【完結】異世界帰りの錬金術師が、わたしを救う。

シハ

文字の大きさ
18 / 40
谷崎春希と魔法使い

しおりを挟む
(……夢?)

 本物のシロを見たこと、綾子がシロに殺されたらしいことも夢だったらいいと思った。
 けれど、転んだときに地面に打った肘の痛み、擦り傷の血はリアルだった。

 それでも、わたしはわずかな間にたてつづけに起こったことが現実だと感じられなくて、脱げた片方のサンドルも履きなおさないで、地面にすわりこんだままでいた。
 シロとの遭遇。
 魔法を使ったという花園くん。
 その花園くんは魔法らしい力でシロを空にふきとばした。
 そして、不思議なボールでシロを焼いた。
 けれど、シロに毒をかけられた花園くんは黒い粉をかけて消えてしまった。

(……きいたことがない、シロに毒をかけられた人が消えるなんて……)

 混乱している頭に花園くんの言葉が浮かんだ。

「……すぐに戻ってくる……待ってろ……友達の部屋で……」

(……戻ってくるって、どこから?) 

 花園くんは自分が消えてどこにむかったかわかっているようだった。
 
(……花園くんは魔法使いなの? というか、魔法使いなんてこの世にいるの……) 

 花園くんがシロを倒した赤いボールも。
 シロを焼いた炎はシロと一緒にガスレンジの火をとめたみたいに瞬時に消えた。
 シロは灰にもなっていない。
 ふつうの炎ではなかった。

(彼はやっぱり別の世界に住む人だったの……)

 わたしは頭にいくつもの疑問が浮かんだまま、とにかくこの場にいないほうがいいと思って、よろよろと腰をあげた。

(近くにまだシロがいるかも……)
 
 肩に提げたポシェットから花園くんからもらった赤いボールをとりだした。

(どうしよう……)

 家に戻るか迷う。

「……待ってろ……友達の部屋で……」

 花園くんはいっていた。
 彼はシロに毒をかけられそうになったわたしの前に立って、助けてくれた。
 その花園くんがわたしをだまして、悪さをするとは思えないようになっていた。

(……綾子の部屋にいこう。ここまできたんだから)

 わたしはサンダルを履いて、前方にある綾子のマンションに足をむけた。

(綾子の部屋でしばらく待っても、花園くんが現れなかたら家に帰ろう)


 シロに出くわすことなくマンションに着いた。
 綾子の部屋を訪れるのは半年ぶりだった。
 築年数が経過したマンションは外壁のペンキが剥げている。
 建物の外側の一部に工事の足場が組まれていた。
 シロが現れてから工事がとまり、足場が放置されたままのようだった。

 マンションのエレベーターは階数表示のボタンの灯りが消えていて、稼働していない。
 階段で二階まであがった。

 廊下の奥から二番目の綾子の部屋のドアはひらいていた。
 というより、強い力でドアノブが回されて鍵が壊されたようだった。

(シロが壊したの……)

 わたしは背筋に寒気を感じながら部屋に入った。
 玄関の靴脱ぎ場に綾子のニューバランスのスニーカーがある。

(部屋には死んだ綾子がいるかもしれない……)

 緊張しながらサンダルを履いたままリビングに進んだ。
 綾子の部屋特有の匂いがする。
 綾子の姿はない。
 壁際の床に綾子が飼っているハムスターがはいったゲージが置いてある。
 ハムスターはゲージの木くずの中で動いている。
 物音がしない部屋に人の気配はない。

(綾子が死んでいたっていうのは、仲山のまちがいで、綾子は生きていて、べつの場所に退避していればいいんだけど……)

 ベランダに面したひらいた窓から風が入ってくる。
 わたしは絨毯を歩いて、窓のほうへ移動した。
 レースのカーテンをあけて、ベランダをのぞくと、息をのんだ。

(綾子……)

 物干し台がおいてある狭いベランダに綾子がいる。
 ベランダの鉄柵に背中をもたせかけ、すわりこんでいる。

 ベランダの壁の上に三毛猫がいる。
 首輪をつけた三毛猫は壁の上からぐったりとしいている綾子を見ている。
 大きな黄色い目で綾子が生きているのか死んでいるのか見定めているようだった。

「綾子、綾子、綾子……」

 わたしはベランダに出て、しゃがみこんで、タンクトップにストライプシャツを羽織り、ハーフパンツを穿いた綾子の肩を揺すった。
 綾子はよく眠っているように眼を閉じている。
 首筋に小さな虫がついてた。
 
(綾子を部屋の中にいれてあげないと、猫が綾子をかじる)

 わたしは赤いボールをポシェットにしまってから、綾子の腕と背中に腕をまわして、抱えあげた。
 背が高い綾子を苦労して運んでリビングのテレビの前に寝かせた。

(綾子はほんとうにシロに殺されたんだ)

