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(漏れちゃう、早く、早くっ)
大きな音を立てないように気を付けつつ扉を開けて、綾音は通路に飛び出した。上映中の通路に人気はなく、人目がないのをいいことにワンピースの前を両手で押さえながら女子トイレに足を向ける。
お腹の奥に溜め込んだ水分は少しでも気を抜くといまにも飛び出してしまいそうで、トイレに入っても気を緩めないようにして一番手前の個室に飛び込んだ。
(まだだめっ)
ばたばたと小さく足踏みしながら、出口を押さえつけていた手をなんとか離して下着を引き下げる。腰を下ろした途端、しゃあぁっ、とおしっこが勢いよく溢れ出した。
「は、ぁぁ……」
思わず熱いため息が漏れる。よかった、間に合った。
我慢していたおしっこの勢いは凄くて、激しい水音を立てている。
(すごい……いっぱい出てる……)
上映前にトイレを済ませてから一時間半程度しか経っていないというのに、水音はなかなか止まなかった。音消しをするのを忘れていたと終わりかけになって気付いたが、他の個室は空いていた気がするから誰に聞かれることもないだろう。
すっかりお腹の中が軽くなって、綾音は再び息をついた。意地を張って我慢し続けて、おもらしをするような羽目にならなくてよかったと安堵する。
すっきりした気持ちで水を流して、トイレから出た綾音は静かに座席へ戻った。
一瞬、柚樹がこちらを見たような気がしたが、気付かなかったことにしてスクリーンに視線を移した。なんとなく気まずいが、この場で弁解するわけにもいかない。
映画はクライマックスに突入していた。途中で席を立ってしまい、そもそもその前も集中して観ることはできないでいたが、原作を読んでいたおかげで展開にはついていくことができる。
残りの数十分は落ち着いて画面に見入り、エンドロールが流れ終わるまで座席を立つことはなかった。
客席の電気が点き、観客は次々と席を立っていく。周囲に流されるように、綾音と柚樹も席を立った。
「面白かったね。小説のほうも読んでみようかな」
「は、はい。図書室にもありますけど、私持ってるのでよかったら貸しますよ」
「そうなんだ。じゃあ貸してもらおうかな」
「はいっ」
柚樹は何事もなかったかのように話しかけてくれるが、綾音は勝手にいたたまれない気持ちを感じてしまい、思わず口を開いた。
「……あ、あのっ。途中で、席立っちゃってすみませんでした」
「ああ、全然構わないよ。少し長かったもんな。俺もちょっとトイレ行ってくるね」
「あ、はい。待ってますね」
男子トイレに向かう柚樹を見送り、綾音は他の人の邪魔にならないように壁際に移動した。
一人になった途端、つい、小さなため息が漏れた。
柚樹はいつもと変わらない優しい態度でいてくれたが、本心はわからない。もしかしたら呆れられたかもしれないし、そうでなくても、映画の途中で席を立つほど切羽詰まっていたと知られてしまったことが恥ずかしい。
それでも、漏らすよりはマシだったと自分に言い聞かせる。万が一、映画館の椅子を汚していたら更に迷惑をかけることになっていただろう。
柚樹を待ちながら、綾音はちら、と女子トイレに視線を移した。
上映終了直後ということもあってか、トイレの外にまで列が伸びている。映画が終わるまで我慢して、ここに並んでいたら確実に間に合わなかっただろう。そうならなくてよかったと考えていると、なんとなくお腹の奥がむずむずした。
トイレに行きたいような気がする。――いやいや、きっと気のせいだと綾音は内心頭を振った。
少し前に済ませたばかりなのだから、こんなに早く行きたくなるわけがない。それに、柚樹には待っていると言ったのだから急にいなくなったら困らせてしまうだろう。何より女子トイレは混んでいる。モール内にはいくつもトイレがあるのだから、本当に行きたくなったらそのときに行けばいい。
思った通り、さほど時間が経たないうちに柚樹はトイレから出てきた。
「お待たせ。このあとどうしようか?」
「ええと……」
言葉に迷いながら、綾音は上目遣いで彼を窺った。当初の予定では映画の後に昼食のつもりだったが、先に済ませてしまったのでとくに予定はない。だが、このままお別れするのは少し早すぎる。せっかく休みの日に学校の外で会っているのだから、もう少し彼と一緒に過ごしたい。
