16 / 40
谷崎春希と魔法使い
④
しおりを挟む
わたしは後ろにさがって、男の人から距離をとった。
視界の隅にブランコの側にいた女の子の父親がはいる。
わたしが大男に因縁をつけられていると思っているのか、こちらをちらちらと見ている。
(帰ろう)
そう思ったけれど、綾子が気がかりですぐに足を動かせなかった。
「とって食いやしないよ」
男の人がうんざりしたようにいった。
他人からこわがられることに慣れているようないいかただった。
わたしははじめて正面から男の人を見あげた。
(あれ……)
すると、彫が深い鋭い顔をどこかで見たと思った。
そして、すぐにどこで見たのか思いだした。
男の人の名前と顔が重なった。
「さっそくだけど、シロに毒をかけられたあんたの友達のところに案内してくれ。シロは毒をかけて殺した人間を犬、猫に食わせる。そうなる前に」
わたしが黙ったままでいると、男の人はしびれをきらしたように公園の出入口にむかって歩きだす。
「ほら」
わたしがその場に立ったままでいると、ふりかえって、歩くように顎で公園の出入り口をさす。
女の子の父親がわたしの様子をうかがっている。
「わたしは谷崎です」
わたしは長い足で歩く男の人を小走りに追いかけた。
「……あの、花園くんは中学校、武蔵台二中ではなかったですか?」
横に並んでからきいた。
「そうだけど」
花園くんは眉をあげ、意外そうな顔をする。
「あ、やっぱり、わたしも武蔵台二中でした」
「同級生?」
「わたしが一学年上でした」
「ふーん」
花園くんは関心なさそうに軽くうなずく。
彼はわたしが中学三年のときに転校をしてきた。
転校して間もないときから、わたし達の学年でも注目を集めていた。
背がものすごく高いという理由だけではなく、悪い噂があった。
地元で不良グールプと喧嘩をして相手に重傷を負わせ、地元にいられなくなりわたし達の中学校に転校をしてきというはなしだった。
クラスの男子たちは怪談のように花園くんの話題を口にしていた。
校舎、校庭で何度か花園くんを見かけたことがある。
彼はいつもひとりでいて、周囲を威嚇するわけではないけれど、生徒たちは避けるように彼に道を空けていた。
(こわい……)
人をよせつけない迫力があった花園くんにそんな印象持ちながら、わたしとは住む世界がちがうと感じていた。
そんな彼と一度だけ、接触をしたことがある。
そのとき、わたしは担任の教師に頼まれて、職員室から教室までプリントを抱えて運んでいた。
渡り廊下で走ってやってくる下級生の男子とぶつかり、プリントがすべて地面に散らばった。
外は小雨が降っていた。
(もう、なにしてくれてるの)
謝りもせず、去っていった男子生徒に怒りながら雨に濡れないように慌てて数十枚のプリントを拾っていると、花園くんが通りかかった。
花園くんはおおきな身体をかがめ、プリントを数枚、拾ってくれた。
「ありがとうございます」
わたしがあたふたとお礼をいうと、彼は黙って去っていった。
(悪い人ではないのかも……)
教師に道を空けられながら校舎に入っていく花園くんを見ながら思った。
わたしが中学生だったとき、花園くんが問題行動を起こしたという話はきいていない。
(ヤバくなったらすぐに逃げよう)
わたしは渡り廊下での出来事を思いだしながら、彼を綾子の部屋まで連れていこうと迷いながら決めた。
花園くんと公園をでた。
「……あの、花園くんが生きかえらせるんですか? シロに殺された人を」
わたしは緊張しながら花園くんにたずねた。
「おれじゃない。ダチがシロに殺された人を生きかえらすことができる。今は別の場所にいるんだ。すぐに合流する」
「……その、お友達は医者かなにかなんですか?」
「高校生。あんたと同じ学年だよ」
(同年代の高校二年生)
わたしはますます混乱した。
「……その人はどうやって生きかえらせるんですか?」
「悪いけど、くわしい話を教えることはできない。今はおれがいってること、信じられないかもしれないけど、必ずあんたのダチを生きかえらせる」
花園くんはわたしを見おろし、確信がこもった声でいった。
「……亡くなった友達のカレが、彼女が生きかえるか、確かめたいようなんです」
わたしは並んで歩いたまま花園くんにきいた。
「その彼が、今から友達の部屋にいきたいって、いってるんです。彼を呼んでいいですか?」
「かまわないよ」
花園くんはいやなそぶりをみせず、わたしはほっとして仲山に綾子の部屋に来てもらいたいと歩きながらスマホで素早くメッセージを送った。
(仲山も部屋にいてもらったほうがいい。万が一、花園くんとその友達が、犯罪グループだったら、ふたりで力を合わせたほうが逃げやすい……)
「……友達のマンションは、ここから歩いて十分です」
「あ、そうだ」
道の角をまがったとき、花園くんが歩きながら、ズボンのポケットからなにかをとりだした。
それはボールのようなものだった。
ふたつあった。
卓球の球くらい小さい。
「これ、持ってて」
わたしは花園くんに差しだされたふたつのボールをうけとった。
赤く透明で厚いガラスのような硬い材質をしていた。
けれど、卓球の球のように軽い。
「シロを倒す武器だ。シロが現れたらシロめがけて、それを投げろ。これも、今は信じられないかもしれないけど、シロを倒せる」
