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第1章:招かれざる招待状
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六月の東京は、梅雨に入り始めたばかりで、空は鉛色の雲に覆われていた。時折、ざらりとした雨音がアスファルトを叩く音が、窓越しに届く。
川島結衣は、大学三年生。二十歳。
東京郊外の築三十年の団地に母と二人で暮らしている。父は物心つく頃にはすでにおらず、母は都内のパートを掛け持ちしながら家計を支えてきた。結衣も大学進学後は週に三日、近所のコンビニで夜勤のバイトをしている。
勉強、バイト、SNS。特別な出来事など起きない、平坦な日常。
そして結衣自身も、目立つことが苦手なタイプだった。
そんな結衣の印象を決定づけていたのが、肩甲骨まで伸びた真っ黒なストレートの髪だった。子どもの頃から髪が細く柔らかく、手入れがしやすかったこともあり、「女の子らしいね」とよく言われた。
実際、結衣の髪は、唯一といっていい自分の「自信」だった。
しかし——
その平穏な日常を壊すものが、何の前触れもなくやってきた。
「……なに、これ」
雨音の中、布団の上でゴロゴロしていた結衣のスマホに、一通の通知が届いた。差出人は、《TheGame》という名前の、見知らぬアカウント。SNS経由でのダイレクトメッセージだった。
普通なら、知らないアカウントは開かない。詐欺やウイルスの可能性もある。
だが、結衣はその文面に、ほんの少しだけ心を引かれてしまった。
【Invitation】あなたは選ばれました。
それだけの短いメッセージ。
なのに、その“選ばれた”という言葉に、不思議と胸がざわめいた。
(……私が? なにに?)
ただのスパム。そう思いつつも、どこかに「選ばれる」ことへの憧れや承認欲求があったのかもしれない。
タップすると、続きの文が現れた。
『TheGame』へようこそ。あなたの選択が、あなたの未来を変えます。
ゲームの参加を辞退することも可能です。ただし、他の参加者に影響が及びます。
▼参加はこちら
[https://thegame.io/join]
「……なにこれ、意味わかんない」
直感的に、関わってはいけないと思った。明らかに怪しい。リンクには触れず、スマホを閉じた。
だが——数秒後。スマホが急に再起動を始めた。
「……え? ちょっと……!」
黒い画面のまま、反応がない。そしてようやく再起動が終わると、見慣れないアイコンがホーム画面に出現していた。
黒い背景に、金の文字で書かれたタイトル。
『TheGame』
「……うそでしょ。入れてないのに」
インストール履歴には出てこない。削除しようとしても、アプリは無反応だった。長押ししても「削除」ボタンが表示されない。
(なにこれ……ウイルス? ハッキング?)
背筋に嫌な汗が滲んだ。スマホを再起動しても、アイコンはそのままだった。
「こわ……」
その夜、結衣は布団の中で寝返りを何度もうち、眠れなかった。
⸻
翌朝。雨は止み、鈍く濡れたアスファルトが朝日を反射していた。
結衣は寝起きのぼんやりした頭でスマホを確認し、またぞくりとした。
**『TheGame』**のアイコンが、勝手に起動していた。
画面いっぱいに、暗い背景と金色のエフェクトが広がる。続いて、音声が流れた。
「ようこそ、川島結衣さん。TheGameへ正式に参加が確認されました」
「……は?」
どこか機械的で感情のない女性の声。その言葉が、まるで自分のすべてを把握しているかのようで、ゾッとした。
続けて、画面にプロフィール一覧が表示される。
そこには、自分の大学の学生証の写真と名前、生年月日が正確に表示されていた。さらに、他の5名の顔写真とニックネームも表示されている。
• PLAYER_1(20代男性・学生)
• PLAYER_2(30代女性・OL)
• PLAYER_3(高校生・性別不明)
• PLAYER_4(20代女性・事務職)
• PLAYER_5(不明)
• PLAYER_6:川島結衣(大学生・東京都)
「……うそ、私……本当に参加者に?」
この時点で、結衣はようやく理解した。
——これは、ただの遊びじゃない。
誰かが、本当に自分の情報を握っている。勝手にプロフィールを収集し、ゲームに“自動参加”させられたのだ。
画面の下には、こう書かれていた。
【あなたは辞退できません】
【辞退=他の誰かが代わりに罰を受けることになります】
指先が震える。心臓の鼓動が速くなっていた。
(やめたい。怖い。逃げたい。でも、どうやって……?)
そして夜、TheGame内に「専用チャットルーム」が開設された。
匿名での会話。表示されるのは、プレイヤーの番号のみ。
【PLAYER_1】:誰か、これガチでやばいやつだって聞いたことある?
【PLAYER_3】:うちの学校でも流れてた。前に参加した人、坊主にされたって……動画も出てた
【PLAYER_4】:は? なにそれ怖……
【PLAYER_5】:泣きながら剃られてたって話。マジでスキンヘッド
【PLAYER_2】:もう無理。ほんとにやばいのこれ……誰か抜けたいって人いないの?
