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田丸亮二と錬金術師
⑧
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ぼくは風井たちがいなくなると、地下にあるトイレの水面所で水を飲んだ。
それから、ベンチに座り直して学校での風井を思いだしてみた。
けれど、彼の記憶はほとんどなかった。
思い浮かぶのは休み時間、騒がしい生徒達から離れ、ワイヤレスのイヤフォンを耳にして机の椅子に座っている風井の姿だった。
いじめをうけていたわけではないけれど、風井はクラスで浮いた存在だった。
整った顔をしていて女生徒に人気があるようだったけれど、誰かと付き合っているという話はきいたことがない。
同じクラスだったとき、まともに会話をしたこともない。
風井が誰と親しかったのかも知らなかった。
その印象に残っていない同級生の風井はいっていた。
「おれはシロに殺された人間を錬金術で作ったアイテムで蘇らせているんだ」
「シロがいなくなるまでの間、ひとりでも多くの人を生き残っているようにしたい」
ぼくはとらえどころがない風井が、救世主のような行為をしているのを意外に思った。
一時間が経っても風井たちは姿を現さなかった。
スマホを確認すると、自警団のメッセージもない。
(……自警団の連中、シロと戦っているのか)
またビルの外の様子が気になって、落ち着かない気持ちになった。
それで、すこしだけ外にでることにした。
自警団の連中は嫌いだったけれど、ひとりだけ安全な場所にいることの後ろめたさがつよくなっていた。
ぼくは風井が錬金術で作ったというデッキブラシをもって、一階の正面のドアまで移動した。
ドアの外から物音はしない。
ドアをゆっくり薄くひらいて、外をうかがった。
陽が沈みはじめている。
夕方の陽に目を細めながら外にでた。
飛びこんできた光景に目を見ひらいた。
ビルの前の道路に数人の人が倒れていた。
建物の中に引き返そうとも思ったけれど、周囲にシロがいないか注意しながら、引き寄よせられるようにガードレールをまたいで、道路にでた。
五人が道路の中央に倒れている。
(こいつら……)
その中の三人はぼくに暴行をした自警団の男たちだった。
金髪、背が高い男、ゴリラ。
道路のセンターラインの上に仰向けになっている。
拳銃、包丁、金属バット。それぞれの武器が側に落ちている。
路肩には若い母親とその娘らしい五歳位の女の子が倒れている。
髪を茶色に染めた母親は、ピンクのワンピースを着た娘を守るように抱きしめ、横向きに倒れていた。
道路には血の痕がなく、五人の身体に出血した様子はない。
健斗のように穏やかな顔で目を閉じている。
(……シロに殺された)
吐き気が込みあげ、身体がすくんだ。
死体から引きはがすように視線を外すと、前方の道路に人の姿があった。
若い女の人と男の子がこちらに歩いてくる。
(あれ……)
ただの女の人と少年ではなかった。
服からでた顔と首の肌が異様に白いのが遠目からでもわかった。
(シロだ……)
逃げろ。
そう思っても脚がふるえて、膝から力が抜けて動けない。
二匹のシロがこちらにむかって走りだす。
両腕をふらないで、腕をだらりとさげたおかしな走り方だった。
それでも、ものすごい速さで迫ってくる。
「あいつら、とんでもなく足がはやいの」
おじいさんが入院していた病院でシロに出くわしたというユカリの話が頭によぎる。
ぼくは遅れてブラシを手にしたままシロに背をむけて走った。
けれど、足音が迫ってくる。
すぐに強い力で背後からTシャツをつかまれて、地面に引き倒された。
アスファルトの地面につよく背中を打って、手からブラシの柄が離れた。
女と少年の姿をしたシロに挟まれた。
ぼくはデッキブラシを拾い、とっさに立ちあがった。
