【完結】異世界帰りの錬金術師が、わたしを救う。

シハ

文字の大きさ
15 / 40
谷崎春希と魔法使い

しおりを挟む
 内容は簡潔だった。
 いたずらではないことを確認して詳しい話をききたいから、わたしに会いたい、それからシロに毒をかけられた友人がいる場所に行きたいと書いてある。
 文面から相手の年齢、性別はわからない。

 わたしはどきどきしながらメッセージのやりとりをした。
 会うことに同意すると、待ち合わせの場所を指定してくる。
 わたしの家から歩いて数分の小さな公園だった。

(この町の地理にくわしいひとなのかな……)

 相手が住宅街にぽつんとある目立たない公園を知っているのを不思議に思った。
 わたしは自分のことを十七歳、百五十五センチ、服装は白いTシャツに黒のジーンズ、髪を背中まで伸ばしていると伝えた。
 用心のため、名前は教えなかった。
 相手は自分の特徴を伝えてこなかった。
 待ち合わせの時間は三十分後。

(……相手はふつうの人じゃない)

 ほんの数時間前に仲山から綾子が死んだときかされてからの急展開に混乱しながら、初対面の人と会う緊張で胃が痛みだした。

(人をだます悪人かもしれない。いい人にしろ、わたしが今まで会ったことがないタイプの人だ)

 家から公園までの道を思うと恐怖もつよくなる。

(外にはシロがいるかもしれない)

 わたしはレースのカーテンを開けて、外を見た。
 表にかわった様子はなくて、家の前の道を大きなバッグを背負って自転車に乗った若い男の人が通り過ぎていく。
 
 ベットの上のスマホが振動する。
 またびくりとしてスマホを確認すると、仲山からのメッセージだった。

「綾子の話はどうなった?」

 小学校の前で仲山はわたしの話を信じていないようだった。
 メッセージがきたことに意外に思った。

(……でも、まあ、それはそうだろう。綾子は恋人なんだから。また綾子に会える可能性がすこしでもあるなら、気になるだろう)

 そう思いなおして、シロに殺された人間を生きかえらせるという人と連絡をとったこと、これからその人と公園で会ってから綾子の部屋に行くことを、メッセージで仲山に伝えた。
 すぐに仲山から返信があった。

「おれも綾子の部屋にいっていいかな?」

(仲山は奇跡的に綾子が蘇ったら一緒に名古屋まで退避したいんだろう)

「これから会う人にあなたも一緒に綾子の部屋にいていいか確認してみる」

「まかっせきりで悪いけど、進展があったら教えてほしい。おれは18時頃まで家にいる」

 仲山とのメッセージのやりとりを終えると約束の時間の十分前になっていた。
 わたしは落ち着かない気持ちのまま、机の引き出しに閉まってあるカッターを護身用にポシェットに入れた。
 魔除けの効果があると思いだして、部屋を出る前に机に飾ってある、家族で沖縄旅行にいったときに買ったシーサーに触れた。

(外にシロがいませんように……)

 ポシェットを肩に提げて階段をおりていると、鍵がひらいて、玄関のドアがひらく音がした。
 日用品の買いだしにいっていた母が帰ってきた。

「綾子ちゃんのこと、智春からきいた。お兄ちゃんから電話があった」

 靴脱ぎ場に立っている母は青ざめ、眉を寄せている。
 上がり框に、洗濯用の洗剤が入った買い物バッグがおいてある。
 母は礼儀正しく明るい綾子を気にいっていた。
 休みの日に綾子が家に遊びにくるとお菓子をつくってだしていた。
 綾子がおいしそうに食べるのを満足そうに見ていた。

「……この間、お兄ちゃんがいってたでしょ。妹がシロに殺された自警団の人」

 わたしは母に切り出した。

「わたし、その妹を生きかえらせたっていう人と会ってくる。お兄ちゃんにその人の連絡先、教えてもらって、コンタクトとったんだ」

 (なんて会話をしているんだろう……)
 
 自分がおかしな人間になってしまったように感じた。

「そう、うまくいくといいね……」

 母がシロに殺された人間を生きかえらせる人の存在を否定しないのが意外だった。
 シロが現れる前、母はスピリチュアル、オカルトを信じない人だった。
 詐欺師だと毛嫌いしていた。
 その母親が兄の話をうけ入れていることに不安になる。

「でもね、だめ、今は外にでたら。シロはここまで来てるかもしれないんだから」

 母は動揺している。

「綾子ちゃんのことはそのひとにまかせておきましょう」

「直接、会わないとだめなの」

「お父さんたちが戻ってくるまで屋根裏にいよう」

 母は地震があって家の中が強く揺れても平然としている人だった。
 その母が怯えている様子を見ていると意思がくじけそうになる。

「危なそうだったらすぐに帰ってくる」

 わたしは気持ちが折れてしまわないうちに、靴脱ぎ場のサンダルに足をつっかけた。
 そのとき、母に腕をつかまれた。

「春希、だめだよ」

 腕をはらうと、母がよろけて、上がり框に倒れた。

「ごめん」

 それでも、わたしはドアをあけて、表に飛びだした。

「春希!」

 後ろから母の怒鳴り声がする。

「ちゃんと帰ってくるから!」

 わたしは家の門をあけて、後ろをふりかえらずに走った。
 喧嘩別れした綾子を生きかえらせるために。


 綾子との関係がかわったのは高校生になってからだった。
 わたしは私立、綾子は公立の高校に進学をしていた。
 高校が別々になってもわたしたちは連絡をとりあっていた。

