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第2章:閉じられた選択肢
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朝の光が薄くカーテンを透かしていた。
目覚めた川島結衣は、布団の中でしばらく動けなかった。頭は重く、身体もだるい。
(昨日の……あれ、夢じゃなかったんだ)
スマホのホーム画面を見て、目が覚める。
黒と金のアイコン、《TheGame》は、昨日と同じ場所に鎮座していた。削除できなかったあのアプリは、相変わらず不気味な存在感を放っている。
恐る恐るタップすると、起動と同時に機械音声が流れた。
「おはようございます、PLAYER_6 川島結衣さん。
本日はあなたの初回課題日です」
目の前の画面に、カウントダウンが現れた。
【課題実行まで:残り3時間24分】
【Day1:初期課題】
他プレイヤーによる投票に基づき、あなたの本日の夕食を決定します。
指示されたメニューを自宅で調理し、写真を提出してください。
不実行、遅延、虚偽の提出は「脱落」扱いとなります。
結衣は固まった。
「……は? 夕食? なにそれ……意味わかんない」
しかし、画面下には赤文字でこう続いていた。
※脱落者には、軽度の罰が執行されます。
※初期課題段階の脱落者は、自動的に断髪対象となります。
(……断髪)
その一語に、昨日のチャットが蘇る。
【PLAYER_3】:坊主にされた
【PLAYER_5】:スキンヘッド。泣きながら剃られてたって話
背筋を冷たいものが走った。
——やらなければ、「髪を剃られる」。
それがただのネットゲームで済まないことは、昨日のプロフィール盗用や、勝手に撮られた顔写真からも明らかだった。
画面に、他の5人からの投票結果が表示された。
あなたへの夕食指定:『にんにく納豆たっぷりパスタ』
「……なにそのセンス……」
口に出してみたものの、笑えなかった。
奇妙なメニュー。羞恥心を煽るような食材の組み合わせ。
これは、ゲームの性質をプレイヤーに理解させるための“ジャブ”なのだろう。
——お前の生活は、もう支配されている。
そんなメッセージを、課題の裏に感じた。
ため息をつきながら、結衣は冷蔵庫を開けた。納豆はあった。にんにくもギリギリ残っている。
ただし、料理する気分にはなれなかった。
(ほんとに、やるの? こんなの……)
ふと、選択肢が浮かんだ。
——逃げる。
スマホを壊して、このアプリごと削除してしまう。
でも、その時、ふと昨日のあの文章が脳裏に焼き戻された。
「辞退はできません。他の誰かが代わりにペナルティを負います」
(……誰かが罰を受ける……?)
もし自分がここで逃げたら、何の罪もない誰か——たとえば昨日のPLAYER_3やPLAYER_5が、丸刈りにされるかもしれない。
(そんなの、耐えられない……)
自分の髪はまだある。でも、他人の髪を奪うような形で残すのは、絶対に嫌だった。
決意を固め、エプロンを着けた。
にんにくと納豆を刻み、茹でたパスタに絡めて、匂いが部屋中に広がる。うっすら涙が出るほどのにんにく臭。
(……なにやってんだろ、私)
それでもスマホを取り出し、湯気の立ったパスタを正面から撮影。
写真をアップロードすると、数秒後、画面が変わった。
【Day1:CLEAR】
あなたの行動は記録されました。
その言葉を見た瞬間、結衣の肩から力が抜けた。
「……はぁ……やったよ、ほんとに……」
ゲームを始めて初めての“達成”。でも、それは決して喜びではなく、単なる恐怖から逃れただけの行為だった。
⸻
チャットルーム — 午後8時
課題終了後、TheGameの専用チャットにプレイヤーたちがぽつぽつと現れた。
【PLAYER_1】:にんにく納豆とか、えげつないセンスだな……
【PLAYER_4】:うちも納豆だったけど、味噌と混ぜて誤魔化した(笑)
【PLAYER_3】:提出、済ませた。けど、手が震えてた。やばかった
【PLAYER_5】:これ、マジで脱落したら坊主ってこと……?
【PLAYER_6(結衣)】:ほんとに、罰って実際にやられるの?
