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第6章:最後の選択
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◆ 午前6時、最後の通知
朝。
まだ薄暗い時間帯、スマホのバイブが結衣を揺り起こした。
ぼんやりとした意識の中、寝返りを打って画面をのぞくと、そこには《TheGame》からの通知が点滅していた。
【最終課題を受信しました】
タイトル:最後の選択 ―裏切るか、守るか―
内容:プレイヤー6名のうち、最も多く“指名”された者は「記録公開処分」となります。
公開範囲:顔写真・本名・行動履歴・課題実行証拠を含む完全ログ
※投票は匿名。1名を指名すること。
※指名しなかった場合、自動的に【自己指名】となります。
画面には、6人のプレイヤーの一覧が並んでいた。
どの名前も、過去数日間で何度も目にしてきた匿名の仲間たち。
PLAYER_1からPLAYER_6――もちろん、自分自身である川島結衣もその中に含まれている。
プレイヤーたちの顔は、すでに《TheGame》上でプロフィール画像として共有されていた。誰もが不安げで、誰もが孤独そうな顔をしている。
バリカンで剃られた時の結衣のスキンヘッド姿の証拠写真も、そこにあった。
(……もし、私が指名されたら……この姿も、名前も、ぜんぶ、世間に晒される……)
SNS、大学の掲示板、就職先の企業——
あらゆるところで自分の存在が「TheGameの参加者」として知られる。
「丸刈りにされた女」
「罰ゲームで秘密を告白した大学生」
その烙印は、一生消えないかもしれない。
喉がからからに乾く。
けれど同時に、画面下に表示された、選択肢の重さが胸を押し潰した。
【指名すれば、自分は守られる】
【指名しなければ、自分が公開対象となる】
結衣の視線は、ふとチャットルームのログへと移った。
そこには、PLAYER_3からのメッセージが記録されていた。
【PLAYER_3】:川島さん……この前、私の代わりに罰を受けてくれたんですよね。
あの時のこと、一生忘れません。私、あなたには絶対に投票しません。
そして、PLAYER_5。
【PLAYER_5】:結衣さん。あんたが全部剃られた時のログ、俺……震えながら見てた。
あんなこと、自分にはできなかった。だから俺、あなたには投票できない。
少しずつ、結衣の胸の中に、温かいものが流れていく。
自分の選択は、たしかに“誰か”に届いていた。
けれど、すぐにPLAYER_2の投稿が続いた。
【PLAYER_2】:でも、誰かが公開されるんだよね?
自分じゃなくて誰かを選ぶのが、正直一番ラク……
誰もがそう考えると思う
結衣は、その投稿を読んで震えた。
たしかにそれが“正しい防衛反応”だ。
誰かを犠牲にすれば、自分は守られる。
その誰かが「自分以外」であるなら、それで済む。
(……でも、それを私は、受け入れられるの?)
自分が代わりに断髪されたあの日。
恐怖、羞恥、孤独、痛み——すべてを経験したからこそ、彼女は知っていた。
指名された側の絶望が、どれほどのものかを。
そして、自分が誰かを指差した時、その人がどう感じるかを。
だからこそ、選べなかった。
彼女の手は、静かに画面の最下部にある選択肢へと移った。
【誰も指名しない】
そのボタンを押した瞬間、スマホが震えた。
【選択完了】
自動的に【自己指名】として登録されました。
◆ 午前8時、投票発表
2時間後。TheGameのサーバーに全プレイヤーの投票結果が表示された。
画面には、名前と投票数が並んでいた。
• PLAYER_1:1票
• PLAYER_2:1票
• PLAYER_3:1票
• PLAYER_4:1票
• PLAYER_5:1票
• PLAYER_6(川島結衣):1票
全員が、誰も他人を指さなかった。
全員が、自分自身に1票を入れたか、「誰も指名しない」を選んだ。
——つまり、**誰も“裏切らなかった”**のだ。
次の瞬間、画面が静かにフェードし、新たな表示に切り替わる。
【最終結果:該当者なし】
全プレイヤーが自分自身を指名、または指名放棄を選択しました。
この結果をもって、あなたたちは全員、TheGameの“クリア者”と認定されます。
結衣は息を呑んだ。
ゲームの規則では、最大票数のプレイヤーが公開処分を受けると明記されていた。
だが、「全員が1票ずつ」ならば——該当者は存在しない。
【あなたたちは、誰一人として裏切らなかった】
よって、全てのログは完全破棄されます。
おめでとうございます。
画面が白く光り、通知が最後に一言だけ添えられて終了した。
【TheGame:完結】
結衣は、手のひらに力が入らず、スマホをそっとベッドに置いた。
まるで戦いが終わった後のように、全身が脱力していた。
だが、その脱力の中には、確かな“安堵”があった。
(……誰も、犠牲にならなかった)
自分を含めて、誰も晒されることなく終わった。
あの過酷な試練の日々が、無駄ではなかった。
誰もが、人を指さす代わりに、自分に矢を向ける強さを持っていた。
そう思うと、胸がいっぱいになった。
窓の外を見ると、少しだけ朝の光が強くなっていた。
むき出しの頭に日差しが当たり、どこか“祝福”のようにも感じられる。
