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夏休みデート、妹付き①
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高校二年生の夏休みのとある日、鈴香さんと映画を見に行く約束をしていた。
待ち合わせにはまだまだ時間がある。余裕を持って出かける準備をしていると、下の階から突然、妹の大きな泣き声が聞こえてきた。
一体何事かと気にかかり、自室を出て階段を下りていく。
「深月、どうしたの?」
リビングを覗くと、妹の深月が泣きじゃくっているのを母さんが宥めているところだった。確か、今日の午後に仲良しの美雨ちゃんと一緒にプールに行くと、昨夜楽しそうに話していたのに。
「美雨ちゃんがね、急に熱が出ちゃったんですって」
「あー……それで……」
それは仕方がない。けれど深月は楽しみにしていた予定がなくなってよっぽどショックなのだろう。わんわんと声を上げて泣き続けている。
「プールはまた行けるでしょう?」
「やだあぁ~~今日行きたかったの~~っ」
「じゃあ、他のお友達と一緒に行く?」
「美雨ちゃんと行きたかったの~~っ」
「仕方ないでしょ、我慢しなさい」
涙声の深月を諭しながら、母さんはちらっと腕時計に目を向けていた。
フレックスタイム制のシステムエンジニアだが、そろそろ出勤しないといけない時間なのだろう。少し困ったように僕にも視線を向けてきた。
父さんは出張中で、弟の拓実も朝から部活に出かけている。
このままでは泣いている妹を一人で家に置いていくことになってしまう。それはさすがに躊躇われた。
「拓夢もお友達と約束してるんでしょ?」
「そうだけど……ちょっと待ってて」
僕は慌てて踵を返した。階段を駆け上がって部屋に入り、スマホを手に取る。
鈴香さんに電話をかけると、すぐに繋がった。
「もしもし、鈴香さん? 急にごめんね、まだ家にいるよね?」
『うん、まだ家だよ。どうしたの?』
「ほんっっとにごめん! 今日の予定、キャンセルさせてほしいんだ」
スマホを耳に当てた状態で思わず頭を下げるほどの勢いで彼女に謝罪をする。
『それはいいけど……何かあった? 大丈夫?』
心配そうな声をしている鈴香さんに、「実は……」と事情をかいつまんで話す。
『――もしよかったらなんだけど、映画はまた今度にして、妹さんも一緒にお買い物に行かない? ……だめかな?』
「ちょっと聞いてみるね!」
鈴香さんからの提案は願ってもないものだった。
一緒に出かければ妹に一人で留守番をさせなくて済むし、機嫌も直してくれるかもしれない。一旦通話を切り、スマホ片手に居間へ戻る。
深月も少しは落ち着いたようで、泣き声は止んでティッシュで顔を拭いていた。
「今日遊ぶ友達が、よかったら深月も一緒に買い物に行かないかって。どうする? 行きたい?」
「……お兄ちゃんのお友達って、男の子?」
深月は真っ赤な目のまま、きょとんとした顔で首を傾げた。
一瞬、返答に迷ったけれど正直に答えるしかない。
「……女の子だよ」
「じゃあ行く」
即答だった。
「あらあらあら、女の子のお友達って? その話、母さん詳しく聞きたいなー?」
さっきまで困った顔をしていた母さんが急に目を輝かせて食いついてきた。
こうなるのが嫌で彼女ができたことは話していなかったのだが、ついにバレてしまった。いや、鈴香さんは自信を持って家族に紹介できる自慢の彼女ではあるけれど!
