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第8話
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―10年前(潤5歳・美衣奈5歳)―
「行くぞ~!美衣奈!」
「負けないわよっ!」
楽しそうに木刀を振り回す子供2人。
ここは西園寺家の庭だ。
「てい!」
「はぁっ!」
カンカンと木刀の当たる音が響き渡る。
「こらっ!」
二人を大声で怒鳴りに来た人物。
燕尾服を身に纏ったいかにも上級クラスの執事と思われる男性。
スラリと身長も高く、青い髪で短髪の爽やかな青年だ。
「あ、バレル!」
美衣奈はバレルと呼んだ男性に笑顔で駆け寄る。
「まったく・・・・いくら剣豪家の娘と言いましても剣術が大好きだなんて・・・レディとしての将来が心配ですね」
駆け寄ってきた美衣奈を抱き上げてバレルはため息をつく。
「いいの!私はバレルと結婚するもん」
そんな美衣奈の言葉に苦笑するバレル。
潤も、バレルに近寄る。
「師匠せんせい!僕にもっと剣術を教えてください!」
潤はキラキラと目を輝かせて言う。
このバレルという男性は西園寺家の執事でもあり、剣を二人に教えている師匠せんせいだった。
「まったく、潤を見習って欲しいですよ。美衣奈様のお兄様方には」
はぁっとため息をつくバレル。
美衣奈には2人の兄がいた。
しかし、どちらも剣豪という名を語るには相応しいとお世辞にもいえない。
長男の翼つばさは運動は全然駄目で、その代わり学問の才はずば抜けていた。
次男の圭けいはとにかくヤンチャ。いたずら大好きでサボる癖がある。長男とは違い、勉強は全く駄目、運動神経はいいのだがまったくのやる気の無い性格でその才能が台無しだ。こういうのを本当に宝の持ち腐れというのだろう。
長女で末っ子の美衣奈は、まだ5歳といえどもすごく可憐で可愛らしく育っている。しかし、性格は男勝りで活発。負けず嫌いで、剣術は潤に、勉強は長男の翼に負けないように日々励んでいる。
そして、美衣奈の幼馴染の潤。潤はこの西園寺家で住み込みで働いている家政婦の子供だ。
潤の母親は生まれたばかりの潤を抱きかかえてこの屋敷に来た。どうしても働かせて欲しいと。住み込みで家政婦は雇ってないので、小さい子供連れの家政婦は断っているのだが、奥様の慈悲で特別に住み込みで働く許しが出たのだ。そして、屋敷の家政婦や執事、奥様、旦那様みんなに見守られてスクスクと育った。そして同じ年というのもあって美衣奈とはよく一緒に遊んでいた。
「潤、そんなに剣術を学んでどうするのですか?」
「え?んーと・・・この西園寺の家の人たちに恩返しをするためです」
「恩返し?」
「はい。お母さんが言ってました。この西園寺家の人たちのおかげでお母さんも僕も生きているんだって。だから恩返しするんです!」
目をキラキラ輝かせて言う潤をみてバレルは胸を打たれる。
「潤!あなたはなんていい子なんですか!」
そう言って抱いている美衣奈を降ろし、二人一緒にギュッと抱きつく。
バレルはとても涙もろい、優しい青年だった。
潤と美衣奈の一日の楽しみはなんと言っても午前中の剣術の訓練の時間だった。
剣術を習って自分が強くなることが楽しいのもあるが、なによりいつも忙しいバレルを2人で独占できる唯一の時間だからだ。
「バレル!こう?」
「お嬢様!このお時間だけは私の事を師匠せんせいと呼ぶ約束でしょう?」
「うっ・・・・はい、師匠せんせい」
大好きなバレルの言うことだ。
拗ねながらも言う事を聞く美衣奈。
「師匠せんせい!僕、あの・・・おうか・・・・ひけん・・?出来たよ!」
