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谷崎春希と魔法使い
④
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わたしは後ろにさがって、男の人から距離をとった。
視界の隅にブランコの側にいた女の子の父親がはいる。
わたしが大男に因縁をつけられていると思っているのか、こちらをちらちらと見ている。
(帰ろう)
そう思ったけれど、綾子が気がかりですぐに足を動かせなかった。
「とって食いやしないよ」
男の人がうんざりしたようにいった。
他人からこわがられることに慣れているようないいかただった。
わたしははじめて正面から男の人を見あげた。
(あれ……)
すると、彫が深い鋭い顔をどこかで見たと思った。
そして、すぐにどこで見たのか思いだした。
男の人の名前と顔が重なった。
「さっそくだけど、シロに毒をかけられたあんたの友達のところに案内してくれ。シロは毒をかけて殺した人間を犬、猫に食わせる。そうなる前に」
わたしが黙ったままでいると、男の人はしびれをきらしたように公園の出入口にむかって歩きだす。
「ほら」
わたしがその場に立ったままでいると、ふりかえって、歩くように顎で公園の出入り口をさす。
女の子の父親がわたしの様子をうかがっている。
「わたしは谷崎です」
わたしは長い足で歩く男の人を小走りに追いかけた。
「……あの、花園くんは中学校、武蔵台二中ではなかったですか?」
横に並んでからきいた。
「そうだけど」
花園くんは眉をあげ、意外そうな顔をする。
「あ、やっぱり、わたしも武蔵台二中でした」
「同級生?」
「わたしが一学年上でした」
「ふーん」
花園くんは関心なさそうに軽くうなずく。
彼はわたしが中学三年のときに転校をしてきた。
転校して間もないときから、わたし達の学年でも注目を集めていた。
背がものすごく高いという理由だけではなく、悪い噂があった。
地元で不良グールプと喧嘩をして相手に重傷を負わせ、地元にいられなくなりわたし達の中学校に転校をしてきというはなしだった。
クラスの男子たちは怪談のように花園くんの話題を口にしていた。
校舎、校庭で何度か花園くんを見かけたことがある。
彼はいつもひとりでいて、周囲を威嚇するわけではないけれど、生徒たちは避けるように彼に道を空けていた。
(こわい……)
人をよせつけない迫力があった花園くんにそんな印象持ちながら、わたしとは住む世界がちがうと感じていた。
そんな彼と一度だけ、接触をしたことがある。
そのとき、わたしは担任の教師に頼まれて、職員室から教室までプリントを抱えて運んでいた。
渡り廊下で走ってやってくる下級生の男子とぶつかり、プリントがすべて地面に散らばった。
外は小雨が降っていた。
(もう、なにしてくれてるの)
謝りもせず、去っていった男子生徒に怒りながら雨に濡れないように慌てて数十枚のプリントを拾っていると、花園くんが通りかかった。
花園くんはおおきな身体をかがめ、プリントを数枚、拾ってくれた。
「ありがとうございます」
わたしがあたふたとお礼をいうと、彼は黙って去っていった。
(悪い人ではないのかも……)
教師に道を空けられながら校舎に入っていく花園くんを見ながら思った。
わたしが中学生だったとき、花園くんが問題行動を起こしたという話はきいていない。
(ヤバくなったらすぐに逃げよう)
わたしは渡り廊下での出来事を思いだしながら、彼を綾子の部屋まで連れていこうと迷いながら決めた。
花園くんと公園をでた。
「……あの、花園くんが生きかえらせるんですか? シロに殺された人を」
わたしは緊張しながら花園くんにたずねた。
「おれじゃない。ダチがシロに殺された人を生きかえらすことができる。今は別の場所にいるんだ。すぐに合流する」
「……その、お友達は医者かなにかなんですか?」
「高校生。あんたと同じ学年だよ」
(同年代の高校二年生)
わたしはますます混乱した。
「……その人はどうやって生きかえらせるんですか?」
