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しおりを挟む「当然二人で奢ってくれるよね?」
と、紗希が選んだ店は最近できたばかりの洋食店だった。女性客ばかりの店内で、見た目のいい愁と凛斗を連れて入るのはとても気分がいいと言いながら、紗希は美味しそうにハンバーグを頬張った。愁は玉子が半熟でふわふわのオムライスを食べ、既に満腹の凛斗はちびちびとオレンジジュースを飲んだ。
その店を出る時愁が全て支払うと、紗希から「凛斗のサイフの出番は次回ね!」と何気に食事会第二回目が決定されてしまった。最寄りの駅で名残惜しそうな顔をした愁と別れ、紗希と並んでつり革につかまり電車に揺られている。
「もっと付き合いたての初々しさが見られると思ってたのに……」
紗希から悲観的な表情でジッと見つめられ、冷めた視線を返す。可愛い顔の裏で何を考えていたんだか。
「おまえなぁ……何を期待してたんだ」
「一口いる? はい、アーンみたいなやつに決まってるでしょ! 凛斗が晩御飯終わってなくて一緒に食べてたら成り立ったイベントなのに……!」
「そんなの、腹が減ってても絶対やらねぇぞ」
「何照れてんのよ。今どきそれくらい普通すぎて男同士でやっても誰も気にしないわよ。それに二人きりの時はしてるんでしょ?」
(普通すぎて誰も気にしないのに、俺と愁のは見たかったのかよ……)
「するわけないだろ。第一そんなの誰ともしたことないし」
「うっそ!!」
「基本的に人前でイチャイチャするのが好きじゃないし、デレてる顔とか誰かに見られると思うと……なんか嫌だ」
「裏を返せば、好きな人の前でしかその顔を見せたくないってことよね」
「っそ、そういうことじゃない!」
「そういうことでしょ」
今までからかっていた表情と打って変わり、真面目な瞳で紗希から諭すように言われ、それ以上何も言えなくなってしまった。
(そういうことなのか……)
***
愁とは朝と寝る前に必ずメールでやりとりする。愁がマメに送ってくるので、凛斗は挨拶だけの短い言葉を返すようになった。面倒で苦手だったメールが日常的なものに変わるのに、そう時間はかからなかった。
「凛斗っ、今日この後暇? 久々にゲームしねぇ? 凛斗ン家行っていい?」
必須の講義が終わり、帰ろうと席を立つと賢治から遊びの誘いがかかった。ここ数日課題の量が多くてお互いにまっすぐ家に帰っていた。その課題からやっと解放されたところである。
「ゲームか。そういえば最近進めてなかったよな」
「最近学食以外でカップ麺ばっかだったから、凛斗のおばさんのご飯食いてぇ!」
「ゲームがしたいんじゃなくてウチで飯が食いたいだけだろ」
白い目で見下ろすと賢治は「バレたか」と肩を軽く竦めた。一人暮らしだと食事はどうしても手抜きになるだろうから、いくらでも連れて来て構わないと母親から言われている。賢治に「いいよ」と言った後、念のため母親に知らせておこうとメールをするため携帯を取り出した。連れてくるなら品数を増やすので事前に連絡しろと母親から言われている。携帯を見た途端、凛斗は声をあげた。
「あ!……賢治ごめん! 悪いけどメシ明日でもいい?」
「どした? あー…凛斗がデートか」
「デートじゃないけど……ちょっと」
口ごもる凛斗に、賢治はからかい半分交えながら快く約束を明日に繰り越した。午前中に届いていた愁からのメールには「今日会いに行きます」とだけで詳細はなかった。メールに気づいたのは賢治と約束した後なので、凛斗としては優先順位は賢治を取るべきだと思った。しかしここ数日間、課題のせいで愁とゆっくり会えておらず、久しぶりに恋人としての時間を過ごしたかった。
相変わらず賢治は凛斗の相手を知りたがって探りを入れてくるが、凛斗は頑として口を割らなかった。
賢治とは途中までは帰宅コースが同じなので、肩を並べて校舎を出ると門の所に思いもよらぬ人物が立っていた。