「そうですか!あの桜花火剣おうかひけんを習得しましたか。もう潤は立派な剣士ですね」
バレルは潤の頭をポンポンと叩く。
美衣奈はその2人の姿を見て、バレルの足にしがみ付く。
「バ・・・師匠せんせい、なに?おうかひけんって」
「桜花火剣とは剣術の中でも上級の術なんです。火を熾おこす剣術でその火の粉が桜みたいに散るから桜花火剣という名前らしいですよ」
「へぇ・・・美衣奈見てみたい!」
「そうですね・・・・。潤、やってみますか?」
「はい!」
バレル、潤、美衣奈の三人は屋敷の裏にある砂浜へ行った。
屋敷の裏には海があり、庭から直接海へ行けるようになっていた。
本当に豪華な豪邸だ。
なぜ砂浜でするかというと、火が熾る技だ。屋敷や庭の木などに燃え移ると大変なことになる。
「では、潤やってみてください」
「はいっ!」
潤は剣を持って目を瞑り、気を集中させる。
「バレル・・・・潤の身体・・・光ってる」
不安になっているのだろう。
美衣奈はバレルの燕尾服の裾を掴む。
「大丈夫ですよ、お嬢様。あれは潤の魔力ですから」
「まりょく?」
「そうです。潤の中に秘めた力って言ったら伝わりますか?」
「なんとなく・・・」
「この技はそれを火に変えて放つのです」
バレルがそう説明すると、潤はカッと目を見開き「ハァッ!」と気合の入った声と同時に剣を振りかざす。
すると剣から炎がボッと燃え上がり、炎が消えた後チラチラと火の粉が舞い降りた。
潤が静かに剣を下ろすと、一番に潤に駆け寄って来たのは美衣奈だった。
「すごい!潤、すごいわ!私もこの技使えるようになりたい!」
「え?」
「お嬢様!旦那様と奥様からあまり剣術ばかりに集中するなと言われているんですよ」
「でも、西園寺家は剣豪家よ!剣術に集中して悪いことあるの?」
「そうですが・・・しかしお嬢様は女性です」
兄2人が剣術にまるで興味がないのだ。西園寺家を継ぐとなっても兄2人は拒否するだろう。そうすると、美衣奈が剣術に才のあるものを婿に貰い、継ぐしか方法がない。
それを分かっていただかなければ・・・。
「・・・・それでは一つ、質問があります」
「何よ?」
「お嬢様は自分がどういう人と結婚するのが相応しいかご存知ですか?」
「わかってるわよ!わたしよりも剣術がつよい人でしょ?」
「・・・・そうです。お嬢様がこのまま剣術の練習を熱心にしていかれますとどうなるか分かりますか?」
「えーっと・・・・・?」
美衣奈は考えながら首を傾げる。
「美衣奈よりも強い男の人がいなくなっちゃうね」
美衣奈よりも先に口を開いたのは潤だった。
「そうです。これではお嬢様はずっと結婚出来ません!」
「私はバレルと結婚するもの。バレルは私よりも強いでしょ?」
「・・・・お嬢様。私はしがない使用人です。お嬢様とは結婚出来ません」
「なんでよ!そんなのお父様に言うわ!」
「お嬢様・・・」
「美衣奈。無理を言って師匠せんせいを困らせたら駄目だよ」
潤は困っているバレルに気を使い、美衣奈をなだめる。
美衣奈は2人からそう言われて抑えきれない怒りで泣きそうになっていた。
「美衣奈・・・」
潤はそっと美衣奈の背中をさする。
しかし、その手をはらい美衣奈は急に潤の胸ぐらを掴んだ。
「・・・・・バレルが駄目なら、潤と結婚する!!!!」
「は?」
「え?」
まさかそんな言葉が出てくると思ってなかった二人は間抜けな声を出してしまった。
確かに潤は、剣術もこの年で大人に負けないくらい強いし、性格もしっかりしていて美衣奈の扱いにも慣れている。こんな適任な者はいないというくらいだ。
しかし、潤も屋敷の使用人の息子だ。
結婚の許可が出ないだろう。
「美衣奈・・・・やけくそになってない?」
潤は焦ったように美衣奈に聞く。
