sideBの憂鬱

るー

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 「……は…ッン……」

 「気持ちよさそうに震えて可愛いですね」

 「ぅ……アッ」

 「我慢せずにもっと声出してもいいですよ」


 スウェットのウエスト部分から差し込まれた手が、張って丸みを帯びた布地を摩る。その絶妙な力加減が凛斗の中に疼きをどんどん溜めていった。いくら夜遅い時間の公園で周りに人がいないといっても、シンと静まり返っていては声が響き、離れた場所まで簡単に届いてしまいそうな気がする。確か公園の入口に若い男が何人かいた。そいつらがこちらの方へ入って来たら、間違いなく彼らの耳に入ってしまう。それがわかっているのに声が抑えられない。


 「は……ぁ、あっ…」


 凛斗は腰を抜かしたように座り込み目を閉じて愁に全てを委ねた。相手が男だからとか、ここが部屋の中じゃなく誰かに見られるかもしれない外気に晒された場所だとか、もうどうでもよく感じられた。今はただ、愁から与えられるこの快楽に溺れてしまいたい。布越しに触られることをもどかしいとすら思ってしまう。まるでねだるように締まりのない顔を愁に向けると、凛斗と同じように上気した愁に見つめられていた。


 俺のを触って興奮したのか……?


 胸がドクンと強く音を立てた。
自分に欲情している愁を見てさらに体温が上がった。


 「……どうしたんですか?さっきより大きくなりましたよ」

 「……っン!」


 体の中で今、一番熱くて敏感な部分を温かい手に直接包まれて、達してしまいそうになるのを必死に堪えた。別に素直にイッてしまっても良かったんだが、もう少し愁の手の感覚を味わいたいと思って踏みとどまってしまった。愁の家でされた時は散々嫌悪して怒ったくせに、俺はなんて都合のいい事をしているんだろう。

 前と同じように片手で握られ、上下に擦られる。愁の手のスピードが徐々にアップしていくのと平行して凛斗の息も荒く乱れた。


 「もうそろそろイく?」


 鈴口を親指でグッと押され一気に頂点まで上りつめた。全身を駆け抜けていく快楽の強さに負けて、女みたいに声を上げながら愁の服にしがみついた。背中にまわった力強い腕にしっかりと抱きとめられ、震える身体を心置き無く愁に預けた。心を解放していたせいか、それとも愁の技量のせいなのか前回より遥かに感度が高かった。自分でコントロールしながら高みに登るのと、人に追い込まれて登るのとは絶頂感の強さも種類も全然違う。

 こんな刺激の強いものを味わってしまったら、自分でする時に物足りなさを感じてしまいそうだ。

 愁の腕の中、じんわりと広がる痺れるような余韻に浸りながらそんな事を考えていると、凛斗の額に唇をあてた愁が不満気に小さく呟いた。


 「凛斗から紗希ちゃんの匂いがする」


 (紗希の匂いって何だ?)


 ふわふわして鈍い思考を巡らせる。さっきまで紗希の家に居たが匂いが移るほど紗希とは密着などしたわけじゃない。シャンプーしてもらって、髪を乾かして……。ああ、もしかしてシャンプーの香りのことだろうか。紗希と同じシャンプーを使ったから紗希の匂いって事か?


 (そういえば前に愁の家で同じシャンプーを使ったから同じ匂いだとか言ってたもんな)


 「……また凛斗を僕と同じ匂いにしたい」


 いい?と耳に熱く囁かれトロンとした表情のまま小さく頷いた。愁のシャンプーならいくらでも受けたい。

 考える様子もなく頷いた凛斗に、愁は複雑な表情を浮かべながら訊ねてきた。


 「どういう意味かわかって頷いてるんですよね?」

 「意味……?シャンプーの事だろ?」


 凛斗が不思議そうに目を丸めると、愁は短くため息を吐いた。そしてインナーの上に着ていたシャツを脱ぎ、凛斗の汚れた部分を優しく拭った。完璧とまではいかないがある程度綺麗になると、愁は甲斐甲斐しく凛斗の乱れた衣類を元のように直した。


 「凛斗……もしかしてシャンプーだけで終わると思ってるんですか?」


 脱力して芝生の上に寝転んでいる凛斗の隣に、愁は片足を立てて座ると軽く覗き込んで話しかけてきた。声はまだ暗い。


 「ブローもしてくれるんだろ?」

 「もちろんブローもしますけど……それは家に誘うためのただの口実ですよ。さっきみたいに凛斗に触りますけど覚悟できてます?」

 「…………。」


 (……やっぱりそうか)

 愁の反応で、途中から何となく言葉の裏に意味があるのかもしれないと感じていた。

 黙り込んだ凛斗から返事が返ってくるのを、愁は隣で大人しく待っている。強引にキスやそれ以上の事をしてくるくせに変な所で律儀な奴だ。さっきは安易に頷いたが、身体の熱が引いて戻ってきた理性がブレーキをかけている。男となんて冗談じゃないという気持ちと、愁になら触られても気持ち悪くないという気持ちで揺れ動く。

