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柚樹が誘ってくれた映画は人気のファンタジー小説を映画化したものだった。綾音も小学生の頃から大好きな小説だったが、柚樹にそのことを話したのは複数人での雑談中に少し言っただけだった。そんな些細なことを覚えていてくれたことが嬉しい。
映画化することは知っていたが、実は観に行くつもりはなかった。映画館には少し苦手意識があるからレンタルを待とうと思っていたのだけれど、柚樹に誘われたら断るという選択肢はなかった。
綾音は目の前の大スクリーンを夢中になって観ていた。
何度も何度も繰り返し読んでいた物語。脳内で想像していたものとほぼイメージ通りの映像が画面には映っていた。
不思議な世界に迷い込んでしまった少女が、そこで出会った不思議な生き物――喋る猫や動く人形、フードで顔を隠した少年とともに、元の世界に戻るために冒険の旅に出るという話だ。
迫力のある演出や卓越した演技に見入ってしまい映画の世界に浸っていた綾音だが、ふと下腹部の重さに気付いて、気持ちが現実に引き戻されてしまった。
どうして、さっきちゃんと済ませたはずなのに。
上映前にトイレに行っておいたにもかかわらず、想定よりも早く催してしまったことに戸惑う。少しして、食後に紅茶を口にしてしまったせいだと気が付いた。食事の最中には水にも口をつけていた。せめて紅茶を全部飲まずに残せばよかったのだが、そこまで気が回っていなかった。
我慢できるだろうか。
不安に思いながら目の前のスクリーンに集中しようと意識する。途中で席を立ちたくはない。こっそりと膝を寄せて、ぎゅっと力を込めた。
ストーリーを追うことでしばらくは意識を逸らすことができたが、だんだん余裕がなくなってきた。すぐにトイレに行けないときほど余計に尿意が膨らんでくるような気がしてくる。お腹の奥がずっしりと重たくなっていた。
(……どうしよう、我慢できるかな……?)
もじもじと膝を擦り寄せて、時折襲い来る尿意の波に耐える。あまり大きな動きをして隣に座っている柚樹にばれてしまうと恥ずかしいから、こっそりと。
トイレに行きたい。映画、あとどのくらいかな。上映時間は二時間とちょっとだから、まだ大分ありそう。おしっこしたいな。我慢できるかな。終わったらすぐにトイレに行かないと。でも切羽詰まった状態で柚樹先輩に言うのは恥ずかしいな。……途中で、抜けちゃおうかな。
悶々と考えながら画面を眺めていたが、内容は全然頭に入ってこない。映画に対する集中力はすっかり薄れていた。
じっとりと、嫌な汗が浮かんでくる。
できればいますぐにでもトイレに駆け込みたいのだが、途中で席を立つことにはどうしても抵抗感がある。
じっと座っていることがつらくなってきて、綾音は小さく身体を揺すった。爪先を動かしたり、膝を寄せたり、太腿を軽くさすってみたり。何をしても尿意は薄れてくれない。
おしっこしたい。トイレに行きたい。お腹が苦しい。早くすっきりしたい。
気が付くと、綾音の頭の中はおしっこがしたいということでいっぱいになっていた。
こそっと隣の柚樹を窺う。彼の視線はスクリーンに向いていて、綾音のほうを気にしているようには見えない。綾音は、鞄で隠しながらそっと太腿の間に片手を挟んだ。
暗がりなのをいいことに足の付け根をぎゅうっと押さえてしまう。ほんの少しだけ楽になったが、今度は逆に手を離せなくなってしまった。この手を離してしまったら、我慢しているものが溢れてしまいそうで――。
(どうしよう……終わるまで我慢なんて絶対無理……!)