「なってない!どこの誰だかわからない人と結婚するんだったら潤とする」
しかし、美衣奈は決して自分の言った意見を変えようとはしなかった。
潤は困ってバレルを見る。
「・・・・まぁ、その旨は私からご主人様に言っておきます。とりあえず、屋敷に戻りましょう」
そう言って、バレルは潤と美衣奈を連れて屋敷に戻った。
バレルはその晩、屋敷の主人である西園寺さいおんじ 幾蔵いくぞうに1日あったことを報告していた。
幾蔵は美衣奈の祖父にあたるこの屋敷の主だ。
「ほう・・・・美衣奈がそのような事を・・・」
「はい」
「ははは・・・・可愛い美衣奈を取られてさぞ寂しいのではないか?バレル」
「いえ、私には勿体無いお言葉でしたので・・・」
「ふん・・・・では、その者に実際会ってみようかの」
「は。では明日、潤を幾蔵様のお部屋に連れて参ります」
幾蔵に向かって一礼し、バレルは部屋を出て行った。
今日は午前中の剣術の訓練は休みとバレルが部屋に伝えに来た。
「今日は、潤に紹介したい方がいます」
「え?僕にですか?」
潤は大体の屋敷の人物は知っていた。
厨房のコックから家政婦、執事や美衣奈のお父さんお母さん、お兄さんまで、すべての人物の名前を言えるくらいだ。
しかし、一人だけ話に聞いているだけで会ったことのない人物がいた。
この屋敷の大旦那様だった。
「もしかして、大旦那様・・・・ですか?」
「ふふ、やはり潤は察しがいいですね」
「あ、では・・・・正装に着替え直します」
そう言って潤は剣術の訓練の時にいつも着ている服装を着替えようとした。
それをバレルは阻止する。
「いえ、そのままの服装で大丈夫です。では参りましょう」
「え・・・・あ、はい」
訓練の時にいつも着ている汚れた服で会って大丈夫なんだろうか。
不安を胸にバレルの後について行く潤。
「ここです」
バレルが立ち止まったのは、今まで厳しく入ってはいけないと教え込まれた扉の前だ。
「え・・・・この扉は絶対開けちゃ駄目って」
「はい。でも、今日はいいのです。さぁ」
バレルに促され、扉に手をかける。
少し力を込めて押すとギィっと音を立てて開いた。
「し・・・・失礼します」
潤は恐る恐る部屋へ入る。
目の前にベッドがありそこには老人が寝ていた。
なにやら鼻に管のようなものが付いていてその管はベッドの横にある機械に繋がっていた。
「幾蔵様、潤をお連れ致しました」
バレルが90℃腰を曲げてベッドに横になっている老人に声をかける。
「おぉ・・・・この子が潤か。もっとこっちにおいで」
弱弱しく幾蔵は、声を出した。
優しそうな幾蔵にホッとして、潤は躊躇いながらも幾蔵のベッドに近づいた。
「もっと近くで顔を見せて貰ってもいいかい?」
「はい」
幾蔵の方に近づき顔を見せる。
すると、いきなり腕を掴まれる。
「・・・・っ!」
潤は驚きと、腕を握る力強さに声をあげそうになったが我慢する。
「ほぅ・・・・鍛え抜かれた身体をしている。剣術は毎日しているのか?」
「は・・・・はい」
ギリギリと腕の骨が折れそうなくらい思いっきり潤の腕を握っている。
しかし、幾蔵の顔は怖いくらい笑顔だ。
「剣術はどこまでマスターしておる?」
「・・・・・・第2級の桜花火剣まで・・・・」
「ほう!その年で第2級までマスターしておるのか!」
「はい。剣術の才は私が保証いたします」
「ふむふむ・・・・」
剣術には第5級から第5段までの階級がある。
第5級→第4級→第3級→第2級→第1級→初段→第1段→第2段→第3段→第4段→第5段
という感じだ。
それぞれの階級に決められている技を習得すると級があがる。
一般的に大人が持っている階級は第2級である。
ちなみに潤は第2級、美衣奈は第4級、バレルは第3段といった感じだ。