「また今度ね! ほら、仕事遅れるよ!」
「ほんとだ、いけない! じゃあ、二人とも、出かけるなら戸締りよろしくね!」
慌ただしく出かけていく母を見送る。出際に、軍資金として一万円札を渡してもらえたのは思わぬ臨時収入で嬉しかった。
さっそく、鈴香さんに妹も同行することをメッセージで送る。すぐに「OK」と可愛い猫のキャラクターのスタンプが返ってきた。
「じゃあ、待ち合わせ十時半だから。出かける準備してね」
「はぁい。お兄ちゃん、髪やって」
「わかったわかった。ヘアゴム持ってきて」
髪を結ぶのを頼まれたのは久しぶりだった。リクエストされた編み込みツインテールにはだいぶ苦戦して、気付けば家を出る時間がギリギリになってしまった。
待ち合わせにはまだまだ時間がある。余裕を持って出かける準備をしていると、下の階から突然、妹の大きな泣き声が聞こえてきた。
一体何事かと気にかかり、自室を出て階段を下りていく。
「深月、どうしたの?」
リビングを覗くと、妹の深月が泣きじゃくっているのを母さんが宥めているところだった。確か、今日の午後に仲良しの美雨ちゃんと一緒にプールに行くと、昨夜楽しそうに話していたのに。
「美雨ちゃんがね、急に熱が出ちゃったんですって」
「あー……それで……」
それは仕方がない。けれど深月は楽しみにしていた予定がなくなってよっぽどショックなのだろう。わんわんと声を上げて泣き続けている。
「プールはまた行けるでしょう?」
「やだあぁ~~今日行きたかったの~~っ」
「じゃあ、他のお友達と一緒に行く?」
「美雨ちゃんと行きたかったの~~っ」
「仕方ないでしょ、我慢しなさい」
涙声の深月を諭しながら、母さんはちらっと腕時計に目を向けていた。
フレックスタイム制のシステムエンジニアだが、そろそろ出勤しないといけない時間なのだろう。少し困ったように僕にも視線を向けてきた。
父さんは出張中で、弟の拓実も朝から部活に出かけている。
このままでは泣いている妹を一人で家に置いていくことになってしまう。それはさすがに躊躇われた。
「拓夢もお友達と約束してるんでしょ?」
「そうだけど……ちょっと待ってて」
僕は慌てて踵を返した。階段を駆け上がって部屋に入り、スマホを手に取る。
鈴香さんに電話をかけると、すぐに繋がった。
「もしもし、鈴香さん? 急にごめんね、まだ家にいるよね?」
『うん、まだ家だよ。どうしたの?』
「ほんっっとにごめん! 今日の予定、キャンセルさせてほしいんだ」
スマホを耳に当てた状態で思わず頭を下げるほどの勢いで彼女に謝罪をする。
『それはいいけど……何かあった? 大丈夫?』
心配そうな声をしている鈴香さんに、「実は……」と事情をかいつまんで話す。
『――もしよかったらなんだけど、映画はまた今度にして、妹さんも一緒にお買い物に行かない? ……だめかな?』
「ちょっと聞いてみるね!」
鈴香さんからの提案は願ってもないものだった。
一緒に出かければ妹に一人で留守番をさせなくて済むし、機嫌も直してくれるかもしれない。一旦通話を切り、スマホ片手に居間へ戻る。
深月も少しは落ち着いたようで、泣き声は止んでティッシュで顔を拭いていた。
「今日遊ぶ友達が、よかったら深月も一緒に買い物に行かないかって。どうする? 行きたい?」
「……お兄ちゃんのお友達って、男の子?」
深月は真っ赤な目のまま、きょとんとした顔で首を傾げた。
一瞬、返答に迷ったけれど正直に答えるしかない。
「……女の子だよ」
「じゃあ行く」
即答だった。
「あらあらあら、女の子のお友達って? その話、母さん詳しく聞きたいなー?」
さっきまで困った顔をしていた母さんが急に目を輝かせて食いついてきた。
こうなるのが嫌で彼女ができたことは話していなかったのだが、ついにバレてしまった。いや、鈴香さんは自信を持って家族に紹介できる自慢の彼女ではあるけれど!
「また今度ね! ほら、仕事遅れるよ!」
「ほんとだ、いけない! じゃあ、二人とも、出かけるなら戸締りよろしくね!」
慌ただしく出かけていく母を見送る。出際に、軍資金として一万円札を渡してもらえたのは思わぬ臨時収入で嬉しかった。
さっそく、鈴香さんに妹も同行することをメッセージで送る。すぐに「OK」と可愛い猫のキャラクターのスタンプが返ってきた。
「じゃあ、待ち合わせ十時半だから。出かける準備してね」
「はぁい。お兄ちゃん、髪やって」
「わかったわかった。ヘアゴム持ってきて」
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