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田丸亮二と錬金術師
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「その人はわたしのおじいちゃん、生きかえらせてくれたんだ」
ユカリはプラスティックのコップに入った水を一口飲んでから話のつづきをはじめる。
ぼくはユカリと家のなかに入っていた。
弟の健斗を抱えて運び、リビングの床に寝かせておいた。
それから、気持ちを落ち着かせるためにキッチンでコップに自分とユカリの水をいれた。
シロが現れてからもライフラインは停まっていない。
水道、電気、ガスはつかえている。
ぼくたちは靴を履いたまま玄関の上がり框に並んで腰をかけた。
シロが現れたらすぐに逃げられるように。
ぼくは役に立たないとわかっていたけれど、護身用にフィッシングナイフを手にしていた。
「おじいちゃん、胸が悪くて保田市の大学病院に入院していてね」
保田市は隣の市だ。
「わたし、昨日、病院にお見舞いにいったの。そのとき、病院の建物に入ったらね、ロビーにシロがいたんだ」
「ユカリ、あいつらを見たのか?」
(やっぱりシロはここまでやってきてるのか……)
「うん、三匹いた。あいつら親子みたいだった。四十歳位の父親と母親、娘は中学生位の女の子の姿をしてた」
ユカリは気味悪そうに顔をしかめる。
「足がすくんでたけど、わたしはあいつらから逃げようとした。病院からでようとした。けど、すぐ追いつかれた。あいつら、とんでもなく足がはやいの」
寒気がしたように腕を組む。
「三匹のシロに取り囲まれた。あいつら、スポーツのチームプレイみたいに動くんだ」
ユカリの揺れる目に恐怖がみえる。
「わたしはいちばんちいさな女の子の姿をしたやつを突き飛ばそうした。でも、そいつに取り押さえられた。力もすごくつよかった。それから、そのシロに五本の指をむけられたの。毒をかけられそうになった。殺されかけた」
リビングに寝かせている弟の健斗のことが頭に浮かぶ。
家の門の前で、怯えた健斗がユカリのようにシロに指を突きつけられている。
シロが指先から毒を噴射して健斗にかけようとしている。
胃からいやなものがせりあがってくる。
「そのとき、あの人たちがあらわれたの」
「あの人たち?」
「おじいちゃんを生きかえらせてくれた人。その人には仲間がいたんだ。三人とも高校生くらいだった。ふたりは男の子、ひとりは女の子」
ぼくは拍子抜けして身体から力が抜けた。
シロに殺された人間を生きかえらせる。
もし、そんな人がいるとすれば、それはすご腕の医者かなんかだと思っていた。
それが同じ年代の男女。
(ユカリ、寝ているときにみた夢のはなしをしているのか……)
「きゃー-っ!」
ユカリが話をつづけようとすると、突然、外で悲鳴がした。
幼い女の子のものだった。
(シロか……)
たちまち喉が干上がったように乾いて、ぼくはこわばったユカリと顔を見あわせた。
フィッシングナイフを握る手に力をこめた。
だけど、すぐに悲鳴は二人の女の子のおおきな笑い声にかわった。
女の子たちがはしゃいだ声だったらしい。
まだシロが近くまでやってきているのを知らないのだろう。
「びびった……」
ゆかりはほっとした顔をする。
「大丈夫かな、外にいる子たち……」
ゆかりの表情はすぐに不安そうになる。
ぼくは手がふるえないように注意をしながらコップの水を飲んだ。
びびってるところをユカリにみせたくなかった。
ネットではシロが水道水に毒をいれているという情報が流れていた。
けれど、飲み水に問題はなかった。
「それで、どうなった?」
ユカリに話のつづきをうながす。
「でね、そのヒトたちがシロを倒してくれたの」
「……どうやって?」
「あの、断っておくけど、わたしの気はたしかだからね。見たことを話してる」
ユカリはぼくを見すえる。
ぼくは疑っている気持ちをさとられないようにうなずいた。
「ひとりの女の子はシロと格闘して倒した。男の子は杖を持っていてね、それで、シロに攻撃をした。魔法みたいだった」
「魔法?」
「RPGのゲームとかであるでしょう。あんな感じの魔法」
(素手でシロを倒せる人間なんているのか……。拳銃でも倒せないのに。それに杖、魔法……。ユカリ、やっぱりおかしくなってるのか……)
けれど、頭の片隅では彼女の話を否定しきれなかった。
(……世界には得体のしれないシロが現れている。ユカリがいう男たちがいてもおかしくないんじゃないか……)
「それで?」
(おれもおかしくなってるのか……)