(シロをやっつける武器なんてあるの……)
全国各地で、戦闘用の銃をもった自衛隊員の人達がシロとの戦闘で命を落としていた。
それなのにおもちゃみたいな小さなボールでシロを倒せると思えない。
「……どこで手に入れたんですか?」
「さっきいったダチから渡された」
(花園くんもその友達にだまされてるんじゃないの……)
わたしは信じられないことを真顔で話す花園くんが心配になりだした。
「急ぐぞ。シロの数が増える前に部屋に着いたほうがいい」
わたしが疑いながら赤いボールを手にしたままでいると、花園くんは足をはやめる。
わたしはふたつのボールをポシェットにいれながら、おそるおそる花園くんを追った。
視界の隅にブランコの側にいた女の子の父親がはいる。
わたしが大男に因縁をつけられていると思っているのか、こちらをちらちらと見ている。
(帰ろう)
そう思ったけれど、綾子が気がかりですぐに足を動かせなかった。
「とって食いやしないよ」
男の人がうんざりしたようにいった。
他人からこわがられることに慣れているようないいかただった。
わたしははじめて正面から男の人を見あげた。
(あれ……)
すると、彫が深い鋭い顔をどこかで見たと思った。
そして、すぐにどこで見たのか思いだした。
男の人の名前と顔が重なった。
「さっそくだけど、シロに毒をかけられたあんたの友達のところに案内してくれ。シロは毒をかけて殺した人間を犬、猫に食わせる。そうなる前に」
わたしが黙ったままでいると、男の人はしびれをきらしたように公園の出入口にむかって歩きだす。
「ほら」
わたしがその場に立ったままでいると、ふりかえって、歩くように顎で公園の出入り口をさす。
女の子の父親がわたしの様子をうかがっている。
「わたしは谷崎です」
わたしは長い足で歩く男の人を小走りに追いかけた。
「……あの、花園くんは中学校、武蔵台二中ではなかったですか?」
横に並んでからきいた。
「そうだけど」
花園くんは眉をあげ、意外そうな顔をする。
「あ、やっぱり、わたしも武蔵台二中でした」
「同級生?」
「わたしが一学年上でした」
「ふーん」
花園くんは関心なさそうに軽くうなずく。
彼はわたしが中学三年のときに転校をしてきた。
転校して間もないときから、わたし達の学年でも注目を集めていた。
背がものすごく高いという理由だけではなく、悪い噂があった。
地元で不良グールプと喧嘩をして相手に重傷を負わせ、地元にいられなくなりわたし達の中学校に転校をしてきというはなしだった。
クラスの男子たちは怪談のように花園くんの話題を口にしていた。
校舎、校庭で何度か花園くんを見かけたことがある。
彼はいつもひとりでいて、周囲を威嚇するわけではないけれど、生徒たちは避けるように彼に道を空けていた。
(こわい……)
人をよせつけない迫力があった花園くんにそんな印象持ちながら、わたしとは住む世界がちがうと感じていた。
そんな彼と一度だけ、接触をしたことがある。
そのとき、わたしは担任の教師に頼まれて、職員室から教室までプリントを抱えて運んでいた。
渡り廊下で走ってやってくる下級生の男子とぶつかり、プリントがすべて地面に散らばった。
外は小雨が降っていた。
(もう、なにしてくれてるの)
謝りもせず、去っていった男子生徒に怒りながら雨に濡れないように慌てて数十枚のプリントを拾っていると、花園くんが通りかかった。
花園くんはおおきな身体をかがめ、プリントを数枚、拾ってくれた。
「ありがとうございます」
わたしがあたふたとお礼をいうと、彼は黙って去っていった。
(悪い人ではないのかも……)
教師に道を空けられながら校舎に入っていく花園くんを見ながら思った。
わたしが中学生だったとき、花園くんが問題行動を起こしたという話はきいていない。
(ヤバくなったらすぐに逃げよう)
わたしは渡り廊下での出来事を思いだしながら、彼を綾子の部屋まで連れていこうと迷いながら決めた。
花園くんと公園をでた。
「……あの、花園くんが生きかえらせるんですか? シロに殺された人を」
わたしは緊張しながら花園くんにたずねた。
「おれじゃない。ダチがシロに殺された人を生きかえらすことができる。今は別の場所にいるんだ。すぐに合流する」
「……その、お友達は医者かなにかなんですか?」
「高校生。あんたと同じ学年だよ」
(同年代の高校二年生)
わたしはますます混乱した。
「……その人はどうやって生きかえらせるんですか?」
「悪いけど、くわしい話を教えることはできない。今はおれがいってること、信じられないかもしれないけど、必ずあんたのダチを生きかえらせる」
花園くんはわたしを見おろし、確信がこもった声でいった。
「……亡くなった友達のカレが、彼女が生きかえるか、確かめたいようなんです」
わたしは並んで歩いたまま花園くんにきいた。
「その彼が、今から友達の部屋にいきたいって、いってるんです。彼を呼んでいいですか?」
「かまわないよ」
花園くんはいやなそぶりをみせず、わたしはほっとして仲山に綾子の部屋に来てもらいたいと歩きながらスマホで素早くメッセージを送った。
(仲山も部屋にいてもらったほうがいい。万が一、花園くんとその友達が、犯罪グループだったら、ふたりで力を合わせたほうが逃げやすい……)
「……友達のマンションは、ここから歩いて十分です」
