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谷崎春希と魔法使い
③
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内容は簡潔だった。
いたずらではないことを確認して詳しい話をききたいから、わたしに会いたい、それからシロに毒をかけられた友人がいる場所に行きたいと書いてある。
文面から相手の年齢、性別はわからない。
わたしはどきどきしながらメッセージのやりとりをした。
会うことに同意すると、待ち合わせの場所を指定してくる。
わたしの家から歩いて数分の小さな公園だった。
(この町の地理にくわしいひとなのかな……)
相手が住宅街にぽつんとある目立たない公園を知っているのを不思議に思った。
わたしは自分のことを十七歳、百五十五センチ、服装は白いTシャツに黒のジーンズ、髪を背中まで伸ばしていると伝えた。
用心のため、名前は教えなかった。
相手は自分の特徴を伝えてこなかった。
待ち合わせの時間は三十分後。
(……相手はふつうの人じゃない)
ほんの数時間前に仲山から綾子が死んだときかされてからの急展開に混乱しながら、初対面の人と会う緊張で胃が痛みだした。
(人をだます悪人かもしれない。いい人にしろ、わたしが今まで会ったことがないタイプの人だ)
家から公園までの道を思うと恐怖もつよくなる。
(外にはシロがいるかもしれない)
わたしはレースのカーテンを開けて、外を見た。
表にかわった様子はなくて、家の前の道を大きなバッグを背負って自転車に乗った若い男の人が通り過ぎていく。
ベットの上のスマホが振動する。
またびくりとしてスマホを確認すると、仲山からのメッセージだった。
「綾子の話はどうなった?」
小学校の前で仲山はわたしの話を信じていないようだった。
メッセージがきたことに意外に思った。
(……でも、まあ、それはそうだろう。綾子は恋人なんだから。また綾子に会える可能性がすこしでもあるなら、気になるだろう)
そう思いなおして、シロに殺された人間を生きかえらせるという人と連絡をとったこと、これからその人と公園で会ってから綾子の部屋に行くことを、メッセージで仲山に伝えた。
すぐに仲山から返信があった。
「おれも綾子の部屋にいっていいかな?」
(仲山は奇跡的に綾子が蘇ったら一緒に名古屋まで退避したいんだろう)
「これから会う人にあなたも一緒に綾子の部屋にいていいか確認してみる」
「まかっせきりで悪いけど、進展があったら教えてほしい。おれは18時頃まで家にいる」
仲山とのメッセージのやりとりを終えると約束の時間の十分前になっていた。
わたしは落ち着かない気持ちのまま、机の引き出しに閉まってあるカッターを護身用にポシェットに入れた。
魔除けの効果があると思いだして、部屋を出る前に机に飾ってある、家族で沖縄旅行にいったときに買ったシーサーに触れた。
(外にシロがいませんように……)
ポシェットを肩に提げて階段をおりていると、鍵がひらいて、玄関のドアがひらく音がした。
日用品の買いだしにいっていた母が帰ってきた。
「綾子ちゃんのこと、智春からきいた。お兄ちゃんから電話があった」
靴脱ぎ場に立っている母は青ざめ、眉を寄せている。
上がり框に、洗濯用の洗剤が入った買い物バッグがおいてある。
母は礼儀正しく明るい綾子を気にいっていた。
休みの日に綾子が家に遊びにくるとお菓子をつくってだしていた。
綾子がおいしそうに食べるのを満足そうに見ていた。
「……この間、お兄ちゃんがいってたでしょ。妹がシロに殺された自警団の人」
わたしは母に切り出した。
「わたし、その妹を生きかえらせたっていう人と会ってくる。お兄ちゃんにその人の連絡先、教えてもらって、コンタクトとったんだ」
(なんて会話をしているんだろう……)
自分がおかしな人間になってしまったように感じた。
「そう、うまくいくといいね……」
母がシロに殺された人間を生きかえらせる人の存在を否定しないのが意外だった。
シロが現れる前、母はスピリチュアル、オカルトを信じない人だった。
詐欺師だと毛嫌いしていた。
その母親が兄の話をうけ入れていることに不安になる。
「でもね、だめ、今は外にでたら。シロはここまで来てるかもしれないんだから」
母は動揺している。
「綾子ちゃんのことはそのひとにまかせておきましょう」
「直接、会わないとだめなの」
「お父さんたちが戻ってくるまで屋根裏にいよう」
母は地震があって家の中が強く揺れても平然としている人だった。
