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side Aの困惑 2
しおりを挟むズバッとナイフでお腹を切られたような痛みと目眩。さらにもう一回刺されて、そのままナイフをグリグリされたのと同じくらい胸が痛んだ。……刺された事ないけど。
そんな風に愁を痛めつけた張本人、凛斗は何事もなかったかのように「メシどうする?」と言っている。切り替えが早すぎるだろうと頭を押さえたくなるが、愁がどんな態度をとってもきっと凛斗は打ち明けてくれないし、下手をすると機嫌を損ねて帰ってしまうだろう。ここはひとつ大人になって凛斗に合わせるしかない。それに二日ぶりに会った恋人と険悪になりたくない。
ショックと動揺を心の奥の奥に無理矢理しまい込んで、愁はいつもの穏やかな笑顔を凛斗に向けた。
「今日は家で食べない? 実は食材用意してあるんだ」
「えっ、また作ってくれるのか?」
やった、と凛斗に歯を見せて破顔され、その顔が見たかったと心の中でガッツポーズをする。外食やコンビニ食ばかりもどうかと思い、愁は最近料理を始めてみた。一番最初は凛斗が好きだと言う麺類。乾燥パスタを茹でて、レトルトのパスタソースをかけただけの簡易なものだ。しかし凛斗は喜んで食べてくれた。凛斗が喜ぶならと、作るたびに段々手の込んだ料理になって、今では大体の物はレシピを見なくても作れる。
「パスタ、グラタン、焼きそばどれがいい?」
「おまえの料理どれもウマいから迷うよな」
「定番のオムライスとかカレーもできるよ」
「余計に悩ませんなって」
愁の家に着くまで悩んで、凛斗が選択したのはオムライスだった。凛斗はケチャップたっぷりのチキンライスに、上に乗せる玉子は半熟トロトロが好きだ。愁がキッチンで作ってる間も邪魔にならない所からジッと見ていて、仕上がる直前に目を輝かせて寄ってくる。小ちゃい子供のような凛斗に、母性本能をくすぐられた愁の料理の腕はぐんぐん上がっている。
「おまえの料理ならパスタだけじゃなく米系も好き。この前のご飯の上にソースかかって焼いたやつ、アレもうまかった」
「ドリアだよ。季節の野菜とか入れると見栄えもするし味が変わって美味しいよ。また今度作るね」
「あ、うん。食いたい! おまえレパートリー多いしアレンジ得意だよな。俺、真似して家で料理してみたけど途中でお手上げ状態になった。やっぱおまえすげぇわ」
「そんなの慣れだけど……ちなみに何作ろうとしたの?」
「酢豚」
またいきなり難易度の高いものを……。
数ある料理の種類の中からそれを選んだのは、きっとこの前一緒に外で中華を食べた時に、愁が何度も美味しいと言いながら酢豚を食べていたからだろう。凛斗は楽しい事や嬉しい事を共有したがるし、受けた喜びは返そうとしてくれる。いつも愁が料理をしてくれるので今度は自分が、と考えてくれたに違いない。
食べ終わった後は凛斗が進んで食器の洗い物をしてくれる。エプロン姿はとてつもなく可愛いし、もう新婚生活みたいで幸せが止まらない。料理を覚えて良かったと毎回思う。
「少し休憩したらイチャイチャしない?」
キッチンから愁の部屋に戻って、腰を下ろす前に凛斗を後ろから抱きしめた。回した腕に手を添えられ、休憩なんてすっ飛ばして押し倒したくなる。しかし以前、食べてすぐに「デザート」と調子に乗って凛斗を食べた時、愁に激しく揺さぶられた凛斗は胃を痛めた。やはり食後すぐの運動はよくない。
「いいけど、俺先に風呂入りたい」
「後でも入るのに?」
「おまえあちこち舐めるだろ。冬でも厚着してると汗かくんだよ。それに……洗っときたいし」
どこを、とはっきり言わないがどこかはわかる。もちろん二人がより深く繋がる場所だ。
後ろからで顔が見えないが、ちょっと照れくさそうなのが声でわかる。ああ、ほんっと今すぐ白いうなじに吸い付きたい。
「わかった。じゃあ後でお湯溜めとくね」
「シャワーでいいよ」
「終わったら二人で入るからついでだよ」
耳たぶへのキスで我慢して、腕から凛斗を解放する。凛斗は赤くなった顔を見せないようにさり気なく、床に置かれていた興味もない雑誌を手に取る。付き合いたてのような凛斗のウブな反応にキュンとする反面、実は言えない不満もある。お互い学業を優先する中、空いた時間は当然のように恋人のために使っている。無理はしてないし、させてないと思う。会えない時ははっきり断られる。会うのはだいたい愁の部屋で、ほぼエッチになだれ込む。もう万年発情期のようだ。しかしそのエッチに誘うのはいつも愁なのだ。今日のように言葉で誘う時もあるし、隣に座っている凛斗にちょっとずつちょっかい出して仕掛けるときもある。
絶対に断らない凛斗を抱くたびに、たまには凛斗から誘って欲しいと思ってしまう。だから蕩けるように抱いて「もう一回」と言わせるように仕向けている。凛斗は事後の方が素直に甘えてくれる。
「ここ、綺麗に洗ってくれてのは僕のため?」
「……っん、そう。…あ」
