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第4章
第4章 刃と炎の試練
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第4章 刃と炎の試練
昼の砂漠は、熱の壁そのものだった。
隊商と別れた三人は北へ進み、岩肌の裂け目に隠れるようにして、渓谷へと足を踏み入れた。そこは「紅月の巣」と呼ばれる場所――噂どおり、空気がどこか焦げ臭く、岩壁には赤い苔のようなものがじわじわと広がっている。
リィナの胸の刻印が、渓谷に入るとたちまち熱を帯びた。
(ここに……欠片の源がある?)
ジークが短剣を抜き、ミリアは小さな聖印を握る。
「気をつけろ。ここから先は、兵でさえ近寄らない。……おっと」
岩陰から、獣のような唸り声が響いた。赤黒い皮膚に覆われ、口から炎を吐く魔物――紅月の魔族。
リィナは咄嗟に腕を掲げた。刻印が光り、熱が全身を走る。彼女の体は勝手に動き、炎の奔流を裂く風を呼び出す。
だがその力は不安定で、周囲の岩まで砕いてしまう。
「リィナ!」
「制御できてない!」
魔族の咆哮が迫る。逃げ場を塞がれ、絶望しかけたとき――。
「まだ髪が語りすぎているな」
冷たい声が背後から響いた。振り返ると、岩陰に銀の理容師〈刃〉が立っていた。まるで砂から滲み出すように現れ、手には油で光るバリカンと鋏。
「こんなときに……!」
「力を制御できぬのは、お前の形が中途半端だからだ」
理容師は魔族を一瞥し、動じもせず、リィナに近づいた。
「今のスポーツ刈りでは“まだ人の娘”だ。ここでさらに削ぎ落とせ。――坊主に近い形に」
リィナの背筋に冷たいものが走る。
「坊主……? 私が?」
「髪は迷いを引き寄せる。残る毛先は、欠片を乱す触手のようなものだ。刈り落とせば、炎は制御できる」
魔族の唸りが響く。炎が岩を舐め、赤い苔を燃やした。リィナは震えながらも頷いた。
「……わかりました。切ってください!」
刃は頷き、ケープを羽織らせる。荒野のただ中で、理容の儀式が始まった。
ブウゥゥン――。
バリカンの刃が、今度は頭頂から真っ直ぐに走る。
ジョリリリ……!
さっきまで残っていた短い毛が一気に削ぎ落とされ、ケープに細かな粉雪のように積もっていく。
「ひゃっ……冷たい!」
風が直接頭皮に触れ、リィナは思わず肩をすくめた。
刃は容赦なく、左右から後頭部へと滑らせていく。
ジョリ、ジョリ――。
耳の上は地肌が透け、襟足はすっかり刈り上げられていく。
落ちていく髪は、もう羽毛のかけらのように軽く、砂の上で舞い、炎の光を反射して赤く染まった。
「坊主頭は恥ではない。戦う者の証だ」
「……!」
理容師の声と同時に、リィナは胸の熱が沈んでいくのを感じた。
髪が削がれるたび、刻印の輝きが静まり、呼吸が深くなる。
(本当に……力が、落ち着いていく……!)
最後に刃は蒸し布を取り出し、首筋に当てる。温かさが広がり、次いで冷たいカミソリの刃がうなじを撫でた。
すっ……すっ……。
産毛までも削がれ、リィナの首筋は白く、滑らかな線を描いた。
「――終わりだ」
ケープが外されると、砂の上に散った細かな髪が炎に照らされ、赤い光の中で燃え滓のようにきらめいた。
リィナは自分の頭に触れる。指先に触れるのはほとんど地肌で、ざらざらとした毛がわずかに押し返す。
鏡はない。だが、仲間の目が答えを教えてくれる。
「……リィナ、本当に別人みたい」ミリアの瞳が震えていた。
「でも強そうだ」ジークがにやりと笑う。
次の瞬間、魔族が吠えて炎を吐いた。
リィナは一歩前に出る。坊主になった頭に風が吹き抜け、刻印が光る。だが今度は暴走せず、彼女の意思に従って渦を巻いた。
炎を切り裂く風の刃が走り、魔族の咆哮を押し返す。
「……できる!」
リィナは確信した。髪を断つごとに、自分は強くなれる。
戦いはまだ始まったばかりだった。
昼の砂漠は、熱の壁そのものだった。
隊商と別れた三人は北へ進み、岩肌の裂け目に隠れるようにして、渓谷へと足を踏み入れた。そこは「紅月の巣」と呼ばれる場所――噂どおり、空気がどこか焦げ臭く、岩壁には赤い苔のようなものがじわじわと広がっている。
リィナの胸の刻印が、渓谷に入るとたちまち熱を帯びた。
(ここに……欠片の源がある?)