「動かないでください」
前に立つ若い女の姿をしたシロが、片方の腕を突きだし、五本の指先をぼくにむける。
シロをこの目でみるの初めてだった。
女の姿をしたシロは人間だったら二十歳前後にみえる。
タンクトップにスキニーフィットのパンツといった格好だった。
顔の肌が光っているように白くて、なめらかだった。
青い目が濡れたように輝いている。
肩にかかる毛先を茶色に染めた髪は艶やかだった。
「痛み、苦しみはありません。あなたは眠るように息を引きとれます」
指先をぼくに近づけ、きれいな声で歌うように日本語を話す。
シロから香水のような甘い匂いがする。
(……シロはあの指から毒をだす。人間を殺す)
恐怖で全身に悪寒がはしった。
(なんでビルの外にでたんだ……)
自分の選択を呪った。
「抵抗してもむだです」
ぼくの後ろに立つ少年のシロが口をひらいた。
ふりかえると、弟の健斗と同年代、小学校の高学年にみえた。
ポロシャツと半ズボン姿で、ぽっちゃりとした体型をしている。
顔とポロシャツ、半ズボンから伸びた手足が異様に白い。
女のシロと同じようにさらさらとした髪をして、青い目が光っている。
「ぼくたちから逃げても、恐怖の時間がながくなるだけです」
透き通った声をしている。
二匹のシロは魔物といってもおどろおどろしい姿、声をしていなくて、きれいだった。
「わたしたちはあなたを苦しませたくはないんです。生き物が苦しんでいるところを見たくはありません」
女のシロがいった。
「怯えないでください。苦しまないで眠ることができます」
濡れた青い瞳に涙がにじんでいる。
片方の目からその涙が頬を伝う。
魔物のシロの目から流れているものが涙かどうかわからない。
けれど、これから殺そうとしているぼくを憐れんでいるようだった。
「このブラシならシロにダメージを与えることができる。爆弾より強いブラシだ」
デッキブラシを渡されたとき、風井がいっていた。
(風井を信じよう……)
ぼくはブラシをにぎる手にできるかぎりの力を込めながら、シロの頭に狙いをつけた。
それから、ベンチに座り直して学校での風井を思いだしてみた。
けれど、彼の記憶はほとんどなかった。
思い浮かぶのは休み時間、騒がしい生徒達から離れ、ワイヤレスのイヤフォンを耳にして机の椅子に座っている風井の姿だった。
いじめをうけていたわけではないけれど、風井はクラスで浮いた存在だった。
整った顔をしていて女生徒に人気があるようだったけれど、誰かと付き合っているという話はきいたことがない。
同じクラスだったとき、まともに会話をしたこともない。
風井が誰と親しかったのかも知らなかった。
その印象に残っていない同級生の風井はいっていた。
「おれはシロに殺された人間を錬金術で作ったアイテムで蘇らせているんだ」
「シロがいなくなるまでの間、ひとりでも多くの人を生き残っているようにしたい」
ぼくはとらえどころがない風井が、救世主のような行為をしているのを意外に思った。
一時間が経っても風井たちは姿を現さなかった。
スマホを確認すると、自警団のメッセージもない。
(……自警団の連中、シロと戦っているのか)
またビルの外の様子が気になって、落ち着かない気持ちになった。
それで、すこしだけ外にでることにした。
自警団の連中は嫌いだったけれど、ひとりだけ安全な場所にいることの後ろめたさがつよくなっていた。
ぼくは風井が錬金術で作ったというデッキブラシをもって、一階の正面のドアまで移動した。
ドアの外から物音はしない。
ドアをゆっくり薄くひらいて、外をうかがった。
陽が沈みはじめている。
夕方の陽に目を細めながら外にでた。
飛びこんできた光景に目を見ひらいた。
ビルの前の道路に数人の人が倒れていた。
建物の中に引き返そうとも思ったけれど、周囲にシロがいないか注意しながら、引き寄よせられるようにガードレールをまたいで、道路にでた。