その母が怯えている様子を見ていると意思がくじけそうになる。
「危なそうだったらすぐに帰ってくる」
わたしは気持ちが折れてしまわないうちに、靴脱ぎ場のサンダルに足をつっかけた。
そのとき、母に腕をつかまれた。
「春希、だめだよ」
腕をはらうと、母がよろけて、上がり框に倒れた。
「ごめん」
それでも、わたしはドアをあけて、表に飛びだした。
「春希!」
後ろから母の怒鳴り声がする。
「ちゃんと帰ってくるから!」
わたしは家の門をあけて、後ろをふりかえらずに走った。
喧嘩別れした綾子を生きかえらせるために。
綾子との関係がかわったのは高校生になってからだった。
わたしは私立、綾子は公立の高校に進学をしていた。
高校が別々になってもわたしたちは連絡をとりあっていた。
高校でわたしは綾子のような友達はできず、ひとりで過ごしていた。
友人がいない学校は退屈だった。
そんな中、休みの日に綾子と会うのを楽しみにしていた。
中学生の頃より頻度はすくなくなっていたけれど、休みの日には綾子と顔をあわせていた。
けれど、会う回数さらに減っていった。
「わたし、誠也とつきあってるんだ」
高校一年生の夏休みが終わり、新学期がはじまった頃、彼女の部屋に遊びにいったとき、綾子がいった。
「誠也って?」
「仲山誠也。中三のとき、同じクラスだった。サッカー部のやつ」
彼氏の名前を口にしたとき、綾子の顔はほころんでいた。
夏休み、わたしと綾子は地元の神社の夏祭りにいった。
そこで、仲山と再会をした。
仲山から綾子に声をかけ、ふたりは連絡先を交換していた。
(綾子、かわいいからな……)
高校生になってから、綾子はわたしがどきっとするくらい見た目がかわりはじめていた。
ナチュラルメイクをするようになっていた。
祭りの終わりに打ち上げ花火があがっていたとき、仲山は呆けたように綾子の横顔をみていた。
綾子に惹かれているのはあきらかだった。
「よかったね」
わたしは綾子から彼氏ができたときかされて、動揺をした。
それまで好きな韓国の俳優で盛りあがっていた綾子が急に遠い存在にみえた。
わたしがしらないところで綾子が仲山と連絡をとりあっていたのもショックだった。
わたしは高校で数えるほどしか男子としゃべったことがなかった。
彼氏ができると考えたこともなかった。
別世界にいる綾子と今までのように仲良くできなるのかと不安になった。
不安はすぐに現実となった。
わたしはサンダルを履いた足で小走りで待ち合わせの公園にむかった。
通りかかった家の近くのコンビニのシャッターがいつのまにか閉まっている。
店で売る商品がなくなったのか、店長が町を離れて退避したのだろうか。
数日前までは、がらんとした棚にいくつかの商品が並び、営業をしていた。
町が本格的にシロの脅威にさらされていると感じて恐怖がつよくなる。
公園に着いたのは約束の時間の一分前だった。
(……まだ、きてないのかな)
待ち合わせの相手らしいひとはみあたらない。
(たちの悪いいたずらだったのかな……)
そこは木のベンチに鉄棒、ブラコンコが二台あるだけのフェンスに囲まれた小さな公園だった。
五歳くらいの女の子がブランコに乗っている。
側に父親らしいTシャツに短パン姿の男の人がいる。
スマホをみているその男の人は、片方の手に護身用のためだろうか、錆びた古いゴルフクラブをもっている。
女の子と父親から離れた公園の奥、フェンスの側に背が高い若い男の人がいる。
父娘とはあきらかに他人のようだった。
(やだな……)
わたしが住んでいる地域では珍しく柄が悪い人だった。
短い髪を銀髪にして、Tシャツの上にバスケットボールチームのユニフォームを着て、ゆったりとしたズボンを穿いている。
あわてて目をそらすと、そのひとは大きな身体に似合わない速い足取りで、近づいてくる。
(でか……)
距離が近づくにつれてさらに大きくなる。
わたしがこれまで見できたどの男の人よりも背が高い。
道を空けようとすると、わたしの目の前で男の人が立ち止まって、胴体で視界がふさがれた。
「谷崎さん?」
突然、思いもよらない相手から苗字を低い声で呼ばれてどきりとする。
(え、このひと……)
「おれがあんたと連絡をとってた。花園だ。よろしく」
花園と名乗った男の人は、上からスマホの画面をわたしに見せる。
大きな手の中にある画面を見あげると、わたしとのメッセージのやりとりが表示されている。
「あんた、谷崎さんだろ?」
わたしが言葉がでずにいると、男の人はいらついたようにいった。
(だまされた……)
