【完結】異世界帰りの錬金術師が、わたしを救う。

シハ

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田丸亮二と錬金術師

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 自警団の三人を突破して、視界がひらけた。
 自転車のペダルを漕ぐ足にさらに力をこめる。
 けれど、荷台に健斗が入った箱を積んだ自転車はスピードがでない。
 電動自転車の充電がされていないのがいまいましい。

「待て! こらっ!」

 すぐに背の高い男が後ろから迫ってくる。
 巨体に似合わず足が速い。
 男に横に並ばれる。
 男が飛びあがり、横からぼくを蹴る。

 衝撃で手からハンドルが離れ、ぼくはアスファルトの地面に転倒した。
 荷台がつき安定しいてる自転車は倒れないで、そのまま前に進んでいく。
 
「おまえ、シロから逃げるつもりだったな!」

 痛がっている間もなく自警団の三人がやってくる。
 ぼくは尻もちをついた状態で取り囲まれた。

「タマなし」

 金属バットを手にしたゴリラがぼくを見おろしにらみつける。

「逃げられないようにしてやる」

 顔が怒りで赤黒くなっている。
 声はぞっとするように低い。
 腕が太いゴリラが金属バットを両手で持ってふりあげる。

 血の気がひいて、ぼくは身体がすくんで動けなかった。
 ゴリラはぼくの脚にむけてバットを勢いよくふりおろす。
 金属バットが空を切る音がする。
 
 バットがぼくの片方の膝頭に直撃する。
 骨が折れたようないやな音がした。
 頭の先まで痺れるような激痛が走る。
 ぼくは大きく口をひらいて叫んで、地面に転がった。

 自警団の三人は苦痛にうめいてるぼくを罵り、蹴っ飛ばす。
 痛みでなにをいっているのかはわからない。 
 ぼくは顔を両腕で覆って、嵐が過ぎるのをひたすら待った。
 自警団の三人は息切れするほどぼくを蹴りつづけて、罵りおえると、気がすんだのか去っていった。

(……あいつら、シロに毒をかけられればいい)
 
 ぼくは自警団の三人の姿が見えなくなってから、上半身を起こした。
 膝の痛みは時間がたつとさらにつよくなる。
 怒りと身体中の痛みで目に涙がにじむ。
 地面に両手を突いて、ゆっくりと立とうとした。

 けれど、膝に激痛が走り、一歩も動くことができない。
 十センチも移動できない。
 打撲の痛みで、高熱がでたように身体が熱い。

(……こんな状態で横浜にはいけない。家にも帰れない。今、シロが現れたら逃げられない)

 目の前が真っ暗になった。
 沈んだ気持ちで、近くの縁石にぶつかって止まっている健斗を乗せた自転車を見ていると、近づいてくる足音がきこえた。
 目をやると、駅ビルのほうから、男の人と女の人が走ってこちらにやってくる。

(……ほかの自警団のやつか)

 さらに絶望的な気持ちなっていると、ふたりはぼくの前で足をとめた。

「待ってて。あなたのケガ、治すから」

 女の人がいった。
 一瞬、痛みを忘れるほど目鼻立ちが整ったきれいな顔をしている。
 切れ長の目。すっと伸びた鼻。薄い唇。シュとした顎のライン。

「あと少し我慢して」

 ワンピースを着た身体と首はほっそりとして、手足がすらりとながい。
 年はぼくより少し上にみえる。
 背中まであるまっすぐな黒い髪もきれいだった。

「あんたがボコられたところ、みかけた」

 男の人が口をひらいた。
 腕を組み、ぼくを見おろしている。
 ヤンキーのように威圧的だった。
 首にネックレスをし、タンクトップにジャガーパンツ姿の男の人は二十代前半にみえる。
 背が高い。ぼくを自転車から引きずり下ろした自警団の男とおなじくらいありそうだった。
 
「自警団のやつらだろ。三対一とかクソだな。止めようとしたんだけどな。間に合わなかった」

 銀色の短髪。鋭い目つき。引き締まった身体つき。
 片方の手首に白い虎のタトゥーがある。

「……ケガを治せるって?」

(医者に連れていってくれるのか?)

 ぼくはふたりが自警団でないらしいことに胸をなでおろしながらきいた。
 そのとき、ふたりの後ろから走ってやってくる人影が見えた。

「……あ」

 ぼくはそいつが立ち止まって、きれいな女の人とヤンキーっぽい男の人の間に立ったとき、驚きの声をあげた。

「田丸くん」

 ぼくと視線があったやつがいった。
 ぼくの苗字を口にする。
 
(風井……)
 
 思いがけないところで、高校の同級生と会った。
 黒縁の眼鏡をかけた風井は、学校で見たとき同じように寝ぐせのように髪が逆立っている。
 青いシャツにジーンズ姿で、背中におおきなリュックを背負っている。
 ぼくは驚いていたけれど、風井は平然としている。

「田丸くん、これ食べて」

 風井は倒れているぼくを見ながら、学校以外の場所でぼくと会ったことにリアクションをしないで、ジーンズに提げた紺色の布の袋から一枚の赤い葉っぱをとりだす。
 
「食べれば痛みはなくなる」
 
 風井は断言するようにいって、ぼくに葉っぱを差しだす。
 ちぎったレタスくらいのおおきさで、熱帯の植物のように厚みがある。

(……なんだよ、これは。どうして、風井は葉っぱなんかもってるんだ)

 ぼくは赤い葉っぱを受け取ったけれど、口にいれる気になれなかった。

「風井、なに、これ?」

(……骨が折れてるかもしれないんだぞ、こんな葉っぱで痛みがなくなるかよ……)

「とっとと食え」

 ためらっていると、ヤンキーっぽい男の人がぼくをにらみつける。

「口にいれてもへいき。お腹、こわしたりしないから」

 きれいな女の人が諭すようにいった。

(……どうにでもなれ)

 ぼくは葉っぱを丸めて口の中にいれた。
 あまり嚙まずに一息にのみこんだ。
 意外にもうすい甘みがある。

(……あれ)

 すぐに激痛があった膝、身体に変化がでた。
 たちまち金属バットで叩かれた膝の痛みが引いていく。

 ぼくはおそるおそる立ちあがった。
 うそみたいに痛みはない。
 数歩、歩いてみても、膝はなんともない。
 自警団の男たちに蹴られた身体の痛みも、熱もなくなっている。

「……どうなってるんだ?」

 ぼくは呆然としたまま風井に声をかけた。

「田丸くん、佐野ユカリさんと友達?」

 風井はぼくの質問に答えないで、突然、ユカリの名前を口にした。

「……ああ」
 
 ぼくはとまどいながら答えた。

「やっぱり。同姓同名もありえると思ったけど。田丸くんだったんだ」

 風井がぼくに近づいてくる。

「……田丸くん、弟さん亡くなったんだね。佐野ユカリさんからきみの話をきている」

「……おまえなの? 人を生きかえらせるっていうのは」

 口があんぐりとひらいた。

「三人とも高校生くらいだった。ふたりは男の子、ひとりは女の子」

 (ユカリがいっていたのはこの三人のことなのか……)
 
「色々、驚いてるかもしれないけど、場所をかえよう」

 風井が顎で駅ビルをさす。

「ここにいるとシロがやってくるかもしれない。ビルの中に入ろう。そこで説明する」

 
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