少しの間、沈黙が続いた後——
【PLAYER_2】:……知り合いが前に参加してた。
やられたよ。完全に、スキンヘッド。
バリカンどころか、シェーバーで全部……丸坊主ってレベルじゃない
【PLAYER_2】:動画、見せられた。消せなかった。今も頭から離れない
結衣の手が止まった。
頭に直接、バリカンを当てられる感覚。
髪が床に落ちていく音。
剃り上げられるうなじ、むき出しになる頭皮。
想像しただけで、喉がカラカラに渇いた。
そして、それが「罰として」自分にも降りかかる未来を、否応なく想像してしまう。
【PLAYER_2】:辞めたくても、辞められないんだよ。
このゲーム、最初にYESを出したらもう……出口がない
【PLAYER_3】:わたし、次の課題……もしできなかったら、どうしよう
誰もが怯え、疑心暗鬼に陥っているのが、画面越しにも伝わってくる。
だが、このゲームにおいて“共感”は救いではなく、逆に“甘さ”になるのかもしれない。
(私は、ちゃんとやらなきゃ……)
まだ、髪はある。
でも、ほんの少しだけ、その「重み」が増していた。
——剃られる前に、自分で守るしかない。
目覚めた川島結衣は、布団の中でしばらく動けなかった。頭は重く、身体もだるい。
(昨日の……あれ、夢じゃなかったんだ)
スマホのホーム画面を見て、目が覚める。
黒と金のアイコン、《TheGame》は、昨日と同じ場所に鎮座していた。削除できなかったあのアプリは、相変わらず不気味な存在感を放っている。
恐る恐るタップすると、起動と同時に機械音声が流れた。
「おはようございます、PLAYER_6 川島結衣さん。
本日はあなたの初回課題日です」
目の前の画面に、カウントダウンが現れた。
【課題実行まで:残り3時間24分】
【Day1:初期課題】
他プレイヤーによる投票に基づき、あなたの本日の夕食を決定します。
指示されたメニューを自宅で調理し、写真を提出してください。
不実行、遅延、虚偽の提出は「脱落」扱いとなります。
結衣は固まった。
「……は? 夕食? なにそれ……意味わかんない」
しかし、画面下には赤文字でこう続いていた。
※脱落者には、軽度の罰が執行されます。
※初期課題段階の脱落者は、自動的に断髪対象となります。
(……断髪)
その一語に、昨日のチャットが蘇る。
【PLAYER_3】:坊主にされた
【PLAYER_5】:スキンヘッド。泣きながら剃られてたって話
背筋を冷たいものが走った。
——やらなければ、「髪を剃られる」。
それがただのネットゲームで済まないことは、昨日のプロフィール盗用や、勝手に撮られた顔写真からも明らかだった。
画面に、他の5人からの投票結果が表示された。
あなたへの夕食指定:『にんにく納豆たっぷりパスタ』
「……なにそのセンス……」
口に出してみたものの、笑えなかった。
奇妙なメニュー。羞恥心を煽るような食材の組み合わせ。
これは、ゲームの性質をプレイヤーに理解させるための“ジャブ”なのだろう。
——お前の生活は、もう支配されている。
そんなメッセージを、課題の裏に感じた。
ため息をつきながら、結衣は冷蔵庫を開けた。納豆はあった。にんにくもギリギリ残っている。
ただし、料理する気分にはなれなかった。
(ほんとに、やるの? こんなの……)
ふと、選択肢が浮かんだ。
——逃げる。
スマホを壊して、このアプリごと削除してしまう。
でも、その時、ふと昨日のあの文章が脳裏に焼き戻された。
「辞退はできません。他の誰かが代わりにペナルティを負います」
(……誰かが罰を受ける……?)
もし自分がここで逃げたら、何の罪もない誰か——たとえば昨日のPLAYER_3やPLAYER_5が、丸刈りにされるかもしれない。
(そんなの、耐えられない……)
自分の髪はまだある。でも、他人の髪を奪うような形で残すのは、絶対に嫌だった。
決意を固め、エプロンを着けた。
にんにくと納豆を刻み、茹でたパスタに絡めて、匂いが部屋中に広がる。うっすら涙が出るほどのにんにく臭。
(……なにやってんだろ、私)
それでもスマホを取り出し、湯気の立ったパスタを正面から撮影。
写真をアップロードすると、数秒後、画面が変わった。
【Day1:CLEAR】
あなたの行動は記録されました。
その言葉を見た瞬間、結衣の肩から力が抜けた。
「……はぁ……やったよ、ほんとに……」
ゲームを始めて初めての“達成”。でも、それは決して喜びではなく、単なる恐怖から逃れただけの行為だった。
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チャットルーム — 午後8時
課題終了後、TheGameの専用チャットにプレイヤーたちがぽつぽつと現れた。
【PLAYER_1】:にんにく納豆とか、えげつないセンスだな……
【PLAYER_4】:うちも納豆だったけど、味噌と混ぜて誤魔化した(笑)
【PLAYER_3】:提出、済ませた。けど、手が震えてた。やばかった
【PLAYER_5】:これ、マジで脱落したら坊主ってこと……?
【PLAYER_6(結衣)】:ほんとに、罰って実際にやられるの?
少しの間、沈黙が続いた後——
【PLAYER_2】:……知り合いが前に参加してた。
やられたよ。完全に、スキンヘッド。
バリカンどころか、シェーバーで全部……丸坊主ってレベルじゃない
【PLAYER_2】:動画、見せられた。消せなかった。今も頭から離れない
結衣の手が止まった。
頭に直接、バリカンを当てられる感覚。
髪が床に落ちていく音。
剃り上げられるうなじ、むき出しになる頭皮。
想像しただけで、喉がカラカラに渇いた。
そして、それが「罰として」自分にも降りかかる未来を、否応なく想像してしまう。
【PLAYER_2】:辞めたくても、辞められないんだよ。
このゲーム、最初にYESを出したらもう……出口がない
【PLAYER_3】:わたし、次の課題……もしできなかったら、どうしよう
誰もが怯え、疑心暗鬼に陥っているのが、画面越しにも伝わってくる。
だが、このゲームにおいて“共感”は救いではなく、逆に“甘さ”になるのかもしれない。
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まだ、髪はある。
でも、ほんの少しだけ、その「重み」が増していた。
——剃られる前に、自分で守るしかない。
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