【完結】異世界帰りの錬金術師が、わたしを救う。

シハ

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田丸亮二と錬金術師

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 すぐにユカリのスマホにメッセージの着信音がする。
 それからユカリは、相手と何度かメッセージのやりとりをする。

 外は静かで、人の話し声、車が走る音がない。
 玄関にはユカリがスマホの画面を素早く叩く音だけがしている。

「彼たち、今からこっちにむかうって。武蔵台の駅ビルで落ちあおうって。一階の正面口。できれば、健斗を連れてきてって。亮二の名前と外見、伝えた。むこうはあなたのことわかると思う」

 ユカリがスマホの画面から顔をあげ、興奮した声でいった。
 健斗が生きかえることを確信しているようだった。
 
 その駅ビルは家から歩いて五分のところにある。
 人を蘇らせる男と最寄りの駅のビルで待ち合わせをする。
 それはなんだかへんな感じがした。

「……ありがとう」

 ゆかりに礼をいってから、速見さんの話をはっと思いだした。
 アメリカの軍艦が生き残っている人達を救出するために横浜にやってくる。
 弟の死のショックで忘れていた。
 ぼくはユカリに速見さんから聞いた話を伝えた。

「……わたしはこれからお父さんの車で静岡までいくの、おじいちゃんと一緒に。ガソリン、なんとか確保できたから。むこうに親戚がいるんだ。あっちはまだシロがきてないって」

 ぼくが話しおわってからユカリはいった。

「……おれはもし弟を生きかえらせることができたら、弟と横浜にいくよ」

「……そう、じゃあね、気をつけてね」

 ユカリは腰をあげ、スマホをホットパンツのポケットにいれる。

「ユカリも気をつけてな」

 ユカリが無事でいることを心から願いながらぼくも立ちあがった。

「……おたがい、生きましょう、健斗も」

 ユカリはそういって、ナイキのスニーカーを履いた足をぼくに一歩近づける。
 ひらいた腕をぼくの背中にまわし、軽くハグをする。
 ぼくの肩と胸が彼女のやわらかな身体に触れる。
 ぼくは思いがけないユカリの行動に戸惑いながら、ぎこちなく彼女の背中に腕をまわした。

(ユカリとハグをしている……。記念日になってたのにな。シロがこの世にいなければ。健斗が生きていれば……)

「じゃあね」

「じゃあな」

 ユカリはうすくほほえんで、ぼくの家から出ていった。

(……どうしよう)

 それから、健斗を駅ビルまで運ぶ方法を考えた。
 背中におぶって駅ビルまで歩けば時間がかかる。
 ぼくは体力がない。
 途中で休んでいたら、シロに出くわすかもしれない。
 そこで、駅ビルにいく前に家の近くにある宅配便の営業所にむかうことにした。
 健斗を運ぶ台車があればいいと思った。

 宅配便の営業所につくと、人はいなくて、建物の灯りも消えていた。
 そこで台車よりいいものをみつけた。

(やった……)

 建物の横の駐輪場に宅配便の電動自転車があった。
 鍵はかかっていない。
 自転車の後ろに二輪のリヤカーがついている。
 リヤカーの荷台には宅配便のマークがついたおおきな箱がのっている。
 電動自動車の充電はされいない。

(それでも、健斗を箱にいれて、自転車で走れる)

 ぼくは宅配所の人たちに心の中で謝りながら宅配便の自転車を拝借した。
 家へ戻ってから、リビングに寝かせていた健斗を運び出して、体育座りのような恰好をさせて宅配便の箱にいれた。

(健斗、狭くて暗いけど我慢してくれ……)

 健斗の身体は冷たく、硬くなりはじめていた。 
 自転車のサドルにまたがって、ペダルを漕ぎだそうとすると、ふいに肌にナイフの刃をつきつけらたような恐怖を感じた。

(駅ビルに着くまでにシロと遭遇するかもしれない……。健斗を殺したシロが近くにいるかもしれない)

 ぼくは動揺する心をおさえつけて、力を込めてペダルを漕ぎはじめた。

(健斗を生きかえらせることができるかもしれないんだぞ……)
 
 住宅街の路地を抜けて、車の交通がない車道を走った。
 シロの姿をみることなく、駅ビルがみえる大通りにでることができた。
 ほっとして、自転車のスピードをさらにあげる。