 綾子の顔は血の気がなく、青ざめている。
 呼びかけても身体を揺すっても返事がない綾子を見ているうちに目から涙が流れた。
 身体がふるえて、涙がとまらなくなった。

(いやだ、このまま綾子に会えなくなるのは。綾子と仲直りできないのは)


 綾子と喧嘩をしたのは彼女と仲山の関係が原因だった。
 仲山と付き合いはじめてから、綾子は休みの日にわたしより仲山と過ごすようになった。
 わたしが誘っても、仲山の先約がはいっていることがおおくなっていた。

 たまに会えても綾子はうれしそうに仲山の話をした。
 わたしには綾子が浮かれているように見えて、おもしろくなかった。
 けれど、不満をいったりしなかった。
 綾子の変化に文句をいえば、彼氏がいない自分がみじめに嫉妬して見えると思ったのだ。
 わたしは綾子に合わせて、無理にほほえんで彼女の話をきいていた。

 それが、半年前、わたしは抑えていた不満を爆発させた。
 綾子はわたしと映画を観にいく約束を断り、仲山とデートをしようとしたのだった。
 わたしは、前売り券を買い、座席も予約し、その映画を公開初日に観にいくのを楽しみにしていた。

「もう、いいよ! ずっと、仲山といれば!」

 わたしは怒って、電話で綾子に怒鳴った。
 学校の帰り道、人がいきかっている夕方の商店街で、大きな声をだした。
 道中で大声をだしたのも、綾子にきついことをいったのもはじめてだった。

 通話を切るとすぐに綾子から電話があった。
 電話にでないでいると謝りのメッセージが送られてきた。
 わたしは頭に血がのぼっていて、返信をしなかった。
 
 数日後、頭が冷えると、返信をするか迷った。
 けれど、綾子になんといっていいかわからなかった。
 長い間、友達がいなかったわたしは、仲直りの方法がわからなかった。
 それから、何度かきた綾子のLINEもこなくなった。

(綾子はわたしをめんどうなやつだと思ってるのかもしれない。一度約束を断ったくらいで怒るなんて……)

 わたしは綾子にとった態度に自己嫌悪を感じながら、綾子への怒りも消えなかった。
 返信ができないまま半年が経った。
 わたしは誕生日に綾子からもらったサンリオのキャラクターのペンケースを使わなくなって、新しいものに買い換えた。
 わたしは友達がいない生活にもどった。
 綾子と出会う前より、ひとりでいるとさびしさをつよく感じるようになった。
 けれど、次第にさびしさにも慣れはじめた。

(友達はあっさりといなくなるもんなんだ。でも、ひとりでいるのも気楽でいい)
 
 そう思うようにもなっていた。
 けれど、綾子との距離が離れてしまったことに後悔もしていて、彼女と撮ったスマホの写真を消去できなかった。


 小さな虫がそばかすがある綾子の頬のうえを動いている。
 
(仲山はどうして、ベランダにいる綾子をそのままにしたんだろう? 綾子を部屋の中に運びこまなかったんだろう?)

 綾子の頬の虫を手ではらったとき、ふと思った。

(綾子が死んでいるのを見て、パニックになったの? それでも綾子を部屋に運んでもいいのに……)

 それからわたしは絨毯にすわって、友達だといっても死体の綾子と部屋にいることに不気味さを感じながら、花園くんが現れるのを願って待った。
 母親に無事であるとメッセージを送り、二十分程経ったとき、玄関のドアが開く音がして、部屋に仲山が入ってきた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

東京ダンジョン物語

さきがけ
ファンタジー
10年前、世界中に突如として出現したダンジョン。 大学3年生の平山悠真は、幼馴染の綾瀬美琴と共に、新宿中央公園ダンジョンで探索者として活動していた。 ある日、ダンジョン10階層の隠し部屋で発見した七色に輝く特殊なスキルストーン。 絶体絶命の危機の中で発動したそれは、前代未聞のスキル『無限複製』だった。 あらゆる物を完全に複製できるこの力は、悠真たちの運命を大きく変えていく。 やがて妹の病を治すために孤独な戦いを続ける剣士・朝霧紗夜が仲間に加わり、3人は『無限複製』の真の可能性に気づき始める。 スキルを駆使して想像を超える強化を実現した彼らは、誰も到達できなかった未踏の階層へと挑んでいく。 無限の可能性を秘めた最強スキルを手に、若き探索者たちが紡ぐ現代ダンジョンファンタジー、ここに開幕!

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について

沢田美
恋愛
名門・雄幸高校で目立たず生きる一年生、神谷悠真。 クラスでは影が薄く、青春とは無縁の平凡な日々を送っていた。だがある放課後、街で不良に絡まれていた女子生徒を助けたことで、その日常は一変する。救った相手は、学年一の美少女三姉妹として知られる西園寺家の次女・優里だった。さらに家に帰れば、三姉妹の長女・龍華がなