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第6章 晒された覚悟
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合宿を終えた週明け、葵が登校中にスマホを開くと、友人からのメッセージがいくつも届いていた。
「葵、あんた今ネットで話題になってるよ!!」
「瑞穂の女子バレー部、全員変な髪型にされてるって……やばくない!?」
「これ、あんたじゃない?」
添付されていたURLを開くと、SNSに投稿された1枚の写真が目に飛び込んできた。
《女子高生が丸坊主!? 強豪校のバレー部に“髪型強制”疑惑!》
そこには、合宿中に羽村学園の選手が撮ったらしい、坊主頭の葵とスポーツ刈りの梨沙、そして刈り上げのおかっぱ姿の千夏の背中が写っていた。コメント欄は、荒れていた。
「女子で坊主ってやばすぎる……」
「昭和の体育会系ってまだあるのかよ」
「本人たちが納得してるならいいけど、これ強制ならアウトでしょ」
「親が黙ってるのも怖い……」
葵は、しばらく画面を見つめて動けなかった。
「……誰かが、勝手に撮って……」
昼休み。体育館の倉庫裏で5人が集まった。
「……やばいよね。拡散されてるし、バレー部=強制丸刈りって……」
梨沙は腕を組みながら、真っ赤になった顔で地面を睨んでいた。
「私、今朝知らない子から“スキンヘッド先輩”って呼ばれた……」と真央。
「私……後ろから写真撮られてたかもしれない……」
千夏の声は震えていた。
「……ひどい。私たち、ちゃんと覚悟して、切ったのに……」
美鈴の目にも涙がにじんでいた。
「誰が悪いんだろうね……うちの部則? 撮った人? 拡散した人?」
葵の問いに、誰も答えられなかった。
その日の夕方、部活動中に学校側からの通達が下った。
「バレー部の髪型指導について、保護者と教職員会議を行う」と。
翌週。保護者同伴で開かれた会議室には、バレー部の5人と主将の詩織、顧問、校長、そして数名の保護者が集まっていた。
「娘が坊主になるなんて聞いてません!」
「写真を見たとき、目を疑いましたよ!」
怒号が飛び交う中、詩織が一歩前に出た。
「責任は私たち上級生にあります。私たちは、髪を切ることで団結力を高めると信じて、代々やってきました。でも――強制したつもりは、ありません」
「選択肢は、あったか?」
校長が問いかける。
「……選ばなかったら、入部できなかった。つまり強制です」
静かな声でそう答えたのは――葵だった。
「でも……私たちは、髪を切ったことを後悔していません。笑われても、写真を拡散されても、私たちは自分で“覚悟”を選びました。坊主にしたから、今の私たちがある。逃げずに、自分たちの道を行きたいです」
会議室に、一瞬、静寂が訪れた。
そして、一人の保護者がゆっくりと口を開いた。
「……私も、最初は反対でした。でも、娘が“坊主にしてよかった”って、笑って言ってたんです。強くなりたいって。――だったら、信じてあげるしかないな、って」
それをきっかけに、他の保護者も態度を和らげていった。
最終的に――部則の“強制的な髪型規定”は「選択制」に緩和されることになった。だが、5人は変えなかった。それぞれの短髪を、誇りとして残す道を選んだ。
「葵、あんた今ネットで話題になってるよ!!」
「瑞穂の女子バレー部、全員変な髪型にされてるって……やばくない!?」
「これ、あんたじゃない?」
添付されていたURLを開くと、SNSに投稿された1枚の写真が目に飛び込んできた。
《女子高生が丸坊主!? 強豪校のバレー部に“髪型強制”疑惑!》
そこには、合宿中に羽村学園の選手が撮ったらしい、坊主頭の葵とスポーツ刈りの梨沙、そして刈り上げのおかっぱ姿の千夏の背中が写っていた。コメント欄は、荒れていた。
「女子で坊主ってやばすぎる……」
「昭和の体育会系ってまだあるのかよ」
「本人たちが納得してるならいいけど、これ強制ならアウトでしょ」
「親が黙ってるのも怖い……」
葵は、しばらく画面を見つめて動けなかった。
「……誰かが、勝手に撮って……」
昼休み。体育館の倉庫裏で5人が集まった。
「……やばいよね。拡散されてるし、バレー部=強制丸刈りって……」
梨沙は腕を組みながら、真っ赤になった顔で地面を睨んでいた。
「私、今朝知らない子から“スキンヘッド先輩”って呼ばれた……」と真央。
「私……後ろから写真撮られてたかもしれない……」
千夏の声は震えていた。
「……ひどい。私たち、ちゃんと覚悟して、切ったのに……」
美鈴の目にも涙がにじんでいた。
「誰が悪いんだろうね……うちの部則? 撮った人? 拡散した人?」
葵の問いに、誰も答えられなかった。
その日の夕方、部活動中に学校側からの通達が下った。
「バレー部の髪型指導について、保護者と教職員会議を行う」と。
翌週。保護者同伴で開かれた会議室には、バレー部の5人と主将の詩織、顧問、校長、そして数名の保護者が集まっていた。
「娘が坊主になるなんて聞いてません!」
「写真を見たとき、目を疑いましたよ!」
怒号が飛び交う中、詩織が一歩前に出た。
「責任は私たち上級生にあります。私たちは、髪を切ることで団結力を高めると信じて、代々やってきました。でも――強制したつもりは、ありません」
「選択肢は、あったか?」
校長が問いかける。
「……選ばなかったら、入部できなかった。つまり強制です」
静かな声でそう答えたのは――葵だった。
「でも……私たちは、髪を切ったことを後悔していません。笑われても、写真を拡散されても、私たちは自分で“覚悟”を選びました。坊主にしたから、今の私たちがある。逃げずに、自分たちの道を行きたいです」
会議室に、一瞬、静寂が訪れた。
そして、一人の保護者がゆっくりと口を開いた。
「……私も、最初は反対でした。でも、娘が“坊主にしてよかった”って、笑って言ってたんです。強くなりたいって。――だったら、信じてあげるしかないな、って」
それをきっかけに、他の保護者も態度を和らげていった。
最終的に――部則の“強制的な髪型規定”は「選択制」に緩和されることになった。だが、5人は変えなかった。それぞれの短髪を、誇りとして残す道を選んだ。
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