そう言って、幾蔵はやっと潤の腕を握り締めていた手を離した。
「っ・・・・・」
潤は右手から駆け巡る激痛を我慢するが、笑顔は崩さなようにした。
ここに来る間にバレルから『どんなことを言われても、されても笑顔をくずさないように』と忠告を受けていたからだ。
しかし、握られていた右腕が動かない。もしかしたら骨が折れているかもしれない。
利き腕を怪我してしまったとなれば練習が何日か出来なくなる。
剣術は日々の訓練が大事な事を潤は分かっていた。
「では、今日の午後からお前の剣術の実践を見たい。いいか?」
ニッコリと優しい笑顔で幾蔵は潤に言った。
しかし、利き腕が動かない。
「あの・・・・・っ!」
「かしこまりました。では、午後から準備をしてまいります。さ、潤行きましょう」
潤の言葉を遮り、バレルが話す。
そのままバレルに背中を押され部屋を出た。
幾蔵の部屋から離れたところで潤はバレルに話しかける。
「師匠せんせい・・・・僕、剣すら握れません。午後から剣術の実践などとても・・・」
「幾蔵様にやられたのでしょう?」
「え?」
「いつもなのです。美衣奈様の結婚相手に相応しいと思う者をいつも会わせるのですが、こうやって剣を握れなくしたりして・・・・反論を言った者、そのまま痛みを我慢して実践を見せて負ける者など様々でした」
「それで・・・・」
「ご主人様はそのご様子を見てお嬢様の相手に相応しくないと一喝するのです。この西園寺家を引き継ぐのであればどんな困難も乗り越えれる者でないと許さんと」
「・・・・・」
「すみません。潤、このようなことに巻き込んでしまって」
「いえ・・・・何とか対策を考えてみます。午後からですよね?」
まだ5歳。本当は恐怖と不安でいっぱいのはず。
しかし、潤はそのまだ小さい身体で必死にバレルや美衣奈の気持ちに答えようとしているのだ。
「潤・・・・」
「師匠せんせい、僕部屋に戻ります」
ペコリと頭を下げ、潤は部屋に戻った
「行くぞ~!美衣奈!」
「負けないわよっ!」
楽しそうに木刀を振り回す子供2人。
ここは西園寺家の庭だ。
「てい!」
「はぁっ!」
カンカンと木刀の当たる音が響き渡る。
「こらっ!」
二人を大声で怒鳴りに来た人物。
燕尾服を身に纏ったいかにも上級クラスの執事と思われる男性。
スラリと身長も高く、青い髪で短髪の爽やかな青年だ。
「あ、バレル!」
美衣奈はバレルと呼んだ男性に笑顔で駆け寄る。
「まったく・・・・いくら剣豪家の娘と言いましても剣術が大好きだなんて・・・レディとしての将来が心配ですね」
駆け寄ってきた美衣奈を抱き上げてバレルはため息をつく。
「いいの!私はバレルと結婚するもん」
そんな美衣奈の言葉に苦笑するバレル。
潤も、バレルに近寄る。
「師匠せんせい!僕にもっと剣術を教えてください!」
潤はキラキラと目を輝かせて言う。
このバレルという男性は西園寺家の執事でもあり、剣を二人に教えている師匠せんせいだった。
「まったく、潤を見習って欲しいですよ。美衣奈様のお兄様方には」
はぁっとため息をつくバレル。
美衣奈には2人の兄がいた。
しかし、どちらも剣豪という名を語るには相応しいとお世辞にもいえない。
長男の翼つばさは運動は全然駄目で、その代わり学問の才はずば抜けていた。
次男の圭けいはとにかくヤンチャ。いたずら大好きでサボる癖がある。長男とは違い、勉強は全く駄目、運動神経はいいのだがまったくのやる気の無い性格でその才能が台無しだ。こういうのを本当に宝の持ち腐れというのだろう。
長女で末っ子の美衣奈は、まだ5歳といえどもすごく可憐で可愛らしく育っている。しかし、性格は男勝りで活発。負けず嫌いで、剣術は潤に、勉強は長男の翼に負けないように日々励んでいる。
