度に手入れされていてとても静か。日々の喧騒や忙しさから引き離してくれる素敵な場所よ」
「そうだね。そういえばもともとこの場所を教えてくれたのも仙台の生徒会長だったね」
「へー、そうなんですね。歴代の生徒会長のプライベートガーデンみたいなものなんですね」
「そうね。そうとも言えるわね。少なくても私はここでだいぶいやそせてもらってるわ。静かで小鳥のさえずりが聞こえて、青が入れてくれるお茶がおいしくて。」
「私は見様見真似でお茶淹れてるだけなんだけどね。もっとお茶の淹れ方もしっかり学んだほうがいいかな?こうやって訪れる君のためにも」
「・・・そんな私はただ・・・」
「あら、いいのよ。気になさらないで。せっかくこうして生徒会でやっていく仲間だもの、気兼ねなくお話ししたいわ」
「・・・えと・・・恐縮です」
「ふふ・・・かわいいわ」

そんなやり取りをしていました。

「私はね。こうやって自らの意思で生徒会やりたいなんて後輩は初めて見ましたわ。すごくやる気にあふれて綺麗な目をしているもの」
「そうだね。まぁ、君は少し張り切りすぎて空回りしちゃわないか心配だけど・・ふふっ・・・」
青先輩が微笑みました。それにしてもこのお二人は互いに心許して周りから見るとまぶしいくらいキラキラしています。ほかの生徒の間でも人気のあるお二人です。
「森田さん。面白い子でしょう。あの子もたまにここにいらっしゃるわよ」
「そうなんですね。そういえば特にこの中庭の事についてはお話しませんでした。私が忙しそうにしているとことあるごとに雨をくれます。森田先輩はがりがりかんじゃいますけど」
「砂羽はムードメーカーの一人だからね。明るくていい子だよ。少しおっちょこちょいだけど頼りがいもある。少し春さんに似ているかもね」
「そうですか?」

たわいのない会話が園庭に染みていきます。幾分湿気を帯びた風が通り抜けていき、それでもなお不快感を与えない空気が庭を包み込みます
「これからもまだまだ忙しくなるよ」
青先輩がカップを片手に少し遠い目をしていました。私たちはそんなひと時をこの園庭でまるで時が止まったような感覚に包まれながらしっとりとお茶をたしなんでいます。
ただただ雨が降りしきる季節を前に閉じ込めておきたいと願うのでした。
しおりを挟む

処理中です...