 日中だけれど、駅前の通りは不気味に閑散としている。
 オフィスのビルの灯りは消えている。
 ビルの電子看板も消えている。
 ほんとんどの店がシャッターを閉めている。

 駅ビルまであと五十メートルまできた。
 そのとき、自転車のスピードを落とした。
 道の先にシロのつぎにでくわしたくないやつらがいた。
 自警団の連中だ。
 自警団の活動中に顔を見たことがある三人の男が車道の中央に立っている。

(……くそ)
 
 ぼくは自転車の向きを変えて、来た道を引きかえそうとした。

「おい!」

 自警団の連中がぼくを呼びとめる。
 声を無視しようか迷っていると、三人が近づいてくる。
 ぼくは仕方なく自転車をとめた。
 
 自警団の三人は、並んでぼくの前でやってくると、そろって右のこぶしを斜めにむかってつきだす。
 それは自警団同士のハンドサインのようなものだった。
 ぼくは恥ずかしを感じながら、宅配便の自転車に乗ったままこぶしを突き出して、ハンドサインをかえした。

「どこにいく?」

 真ん中にいる金髪をオールバッグにした男がいった。
 二十代前半くらいで派手な花柄のシャツを着ている。
 どこで手にいれたのか、手にはリボルバー式の拳銃がある。

 シロが現れてから警察の組織は徐々に機能しなくなっていた。
 多くの警官がシロに殺されていた。
 身を護るため、違法な武器を携帯していても捕まることはなかった。

「集合がかかっているだろ!」

 右に立つ百九十センチはありそうな背の高い男がぼくを見おろす。
 金髪の男と同年齢くらいで、ラッパーが着るようなおおきなサイズのTシャツを着ている。
 腰にはケースにはいった牛刀のような大きな包丁を提げている。

 左に立つもう一人は年長で三十代後半にみえた。
 背は低いがゴリラのような体形をしていた。
 身体にぴっちりとしたTシャツの袖から血管が浮きでた太い腕が伸びている。
 手にはところどころへこんでいる錆びた金属バットがある。

「……連絡がはいっていませんでした」

 ぼくはジーンズのポケットからスマホをとりだした。
 着信はない。

「水谷公園のグランドにいけ! シロがついに町に侵入してきた! 自警団が集まっている!」

 背が高い男がぼくを責めるようにいう。
  
(シロが町にやってきていることをもう知っているんだ……)

 自警団の三人は興奮している。
 目が血走り、声には怒りがこもっている。

「……公園にいきます」

 ぼくは来た道を引きかえそうとした。
 殺気だって武器をもった三人と関わりたくなかった。
 少し時間を置いて、また駅ビルにいくつもりだった。

(……これから町を出ようとしていることを知られたら、こいつらに何をされるかわからない)

「一緒にこい。おまえも一人だと危ない」

 ぼくが自転車のハンドルを握り、向きをかえようとすると、金髪がいった。

(……くそ)

「……この自転車、人に借りているんです。返してから公園にいきます」

 ぼくは混乱しながらいった。

(信じてもらえるわけがない、死んだ弟を生きかえらせるっていっても……)

「シロとの戦いより優先されることはない! 町を守るんだ!」

 背の高い男がいった。

「降りろ! 自転車に乗ってシロと戦えないだろ!」

 ゴリラのような男がぼくの前に立ち、道をふさぐ。

「おまえ! 逃げるつもりだな!」

 金髪と背の高い男がぼくの左右に立つ。
 ぼくを疑わしそうに上から下に、にらみつける。

(駅ビルはすぐそこにあるのに……)

 ぼくは自転車のハンドルから手を離した。
 心臓が早鐘を打ち、胃がしめつけられるように痛む。

(今、こいつらとシロと戦って、心中するわけにはいかない……)

 ぼくは心を決め、ハンドルを強く握り直して、自転車のペダルに足を乗せた。
 力を一気にこめる。

 自転車が動きだして、前輪がゴリラの身体にあたる。
 重い感触がハンドルから腕に伝わった。
 ゴリラはうめき声をあげて、半身になって横によろめいた。

(よし)

 前の道が空き、視界がひらける。
 ぼくは自転車を前に進めた。
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