「凛斗! よかった会えて。敷地内まで入ると広そうだからすれ違いになりそうで」
そう言いながら目を細めて笑う愁は専門学校が終わってそのまま来たのか、大きな鞄を肩から重そうに提げていた。「会いに行く」とはメールは貰ったが、まさか専門学校から逆方向の大学まで来るとは想像もしなかった。
「愁、学校は? いつもならこの時間まだ授業中だろ」
「今日は講師の都合で予定が変わって早く終わったんです。紗希ちゃんがこっち方面に用事があるっていうので僕も便乗して来ちゃいました」
「サボって来たかと思った」
凛斗がクスッと笑うと愁も微笑んでいた表情を更に和らげた。
「凛斗の友達?」
後ろからかけられた声にハッと我にかえる。愁と二人で会話を繰り広げていたが、ここは大学の門前でまだ賢治も一緒にいたのだ。凛斗は慌てて互いの紹介を済ませた。賢治はほぼ同じ背丈の愁をまじまじ見ながら気さくに話しかけた。賢治は基本誰とでも仲良くなる。
「あんたすっげぇいい男だな。女がほっとかないだろ」
「いえ、そんな事ないですよ。それにちゃんと恋人がいるので……」
作り笑いでさらりと受け流すあたりは見慣れた光景だ。愁は街で女性からよく声をかけられる。今も大学の女生徒が愁の存在に気づいて足を止め、色めき立っている。このままだと愁を紹介してくれと言ってくる輩が出てきそうな予感がする。早目にここを去った方がいいだろうと判断した凛斗は、賢治への別れもほどほどにその場を立ち去った。
愁から時間も早いのでどこか遊びに行こうと提案されたが、凛斗は愁の部屋に行きたいとリクエストした。外デートがしたかったと見えて愁はあからさまに残念そうな顔をしたが、凛斗は我儘を通した。どうしても二人きりになりたかったからだ。
愁の家は広いし片付いていて綺麗だが、生活感がなくて落ち着かない。でも愁の自室に足を踏み入れると妙にホッとする。好きな所に座ってと言われ、凛斗は迷わず愁の横にぺったりくっつくようにして座った。凛斗が珍しく甘える面を見せると、愁はここぞとばかりに膝の間に凛斗を収め、後ろから腕を回して抱き締めた。
「そういえばさっきの、賢治さんとは仲がいいんですか?」
「そうだな。選択の講義も殆ど同じだからよく一緒になるよ」
「大学以外では? 会ったりします?」
「メシ食いに行ったりとか、家に遊びに来たりとかかな」
「家に? 前に友達がよく泊まりに来るからって言ってたのは賢治さんの事?」
「そうだけど……何? 賢治がどうかしたか?」
身体をくるりと向きを変え、愁と向かい合った。後ろから抱き締められるのも密着して安心するが、顔の表情がわかりやすい正面からくっつく方が好きだ。
愁はちょっと困ったように眉を寄せて目を伏せていた。
「すいません。ちょっと気になって」
「何で? 変な奴じゃないけどな。酒もタバコもやらないし、人柄も良くてツレ達の評判もいいけど……」
「気になる種類が違いますよ。そんな評価のいい彼が凛斗と一緒にいるのが気に入らないって意味ですよ」
「はぁ?」
ヤバそうな奴とつるむより全然安心じゃんか、と賢治の良さをアピールするほど愁の機嫌が悪くなっていった。せっかく久しぶりに会えたのに険悪なムードになってしまった。
しかし凛斗は愁の「賢治とあまり仲良くしないで欲しい」という主張が理解できずに反論した。
「何でだよ!? つまり俺に友達作るなって言ってんのか!?」
「そこまで言ってません。親密な付き合いを避けて欲しいと言ってるんです」
「意味一緒じゃねーかよ!」
「ああもう! わからないんですか!?」
愁は声を荒げると凛斗を床に押し倒した。
「僕以外の人と話したり触れ合ったりして欲しくないんですよ! うっかり好きになられたらどうするんですか!」
「…………は?」
触れ合ったりは…まぁないだろうが、会話するなというのは無理がある。それにうっかりって何だ。
「愁はうっかり俺を好きになったってことかよ」
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