 凛斗がきっぱり断らずに返事を躊躇っているのに気づいた愁は、ここぞとばかりに迫ってきた。


 「もう一度キスしましょうか?僕とのキスが少しでも気持ちいいと感じられれば付き合ってください」

 「わ!ちょっ……!!」


 ぐいっと腕を引かれ愁の前に身体が起き上がると、逃げられないように背中に手が回り、後頭部に手を添えられ顔が上を向いた。

 こんなの最初から勝負が見えている。愁に何度もキスされてるが、気色悪いと思った事がないから困ってるんじゃないか。


 (俺がすぐにクタクタになるのわかってるくせに……!)


 案の定、三分もかからずに凛斗が根をあげた。唇をなかなか離さない愁の顔をペチペチ叩いてやっと解放してもらうと、乱れた息をそこそこに悔しさを露わに愁を睨んだ。愁はしてやったりと笑うと凛斗の耳のあたりの髪を撫でた。





 「……はぁ、わかったよ」


 何度も愁に身を委ねておいて今さら「ノー」と言う方がおかしい気がしてきた。思考や気持ちよりも身体は正直だ。愁に気持ちよくされるのは嫌いじゃない。

 公園に入って来た時とは思考も態度もまるで別人のような自分が情けなく思えたが、ここまで来たらもう開き直るしかない。どうやらこいつに上手く手懐けられてしまったみたいだ。


 「本当に?付き合ってくれるんですか?」

 「ああ」


 凛斗が仕方なさそうに頷いたのを見た愁は驚いた表情をゆっくりと笑顔に変えた。それはほっとしたような力の抜けた笑顔だった。


 「うわ、どうしよう……凄く嬉しい。凛斗、ありがとう」


 愁は弱々しく礼を言った後、額に手を当てた。


 「はぁ……緊張した……」

 「緊張してたのか?えらく堂々と迫られた気がするけどな」


 凛斗がわざと嫌味っぽく言うと、愁は顔を背けながら恥ずかしそうにボソッと打ち明けた。


 「告白なんて初めてだし、どうしても凛斗を手に入れたかったから必死だったんですよ」

 「初めての告白とか嫌味かよ。おまえモテそうだもんな。自分から動かなくても向こうからいくらでも寄ってくるだろ。それなのに何で男の俺なんかに必死なのかわかんねーよ。ゲイを隠すために紗希と付き合ってるフリしてたのか?」
 
 「僕、ゲイじゃないですよ。今まで普通に女の子と付き合ってきましたから。誤解のないように言っておきますが男性が好きなんじゃなく、凛斗あなたが好きなんです」


 正面から真剣な表情で言われて瞬きを忘れて愁を見返した。


 ゲイじゃないのに凛斗オレが好き?


 一瞬首を傾げたが、自分が女顔なのを思い出した。単に凛斗の顔が好みだったから興味を持ったという事か?顔は女みたいでも身体は細いがしっかりと男だし、下半身には愁と同じモノもついてる。普通にキスしたり触ったりしているように感じたが、何の躊躇いもないのだろうか。


 「好きですよ」


 愁は呆けていた凛斗の顔を覗き込むとチュッと頬にキスをした。歯が浮くような行動にうわっと声を上げて後ろへ仰け反った。薄暗さの中、キスをされた頬がじんわりと熱を持つ。


 「わ、わかったってば。おまえベタベタしすぎ!」

 「嬉しくてつい……。離れがたいけどもう遅いし、凛斗明日は学校ですよね?あれ?携帯……」


 ズボンのポケットを探った愁は、急に思い出したようにキョロキョロと辺りを見回した。そして少し離れた場所に落ちていたスマホを見つけて拾い、手に取った。そういえば凛斗が掴みかかった拍子に落としてそのままだった。壊れてないか心配になった凛斗は立ち上がり愁の側に寄った。


 「スマホ無事?」

 「芝生の上だったから大丈夫ですよ。……あ」


 スマホの画面を操作した愁が変な声を上げた。


 「どうした?やっぱり壊れた?」

 「あー……何でもないです。メッセージがあっただけです。そうそう凛斗、明日って何時に学校終わりますか?その後会えます?」


 なんとなく誤魔化すような口ぶりで話題を変えられたが、スマホが壊れたわけではなさそうだったので、そのまま気に留めずに終わった。


 「明日?確か夕方には終わるけど……」

 「ゆっくり話もしたいし、ご飯を一緒に食べましょう」


 腰を引き寄せられ唇が重なる。親密な恋人に与えるような甘く痺れるキスに、ほんの僅かだけ後悔が生まれる。男相手にドキドキしてキスが気持ちいいとか、シャンプーして欲しいとか思ってしまうなんて、深みにハマっていきそうで怖い。今後の自分が心配になりながらも、抱き締められる腕に従って愁の胸に顔を埋めた。

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