「シロたちを倒してから、わたしとその人たちはおじいちゃんの病室にいった。……そうしたらおじいちゃん、ベッドの上で亡くなってた。病室にいた他の二人の患者も。シロに殺されていた。三人とも身体にシロの毒がかかってた」
ユカリはつよく唇をかむ。
「だけど、その男の子がおじいちゃんを生きかえらせてくれたの。他の人たちも、シロに殺された医者、看護師の人たちも」
そのときの驚きを思いだしたように大きな目をひらく。
「どうやって?」
「……わからない。わたしはショックで気分が悪くなって、病室をでたの。それで、病室にもどったときにはおじいちゃんは他の病室にいた人と話をしていた。ベッドから離れて、立ちあがってた。さっきまで息をしていなかったのがうそみたいだった」
ユカリはコップの水を飲んでからいった。
「……その男の子、くわしい話は教えてくれなかった。自分たちが何者なのか、どうやって、人間を生きかえらせたのか。ただ、ちょっとした道具をつかったっていってた」
「道具?」
「その道具についてもくわしいことは教えてくれなかった。その道具でシロの毒を解毒したのかもしれない」
「……おじいさんは死んでなかったんじゃないのか? 一時的に気を失ってとか?」
「……わからない。でも、他に病室にいたひとたちも意識を失って、同時に意識が回復することはないでしょ」
「……そうかな」
「あの男の子なら健斗を生きかえらせることができるかもしれない。亮二、ね、そのコに会ってみない?」
「……でも、その人、どこにいるの?」
「連絡をとってみる」
ユカリは床に置いたクマのキャラクーがデコされたスマホを手にとった。
「連絡先、交換しておいたんだ。もし他にもシロに殺された人がいたらそのコに生きかえらせてもらえるんじゃないかって思って」
死んだ人間を蘇えらせるという現実離れしたことをする男がスマホをもっている。
ユカリと連絡先を交換している。
そのことが奇妙に思えた。
「ね、会ってみない?」
おかしな宗教に勧誘されたような気分になって、ぼくは返事に困った。
「……会ってみたい」
それでも、数秒後に答えていた。
健斗が生きかえる可能性がすこしでもあるならそれを試したかった。
その男にだまされても奪われるものもない。
やけくそな気持ちになってもいた。
(……ユカリだってシロに恐怖をしている。今だってすこしでも安全な場所に逃げたいはずだ)
それなのに、ぼくに弟を蘇らせる方法を教えようとした。
彼女の気持ちをもむだにしたくなかった。
「じゃあ、連絡、してみるね」
ユカリは笑顔をみせて、スマホの画面をタップする。
ユカリはプラスティックのコップに入った水を一口飲んでから話のつづきをはじめる。
ぼくはユカリと家のなかに入っていた。
弟の健斗を抱えて運び、リビングの床に寝かせておいた。
それから、気持ちを落ち着かせるためにキッチンでコップに自分とユカリの水をいれた。
シロが現れてからもライフラインは停まっていない。
水道、電気、ガスはつかえている。
ぼくたちは靴を履いたまま玄関の上がり框に並んで腰をかけた。
シロが現れたらすぐに逃げられるように。
ぼくは役に立たないとわかっていたけれど、護身用にフィッシングナイフを手にしていた。
「おじいちゃん、胸が悪くて保田市の大学病院に入院していてね」
保田市は隣の市だ。
「わたし、昨日、病院にお見舞いにいったの。そのとき、病院の建物に入ったらね、ロビーにシロがいたんだ」
「ユカリ、あいつらを見たのか?」
(やっぱりシロはここまでやってきてるのか……)
「うん、三匹いた。あいつら親子みたいだった。四十歳位の父親と母親、娘は中学生位の女の子の姿をしてた」
ユカリは気味悪そうに顔をしかめる。
「足がすくんでたけど、わたしはあいつらから逃げようとした。病院からでようとした。けど、すぐ追いつかれた。あいつら、とんでもなく足がはやいの」
寒気がしたように腕を組む。
「三匹のシロに取り囲まれた。あいつら、スポーツのチームプレイみたいに動くんだ」
ユカリの揺れる目に恐怖がみえる。
「わたしはいちばんちいさな女の子の姿をしたやつを突き飛ばそうした。でも、そいつに取り押さえられた。力もすごくつよかった。それから、そのシロに五本の指をむけられたの。毒をかけられそうになった。殺されかけた」
リビングに寝かせている弟の健斗のことが頭に浮かぶ。
家の門の前で、怯えた健斗がユカリのようにシロに指を突きつけられている。
シロが指先から毒を噴射して健斗にかけようとしている。
胃からいやなものがせりあがってくる。
「そのとき、あの人たちがあらわれたの」
「あの人たち?」
「おじいちゃんを生きかえらせてくれた人。その人には仲間がいたんだ。三人とも高校生くらいだった。ふたりは男の子、ひとりは女の子」
