【完結】異世界帰りの錬金術師が、わたしを救う。

シハ

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谷崎春希と魔法使い

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 わたしは花園くんを案内しながら住宅街の道を綾子のマンションにむかって歩いた。
 通りにはわたしたち以外に人はいなくて不気味なほど静かだった。

(大丈夫かな……)

 歩き慣れた道を進みながら、さらに緊張する。

(監禁されたりしたら……)

 動悸がして額と脇に汗がにじむ。

「これから生きかえらせる人は高校の友達?」

 歩いていると、花園くんにきかれた。

「中学の同級生です。花園くんとも同じ中学でした」

「そうか、あんた勇気あるな。外にはシロがいるかもしれないのに、友達のためにおれに会いにきて」

 花園くんの素性を怪しんでいたけれど、思いがけず褒められて、照れくさくなり、緊張がすこしほぐれた。
 それから少しして、仲山から返信のメールがきた。
 彼も今から綾子の部屋にむかうという。
 スマホをポシェットにしまうと綾子のマンションがみえる通りにでた。

「そこです」

 道の先にある五階建ての建物を指さして、花園くんに教えた。

「待て」

 そのとき、急に花園くんが立ち止まった。

「シロがいる」

 花園くんが鋭い視線を前方にむける。
 
「ひっ……」

 花園くんの視線の先を追うと、衝撃で引きつけをおこしたような悲鳴が口から漏れた。
 シロは前方の左手にある二階建ての一軒家、ソーラーパネルがある二階の瓦屋根の上にいた。
 晴れた空を見あげて、脚を伸ばしてすわっている。
 のんきに日光浴をしているようだった。

(こっちに気づかないで、気づかないで……)

 わたしは念じていたけれど、シロは立ちあがり、わたしたちのほうに身体をむける。
 屋根から軽々と猫のように飛びおりて、スリッパ風のサンダルを履いた足で地面に着地する。
 人間なら足を骨折している高さだったけれど、すこしも痛がっていない。

(これが、シロ……)
 
 背筋を伸ばしたシロがまっすぐ近づいてくる。
 わたしは歯が鳴るほどふるえて、足に根が生えたように動けなくなった。
 隣の花園くんはシロを見すえている。

(花園くん、シロがこわくないの……)

 シロを何度も見ているように落ち着いている。 
 シロがわたしたちのすぐ近くで足をとめる。

 中年の男の姿をしたシロは、花園くんほどではないけど背が高くて、痩せている。
 アメリカのロックバントのTシャツに、短パンを穿いている。
 白髪が交じった短髪は、不自然なほど艶やかで輝いている。
 頬がこけた細長い顔に皺があるけれど、まっ白な肌はなめらかだった。
 アプリで加工された写真のように不自然なほどきれいな肌だった。
 身体からはコロンのようないい匂いがただよってくる。

「こわがらないでください」

 わたしたちの前に立つシロは、一語一語はっきりと歌うようにいった。
 シロの低いよく通る声は、モンスターに恐怖を感じているわたしの耳に心地よくきこえた。

「あなたたちは苦しまないで眠れます」

 シロが片方の腕を水平に伸ばして、五本の指先をわたしと花園くんにむける。

(……毒) 

 わたしは全身が凍りついて、悲鳴もでなくなった。
 シロは指先から毒をだすといわれていた。
 毒をかけられた人間は即死する。

 シロの青い目に涙が浮かんでいる。
 その涙が目にあふれて、頬を伝う。

(なんで、泣いてるの……)

 わたしがシロから目を離せないでいると、横にいる花園くんに動く気配があった。
 突然、花園くんのひらいた片方の手から小さな白い光が浮かびあがる。
 どういうわけか、その光がまたたく間に黒い杖に変化する。
 絡みつくような銀色の蛇の彫刻がされて、持ち手に宝石のような大きい赤い石がついている。
 わたしの背を越えるくらい巨大な杖だった。

(花園くん、なにをしたの……)

  わたしはシロの出現と同じくらい衝撃をうけた。

「テンペフェロー」

 花園くんが巨大な杖の持ち手を軽々とシロにむけて、きいたことのない言葉をつぶやく。
 すると、持ち手についてる赤い石が明滅する。
 次の瞬間、耳が痛くなるような轟音とともに、目の前に立つシロの足元から真上に向かってすさまじい風が起きる。

 わたしは風の強さに立っていられなくて、よろめいた。
 髪が後ろに流れ、服がはためいて、肌が痛くなる。

 発生した風の中心にいるシロの足が地面から浮くほどの強い風圧だった。
 そして、嵐のような風は、わたしたちを殺そうとしていたシロの身体を持ちあげ、宙に浮かせ、またたくまに上空まで打ちあげる。

(……嵐?  竜巻?  やった、とにかくシロをふきとばした)