目の前の柄の悪いひとが、どうやっても綾子を蘇生できるとは思えない。
(犯罪グループの一員じゃないの……)
いたずらではないことを確認して詳しい話をききたいから、わたしに会いたい、それからシロに毒をかけられた友人がいる場所に行きたいと書いてある。
文面から相手の年齢、性別はわからない。
わたしはどきどきしながらメッセージのやりとりをした。
会うことに同意すると、待ち合わせの場所を指定してくる。
わたしの家から歩いて数分の小さな公園だった。
(この町の地理にくわしいひとなのかな……)
相手が住宅街にぽつんとある目立たない公園を知っているのを不思議に思った。
わたしは自分のことを十七歳、百五十五センチ、服装は白いTシャツに黒のジーンズ、髪を背中まで伸ばしていると伝えた。
用心のため、名前は教えなかった。
相手は自分の特徴を伝えてこなかった。
待ち合わせの時間は三十分後。
(……相手はふつうの人じゃない)
ほんの数時間前に仲山から綾子が死んだときかされてからの急展開に混乱しながら、初対面の人と会う緊張で胃が痛みだした。
(人をだます悪人かもしれない。いい人にしろ、わたしが今まで会ったことがないタイプの人だ)
家から公園までの道を思うと恐怖もつよくなる。
(外にはシロがいるかもしれない)
わたしはレースのカーテンを開けて、外を見た。
表にかわった様子はなくて、家の前の道を大きなバッグを背負って自転車に乗った若い男の人が通り過ぎていく。
ベットの上のスマホが振動する。
またびくりとしてスマホを確認すると、仲山からのメッセージだった。
「綾子の話はどうなった?」
小学校の前で仲山はわたしの話を信じていないようだった。
メッセージがきたことに意外に思った。
(……でも、まあ、それはそうだろう。綾子は恋人なんだから。また綾子に会える可能性がすこしでもあるなら、気になるだろう)
そう思いなおして、シロに殺された人間を生きかえらせるという人と連絡をとったこと、これからその人と公園で会ってから綾子の部屋に行くことを、メッセージで仲山に伝えた。
すぐに仲山から返信があった。
「おれも綾子の部屋にいっていいかな?」
(仲山は奇跡的に綾子が蘇ったら一緒に名古屋まで退避したいんだろう)
「これから会う人にあなたも一緒に綾子の部屋にいていいか確認してみる」
「まかっせきりで悪いけど、進展があったら教えてほしい。おれは18時頃まで家にいる」
仲山とのメッセージのやりとりを終えると約束の時間の十分前になっていた。
わたしは落ち着かない気持ちのまま、机の引き出しに閉まってあるカッターを護身用にポシェットに入れた。
魔除けの効果があると思いだして、部屋を出る前に机に飾ってある、家族で沖縄旅行にいったときに買ったシーサーに触れた。
(外にシロがいませんように……)
ポシェットを肩に提げて階段をおりていると、鍵がひらいて、玄関のドアがひらく音がした。
日用品の買いだしにいっていた母が帰ってきた。
「綾子ちゃんのこと、智春からきいた。お兄ちゃんから電話があった」
靴脱ぎ場に立っている母は青ざめ、眉を寄せている。
上がり框に、洗濯用の洗剤が入った買い物バッグがおいてある。
母は礼儀正しく明るい綾子を気にいっていた。
休みの日に綾子が家に遊びにくるとお菓子をつくってだしていた。
綾子がおいしそうに食べるのを満足そうに見ていた。
「……この間、お兄ちゃんがいってたでしょ。妹がシロに殺された自警団の人」
わたしは母に切り出した。
「わたし、その妹を生きかえらせたっていう人と会ってくる。お兄ちゃんにその人の連絡先、教えてもらって、コンタクトとったんだ」
(なんて会話をしているんだろう……)
自分がおかしな人間になってしまったように感じた。
「そう、うまくいくといいね……」
母がシロに殺された人間を生きかえらせる人の存在を否定しないのが意外だった。
シロが現れる前、母はスピリチュアル、オカルトを信じない人だった。
詐欺師だと毛嫌いしていた。
その母親が兄の話をうけ入れていることに不安になる。
「でもね、だめ、今は外にでたら。シロはここまで来てるかもしれないんだから」
母は動揺している。
「綾子ちゃんのことはそのひとにまかせておきましょう」
「直接、会わないとだめなの」
「お父さんたちが戻ってくるまで屋根裏にいよう」
母は地震があって家の中が強く揺れても平然としている人だった。
その母が怯えている様子を見ていると意思がくじけそうになる。
「危なそうだったらすぐに帰ってくる」
わたしは気持ちが折れてしまわないうちに、靴脱ぎ場のサンダルに足をつっかけた。