そして、美衣奈の幼馴染の潤。潤はこの西園寺家で住み込みで働いている家政婦の子供だ。
潤の母親は生まれたばかりの潤を抱きかかえてこの屋敷に来た。どうしても働かせて欲しいと。住み込みで家政婦は雇ってないので、小さい子供連れの家政婦は断っているのだが、奥様の慈悲で特別に住み込みで働く許しが出たのだ。そして、屋敷の家政婦や執事、奥様、旦那様みんなに見守られてスクスクと育った。そして同じ年というのもあって美衣奈とはよく一緒に遊んでいた。
「潤、そんなに剣術を学んでどうするのですか?」
「え?んーと・・・この西園寺の家の人たちに恩返しをするためです」
「恩返し?」
「はい。お母さんが言ってました。この西園寺家の人たちのおかげでお母さんも僕も生きているんだって。だから恩返しするんです!」
目をキラキラ輝かせて言う潤をみてバレルは胸を打たれる。
「潤!あなたはなんていい子なんですか!」
そう言って抱いている美衣奈を降ろし、二人一緒にギュッと抱きつく。
バレルはとても涙もろい、優しい青年だった。
潤と美衣奈の一日の楽しみはなんと言っても午前中の剣術の訓練の時間だった。
剣術を習って自分が強くなることが楽しいのもあるが、なによりいつも忙しいバレルを2人で独占できる唯一の時間だからだ。
「バレル!こう?」
「お嬢様!このお時間だけは私の事を師匠せんせいと呼ぶ約束でしょう?」
「うっ・・・・はい、師匠せんせい」
大好きなバレルの言うことだ。
拗ねながらも言う事を聞く美衣奈。
「師匠せんせい!僕、あの・・・おうか・・・・ひけん・・?出来たよ!」
「そうですか!あの桜花火剣おうかひけんを習得しましたか。もう潤は立派な剣士ですね」
バレルは潤の頭をポンポンと叩く。
美衣奈はその2人の姿を見て、バレルの足にしがみ付く。
「バ・・・師匠せんせい、なに?おうかひけんって」
「桜花火剣とは剣術の中でも上級の術なんです。火を熾おこす剣術でその火の粉が桜みたいに散るから桜花火剣という名前らしいですよ」
「へぇ・・・美衣奈見てみたい!」
「そうですね・・・・。潤、やってみますか?」
「はい!」
バレル、潤、美衣奈の三人は屋敷の裏にある砂浜へ行った。
屋敷の裏には海があり、庭から直接海へ行けるようになっていた。
本当に豪華な豪邸だ。
なぜ砂浜でするかというと、火が熾る技だ。屋敷や庭の木などに燃え移ると大変なことになる。
「では、潤やってみてください」
「はいっ!」
潤は剣を持って目を瞑り、気を集中させる。
「バレル・・・・潤の身体・・・光ってる」
不安になっているのだろう。
美衣奈はバレルの燕尾服の裾を掴む。
「大丈夫ですよ、お嬢様。あれは潤の魔力ですから」
「まりょく?」
「そうです。潤の中に秘めた力って言ったら伝わりますか?」
「なんとなく・・・」
「この技はそれを火に変えて放つのです」
バレルがそう説明すると、潤はカッと目を見開き「ハァッ!」と気合の入った声と同時に剣を振りかざす。
すると剣から炎がボッと燃え上がり、炎が消えた後チラチラと火の粉が舞い降りた。
潤が静かに剣を下ろすと、一番に潤に駆け寄って来たのは美衣奈だった。
「すごい!潤、すごいわ!私もこの技使えるようになりたい!」
「え?」
「お嬢様!旦那様と奥様からあまり剣術ばかりに集中するなと言われているんですよ」
「でも、西園寺家は剣豪家よ!剣術に集中して悪いことあるの?」
「そうですが・・・しかしお嬢様は女性です」
兄2人が剣術にまるで興味がないのだ。西園寺家を継ぐとなっても兄2人は拒否するだろう。そうすると、美衣奈が剣術に才のあるものを婿に貰い、継ぐしか方法がない。
それを分かっていただかなければ・・・。
