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第2章:刈り上げの快楽
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薫の指が、彼の後頭部をそっとなぞる。
「……すごい。こんなにツルツルなんだね」
自分でも驚くほどの熱が、指先から体に伝わってくる。青年の肌はしっとりと滑らかで、その下にある地肌のラインが、刈りたての証だった。
「触りたいって言われたの、初めてです」
青年は少し照れながらも、嬉しそうに笑う。
「変かな、私……?」
「変じゃないですよ。むしろ……嬉しいです」
2人の間に、刈り上げという小さな共通点が生まれた瞬間だった。
薫の目が、ふと棚の上のバリカンに止まる。
「それ……自分で使ってるの?」
「うん。定期的にメンテナンスしてます。……あの、もしよかったら、薫さんのも……整えてみましょうか?」
驚きが混じる静寂。
「えっ、私の……?」
「いや、もちろん、無理にとは言わないですけど。でも、刈り上げ、ちょっと伸びてますよね?」
薫は思わず、首筋に手を当てた。確かに、うっすらと伸びた毛が指にかかる。
「……お願い、してもいい?」
それは半分、衝動だった。刈り上げを他人に任せるという行為は、彼氏にも許していなかった。でも今、この部屋で、この人と一緒にいると、それが自然に思えた。
「じゃあ、汚れないようにシャツ、これ使ってください」
青年が差し出したのは、自分の白いシャツ。ボタンを外しながら薫は心のどこかでドキドキしていた。まるで儀式のようにシャツを着替え、風呂場に案内され、椅子に座らされる。
そして——
「手、少し固定してもいいですか?バリカン、刃物だから、動くと危ないんです」
「……うん、わかった」
まるで美容室のセットチェアに座るかのように、薫の両手はタオルと軽い紐で優しく固定される。異様だと思うべきなのに、それすら少し安心するのが不思議だった。
バリカンのスイッチが入った。
「ぶぃぃぃん……」
機械音が鳴った瞬間、薫の全身がビクリと反応する。
「最初は6ミリくらいからいきますね」
青年がゆっくりと、薫の後頭部にバリカンを当てた。
「うっ……」
電気が走るような感触。地肌に当たる刃の冷たさと、髪がサラリと落ちていく音。そのすべてが、薫にとって官能的ですらあった。
「……すごい……」
目の前に垂れる自分の黒髪が、ぽたぽたと床へ落ちていく。その一房一房が、何かを削ぎ落とすように感じられる。
「すごく綺麗ですよ、薫さんの後頭部……」
青年の声は、優しさと興奮が混じっていた。
30分ほどが過ぎ、後頭部と側頭部がすっきりと6ミリで整えられる。
「どうですか?」
「……もっと、短くしてもいい?」
その言葉に、青年の目が光った。
「じゃあ、次は3ミリでいきます」
再びバリカンが鳴る。そしてさらに短くなった刈り上げ部分から、肌の白さが浮かび上がる。
(……これが、私の……頭?)
風呂場の鏡に映った自分の横顔が、少しずつ別人のように変化していく。その変化が、たまらなく心地よかった。
⸻
「……でさ、私、実は彼氏がいて……」
バリカンの合間に、薫は何気なく口にした。高校時代の同級生で、5年付き合っていること。よくこの店に来ること。
だが——
(あれ……今、なんか……空気が変わった?)
青年は微笑を保ったままだったが、その目の奥に何かが一瞬、揺らいだように見えた。
「ふふ……そうなんですね」
その声は、妙に冷静だった。
薫が気づかぬまま、青年の中にある感情がゆっくりと、黒く沈んでいった。
「じゃあ、次は……最後の仕上げですね」
「え、もう?」
「はい。ちょっと特別な仕上げで……驚かないでくださいね」
⸻
青年が部屋に戻って取り出してきたのは、スキンシェーバー。海外製の本格的な剃髪用。
「……これ、何?」
「仕上げ用のカミソリ。地肌がすごく綺麗になりますよ」
薫はまだ何も知らず、無邪気に頷いた。
そして——
青年は、薫の前髪の真ん中にカミソリを当てた。
「えっ、なに、そこ……あっ!」
ザッ。
音を立てて、前髪の中心が剃り落とされた。
「えっ……!? ま、待って、今の……!」
「動かないでください。危ないので」
青年の声は静かだが、どこか鋭さを帯びていた。
「ちょ、ちょっと……!」
だが、固定された手は自由にならず、カミソリは無慈悲に、前髪を、側頭部を、後頭部を、なぞるように進んでいった。
髪が落ちていく。まるで夢の中の出来事のように、薫はただ呆然と、剃られていく自分の姿を見ていた。
やがて——
「完成、です」
鏡に映った自分は、完全なスキンヘッドだった。
⸻
「……髪、全部……?」
「うん。綺麗ですよ」
青年は微笑みながら、優しく薫の頭を撫で、ぬるま湯をかけて洗い流した。