「悪いけど、くわしい話を教えることはできない。今はおれがいってること、信じられないかもしれないけど、必ずあんたのダチを生きかえらせる」
花園くんはわたしを見おろし、確信がこもった声でいった。
「……亡くなった友達のカレが、彼女が生きかえるか、確かめたいようなんです」
わたしは並んで歩いたまま花園くんにきいた。
「その彼が、今から友達の部屋にいきたいって、いってるんです。彼を呼んでいいですか?」
「かまわないよ」
花園くんはいやなそぶりをみせず、わたしはほっとして仲山に綾子の部屋に来てもらいたいと歩きながらスマホで素早くメッセージを送った。
(仲山も部屋にいてもらったほうがいい。万が一、花園くんとその友達が、犯罪グループだったら、ふたりで力を合わせたほうが逃げやすい……)
「……友達のマンションは、ここから歩いて十分です」
「あ、そうだ」
道の角をまがったとき、花園くんが歩きながら、ズボンのポケットからなにかをとりだした。
それはボールのようなものだった。
ふたつあった。
卓球の球くらい小さい。
「これ、持ってて」
わたしは花園くんに差しだされたふたつのボールをうけとった。
赤く透明で厚いガラスのような硬い材質をしていた。
けれど、卓球の球のように軽い。
「シロを倒す武器だ。シロが現れたらシロめがけて、それを投げろ。これも、今は信じられないかもしれないけど、シロを倒せる」
(シロをやっつける武器なんてあるの……)
全国各地で、戦闘用の銃をもった自衛隊員の人達がシロとの戦闘で命を落としていた。
それなのにおもちゃみたいな小さなボールでシロを倒せると思えない。
「……どこで手に入れたんですか?」
「さっきいったダチから渡された」
(花園くんもその友達にだまされてるんじゃないの……)
わたしは信じられないことを真顔で話す花園くんが心配になりだした。
「急ぐぞ。シロの数が増える前に部屋に着いたほうがいい」
わたしが疑いながら赤いボールを手にしたままでいると、花園くんは足をはやめる。
わたしはふたつのボールをポシェットにいれながら、おそるおそる花園くんを追った。
視界の隅にブランコの側にいた女の子の父親がはいる。
わたしが大男に因縁をつけられていると思っているのか、こちらをちらちらと見ている。
(帰ろう)
そう思ったけれど、綾子が気がかりですぐに足を動かせなかった。
「とって食いやしないよ」
男の人がうんざりしたようにいった。
他人からこわがられることに慣れているようないいかただった。
わたしははじめて正面から男の人を見あげた。
(あれ……)
すると、彫が深い鋭い顔をどこかで見たと思った。
そして、すぐにどこで見たのか思いだした。
男の人の名前と顔が重なった。
「さっそくだけど、シロに毒をかけられたあんたの友達のところに案内してくれ。シロは毒をかけて殺した人間を犬、猫に食わせる。そうなる前に」
わたしが黙ったままでいると、男の人はしびれをきらしたように公園の出入口にむかって歩きだす。
「ほら」
わたしがその場に立ったままでいると、ふりかえって、歩くように顎で公園の出入り口をさす。
女の子の父親がわたしの様子をうかがっている。
「わたしは谷崎です」
わたしは長い足で歩く男の人を小走りに追いかけた。
「……あの、花園くんは中学校、武蔵台二中ではなかったですか?」
横に並んでからきいた。
「そうだけど」
花園くんは眉をあげ、意外そうな顔をする。
「あ、やっぱり、わたしも武蔵台二中でした」
「同級生?」
「わたしが一学年上でした」
「ふーん」
花園くんは関心なさそうに軽くうなずく。
彼はわたしが中学三年のときに転校をしてきた。
転校して間もないときから、わたし達の学年でも注目を集めていた。
背がものすごく高いという理由だけではなく、悪い噂があった。
地元で不良グールプと喧嘩をして相手に重傷を負わせ、地元にいられなくなりわたし達の中学校に転校をしてきというはなしだった。
クラスの男子たちは怪談のように花園くんの話題を口にしていた。
校舎、校庭で何度か花園くんを見かけたことがある。