結衣は、スマホを手にしたまま、声も出せずに固まっていた。
「……坊主……?」
“剃られる”“スキンヘッド”“罰”
そんな単語が、まるでナイフのように心に突き刺さる。
自分の髪が、罰として剃られる光景を想像してしまった。
刈られて、剃られて、丸裸になる頭——。
(いや……そんなの、ありえない……)
けれど、否定するほどに、胸の奥が冷たくなる。
自分はもう、逃げられない場所に足を踏み入れてしまった。
川島結衣は、大学三年生。二十歳。
東京郊外の築三十年の団地に母と二人で暮らしている。父は物心つく頃にはすでにおらず、母は都内のパートを掛け持ちしながら家計を支えてきた。結衣も大学進学後は週に三日、近所のコンビニで夜勤のバイトをしている。
勉強、バイト、SNS。特別な出来事など起きない、平坦な日常。
そして結衣自身も、目立つことが苦手なタイプだった。
そんな結衣の印象を決定づけていたのが、肩甲骨まで伸びた真っ黒なストレートの髪だった。子どもの頃から髪が細く柔らかく、手入れがしやすかったこともあり、「女の子らしいね」とよく言われた。
実際、結衣の髪は、唯一といっていい自分の「自信」だった。
しかし——
その平穏な日常を壊すものが、何の前触れもなくやってきた。
「……なに、これ」
雨音の中、布団の上でゴロゴロしていた結衣のスマホに、一通の通知が届いた。差出人は、《TheGame》という名前の、見知らぬアカウント。SNS経由でのダイレクトメッセージだった。
普通なら、知らないアカウントは開かない。詐欺やウイルスの可能性もある。
だが、結衣はその文面に、ほんの少しだけ心を引かれてしまった。
【Invitation】あなたは選ばれました。
それだけの短いメッセージ。
なのに、その“選ばれた”という言葉に、不思議と胸がざわめいた。
(……私が? なにに?)
ただのスパム。そう思いつつも、どこかに「選ばれる」ことへの憧れや承認欲求があったのかもしれない。
タップすると、続きの文が現れた。
『TheGame』へようこそ。あなたの選択が、あなたの未来を変えます。
ゲームの参加を辞退することも可能です。ただし、他の参加者に影響が及びます。
▼参加はこちら
[https://thegame.io/join]
「……なにこれ、意味わかんない」
直感的に、関わってはいけないと思った。明らかに怪しい。リンクには触れず、スマホを閉じた。
だが——数秒後。スマホが急に再起動を始めた。
「……え? ちょっと……!」
黒い画面のまま、反応がない。そしてようやく再起動が終わると、見慣れないアイコンがホーム画面に出現していた。
黒い背景に、金の文字で書かれたタイトル。
『TheGame』
「……うそでしょ。入れてないのに」
インストール履歴には出てこない。削除しようとしても、アプリは無反応だった。長押ししても「削除」ボタンが表示されない。
(なにこれ……ウイルス? ハッキング?)
背筋に嫌な汗が滲んだ。スマホを再起動しても、アイコンはそのままだった。
「こわ……」
その夜、結衣は布団の中で寝返りを何度もうち、眠れなかった。
⸻
翌朝。雨は止み、鈍く濡れたアスファルトが朝日を反射していた。
結衣は寝起きのぼんやりした頭でスマホを確認し、またぞくりとした。
**『TheGame』**のアイコンが、勝手に起動していた。
画面いっぱいに、暗い背景と金色のエフェクトが広がる。続いて、音声が流れた。
「ようこそ、川島結衣さん。TheGameへ正式に参加が確認されました」
「……は?」
どこか機械的で感情のない女性の声。その言葉が、まるで自分のすべてを把握しているかのようで、ゾッとした。
続けて、画面にプロフィール一覧が表示される。
そこには、自分の大学の学生証の写真と名前、生年月日が正確に表示されていた。さらに、他の5名の顔写真とニックネームも表示されている。
• PLAYER_1(20代男性・学生)
• PLAYER_2(30代女性・OL)
• PLAYER_3(高校生・性別不明)
• PLAYER_4(20代女性・事務職)
• PLAYER_5(不明)
• PLAYER_6:川島結衣(大学生・東京都)
「……うそ、私……本当に参加者に?」
この時点で、結衣はようやく理解した。
——これは、ただの遊びじゃない。
誰かが、本当に自分の情報を握っている。勝手にプロフィールを収集し、ゲームに“自動参加”させられたのだ。
画面の下には、こう書かれていた。
【あなたは辞退できません】
【辞退=他の誰かが代わりに罰を受けることになります】
指先が震える。心臓の鼓動が速くなっていた。
(やめたい。怖い。逃げたい。でも、どうやって……?)
そして夜、TheGame内に「専用チャットルーム」が開設された。
匿名での会話。表示されるのは、プレイヤーの番号のみ。
【PLAYER_1】:誰か、これガチでやばいやつだって聞いたことある?
【PLAYER_3】:うちの学校でも流れてた。前に参加した人、坊主にされたって……動画も出てた
【PLAYER_4】:は? なにそれ怖……
【PLAYER_5】:泣きながら剃られてたって話。マジでスキンヘッド
【PLAYER_2】:もう無理。ほんとにやばいのこれ……誰か抜けたいって人いないの?
結衣は、スマホを手にしたまま、声も出せずに固まっていた。
「……坊主……?」
“剃られる”“スキンヘッド”“罰”
そんな単語が、まるでナイフのように心に突き刺さる。
自分の髪が、罰として剃られる光景を想像してしまった。
刈られて、剃られて、丸裸になる頭——。
(いや……そんなの、ありえない……)
けれど、否定するほどに、胸の奥が冷たくなる。
自分はもう、逃げられない場所に足を踏み入れてしまった。
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