「・・・・それでは一つ、質問があります」
「何よ?」
「お嬢様は自分がどういう人と結婚するのが相応しいかご存知ですか?」
「わかってるわよ!わたしよりも剣術がつよい人でしょ?」
「・・・・そうです。お嬢様がこのまま剣術の練習を熱心にしていかれますとどうなるか分かりますか?」
「えーっと・・・・・?」
美衣奈は考えながら首を傾げる。
「美衣奈よりも強い男の人がいなくなっちゃうね」
美衣奈よりも先に口を開いたのは潤だった。
「そうです。これではお嬢様はずっと結婚出来ません!」
「私はバレルと結婚するもの。バレルは私よりも強いでしょ?」
「・・・・お嬢様。私はしがない使用人です。お嬢様とは結婚出来ません」
「なんでよ!そんなのお父様に言うわ!」
「お嬢様・・・」
「美衣奈。無理を言って師匠せんせいを困らせたら駄目だよ」
潤は困っているバレルに気を使い、美衣奈をなだめる。
美衣奈は2人からそう言われて抑えきれない怒りで泣きそうになっていた。
「美衣奈・・・」
潤はそっと美衣奈の背中をさする。
しかし、その手をはらい美衣奈は急に潤の胸ぐらを掴んだ。
「・・・・・バレルが駄目なら、潤と結婚する!!!!」
「は?」
「え?」
まさかそんな言葉が出てくると思ってなかった二人は間抜けな声を出してしまった。
確かに潤は、剣術もこの年で大人に負けないくらい強いし、性格もしっかりしていて美衣奈の扱いにも慣れている。こんな適任な者はいないというくらいだ。
しかし、潤も屋敷の使用人の息子だ。
結婚の許可が出ないだろう。
「美衣奈・・・・やけくそになってない?」
潤は焦ったように美衣奈に聞く。
「なってない!どこの誰だかわからない人と結婚するんだったら潤とする」
しかし、美衣奈は決して自分の言った意見を変えようとはしなかった。
潤は困ってバレルを見る。
「・・・・まぁ、その旨は私からご主人様に言っておきます。とりあえず、屋敷に戻りましょう」
そう言って、バレルは潤と美衣奈を連れて屋敷に戻った。
バレルはその晩、屋敷の主人である西園寺さいおんじ 幾蔵いくぞうに1日あったことを報告していた。
幾蔵は美衣奈の祖父にあたるこの屋敷の主だ。
「ほう・・・・美衣奈がそのような事を・・・」
「はい」
「ははは・・・・可愛い美衣奈を取られてさぞ寂しいのではないか?バレル」
「いえ、私には勿体無いお言葉でしたので・・・」
「ふん・・・・では、その者に実際会ってみようかの」
「は。では明日、潤を幾蔵様のお部屋に連れて参ります」
幾蔵に向かって一礼し、バレルは部屋を出て行った。
今日は午前中の剣術の訓練は休みとバレルが部屋に伝えに来た。
「今日は、潤に紹介したい方がいます」
「え?僕にですか?」
潤は大体の屋敷の人物は知っていた。
厨房のコックから家政婦、執事や美衣奈のお父さんお母さん、お兄さんまで、すべての人物の名前を言えるくらいだ。
しかし、一人だけ話に聞いているだけで会ったことのない人物がいた。
この屋敷の大旦那様だった。
「もしかして、大旦那様・・・・ですか?」
「ふふ、やはり潤は察しがいいですね」
「あ、では・・・・正装に着替え直します」
そう言って潤は剣術の訓練の時にいつも着ている服装を着替えようとした。
それをバレルは阻止する。
「いえ、そのままの服装で大丈夫です。では参りましょう」
「え・・・・あ、はい」
訓練の時にいつも着ている汚れた服で会って大丈夫なんだろうか。
不安を胸にバレルの後について行く潤。
「ここです」
バレルが立ち止まったのは、今まで厳しく入ってはいけないと教え込まれた扉の前だ。
「え・・・・この扉は絶対開けちゃ駄目って」
「はい。でも、今日はいいのです。さぁ」
バレルに促され、扉に手をかける。