彼はいつもひとりでいて、周囲を威嚇するわけではないけれど、生徒たちは避けるように彼に道を空けていた。
(こわい……)
人をよせつけない迫力があった花園くんにそんな印象持ちながら、わたしとは住む世界がちがうと感じていた。
そんな彼と一度だけ、接触をしたことがある。
そのとき、わたしは担任の教師に頼まれて、職員室から教室までプリントを抱えて運んでいた。
渡り廊下で走ってやってくる下級生の男子とぶつかり、プリントがすべて地面に散らばった。
外は小雨が降っていた。
(もう、なにしてくれてるの)
謝りもせず、去っていった男子生徒に怒りながら雨に濡れないように慌てて数十枚のプリントを拾っていると、花園くんが通りかかった。
花園くんはおおきな身体をかがめ、プリントを数枚、拾ってくれた。
「ありがとうございます」
わたしがあたふたとお礼をいうと、彼は黙って去っていった。
(悪い人ではないのかも……)
教師に道を空けられながら校舎に入っていく花園くんを見ながら思った。
わたしが中学生だったとき、花園くんが問題行動を起こしたという話はきいていない。
(ヤバくなったらすぐに逃げよう)
わたしは渡り廊下での出来事を思いだしながら、彼を綾子の部屋まで連れていこうと迷いながら決めた。
花園くんと公園をでた。
「……あの、花園くんが生きかえらせるんですか? シロに殺された人を」
わたしは緊張しながら花園くんにたずねた。
「おれじゃない。ダチがシロに殺された人を生きかえらすことができる。今は別の場所にいるんだ。すぐに合流する」
「……その、お友達は医者かなにかなんですか?」
「高校生。あんたと同じ学年だよ」
(同年代の高校二年生)
わたしはますます混乱した。
「……その人はどうやって生きかえらせるんですか?」
「悪いけど、くわしい話を教えることはできない。今はおれがいってること、信じられないかもしれないけど、必ずあんたのダチを生きかえらせる」
花園くんはわたしを見おろし、確信がこもった声でいった。
「……亡くなった友達のカレが、彼女が生きかえるか、確かめたいようなんです」
わたしは並んで歩いたまま花園くんにきいた。
「その彼が、今から友達の部屋にいきたいって、いってるんです。彼を呼んでいいですか?」
「かまわないよ」
花園くんはいやなそぶりをみせず、わたしはほっとして仲山に綾子の部屋に来てもらいたいと歩きながらスマホで素早くメッセージを送った。
(仲山も部屋にいてもらったほうがいい。万が一、花園くんとその友達が、犯罪グループだったら、ふたりで力を合わせたほうが逃げやすい……)
「……友達のマンションは、ここから歩いて十分です」
「あ、そうだ」
道の角をまがったとき、花園くんが歩きながら、ズボンのポケットからなにかをとりだした。
それはボールのようなものだった。
ふたつあった。
卓球の球くらい小さい。
「これ、持ってて」
わたしは花園くんに差しだされたふたつのボールをうけとった。
赤く透明で厚いガラスのような硬い材質をしていた。
けれど、卓球の球のように軽い。
「シロを倒す武器だ。シロが現れたらシロめがけて、それを投げろ。これも、今は信じられないかもしれないけど、シロを倒せる」
(シロをやっつける武器なんてあるの……)
全国各地で、戦闘用の銃をもった自衛隊員の人達がシロとの戦闘で命を落としていた。
それなのにおもちゃみたいな小さなボールでシロを倒せると思えない。
「……どこで手に入れたんですか?」
「さっきいったダチから渡された」
(花園くんもその友達にだまされてるんじゃないの……)
わたしは信じられないことを真顔で話す花園くんが心配になりだした。
「急ぐぞ。シロの数が増える前に部屋に着いたほうがいい」
わたしが疑いながら赤いボールを手にしたままでいると、花園くんは足をはやめる。
わたしはふたつのボールをポシェットにいれながら、おそるおそる花園くんを追った。
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