 空のシロは、風に運ばれてどんどん小さくなっていく。

「……花園くん、今のは?」

 わたしはシロが空に消えて、風がおさまってから、おそるおそるきいた。

「魔法みたいでした……」

「魔法だ」

 花園くんは答えると、杖を地面について、かがみこむ。
 息遣いが聞こえるほど、呼吸が荒くなっている。
 激しい運動をした後のように顔に汗が浮かんで、風で乱れた前髪が額に貼りついている。

「大丈夫ですか!?」

「なんともねえ」

 あきらかに様子がおかしい花園くんがわたしを見あげ、息を切らしながらいった。

(魔法って……。花園くんは魔法使いだったの……。人間じゃないの……。いや、魔法使いなわけがない、でも、すごかった、シロを風でふきとばした……)

 頭の中に疑問が駆けめぐっていたけれど、苦しそうな花園くんにきけない。
 どうしていいかわからず、その場に立ちつくしていると、視界の隅に動くものがちらついた。

 いやな予感がしながら、よく見てみると、またシロがいた。
 さっきのシロが立っていた家の二階の瓦屋根の上にいる。
 屋根の上に立って、わたしたちを見おろしている。

「花園くん、シロ……。べつのやつ……」

 わたしが花園くんに教えたときには、シロは地面に飛びおりていた。
 すごい飛躍力で、屋根からわたしたちの目の前におり立つ。
 そのシロは小柄な老人男性の姿をしていた。
 ポロシャツを着て、禿げた頭に白い細い髪がわずかに残っている。
 
「走れ、逃げろ……」

 花園くんが力をふりしぼるように立ちあがる。
 けれど、わたしは足がすくんで動けなかった。

「逃げろ!」

 花園くんが怒鳴り、ポケットから、透明な赤い小さいボールをとりだす。

(やだ、死にたくない)

 わたしは弾かれたようにシロに背をむけて走ろうとした。
 けれど、数歩足を動かすと、足がもつれて、前のめりに転んでしまった。
 片方のサンダルが脱げて、うつ伏せに地面に倒れた。
 すぐに地面に腕をつき、肩ごしにふりかえった。
 すると、シロが青く輝く目でわたしを見すえて、細い腕を伸ばしている。
 骨ばった五本の指をむけている。
 今度のシロはなにもいわない。
 わたしは地面に手をついたまま頭の中が真っ白になった。

(殺される……)

 そう思った瞬間、花園くんがわたしの前に立つ。
 わたしとシロの間に入る。

 花園くんとシロが同時に動いた。
 老人のシロの指先から透明な液体が噴きだす。
 花園くんは片方の長い腕で、顔を覆いながら、赤いボールをシロに向かって投げおろす。
 シロの毒の液体が花園くんめがけて飛ぶ。
 長身の花園くんが投げたボールが上から下に落ちてシロの肩にあたる。

 次の瞬間、小さなボールが目を開けていられないほど強く光って、周囲を照らす。
 その光は瞬時に消えた。
 わたしがまぶしい目をあけると、老人の姿をしたシロの全身が炎に包まれていた。

 腕を伸ばしたままの姿で頭の先から足の先まで燃えている。
 服が焼けている。
 煙が立ちのぼり、ぱちぱちと音をたてている。
 シロは悲鳴をあげず、身動きもせず、立ったまま焼かれていた。
 戦争映画にでてくる火炎放射器を使っても、こんなに一瞬にして生き物を焼くことはできない。

「ひっ! ひっ!」

 わたしは地面に尻をついたまま後ろにさがった。
 炎の熱が肌を刺す。
 けれど、熱はすぐに引いて、シロを焼く炎がたちまち小さくなっていく。

 そして、炎が消えたときにはシロの姿はあとかたもなくなっていた。
 着ていた服も消滅している。
 アスファルトの地面には焼け跡も残っていない。
 長い時間に感じたけれど、数秒間の出来事だった。

(やった……)
 
「花園くん……」

 わたしは四つん這いになって、地面を這うように花園くんに近づいた。
 花園くんは糸が切れたようにアスファルトの地面におおきな音を立てて倒れた。

(ああ……) 

 仰向けになった花園くんの顔を目にして血の気がひいた。
 額と鼻の上にシロの透明な毒が数滴ついている。
 シロの毒を防ぎきれなかったのだ。
 朦朧とした顔の花園くんは薄目になっている。

「花園くん!」

 わたしが呼びかけると、花園くんは消えいりそうな声でいった。

「くそ……すぐに戻ってくる……待ってろ……友達の部屋で……シロが現れたら、あのボールを投げろ」

 花園くんは口をかすかに動かしながら、ズボンのポケットから力が入らない手で小さな瓶をとりだす。
 中に調味料のような黒い粉が入っている。
 目が今にも閉じそうな花園くんは、緩慢な動作で瓶のコルクを抜いて、頭に粉をふりかける。

(花園くん、なにをするつもり……)

 すると、突然、花園くんの頭の先から足先までが液体になり、溶けたように歪みだした。
 それから蒸発したように花園くんの身体が消滅した。
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