少し力を込めて押すとギィっと音を立てて開いた。
「し・・・・失礼します」
潤は恐る恐る部屋へ入る。
目の前にベッドがありそこには老人が寝ていた。
なにやら鼻に管のようなものが付いていてその管はベッドの横にある機械に繋がっていた。
「幾蔵様、潤をお連れ致しました」
バレルが90℃腰を曲げてベッドに横になっている老人に声をかける。
「おぉ・・・・この子が潤か。もっとこっちにおいで」
弱弱しく幾蔵は、声を出した。
優しそうな幾蔵にホッとして、潤は躊躇いながらも幾蔵のベッドに近づいた。
「もっと近くで顔を見せて貰ってもいいかい?」
「はい」
幾蔵の方に近づき顔を見せる。
すると、いきなり腕を掴まれる。
「・・・・っ!」
潤は驚きと、腕を握る力強さに声をあげそうになったが我慢する。
「ほぅ・・・・鍛え抜かれた身体をしている。剣術は毎日しているのか?」
「は・・・・はい」
ギリギリと腕の骨が折れそうなくらい思いっきり潤の腕を握っている。
しかし、幾蔵の顔は怖いくらい笑顔だ。
「剣術はどこまでマスターしておる?」
「・・・・・・第2級の桜花火剣まで・・・・」
「ほう!その年で第2級までマスターしておるのか!」
「はい。剣術の才は私が保証いたします」
「ふむふむ・・・・」
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第5級→第4級→第3級→第2級→第1級→初段→第1段→第2段→第3段→第4段→第5段
という感じだ。
それぞれの階級に決められている技を習得すると級があがる。
一般的に大人が持っている階級は第2級である。
ちなみに潤は第2級、美衣奈は第4級、バレルは第3段といった感じだ。
そう言って、幾蔵はやっと潤の腕を握り締めていた手を離した。
「っ・・・・・」
潤は右手から駆け巡る激痛を我慢するが、笑顔は崩さなようにした。
ここに来る間にバレルから『どんなことを言われても、されても笑顔をくずさないように』と忠告を受けていたからだ。
しかし、握られていた右腕が動かない。もしかしたら骨が折れているかもしれない。
利き腕を怪我してしまったとなれば練習が何日か出来なくなる。
剣術は日々の訓練が大事な事を潤は分かっていた。
「では、今日の午後からお前の剣術の実践を見たい。いいか?」
ニッコリと優しい笑顔で幾蔵は潤に言った。
しかし、利き腕が動かない。
「あの・・・・・っ!」
「かしこまりました。では、午後から準備をしてまいります。さ、潤行きましょう」
潤の言葉を遮り、バレルが話す。
そのままバレルに背中を押され部屋を出た。
幾蔵の部屋から離れたところで潤はバレルに話しかける。
「師匠せんせい・・・・僕、剣すら握れません。午後から剣術の実践などとても・・・」
「幾蔵様にやられたのでしょう?」
「え?」
「いつもなのです。美衣奈様の結婚相手に相応しいと思う者をいつも会わせるのですが、こうやって剣を握れなくしたりして・・・・反論を言った者、そのまま痛みを我慢して実践を見せて負ける者など様々でした」
「それで・・・・」
「ご主人様はそのご様子を見てお嬢様の相手に相応しくないと一喝するのです。この西園寺家を引き継ぐのであればどんな困難も乗り越えれる者でないと許さんと」
「・・・・・」
「すみません。潤、このようなことに巻き込んでしまって」
「いえ・・・・何とか対策を考えてみます。午後からですよね?」
まだ5歳。本当は恐怖と不安でいっぱいのはず。
しかし、潤はそのまだ小さい身体で必死にバレルや美衣奈の気持ちに答えようとしているのだ。
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