sideBの憂鬱

るー

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「……ごめん」


 仰向けになっている愁にしがみつくように上から乗っかり、胸の辺りに額をくっつけた。囁くような「ごめん」は愁の耳に届いたかはわからないが、凛斗の背中に回された手は慰めるように温かかった。


「どうしたの?」


 凛斗を抱きしめたまま身体を起こした愁は優しく訊ねてきたが、凛斗の下半身を目にすると「ああ、そっか」と納得したように小さく頷いた。凛斗の下半身は愁を押し倒した時とは違って、すっかり勢いがない状態になっていた。

 こんなはずじゃなかったのにと沈む凛斗の頬を、愁が両手で挟み上に向けた。

 形のいい瞳に射抜くように見つめられ、息が止まりそうになる。その強い眼差しには優しさと灯ったばかりの情欲が見え、凛斗を責めるようなものは微塵も感じられない。


「凛斗、僕が好き?」

「……ああ」

「僕の中に入りたい?」

「ああ」


 本当は、ひとつになれるならどっちがどっちでもいい。「おまえの初めては俺が欲しい」と愁に向けた本心とは別に、目の前の恋人に気持ちよくなって欲しいというのもあった。いつもどれだけ気持ちよくさせてもらっているかわかってもらおうと仕掛けたのに、失敗に終わった。恥ずかしさより、やりきれない思いが強かった。


「手伝ってあげるから最後までしない?」

「……え?」


 クルッと反転されられて今度は凛斗がカーペットに寝転がる。そしていつものように愁からキスされ、あっという間に身体も気持ちも溶かされる。耳を甘噛みしながら胸の突起を弄るのは愁の最近のお気に入りだ。愁曰く、「この二点攻めされた時の凛斗の喘ぎ声が、仔猫が鳴いてるみたいで可愛い」らしい。


「…あ……あっ…んっ」

「すぐ大っきくなったね」


 ガチガチに昂ぶった愁の欲望を、凛斗のそれに擦りつけられてブルリと身震いする。


「凛斗はそのまま動かないでね」


 そう言いながら愁は凛斗の腰に跨った。凛斗の逸物を片手で支えるとその上にお尻をあてがい、ゆっくりと腰を落としていった。


「………っ」


 敏感な部分に柔らかくて温かいものが触れ、徐々にそこへ飲み込まれていく。手伝ってあげると言われても、ここまでされるとは思っていなかった凛斗は大きく動揺した。瞳を閉じ、僅かに開いた唇から熱い息を漏らす愁はとても艶めかしく、凛斗はずっと目が離せなかった。


「……入ったよ」


 凛斗を全て迎え入れた愁は、その艶めかしさが残る表情のまま嬉しそうに小さく笑った。「何でそんなに余裕があるんだ」とか、「痛くないのか」とか言いたい事はあったのに言葉としては何も出てこない。初めて味わう愁の中は温かくて、まるで全身を抱き締められているようだった。


「凛斗かわいい顔してる。僕の中気持ちいい?」

「……あっ…あっ」


 愁がゆっくりと上下に動き出して、強くなっていく快楽に抗えず弱々しく声を上げる。結局リードを取るのは愁で、凛斗はトロトロに溶かされ愁にしがみつくのが精一杯だった。



 頭が真っ白になって、我に返った凛斗は大変な事に気付いた。


「……ゴムつけてなかった!」

「いいよ。僕がわかってて挿れたんだから。後で一緒にお風呂入ろう?」

「後でって、すぐ洗ってきた方がいいんじゃないのか? 腹壊すって何かで見たぞ」


 凛斗が気持ちよさそうに達したので満足したのか、愁は凛斗を腕に収めゴロンと横になった。


「なんか……振り回してごめん」


 凛斗が重々しく呟くと愁は腕を緩めて凛斗の顔を覗き込んだ。


「付き合い始めの頃、腹に溜め込むよりは言ってくれた方がいい、お互い謝るのナシにしようって凛斗が言ったんだよ? 僕も同じに思うよ。思った事や感じた事はどんな些細な内容でも言って欲しいし、やりたい事があれば遠慮なんてしなくていいよ。凛斗が身も心も僕の恋人っていうのが変わらなければね」