五人が道路の中央に倒れている。
(こいつら……)
その中の三人はぼくに暴行をした自警団の男たちだった。
金髪、背が高い男、ゴリラ。
道路のセンターラインの上に仰向けになっている。
拳銃、包丁、金属バット。それぞれの武器が側に落ちている。
路肩には若い母親とその娘らしい五歳位の女の子が倒れている。
髪を茶色に染めた母親は、ピンクのワンピースを着た娘を守るように抱きしめ、横向きに倒れていた。
道路には血の痕がなく、五人の身体に出血した様子はない。
健斗のように穏やかな顔で目を閉じている。
(……シロに殺された)
吐き気が込みあげ、身体がすくんだ。
死体から引きはがすように視線を外すと、前方の道路に人の姿があった。
若い女の人と男の子がこちらに歩いてくる。
(あれ……)
ただの女の人と少年ではなかった。
服からでた顔と首の肌が異様に白いのが遠目からでもわかった。
(シロだ……)
逃げろ。
そう思っても脚がふるえて、膝から力が抜けて動けない。
二匹のシロがこちらにむかって走りだす。
両腕をふらないで、腕をだらりとさげたおかしな走り方だった。
それでも、ものすごい速さで迫ってくる。
「あいつら、とんでもなく足がはやいの」
おじいさんが入院していた病院でシロに出くわしたというユカリの話が頭によぎる。
ぼくは遅れてブラシを手にしたままシロに背をむけて走った。
けれど、足音が迫ってくる。
すぐに強い力で背後からTシャツをつかまれて、地面に引き倒された。
アスファルトの地面につよく背中を打って、手からブラシの柄が離れた。
女と少年の姿をしたシロに挟まれた。
ぼくはデッキブラシを拾い、とっさに立ちあがった。
「動かないでください」
前に立つ若い女の姿をしたシロが、片方の腕を突きだし、五本の指先をぼくにむける。
シロをこの目でみるの初めてだった。
女の姿をしたシロは人間だったら二十歳前後にみえる。
タンクトップにスキニーフィットのパンツといった格好だった。
顔の肌が光っているように白くて、なめらかだった。
青い目が濡れたように輝いている。
肩にかかる毛先を茶色に染めた髪は艶やかだった。
「痛み、苦しみはありません。あなたは眠るように息を引きとれます」
指先をぼくに近づけ、きれいな声で歌うように日本語を話す。
シロから香水のような甘い匂いがする。
(……シロはあの指から毒をだす。人間を殺す)
恐怖で全身に悪寒がはしった。
(なんでビルの外にでたんだ……)
自分の選択を呪った。
「抵抗してもむだです」
ぼくの後ろに立つ少年のシロが口をひらいた。
ふりかえると、弟の健斗と同年代、小学校の高学年にみえた。
ポロシャツと半ズボン姿で、ぽっちゃりとした体型をしている。
顔とポロシャツ、半ズボンから伸びた手足が異様に白い。
女のシロと同じようにさらさらとした髪をして、青い目が光っている。
「ぼくたちから逃げても、恐怖の時間がながくなるだけです」
透き通った声をしている。
二匹のシロは魔物といってもおどろおどろしい姿、声をしていなくて、きれいだった。
「わたしたちはあなたを苦しませたくはないんです。生き物が苦しんでいるところを見たくはありません」
女のシロがいった。
「怯えないでください。苦しまないで眠ることができます」
濡れた青い瞳に涙がにじんでいる。
片方の目からその涙が頬を伝う。
魔物のシロの目から流れているものが涙かどうかわからない。
けれど、これから殺そうとしているぼくを憐れんでいるようだった。
「このブラシならシロにダメージを与えることができる。爆弾より強いブラシだ」
デッキブラシを渡されたとき、風井がいっていた。
(風井を信じよう……)
ぼくはブラシをにぎる手にできるかぎりの力を込めながら、シロの頭に狙いをつけた。
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