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ハンナ=ディテール
しおりを挟むパーティー会場はざわついたが、レオが機転をきかせてハンナと呼ばれた女性を運び出した事で表面上は何事もなかったように進行されている。
でも私達の席は嵐の前触れの様にどんよりと静まり返っていた。
素知らぬ顔をするレオと、明らかに不機嫌な態度のアリス王女に誰も何も言えないでいるのだった。
そんな場にハンナを医務室に運んだゲンが戻って来た
真っ直ぐ私の元に来たゲンは
「医療士が言うには、貧血で倒られたそうです」
と報告する。
そのゲンの言葉に安堵の表情を浮かべるモーリスと、
「は?貧血ですって?嘘よ!バネッサが何かしたに決まってるわ!」
と怒鳴るアリス王女
うーん…
これ私が何か言おうものなら余計火に油を注ぐ様な物よねー?
「アリス、いい加減にしなさい」
すると、レオが普段よりトーンの低い国王モードの声で言う
「義姉にむかって、それも我が妻の王妃に無礼が過ぎる!」
大好きな兄に怒りに満ちた目で言われたアリス王女は瞬時にシュンとなった。
私は思わずレオの腕に手を置く…
何と言っても今日の主役はアリス王女なのだ…
それくらいにしておけと言う私の意図を理解したレオは1つ大きく息をはく
「第一にバッサが何をしたと言うのだ?」
アリス王女に問いかければ
「な、何って料理に毒を盛ったとか…」
あーーやっぱり?
そう疑ってたのね…
「ありえない」
ここで断言するレオ
やだっ、ちょっと感動するじゃない!
「ハンナはここに来てずっとアリスの後ろにいて何も口にしていないだろう」
レオの指摘に、ハッとするアリス王女とずっこける私
ああ、そりゃそうよね
物理的にありえなかったのよね
「ハンナが…妹がお騒がせして申し訳ございません…」
そんな私達に深々と頭を下げて謝罪するモーリス
ん?妹って言った?
倒れた女性はハンナ=ディテール
モーリスの実の妹だった。
16歳で結婚してディテール家を出たが、夫に先立たれ出戻った彼女は、王宮でレオとアリス王女の乳母をしていた姉のお手伝いとして王宮入りをする。
やはりディテールの血筋なのか優秀だった彼女は頭角を現し、いつの間にかレオにはモーリス、アリス王女にはハンナが付くようになったのだ。
それ以降、ずっとアリス王女と行動を共にするハンナは今回の留学にも同行して共に帰国したのだと聞いた。
「ハンナももう若くはありません。きっと疲れが出たのでしょう」
続けて言うモーリスに、レオは謝罪はもう良いと言う意味で右手を軽く上げた。
「皆アリスの為に集まって祝っているのだ、素直に楽しめばよい」
と言うと、使用人に皿に取り分けて貰ったハンバーグを美味しそうに食べ出したのだった。
これを機に会場はまた和やかな雰囲気に戻ってホッとする。
とりあえず毒を盛った断罪ルートは阻止出来たみたいね
そんなルートは知らんけど…
私の膝の上でキャッキャはしゃぐオスカーにメロメロになりながら構っていると再びゲンが私の真後ろに近づいて来て耳打ちをする。
「あの、ハンナって人知り合い?」
は?なんの事?
て、いうかハンナの存在を認識する前に倒れちゃってちゃんと見てないのよ?
「あの人この席に来てからずっと母さんの事見てたんだよ…」
それに気がついたゲンはその事を私に伝えようとしたら急に倒れたのだとか…
んー?
どういう事?
原作にモーリスの妹など登場させた記憶は無いし、私がバネッサになってからは当然初対面よね?
さっぱりわからん
でもまあ
過労で貧血を起こすくらいだし、モーリスの妹でもあるし、目が覚めたらオスカー用に作ったお粥でも届けてあげてと、モーリスに伝えればまたまた申し訳なさそうに頭を下げるのであった…
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