【完結】異世界帰りの錬金術師が、わたしを救う。

シハ

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田丸亮二と錬金術師

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 ぼくは駅ビルの静かな地下フロアをゆっくり歩きながら風井からきいた話を整理した。

 風井、小坂さん、花園くんはマクドナルドで、壁に出現した時空の裂け目を見つけた。
 その穴から異世界にワープをした。
 異世界で風井は錬金術師、小坂さんは武道家、花園くんは魔法使いになった。
 魔物を討伐していた。

 そして、異世界にいる間に風井は、錬金術でこっちの世界に戻ってこられるアイテムを作り、現代の日本に戻ってきた。
 シロは風井がいた異世界にいる魔物だった。
 そのシロが風井たちのように時空の裂け目から日本にやってきた。

 シロは人間に寄生をして卵を産んで、仲間を増やしていった。
 シロは仲間が十分に増えると、自分達の生存に邪魔な人間たちを殺しはじめた。
 風井たちはシロと戦いながら錬金術で作ったアイテムでシロに殺された人間を蘇らせている。
 寿命が一年のシロが世界からいなくなるまでに人間が生き残っていられるように。

 風井たちがいない状態で、ひとりになって考えているとめちゃくちゃな話に思える。
 けれど、否定もできず、ぼくは風井のアイテムに期待をもちはじめていた。

 風井は錬金釜で作ったというアイテムで、金属バットで叩かれたぼくの膝の痛みをきれいに消した。
 ビルのドアを不思議な鍵であけた。
 異世界に戻るために一瞬にして姿を消した。

(……高度な手品のトリックでもできないことだろう。だったら、健斗も生きかえらせることができるんじゃないか。ユカリのおじいさんを蘇えらせたように)

 ベンチに戻って、すわっているとズボンのポケットのスマホが鳴った。
 確認すると自警団からのメッセージだった。
 
 町で自警団はシロと戦っているようだった。
 自警団のメンバーたちに応戦するように呼びかけている。
 その檄文のようなメッセージを見ていると、ビルの外の様子が気になり、不安がつよくなった。

(……外にすこしだけ出てみようか……どのくらいのシロが町にいるんだろう……)

 ひとりで安全な建物にいることに罪悪感を感じはじめた。

「ただいま」

 ビルの外の様子を思っていると、突然、風井、小坂さん、花園くんがベンチの前に現れた。
 前ぶれ、音もなく。

「……はやかったな」

 ぼくはベンチからずり落ちそうになった。
 風井たちがいなくなってから一時間も経っていない。

「あんたもはやく弟を生きかえらせたいだろ」
 
 花園くんがいった。
 手になぜかデッキブラシを持っている。
 銭湯の床を磨くようなやつだ。

(なんで、ブラシ……)

 花園くんの頬と腕に傷跡、痣ができていた。
 小坂さんの長い髪は運動した後のように乱れている。

(……異世界でなにがあったんだ……)

「必要な素材を集めてきた。さ、田丸くん、健斗くんの髪」

 頬におおきな痣がある風井が背負っていたリュックから釜をとりだす。
 釜をぼくの横のベンチにおく。
 ぼくはズボンのポケットから健斗の髪をとりだして、わたした。

「これで素材がそろった。健斗くんを生きかえらせるアイテムが作れる」

 風井は釜の上部のふたを外し、健斗の髪の毛をいれ、ふたを閉じる。

「アムリ、イグニ、ウルタス」

 それから、世界のどこの国にもないような言葉をつぶいて、ふたのてっぺんを人差し指で軽く押す。
 家電製品のボタンを押すような仕草だった。

 すると、釜の表面に埋め込まれた石が、赤、青、白色に光りだす。
 中から水がごぼごぼと沸騰するような音がする。
 ふたの隙間から蒸気のような白い細い煙が立ちのぼる。

(……風井がいっていたことは嘘じゃない。ほんとうに錬金術師なんだろう)

 不思議な釜を見ながら思った。
 電気、ボタンがないのに光って、作動する釜はこの世界にはないだろう。

(健斗が生きかえるのか)

 ぼくはさらに期待をもちはじめて、唾を飲みこんだ。
 釜の音が止むと、釜の隙間からでていた白い煙が紫色にかわった。
 花園くんと小坂さんの表情が曇る。

「失敗だ」
 
 顔をしかめた風井が釜のふたをあける。
 釜の中から紫の煙が立ちのぼる。
 漏れたガスのような鼻が曲がりそうな臭いがする。

 ぼくは思わず腕で鼻を覆った。
 顔をしかめた風井たちも、手のひらで扇ぐように紫の煙を払う。

「……やっぱり、ギルドラゴンの血が足りなかったんだ。花園くんが次の場所にいこうってせかすから。とどめをさして血をちゃんと、とっておいたほうがよかった」

 風井が独り言のようにいった。
 風井たちは異世界で素材集めのためにモンスターと戦っていたようだった。
 顔の傷はそのときのものだろうと思った。

「あ、ヒトのせいにするなよ。おめえの錬金の腕がわるい」

 花園くんが風井をにらみつける。

「ね、しょうがいないよ。また、素材、集めにいこう」

 小坂さんが咳きこみながらいった。

「……ごめん、田丸くん」

 風井がぼくに顔をむける。

「錬金に失敗した。この釜は最高なんだけど、おれは錬金術師として最高なわけじゃないんだ」

 風井はあっけらかんとしていった。

「でもね、異世界の錬金術師のなかで、この錬金釜をつかえるのは風井くんだけなんだよ」

 小坂さんがフォローするようにいう。
 風井が錬金術を使うところを目のあたりにしていたぼくは、落胆していなかった。

「……というわけだから、異世界にもどって、また素材を集めてくる。もう少し、待っていて」

 風井は釜をリュックに入れて、背負いながらいった。

「あ、田丸くんに武器を渡しておく。この錬金釜で作ったんだ、田丸くんの護身用に」
 
 花園くんが持つデッキブラシを指さす。

「このブラシならシロにダメージを与えることができる。爆弾より強いブラシだ。万が一、シロがこの建物に入ってきたら、身を守ってくれ」

「……どうやって?」

「これで、シロの頭を殴るんだ」
 
 花園くんがいって、デッキブラシを突きだす。

「異世界にはシロにやられてしまって武器屋、鍛冶屋がいなくなってしまったんだ。剣なんかの武器もほとんどなくなってしまった」

 風井がいった。

「それで、宿屋にあったブラシを元に作ったんだ。見た目はブラシだけど立派な武器になる。フロスマンモスの骨、ソルナ鉱石、エドーの木を組みあわせて作ったんだ」

 風井は声を弾ませる。
 ブラシをうけとってみると、黒い柄がプラスティックのように軽い。
 黄色いブラシで軽く床をこすってみても、普通のブラシにしか感じられない。

(……武器になるのか)

「シロにダメージを与えたら、躊躇しないでスイカ割りのときみたいにやつの頭を叩いてとどめを刺せ。やつら、回復力がくそはやい。やつらが回復するまえに殺せ」

 花園くんが忠告する。

「……ああ、うん」
 
 このブラシでぼくがシロを倒せるとは思えない。
 けれど、ズボンのポケットにあるフィッシングナイフより、風井が錬金術で作った道具のほうがましだと思った。

「それじゃあ、また異世界にいってくる」

 風井はジーンズに提げた布の袋から黒い粉が入った瓶をとりだし、小坂さんと花園くんに渡す。
 それから三人はまた頭から粉をかけ、あっというまに姿を消した。

 ぼくはさっきより驚かなくなっていた。
 不思議な道具を使う風井の存在を受けいれはじめていた。

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