その瞬間、薫の中に湧き上がったのは、怒りでも恐怖でもなく——
——奇妙な、安堵だった。
「……すごい。こんなにツルツルなんだね」
自分でも驚くほどの熱が、指先から体に伝わってくる。青年の肌はしっとりと滑らかで、その下にある地肌のラインが、刈りたての証だった。
「触りたいって言われたの、初めてです」
青年は少し照れながらも、嬉しそうに笑う。
「変かな、私……?」
「変じゃないですよ。むしろ……嬉しいです」
2人の間に、刈り上げという小さな共通点が生まれた瞬間だった。
薫の目が、ふと棚の上のバリカンに止まる。
「それ……自分で使ってるの?」
「うん。定期的にメンテナンスしてます。……あの、もしよかったら、薫さんのも……整えてみましょうか?」
驚きが混じる静寂。
「えっ、私の……?」
「いや、もちろん、無理にとは言わないですけど。でも、刈り上げ、ちょっと伸びてますよね?」
薫は思わず、首筋に手を当てた。確かに、うっすらと伸びた毛が指にかかる。
「……お願い、してもいい?」
それは半分、衝動だった。刈り上げを他人に任せるという行為は、彼氏にも許していなかった。でも今、この部屋で、この人と一緒にいると、それが自然に思えた。
「じゃあ、汚れないようにシャツ、これ使ってください」
青年が差し出したのは、自分の白いシャツ。ボタンを外しながら薫は心のどこかでドキドキしていた。まるで儀式のようにシャツを着替え、風呂場に案内され、椅子に座らされる。
そして——
「手、少し固定してもいいですか?バリカン、刃物だから、動くと危ないんです」
「……うん、わかった」
まるで美容室のセットチェアに座るかのように、薫の両手はタオルと軽い紐で優しく固定される。異様だと思うべきなのに、それすら少し安心するのが不思議だった。
バリカンのスイッチが入った。
「ぶぃぃぃん……」
機械音が鳴った瞬間、薫の全身がビクリと反応する。
「最初は6ミリくらいからいきますね」
青年がゆっくりと、薫の後頭部にバリカンを当てた。
「うっ……」
電気が走るような感触。地肌に当たる刃の冷たさと、髪がサラリと落ちていく音。そのすべてが、薫にとって官能的ですらあった。
「……すごい……」
目の前に垂れる自分の黒髪が、ぽたぽたと床へ落ちていく。その一房一房が、何かを削ぎ落とすように感じられる。
「すごく綺麗ですよ、薫さんの後頭部……」
青年の声は、優しさと興奮が混じっていた。
30分ほどが過ぎ、後頭部と側頭部がすっきりと6ミリで整えられる。
「どうですか?」
「……もっと、短くしてもいい?」
その言葉に、青年の目が光った。
「じゃあ、次は3ミリでいきます」
再びバリカンが鳴る。そしてさらに短くなった刈り上げ部分から、肌の白さが浮かび上がる。
(……これが、私の……頭?)
風呂場の鏡に映った自分の横顔が、少しずつ別人のように変化していく。その変化が、たまらなく心地よかった。
⸻
「……でさ、私、実は彼氏がいて……」
バリカンの合間に、薫は何気なく口にした。高校時代の同級生で、5年付き合っていること。よくこの店に来ること。
だが——
(あれ……今、なんか……空気が変わった?)
青年は微笑を保ったままだったが、その目の奥に何かが一瞬、揺らいだように見えた。
「ふふ……そうなんですね」
その声は、妙に冷静だった。
薫が気づかぬまま、青年の中にある感情がゆっくりと、黒く沈んでいった。
「じゃあ、次は……最後の仕上げですね」
「え、もう?」
「はい。ちょっと特別な仕上げで……驚かないでくださいね」
⸻
青年が部屋に戻って取り出してきたのは、スキンシェーバー。海外製の本格的な剃髪用。
「……これ、何?」
「仕上げ用のカミソリ。地肌がすごく綺麗になりますよ」
薫はまだ何も知らず、無邪気に頷いた。
そして——
青年は、薫の前髪の真ん中にカミソリを当てた。
「えっ、なに、そこ……あっ!」
ザッ。
音を立てて、前髪の中心が剃り落とされた。
「えっ……!? ま、待って、今の……!」
「動かないでください。危ないので」
青年の声は静かだが、どこか鋭さを帯びていた。
「ちょ、ちょっと……!」
だが、固定された手は自由にならず、カミソリは無慈悲に、前髪を、側頭部を、後頭部を、なぞるように進んでいった。
髪が落ちていく。まるで夢の中の出来事のように、薫はただ呆然と、剃られていく自分の姿を見ていた。
やがて——
「完成、です」
鏡に映った自分は、完全なスキンヘッドだった。
⸻
「……髪、全部……?」
「うん。綺麗ですよ」
青年は微笑みながら、優しく薫の頭を撫で、ぬるま湯をかけて洗い流した。
その瞬間、薫の中に湧き上がったのは、怒りでも恐怖でもなく——
——奇妙な、安堵だった。
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