 そんな事言ったっけ? と凛斗は首を傾けた。その仕草がたまらないと凛はたくさんのキスを降らせる。くすぐったいと笑う凛斗の声は凛斗の唇に取り込まれた。



 愁に流されて付き合い始めたが、コイツが受け皿の大きい温和な性格で良かった。いくら身体の相性が良くても気が合わないのは致命的だ。惚れた弱みか、愁は凛斗をとても大切に扱ってくれてる。何より歩み寄ろうとしてくれる優しさがある。


「でもね」


 キスの合間、気を取り直したように一言発した愁は凛斗を組み敷くとニッコリ笑った。凛斗はキョトンと目を丸くして愁を見上げる。


「得手不得手ってあるんだよ。はっきり言うと凛斗は抱く側に向いてないんだよ」

「あー、うん。向いてないのは今回ので痛いほどわかった。けど、何でそんな断言できるんだよ」


 下手だと言われたなら努力して改善できるが、向いてないと決定づけられてしまうとどうにもできない。凛斗はちょっとだけムッとしてしまった。その反応は想定内だというように愁は話を続ける。


「まず一つ。凛斗が痛みに弱い原因と繋がってると思うんだけど、凛斗は人より感度が高いんだよ」

「感度?」

「ちょこっとキスしただけで腰砕けだし、いいトコ攻められるとあっという間に飛んじゃうでしょ? 凛斗は自分の体力がないせいだと思ってるみたいだけど、あれは単純に気持ちよすぎて脳がショートしてるんだよ」

「……そうだとして、それがどう関係あるんだ?」

「刺激に敏感で気持ちよさだけじゃなく、痛みを知ってるから相手の扱いが慎重になるんだ。傷つけないようにと集中しちゃうから自分が萎えちゃうんだよ」

「…………。」


 確かに途中で中断した。それらしい理由を告げられ凛斗は大人しく黙った。


「で、二つ目は……。凛斗は僕と付き合ってから一人でしてる?」


 一人でしてる? とはアレのことだよな? と記憶を巡らせる。元々性欲は強くないので本当にムラっとした時に、最小限にしかしない。愁と付き合うようになってからは少なくとも週一、多いと週三ベッドに入る。なおかつ一回では済まされず二、三回求められる。凛斗からしたらかなり多いのだ。そんな状況で更に家で自分でも、なんて信じられない話だ。


「……してない、けど。何で?」

「僕は結構してるよ。実は昨夜もした。もちろんオカズは凛斗があんあん啼いてる姿」

「!! ……っ変態!」

「そうだよ。僕は凛斗をそういう姿にさせたいしその姿に興奮するんだ。攻める方はそういう精神状態じゃないと無理じゃないかなと思うよ」

「無理って……何でそれをする前に言ってくれなかったんだよ……」

「体験してもらうのが一番納得するかなーって」


 止めてくれたら恥をかかずに済んだのに、と自分の赤っ恥を愁のせいにしようとしたが、有無言わさずローションを塗りだしたのは凛斗だ。思い起こせば愁は何か言いたそうだったのに凛斗は聞く耳を持たなかった。

 愁といい、凛斗といい、暴走して相手を困らせるあたり似た者同士だ。でも失態を晒しても受け入れてくれる相手だからこそ、腕の中で素直になれる。


「という事で、本来の役割に戻ろうか」

「えっ、えっ? ンッ……!」


 温和で優しいだけじゃなかった……とカーペットの上で一回、ベッドに移ってもう一回啼かされた凛斗は、薄っすら霧かがった意識の中で自分の恋人の情報欄に『絶倫』と『変態』を付け足した。


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