映画はやっと後半に差しかかったというところだろうか。下腹部の奥、膨らんだ水風船はすでに限界を訴えていた。このままではあと十分ともたないかもしれない。
――脳裏を過るのは去年のこと。まさか再び彼の前で粗相をしてしまうわけにはいけない。
意を決して、綾音はそっと席を立った。
柚樹に声をかけるか迷ったけれど、「トイレに行ってきます」とこっそり告げるのも恥ずかしくて仕方がない。
(すぐに戻ってきますから……っ)
心の中で言い訳しつつ、綾音は物音を立てないように急ぎ足で出口に向かっていった。出入りしやすい端の席を取ってもらえてよかったと心の底から実感しながら。
映画化することは知っていたが、実は観に行くつもりはなかった。映画館には少し苦手意識があるからレンタルを待とうと思っていたのだけれど、柚樹に誘われたら断るという選択肢はなかった。
綾音は目の前の大スクリーンを夢中になって観ていた。
何度も何度も繰り返し読んでいた物語。脳内で想像していたものとほぼイメージ通りの映像が画面には映っていた。
不思議な世界に迷い込んでしまった少女が、そこで出会った不思議な生き物――喋る猫や動く人形、フードで顔を隠した少年とともに、元の世界に戻るために冒険の旅に出るという話だ。
迫力のある演出や卓越した演技に見入ってしまい映画の世界に浸っていた綾音だが、ふと下腹部の重さに気付いて、気持ちが現実に引き戻されてしまった。
どうして、さっきちゃんと済ませたはずなのに。
上映前にトイレに行っておいたにもかかわらず、想定よりも早く催してしまったことに戸惑う。少しして、食後に紅茶を口にしてしまったせいだと気が付いた。食事の最中には水にも口をつけていた。せめて紅茶を全部飲まずに残せばよかったのだが、そこまで気が回っていなかった。
我慢できるだろうか。
不安に思いながら目の前のスクリーンに集中しようと意識する。途中で席を立ちたくはない。こっそりと膝を寄せて、ぎゅっと力を込めた。
ストーリーを追うことでしばらくは意識を逸らすことができたが、だんだん余裕がなくなってきた。すぐにトイレに行けないときほど余計に尿意が膨らんでくるような気がしてくる。お腹の奥がずっしりと重たくなっていた。
(……どうしよう、我慢できるかな……?)
もじもじと膝を擦り寄せて、時折襲い来る尿意の波に耐える。あまり大きな動きをして隣に座っている柚樹にばれてしまうと恥ずかしいから、こっそりと。
トイレに行きたい。映画、あとどのくらいかな。上映時間は二時間とちょっとだから、まだ大分ありそう。おしっこしたいな。我慢できるかな。終わったらすぐにトイレに行かないと。でも切羽詰まった状態で柚樹先輩に言うのは恥ずかしいな。……途中で、抜けちゃおうかな。
悶々と考えながら画面を眺めていたが、内容は全然頭に入ってこない。映画に対する集中力はすっかり薄れていた。
じっとりと、嫌な汗が浮かんでくる。
できればいますぐにでもトイレに駆け込みたいのだが、途中で席を立つことにはどうしても抵抗感がある。
じっと座っていることがつらくなってきて、綾音は小さく身体を揺すった。爪先を動かしたり、膝を寄せたり、太腿を軽くさすってみたり。何をしても尿意は薄れてくれない。
おしっこしたい。トイレに行きたい。お腹が苦しい。早くすっきりしたい。
気が付くと、綾音の頭の中はおしっこがしたいということでいっぱいになっていた。
こそっと隣の柚樹を窺う。彼の視線はスクリーンに向いていて、綾音のほうを気にしているようには見えない。綾音は、鞄で隠しながらそっと太腿の間に片手を挟んだ。
暗がりなのをいいことに足の付け根をぎゅうっと押さえてしまう。ほんの少しだけ楽になったが、今度は逆に手を離せなくなってしまった。この手を離してしまったら、我慢しているものが溢れてしまいそうで――。
(どうしよう……終わるまで我慢なんて絶対無理……!)
映画はやっと後半に差しかかったというところだろうか。下腹部の奥、膨らんだ水風船はすでに限界を訴えていた。このままではあと十分ともたないかもしれない。
――脳裏を過るのは去年のこと。まさか再び彼の前で粗相をしてしまうわけにはいけない。
意を決して、綾音はそっと席を立った。
柚樹に声をかけるか迷ったけれど、「トイレに行ってきます」とこっそり告げるのも恥ずかしくて仕方がない。
(すぐに戻ってきますから……っ)
心の中で言い訳しつつ、綾音は物音を立てないように急ぎ足で出口に向かっていった。出入りしやすい端の席を取ってもらえてよかったと心の底から実感しながら。
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