 高校でわたしは綾子のような友達はできず、ひとりで過ごしていた。
 友人がいない学校は退屈だった。
 そんな中、休みの日に綾子と会うのを楽しみにしていた。

 中学生の頃より頻度はすくなくなっていたけれど、休みの日には綾子と顔をあわせていた。
 けれど、会う回数さらに減っていった。

 「わたし、誠也とつきあってるんだ」
 
 高校一年生の夏休みが終わり、新学期がはじまった頃、彼女の部屋に遊びにいったとき、綾子がいった。
 
「誠也って?」

「仲山誠也。中三のとき、同じクラスだった。サッカー部のやつ」

 彼氏の名前を口にしたとき、綾子の顔はほころんでいた。
 夏休み、わたしと綾子は地元の神社の夏祭りにいった。
 そこで、仲山と再会をした。
 仲山から綾子に声をかけ、ふたりは連絡先を交換していた。

(綾子、かわいいからな……)

 高校生になってから、綾子はわたしがどきっとするくらい見た目がかわりはじめていた。
 ナチュラルメイクをするようになっていた。
 祭りの終わりに打ち上げ花火があがっていたとき、仲山は呆けたように綾子の横顔をみていた。
 綾子に惹かれているのはあきらかだった。

「よかったね」

 わたしは綾子から彼氏ができたときかされて、動揺をした。
 それまで好きな韓国の俳優で盛りあがっていた綾子が急に遠い存在にみえた。
 わたしがしらないところで綾子が仲山と連絡をとりあっていたのもショックだった。

 わたしは高校で数えるほどしか男子としゃべったことがなかった。
 彼氏ができると考えたこともなかった。
 別世界にいる綾子と今までのように仲良くできなるのかと不安になった。
 不安はすぐに現実となった。

 
 わたしはサンダルを履いた足で小走りで待ち合わせの公園にむかった。
 通りかかった家の近くのコンビニのシャッターがいつのまにか閉まっている。
 店で売る商品がなくなったのか、店長が町を離れて退避したのだろうか。
 数日前までは、がらんとした棚にいくつかの商品が並び、営業をしていた。
 町が本格的にシロの脅威にさらされていると感じて恐怖がつよくなる。 
 公園に着いたのは約束の時間の一分前だった。

(……まだ、きてないのかな)

 待ち合わせの相手らしいひとはみあたらない。

(たちの悪いいたずらだったのかな……)

 そこは木のベンチに鉄棒、ブラコンコが二台あるだけのフェンスに囲まれた小さな公園だった。
 五歳くらいの女の子がブランコに乗っている。
 側に父親らしいTシャツに短パン姿の男の人がいる。
 スマホをみているその男の人は、片方の手に護身用のためだろうか、錆びた古いゴルフクラブをもっている。
 
 女の子と父親から離れた公園の奥、フェンスの側に背が高い若い男の人がいる。
 父娘とはあきらかに他人のようだった。

(やだな……)

 わたしが住んでいる地域では珍しく柄が悪い人だった。
 短い髪を銀髪にして、Tシャツの上にバスケットボールチームのユニフォームを着て、ゆったりとしたズボンを穿いている。
 あわてて目をそらすと、そのひとは大きな身体に似合わない速い足取りで、近づいてくる。

(でか……)
 
 距離が近づくにつれてさらに大きくなる。
 わたしがこれまで見できたどの男の人よりも背が高い。
 道を空けようとすると、わたしの目の前で男の人が立ち止まって、胴体で視界がふさがれた。

「谷崎さん?」

 突然、思いもよらない相手から苗字を低い声で呼ばれてどきりとする。

 (え、このひと……)

「おれがあんたと連絡をとってた。花園だ。よろしく」

 花園と名乗った男の人は、上からスマホの画面をわたしに見せる。
 大きな手の中にある画面を見あげると、わたしとのメッセージのやりとりが表示されている。

「あんた、谷崎さんだろ?」

 わたしが言葉がでずにいると、男の人はいらついたようにいった。

(だまされた……)

 目の前の柄の悪いひとが、どうやっても綾子を蘇生できるとは思えない。

(犯罪グループの一員じゃないの……)
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

僕だけ入れちゃうステータス欄 ~追放された凄腕バッファーは、たまたま出会った新人冒険者たちと真の最強パーティーを作り上げる~

めでめで汰
ファンタジー
バッファーの少年カイトのバフスキルは「ステータス欄の中に入って直接数字を動かす」というもの。 しかし、その能力を信じなかった仲間からカイトは追放され迷宮に置き去りにされる。 そこで出会ったLUK(幸運)値の高い少女ハルと共にカイトは無事迷宮から生還。 その後、カイトはハルの両親を探すため地下迷宮の奥へと挑むことを決意する。 (スライム、もふもふ出てきます。女の子に囲まれるけどメインヒロインは一人です。「ざまぁ」もしっかりあります)

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...