そのとき、母に腕をつかまれた。
「春希、だめだよ」
腕をはらうと、母がよろけて、上がり框に倒れた。
「ごめん」
それでも、わたしはドアをあけて、表に飛びだした。
「春希!」
後ろから母の怒鳴り声がする。
「ちゃんと帰ってくるから!」
わたしは家の門をあけて、後ろをふりかえらずに走った。
喧嘩別れした綾子を生きかえらせるために。
綾子との関係がかわったのは高校生になってからだった。
わたしは私立、綾子は公立の高校に進学をしていた。
高校が別々になってもわたしたちは連絡をとりあっていた。
高校でわたしは綾子のような友達はできず、ひとりで過ごしていた。
友人がいない学校は退屈だった。
そんな中、休みの日に綾子と会うのを楽しみにしていた。
中学生の頃より頻度はすくなくなっていたけれど、休みの日には綾子と顔をあわせていた。
けれど、会う回数さらに減っていった。
「わたし、誠也とつきあってるんだ」
高校一年生の夏休みが終わり、新学期がはじまった頃、彼女の部屋に遊びにいったとき、綾子がいった。
「誠也って?」
「仲山誠也。中三のとき、同じクラスだった。サッカー部のやつ」
彼氏の名前を口にしたとき、綾子の顔はほころんでいた。
夏休み、わたしと綾子は地元の神社の夏祭りにいった。
そこで、仲山と再会をした。
仲山から綾子に声をかけ、ふたりは連絡先を交換していた。
(綾子、かわいいからな……)
高校生になってから、綾子はわたしがどきっとするくらい見た目がかわりはじめていた。
ナチュラルメイクをするようになっていた。
祭りの終わりに打ち上げ花火があがっていたとき、仲山は呆けたように綾子の横顔をみていた。
綾子に惹かれているのはあきらかだった。
「よかったね」
わたしは綾子から彼氏ができたときかされて、動揺をした。
それまで好きな韓国の俳優で盛りあがっていた綾子が急に遠い存在にみえた。
わたしがしらないところで綾子が仲山と連絡をとりあっていたのもショックだった。
わたしは高校で数えるほどしか男子としゃべったことがなかった。
彼氏ができると考えたこともなかった。
別世界にいる綾子と今までのように仲良くできなるのかと不安になった。
不安はすぐに現実となった。
わたしはサンダルを履いた足で小走りで待ち合わせの公園にむかった。
通りかかった家の近くのコンビニのシャッターがいつのまにか閉まっている。
店で売る商品がなくなったのか、店長が町を離れて退避したのだろうか。
数日前までは、がらんとした棚にいくつかの商品が並び、営業をしていた。
町が本格的にシロの脅威にさらされていると感じて恐怖がつよくなる。
公園に着いたのは約束の時間の一分前だった。
(……まだ、きてないのかな)
待ち合わせの相手らしいひとはみあたらない。
(たちの悪いいたずらだったのかな……)
そこは木のベンチに鉄棒、ブラコンコが二台あるだけのフェンスに囲まれた小さな公園だった。
五歳くらいの女の子がブランコに乗っている。
側に父親らしいTシャツに短パン姿の男の人がいる。
スマホをみているその男の人は、片方の手に護身用のためだろうか、錆びた古いゴルフクラブをもっている。
女の子と父親から離れた公園の奥、フェンスの側に背が高い若い男の人がいる。
父娘とはあきらかに他人のようだった。
(やだな……)
わたしが住んでいる地域では珍しく柄が悪い人だった。
短い髪を銀髪にして、Tシャツの上にバスケットボールチームのユニフォームを着て、ゆったりとしたズボンを穿いている。
あわてて目をそらすと、そのひとは大きな身体に似合わない速い足取りで、近づいてくる。
(でか……)
距離が近づくにつれてさらに大きくなる。
わたしがこれまで見できたどの男の人よりも背が高い。
道を空けようとすると、わたしの目の前で男の人が立ち止まって、胴体で視界がふさがれた。
「谷崎さん?」
突然、思いもよらない相手から苗字を低い声で呼ばれてどきりとする。
(え、このひと……)
「おれがあんたと連絡をとってた。花園だ。よろしく」
花園と名乗った男の人は、上からスマホの画面をわたしに見せる。
大きな手の中にある画面を見あげると、わたしとのメッセージのやりとりが表示されている。
「あんた、谷崎さんだろ?」
わたしが言葉がでずにいると、男の人はいらついたようにいった。
(だまされた……)
目の前の柄の悪いひとが、どうやっても綾子を蘇生できるとは思えない。
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