大きな音を立てないように気を付けつつ扉を開けて、綾音は通路に飛び出した。上映中の通路に人気はなく、人目がないのをいいことにワンピースの前を両手で押さえながら女子トイレに足を向ける。
お腹の奥に溜め込んだ水分は少しでも気を抜くといまにも飛び出してしまいそうで、トイレに入っても気を緩めないようにして一番手前の個室に飛び込んだ。
(まだだめっ)
ばたばたと小さく足踏みしながら、出口を押さえつけていた手をなんとか離して下着を引き下げる。腰を下ろした途端、しゃあぁっ、とおしっこが勢いよく溢れ出した。
「は、ぁぁ……」
思わず熱いため息が漏れる。よかった、間に合った。
我慢していたおしっこの勢いは凄くて、激しい水音を立てている。
(すごい……いっぱい出てる……)
上映前にトイレを済ませてから一時間半程度しか経っていないというのに、水音はなかなか止まなかった。音消しをするのを忘れていたと終わりかけになって気付いたが、他の個室は空いていた気がするから誰に聞かれることもないだろう。
すっかりお腹の中が軽くなって、綾音は再び息をついた。意地を張って我慢し続けて、おもらしをするような羽目にならなくてよかったと安堵する。
すっきりした気持ちで水を流して、トイレから出た綾音は静かに座席へ戻った。
一瞬、柚樹がこちらを見たような気がしたが、気付かなかったことにしてスクリーンに視線を移した。なんとなく気まずいが、この場で弁解するわけにもいかない。
映画はクライマックスに突入していた。途中で席を立ってしまい、そもそもその前も集中して観ることはできないでいたが、原作を読んでいたおかげで展開にはついていくことができる。
残りの数十分は落ち着いて画面に見入り、エンドロールが流れ終わるまで座席を立つことはなかった。
客席の電気が点き、観客は次々と席を立っていく。周囲に流されるように、綾音と柚樹も席を立った。
「面白かったね。小説のほうも読んでみようかな」
「は、はい。図書室にもありますけど、私持ってるのでよかったら貸しますよ」
「そうなんだ。じゃあ貸してもらおうかな」
「はいっ」
柚樹は何事もなかったかのように話しかけてくれるが、綾音は勝手にいたたまれない気持ちを感じてしまい、思わず口を開いた。
「……あ、あのっ。途中で、席立っちゃってすみませんでした」
「ああ、全然構わないよ。少し長かったもんな。俺もちょっとトイレ行ってくるね」
「あ、はい。待ってますね」
男子トイレに向かう柚樹を見送り、綾音は他の人の邪魔にならないように壁際に移動した。
一人になった途端、つい、小さなため息が漏れた。
柚樹はいつもと変わらない優しい態度でいてくれたが、本心はわからない。もしかしたら呆れられたかもしれないし、そうでなくても、映画の途中で席を立つほど切羽詰まっていたと知られてしまったことが恥ずかしい。
それでも、漏らすよりはマシだったと自分に言い聞かせる。万が一、映画館の椅子を汚していたら更に迷惑をかけることになっていただろう。
柚樹を待ちながら、綾音はちら、と女子トイレに視線を移した。
上映終了直後ということもあってか、トイレの外にまで列が伸びている。映画が終わるまで我慢して、ここに並んでいたら確実に間に合わなかっただろう。そうならなくてよかったと考えていると、なんとなくお腹の奥がむずむずした。
トイレに行きたいような気がする。――いやいや、きっと気のせいだと綾音は内心頭を振った。
少し前に済ませたばかりなのだから、こんなに早く行きたくなるわけがない。それに、柚樹には待っていると言ったのだから急にいなくなったら困らせてしまうだろう。何より女子トイレは混んでいる。モール内にはいくつもトイレがあるのだから、本当に行きたくなったらそのときに行けばいい。
思った通り、さほど時間が経たないうちに柚樹はトイレから出てきた。
「お待たせ。このあとどうしようか?」
「ええと……」
言葉に迷いながら、綾音は上目遣いで彼を窺った。当初の予定では映画の後に昼食のつもりだったが、先に済ませてしまったのでとくに予定はない。だが、このままお別れするのは少し早すぎる。せっかく休みの日に学校の外で会っているのだから、もう少し彼と一緒に過ごしたい。
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