愁のモノを奥まで咥え込んだ凛斗が身体を反らしながらシーツを握りしめた。目を閉じて眉を寄せている様は、中にいる愁の動きをじっくり味わっているようにも見える。少し時間を空けたとはいえ食後は食後。愁は激しくし過ぎないように、ゆっくりとじっくりと凛斗を追い立てて行く。その動きがもどかしいのか時々凛斗の方から腰を寄せられる。
「凛斗、可愛いよ」
可愛いって言うな、と外では散々叱るのに、ベッドだと嬉しそうに愁を締め付ける。オンオフのある恋人は正直で本当に可愛がり甲斐がある。
「……しゅう」
達した後、甘えた声でしがみついてくる凛斗を抱き締める。身体の至る所を擦り付けるように肌を寄せ、キスをねだってくる。これはもう一回の合図。
「凛斗明日大学休みだよね? 今夜泊っていかない?」
「……とまる」
思考回路が鈍い時にわざと話を持ちかける。トロンとした顔にキスを再開し、もっと極上の心地よさを与える。快楽に酔わせながら、その甘い時間に自分も酔う。
兄二人は独立して家を出ているため、両親と愁の三人で生活しているが、両親は多忙でたまにしか帰ってこない。実質一人暮らしに近い状態だ。だから凛斗も気兼ねなしに愁の部屋で寛いでいる。しかしその夜はたまたま母親が遅い時間に帰宅した。凛斗は愁の母親とは何度も顔を合わせていて、挨拶を交わすだけでなく世間話したりしてすっかり顔なじみだ。親がいる時に何度も泊まった事はあるが、そういう時凛斗は必ず愁から離れて寝る。同じ部屋にいるのに布団が別々は寂しいと愁は同じベッドに入るよう声をかけても絶対来てくれない。どうやら以前、風呂でシている途中愁の兄に入ってこられたのがトラウマになっているらしい。
「先に寝るぞ」と凛斗はベッドの横に客用の布団を並べて、あっさりと中に潜り込んだ。せっかく抱き締めて寝れると思っていたのにと、愁は未練たらしく不満そうな視線を凛斗に向ける。しかし残念ながら、すでに瞳を閉じて眠気を待っている凛斗には届いていない。それならばと愁はベッドを出て、凛斗の布団に入り込んだ。
「凛斗……」
シミひとつない白い頬にキスをしてそろりと顔の輪郭を指でなぞった。おやすみのキスではないのは、愁の囁く声と肌の上を滑る指先で一目瞭然だ。すぐに目を開けた凛斗は焦ったように小声で愁を押しのけた。
「さっき二回もしただろっ。それに……おまえの親いるし」
「大丈夫、もうこの時間寝室にいるだろうし、こっちには絶対来ないよう言ってあるから。激しくしないから……ね、口でしていい?」
「そんなん、俺だけ良くなっても……」
「感じてる凛斗の顔が見たい。ここに座って?」
愁は強引に凛斗をベッドの端に座らせた。強引と言っても、乗り気がしないだけで本気で嫌がっていない凛斗は誘導した手に素直に従った。
部屋の照明を常夜灯から明るく変えると、凛斗は眩しそうに目を細めた。愁がベッドに腰掛けた凛斗の膝の前にしゃがみ込むと、上から抗議の声が落ちてきた。
「明るすぎるだろ」
「いつもするとき点けてるでしょ。触っていい?」
「……。」
恥ずかしそうに顔を背けてコクリと頷いた。愁がパジャマがわりに貸したスエットの上からゆっくり撫でると、凛斗の欲望はあっという間に膨らんだ。期待していたのか条件反射なのかはわからないが、反応のよい凛斗に愁はよしよしと口元を緩めながらスエットと下着を脱がせた。
腿まで裾が長い上の長袖のシャツを臍の辺りまでたくし上げると、凛斗の下半身は全て露わになった。
「気持ちよくなっても目を閉じちゃダメだよ。目を逸らさずに最後まで僕を見てて」
えっ、と瞬いた瞳が、脚の付け根に顔を寄せる愁の瞳と絡まった。見上げる感じで凛斗を見つめながら、始まりの合図とばかりに腿の内側を強く吸った。白い肌には簡単に所有印が残る。強く吸いすぎたのか凛斗は僅かに顔を顰めた。そして「そんなとこ付けんな」と言いたげに眉が寄る。ちゅっちゅっと軽くリップ音を立てながら唇を移動させ、ピクピクと揺れている凛斗の中心部に辿り着く。一番先っぽを少しだけ口に含むと「ン」と小さく声が漏れた。
ゆっくりと焦らすようにして口の奥まで入れると、凛斗自身は更に膨張した。
「……っく」
「凛斗、目は閉じちゃダメって言ったよね?」
「…っ、だって……あ」
亀頭だけ咥え、竿を手で包んで擦ると、また違った刺激に凛斗は瞳を潤ませて必死に目を閉じないよう耐えた。
「さっきから腰が動いてるけど、もしかして後ろも触って欲しい?」
「……ん、触って…」
頬を染めて素直に強請る凛斗は、可愛らしさに厭らしさが混じってとても魅力的だ。愁は自分も興奮して体温が上がってきたのを感じ、服を一枚脱ごうか迷った。しかし一枚脱ぐと、そのまま全部脱ぎ捨て凛斗を組み敷いてしまいそうでそのまま踏み止まった。今夜は口と手ですると決めている。
「凛斗、身体を軽く後ろに倒してベッドに両手をついて」
「……こう?」
凛斗が指示通りの姿勢をとると、愁は凛斗の両足の膝を曲げてベッドの上に乗せた。
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