「あ、そうだ」
道の角をまがったとき、花園くんが歩きながら、ズボンのポケットからなにかをとりだした。
それはボールのようなものだった。
ふたつあった。
卓球の球くらい小さい。
「これ、持ってて」
わたしは花園くんに差しだされたふたつのボールをうけとった。
赤く透明で厚いガラスのような硬い材質をしていた。
けれど、卓球の球のように軽い。
「シロを倒す武器だ。シロが現れたらシロめがけて、それを投げろ。これも、今は信じられないかもしれないけど、シロを倒せる」
(シロをやっつける武器なんてあるの……)
全国各地で、戦闘用の銃をもった自衛隊員の人達がシロとの戦闘で命を落としていた。
それなのにおもちゃみたいな小さなボールでシロを倒せると思えない。
「……どこで手に入れたんですか?」
「さっきいったダチから渡された」
(花園くんもその友達にだまされてるんじゃないの……)
わたしは信じられないことを真顔で話す花園くんが心配になりだした。
「急ぐぞ。シロの数が増える前に部屋に着いたほうがいい」
わたしが疑いながら赤いボールを手にしたままでいると、花園くんは足をはやめる。
わたしはふたつのボールをポシェットにいれながら、おそるおそる花園くんを追った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~
華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』
たったこの一言から、すべてが始まった。
ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。
そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。
それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。
ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。
スキルとは祝福か、呪いか……
ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!!
主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。
ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。
ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。
しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。
一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。
途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。
その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。
そして、世界存亡の危機。
全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した……
※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。
東京ダンジョン物語
さきがけ
ファンタジー
10年前、世界中に突如として出現したダンジョン。
大学3年生の平山悠真は、幼馴染の綾瀬美琴と共に、新宿中央公園ダンジョンで探索者として活動していた。
ある日、ダンジョン10階層の隠し部屋で発見した七色に輝く特殊なスキルストーン。
絶体絶命の危機の中で発動したそれは、前代未聞のスキル『無限複製』だった。
あらゆる物を完全に複製できるこの力は、悠真たちの運命を大きく変えていく。
やがて妹の病を治すために孤独な戦いを続ける剣士・朝霧紗夜が仲間に加わり、3人は『無限複製』の真の可能性に気づき始める。
スキルを駆使して想像を超える強化を実現した彼らは、誰も到達できなかった未踏の階層へと挑んでいく。
無限の可能性を秘めた最強スキルを手に、若き探索者たちが紡ぐ現代ダンジョンファンタジー、ここに開幕!
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について
沢田美
恋愛
名門・雄幸高校で目立たず生きる一年生、神谷悠真。
クラスでは影が薄く、青春とは無縁の平凡な日々を送っていた。だがある放課後、街で不良に絡まれていた女子生徒を助けたことで、その日常は一変する。救った相手は、学年一の美少女三姉妹として知られる西園寺家の次女・優里だった。さらに家に帰れば、三姉妹の長女・龍華がなぜか当然のように悠真の部屋に入り浸っている。名門令嬢三姉妹に振り回されながら、静かだったはずの悠真の青春は少しずつ騒がしく揺れ始める。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~
bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる