【完結】異世界帰りの錬金術師が、わたしを救う。

シハ

文字の大きさ
2 / 40
田丸亮二と錬金術師

しおりを挟む
「その人はわたしのおじいちゃん、生きかえらせてくれたんだ」

 ユカリはプラスティックのコップに入った水を一口飲んでから話のつづきをはじめる。

 ぼくはユカリと家のなかに入っていた。
 弟の健斗を抱えて運び、リビングの床に寝かせておいた。
 それから、気持ちを落ち着かせるためにキッチンでコップに自分とユカリの水をいれた。
 シロが現れてからもライフラインは停まっていない。
 水道、電気、ガスはつかえている。
 
 ぼくたちは靴を履いたまま玄関の上がり框に並んで腰をかけた。
 シロが現れたらすぐに逃げられるように。
 ぼくは役に立たないとわかっていたけれど、護身用にフィッシングナイフを手にしていた。

「おじいちゃん、胸が悪くて保田市の大学病院に入院していてね」

 保田市は隣の市だ。

「わたし、昨日、病院にお見舞いにいったの。そのとき、病院の建物に入ったらね、ロビーにシロがいたんだ」

「ユカリ、あいつらを見たのか?」

(やっぱりシロはここまでやってきてるのか……)

「うん、三匹いた。あいつら親子みたいだった。四十歳位の父親と母親、娘は中学生位の女の子の姿をしてた」

 ユカリは気味悪そうに顔をしかめる。

「足がすくんでたけど、わたしはあいつらから逃げようとした。病院からでようとした。けど、すぐ追いつかれた。あいつら、とんでもなく足がはやいの」

 寒気がしたように腕を組む。

「三匹のシロに取り囲まれた。あいつら、スポーツのチームプレイみたいに動くんだ」

 ユカリの揺れる目に恐怖がみえる。

「わたしはいちばんちいさな女の子の姿をしたやつを突き飛ばそうした。でも、そいつに取り押さえられた。力もすごくつよかった。それから、そのシロに五本の指をむけられたの。毒をかけられそうになった。殺されかけた」

 リビングに寝かせている弟の健斗のことが頭に浮かぶ。
 家の門の前で、怯えた健斗がユカリのようにシロに指を突きつけられている。
 シロが指先から毒を噴射して健斗にかけようとしている。
 胃からいやなものがせりあがってくる。

「そのとき、あの人たちがあらわれたの」

「あの人たち?」

「おじいちゃんを生きかえらせてくれた人。その人には仲間がいたんだ。三人とも高校生くらいだった。ふたりは男の子、ひとりは女の子」

 ぼくは拍子抜けして身体から力が抜けた。
 シロに殺された人間を生きかえらせる。
 もし、そんな人がいるとすれば、それはすご腕の医者かなんかだと思っていた。
 それが同じ年代の男女。

(ユカリ、寝ているときにみた夢のはなしをしているのか……)

「きゃー-っ!」

 ユカリが話をつづけようとすると、突然、外で悲鳴がした。
 幼い女の子のものだった。

(シロか……)

 たちまち喉が干上がったように乾いて、ぼくはこわばったユカリと顔を見あわせた。
 フィッシングナイフを握る手に力をこめた。

 だけど、すぐに悲鳴は二人の女の子のおおきな笑い声にかわった。
 女の子たちがはしゃいだ声だったらしい。
 まだシロが近くまでやってきているのを知らないのだろう。

「びびった……」

 ゆかりはほっとした顔をする。

「大丈夫かな、外にいる子たち……」

 ゆかりの表情はすぐに不安そうになる。
 ぼくは手がふるえないように注意をしながらコップの水を飲んだ。
 びびってるところをユカリにみせたくなかった。
 ネットではシロが水道水に毒をいれているという情報が流れていた。
 けれど、飲み水に問題はなかった。

「それで、どうなった?」

 ユカリに話のつづきをうながす。

「でね、そのヒトたちがシロを倒してくれたの」

「……どうやって?」

「あの、断っておくけど、わたしの気はたしかだからね。見たことを話してる」

 ユカリはぼくを見すえる。
 ぼくは疑っている気持ちをさとられないようにうなずいた。

「ひとりの女の子はシロと格闘して倒した。男の子は杖を持っていてね、それで、シロに攻撃をした。魔法みたいだった」

「魔法?」

「RPGのゲームとかであるでしょう。あんな感じの魔法」

(素手でシロを倒せる人間なんているのか……。拳銃でも倒せないのに。それに杖、魔法……。ユカリ、やっぱりおかしくなってるのか……)

 けれど、頭の片隅では彼女の話を否定しきれなかった。

(……世界には得体のしれないシロが現れている。ユカリがいう男たちがいてもおかしくないんじゃないか……)

「それで?」

(おれもおかしくなってるのか……)

「シロたちを倒してから、わたしとその人たちはおじいちゃんの病室にいった。……そうしたらおじいちゃん、ベッドの上で亡くなってた。病室にいた他の二人の患者も。シロに殺されていた。三人とも身体にシロの毒がかかってた」

 ユカリはつよく唇をかむ。

「だけど、その男の子がおじいちゃんを生きかえらせてくれたの。他の人たちも、シロに殺された医者、看護師の人たちも」

 そのときの驚きを思いだしたように大きな目をひらく。

「どうやって?」

「……わからない。わたしはショックで気分が悪くなって、病室をでたの。それで、病室にもどったときにはおじいちゃんは他の病室にいた人と話をしていた。ベッドから離れて、立ちあがってた。さっきまで息をしていなかったのがうそみたいだった」

 ユカリはコップの水を飲んでからいった。
 
「……その男の子、くわしい話は教えてくれなかった。自分たちが何者なのか、どうやって、人間を生きかえらせたのか。ただ、ちょっとした道具をつかったっていってた」

「道具?」

「その道具についてもくわしいことは教えてくれなかった。その道具でシロの毒を解毒したのかもしれない」

「……おじいさんは死んでなかったんじゃないのか? 一時的に気を失ってとか?」

「……わからない。でも、他に病室にいたひとたちも意識を失って、同時に意識が回復することはないでしょ」

「……そうかな」

「あの男の子なら健斗を生きかえらせることができるかもしれない。亮二、ね、そのコに会ってみない?」

「……でも、その人、どこにいるの?」

「連絡をとってみる」

 ユカリは床に置いたクマのキャラクーがデコされたスマホを手にとった。

「連絡先、交換しておいたんだ。もし他にもシロに殺された人がいたらそのコに生きかえらせてもらえるんじゃないかって思って」

 死んだ人間を蘇えらせるという現実離れしたことをする男がスマホをもっている。
 ユカリと連絡先を交換している。
 そのことが奇妙に思えた。

「ね、会ってみない?」

 おかしな宗教に勧誘されたような気分になって、ぼくは返事に困った。

「……会ってみたい」

 それでも、数秒後に答えていた。
 健斗が生きかえる可能性がすこしでもあるならそれを試したかった。
 その男にだまされても奪われるものもない。
 やけくそな気持ちになってもいた。

(……ユカリだってシロに恐怖をしている。今だってすこしでも安全な場所に逃げたいはずだ)

 それなのに、ぼくに弟を蘇らせる方法を教えようとした。 
 彼女の気持ちをもむだにしたくなかった。

「じゃあ、連絡、してみるね」

 ユカリは笑顔をみせて、スマホの画面をタップする。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

僕だけ入れちゃうステータス欄 ~追放された凄腕バッファーは、たまたま出会った新人冒険者たちと真の最強パーティーを作り上げる~

めでめで汰
ファンタジー
バッファーの少年カイトのバフスキルは「ステータス欄の中に入って直接数字を動かす」というもの。 しかし、その能力を信じなかった仲間からカイトは追放され迷宮に置き去りにされる。 そこで出会ったLUK(幸運)値の高い少女ハルと共にカイトは無事迷宮から生還。 その後、カイトはハルの両親を探すため地下迷宮の奥へと挑むことを決意する。 (スライム、もふもふ出てきます。女の子に囲まれるけどメインヒロインは一人です。「ざまぁ」もしっかりあります)

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~

あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。 彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。 剣も魔法も得意ではない主人公は、 最強のメイドたちに守られながら生きている。 だが彼自身は、 「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。 自分にできることは何か。 この世界で、どう生きていくべきか。 最強の力を持つ者たちと、 何者でもない一人の青年。 その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。 本作は、 圧倒的な安心感のある日常パートと、 必要なときには本格的に描かれる戦い、 そして「守られる側の成長」を軸にした 完結済み長編ファンタジーです。 シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。 最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。

処理中です...