髪はない。けれど、そこに“新しい自分”がいた。
朝。
まだ薄暗い時間帯、スマホのバイブが結衣を揺り起こした。
ぼんやりとした意識の中、寝返りを打って画面をのぞくと、そこには《TheGame》からの通知が点滅していた。
【最終課題を受信しました】
タイトル:最後の選択 ―裏切るか、守るか―
内容:プレイヤー6名のうち、最も多く“指名”された者は「記録公開処分」となります。
公開範囲:顔写真・本名・行動履歴・課題実行証拠を含む完全ログ
※投票は匿名。1名を指名すること。
※指名しなかった場合、自動的に【自己指名】となります。
画面には、6人のプレイヤーの一覧が並んでいた。
どの名前も、過去数日間で何度も目にしてきた匿名の仲間たち。
PLAYER_1からPLAYER_6――もちろん、自分自身である川島結衣もその中に含まれている。
プレイヤーたちの顔は、すでに《TheGame》上でプロフィール画像として共有されていた。誰もが不安げで、誰もが孤独そうな顔をしている。
バリカンで剃られた時の結衣のスキンヘッド姿の証拠写真も、そこにあった。
(……もし、私が指名されたら……この姿も、名前も、ぜんぶ、世間に晒される……)
SNS、大学の掲示板、就職先の企業——
あらゆるところで自分の存在が「TheGameの参加者」として知られる。
「丸刈りにされた女」
「罰ゲームで秘密を告白した大学生」
その烙印は、一生消えないかもしれない。
喉がからからに乾く。
けれど同時に、画面下に表示された、選択肢の重さが胸を押し潰した。
【指名すれば、自分は守られる】
【指名しなければ、自分が公開対象となる】
結衣の視線は、ふとチャットルームのログへと移った。
そこには、PLAYER_3からのメッセージが記録されていた。
【PLAYER_3】:川島さん……この前、私の代わりに罰を受けてくれたんですよね。
あの時のこと、一生忘れません。私、あなたには絶対に投票しません。
そして、PLAYER_5。
【PLAYER_5】:結衣さん。あんたが全部剃られた時のログ、俺……震えながら見てた。
あんなこと、自分にはできなかった。だから俺、あなたには投票できない。
少しずつ、結衣の胸の中に、温かいものが流れていく。
自分の選択は、たしかに“誰か”に届いていた。
けれど、すぐにPLAYER_2の投稿が続いた。
【PLAYER_2】:でも、誰かが公開されるんだよね?
自分じゃなくて誰かを選ぶのが、正直一番ラク……
誰もがそう考えると思う
結衣は、その投稿を読んで震えた。
たしかにそれが“正しい防衛反応”だ。
誰かを犠牲にすれば、自分は守られる。
その誰かが「自分以外」であるなら、それで済む。
(……でも、それを私は、受け入れられるの?)
自分が代わりに断髪されたあの日。
恐怖、羞恥、孤独、痛み——すべてを経験したからこそ、彼女は知っていた。
指名された側の絶望が、どれほどのものかを。
そして、自分が誰かを指差した時、その人がどう感じるかを。
だからこそ、選べなかった。
彼女の手は、静かに画面の最下部にある選択肢へと移った。
【誰も指名しない】
そのボタンを押した瞬間、スマホが震えた。
【選択完了】
自動的に【自己指名】として登録されました。
◆ 午前8時、投票発表
2時間後。TheGameのサーバーに全プレイヤーの投票結果が表示された。
画面には、名前と投票数が並んでいた。
• PLAYER_1:1票
• PLAYER_2:1票
• PLAYER_3:1票
• PLAYER_4:1票
• PLAYER_5:1票
• PLAYER_6(川島結衣):1票
全員が、誰も他人を指さなかった。
全員が、自分自身に1票を入れたか、「誰も指名しない」を選んだ。
——つまり、**誰も“裏切らなかった”**のだ。
次の瞬間、画面が静かにフェードし、新たな表示に切り替わる。
【最終結果:該当者なし】
全プレイヤーが自分自身を指名、または指名放棄を選択しました。
この結果をもって、あなたたちは全員、TheGameの“クリア者”と認定されます。
結衣は息を呑んだ。
ゲームの規則では、最大票数のプレイヤーが公開処分を受けると明記されていた。
だが、「全員が1票ずつ」ならば——該当者は存在しない。
【あなたたちは、誰一人として裏切らなかった】
よって、全てのログは完全破棄されます。
おめでとうございます。
画面が白く光り、通知が最後に一言だけ添えられて終了した。
【TheGame:完結】
結衣は、手のひらに力が入らず、スマホをそっとベッドに置いた。
まるで戦いが終わった後のように、全身が脱力していた。
だが、その脱力の中には、確かな“安堵”があった。
(……誰も、犠牲にならなかった)
自分を含めて、誰も晒されることなく終わった。
あの過酷な試練の日々が、無駄ではなかった。
誰もが、人を指さす代わりに、自分に矢を向ける強さを持っていた。
そう思うと、胸がいっぱいになった。
窓の外を見ると、少しだけ朝の光が強くなっていた。
むき出しの頭に日差しが当たり、どこか“祝福”のようにも感じられる。
髪はない。けれど、そこに“新しい自分”がいた。
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