ジークが短剣を抜き、ミリアは小さな聖印を握る。
「気をつけろ。ここから先は、兵でさえ近寄らない。……おっと」
岩陰から、獣のような唸り声が響いた。赤黒い皮膚に覆われ、口から炎を吐く魔物――紅月の魔族。
リィナは咄嗟に腕を掲げた。刻印が光り、熱が全身を走る。彼女の体は勝手に動き、炎の奔流を裂く風を呼び出す。
だがその力は不安定で、周囲の岩まで砕いてしまう。
「リィナ!」
「制御できてない!」
魔族の咆哮が迫る。逃げ場を塞がれ、絶望しかけたとき――。
「まだ髪が語りすぎているな」
冷たい声が背後から響いた。振り返ると、岩陰に銀の理容師〈刃〉が立っていた。まるで砂から滲み出すように現れ、手には油で光るバリカンと鋏。
「こんなときに……!」
「力を制御できぬのは、お前の形が中途半端だからだ」
理容師は魔族を一瞥し、動じもせず、リィナに近づいた。
「今のスポーツ刈りでは“まだ人の娘”だ。ここでさらに削ぎ落とせ。――坊主に近い形に」
リィナの背筋に冷たいものが走る。
「坊主……? 私が?」
「髪は迷いを引き寄せる。残る毛先は、欠片を乱す触手のようなものだ。刈り落とせば、炎は制御できる」
魔族の唸りが響く。炎が岩を舐め、赤い苔を燃やした。リィナは震えながらも頷いた。
「……わかりました。切ってください!」
刃は頷き、ケープを羽織らせる。荒野のただ中で、理容の儀式が始まった。
ブウゥゥン――。
バリカンの刃が、今度は頭頂から真っ直ぐに走る。
ジョリリリ……!
さっきまで残っていた短い毛が一気に削ぎ落とされ、ケープに細かな粉雪のように積もっていく。
「ひゃっ……冷たい!」
風が直接頭皮に触れ、リィナは思わず肩をすくめた。
刃は容赦なく、左右から後頭部へと滑らせていく。
ジョリ、ジョリ――。
耳の上は地肌が透け、襟足はすっかり刈り上げられていく。
落ちていく髪は、もう羽毛のかけらのように軽く、砂の上で舞い、炎の光を反射して赤く染まった。
「坊主頭は恥ではない。戦う者の証だ」
「……!」
理容師の声と同時に、リィナは胸の熱が沈んでいくのを感じた。
髪が削がれるたび、刻印の輝きが静まり、呼吸が深くなる。
(本当に……力が、落ち着いていく……!)
最後に刃は蒸し布を取り出し、首筋に当てる。温かさが広がり、次いで冷たいカミソリの刃がうなじを撫でた。
すっ……すっ……。
産毛までも削がれ、リィナの首筋は白く、滑らかな線を描いた。
「――終わりだ」
ケープが外されると、砂の上に散った細かな髪が炎に照らされ、赤い光の中で燃え滓のようにきらめいた。
リィナは自分の頭に触れる。指先に触れるのはほとんど地肌で、ざらざらとした毛がわずかに押し返す。
鏡はない。だが、仲間の目が答えを教えてくれる。
「……リィナ、本当に別人みたい」ミリアの瞳が震えていた。
「でも強そうだ」ジークがにやりと笑う。
次の瞬間、魔族が吠えて炎を吐いた。
リィナは一歩前に出る。坊主になった頭に風が吹き抜け、刻印が光る。だが今度は暴走せず、彼女の意思に従って渦を巻いた。
炎を切り裂く風の刃が走り、魔族の咆哮を押し返す。
「……できる!」
リィナは確信した。髪を断つごとに、自分は強くなれる。
戦いはまだ始まったばかりだった。
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