ぼくは拍子抜けして身体から力が抜けた。
シロに殺された人間を生きかえらせる。
もし、そんな人がいるとすれば、それはすご腕の医者かなんかだと思っていた。
それが同じ年代の男女。
(ユカリ、寝ているときにみた夢のはなしをしているのか……)
「きゃー-っ!」
ユカリが話をつづけようとすると、突然、外で悲鳴がした。
幼い女の子のものだった。
(シロか……)
たちまち喉が干上がったように乾いて、ぼくはこわばったユカリと顔を見あわせた。
フィッシングナイフを握る手に力をこめた。
だけど、すぐに悲鳴は二人の女の子のおおきな笑い声にかわった。
女の子たちがはしゃいだ声だったらしい。
まだシロが近くまでやってきているのを知らないのだろう。
「びびった……」
ゆかりはほっとした顔をする。
「大丈夫かな、外にいる子たち……」
ゆかりの表情はすぐに不安そうになる。
ぼくは手がふるえないように注意をしながらコップの水を飲んだ。
びびってるところをユカリにみせたくなかった。
ネットではシロが水道水に毒をいれているという情報が流れていた。
けれど、飲み水に問題はなかった。
「それで、どうなった?」
ユカリに話のつづきをうながす。
「でね、そのヒトたちがシロを倒してくれたの」
「……どうやって?」
「あの、断っておくけど、わたしの気はたしかだからね。見たことを話してる」
ユカリはぼくを見すえる。
ぼくは疑っている気持ちをさとられないようにうなずいた。
「ひとりの女の子はシロと格闘して倒した。男の子は杖を持っていてね、それで、シロに攻撃をした。魔法みたいだった」
「魔法?」
「RPGのゲームとかであるでしょう。あんな感じの魔法」
(素手でシロを倒せる人間なんているのか……。拳銃でも倒せないのに。それに杖、魔法……。ユカリ、やっぱりおかしくなってるのか……)
けれど、頭の片隅では彼女の話を否定しきれなかった。
(……世界には得体のしれないシロが現れている。ユカリがいう男たちがいてもおかしくないんじゃないか……)
「それで?」
(おれもおかしくなってるのか……)
「シロたちを倒してから、わたしとその人たちはおじいちゃんの病室にいった。……そうしたらおじいちゃん、ベッドの上で亡くなってた。病室にいた他の二人の患者も。シロに殺されていた。三人とも身体にシロの毒がかかってた」
ユカリはつよく唇をかむ。
「だけど、その男の子がおじいちゃんを生きかえらせてくれたの。他の人たちも、シロに殺された医者、看護師の人たちも」
そのときの驚きを思いだしたように大きな目をひらく。
「どうやって?」
「……わからない。わたしはショックで気分が悪くなって、病室をでたの。それで、病室にもどったときにはおじいちゃんは他の病室にいた人と話をしていた。ベッドから離れて、立ちあがってた。さっきまで息をしていなかったのがうそみたいだった」
ユカリはコップの水を飲んでからいった。
「……その男の子、くわしい話は教えてくれなかった。自分たちが何者なのか、どうやって、人間を生きかえらせたのか。ただ、ちょっとした道具をつかったっていってた」
「道具?」
「その道具についてもくわしいことは教えてくれなかった。その道具でシロの毒を解毒したのかもしれない」
「……おじいさんは死んでなかったんじゃないのか? 一時的に気を失ってとか?」
「……わからない。でも、他に病室にいたひとたちも意識を失って、同時に意識が回復することはないでしょ」
「……そうかな」
「あの男の子なら健斗を生きかえらせることができるかもしれない。亮二、ね、そのコに会ってみない?」
「……でも、その人、どこにいるの?」
「連絡をとってみる」
ユカリは床に置いたクマのキャラクーがデコされたスマホを手にとった。
「連絡先、交換しておいたんだ。もし他にもシロに殺された人がいたらそのコに生きかえらせてもらえるんじゃないかって思って」
死んだ人間を蘇えらせるという現実離れしたことをする男がスマホをもっている。
ユカリと連絡先を交換している。
そのことが奇妙に思えた。
「ね、会ってみない?」
おかしな宗教に勧誘されたような気分になって、ぼくは返事に困った。
「……会ってみたい」
それでも、数秒後に答えていた。
健斗が生きかえる可能性がすこしでもあるならそれを試したかった。
その男にだまされても奪われるものもない。
やけくそな気持ちになってもいた。
(……ユカリだってシロに恐怖をしている。今だってすこしでも安全な場所に逃げたいはずだ)
それなのに、ぼくに弟を蘇らせる方法を教えようとした。
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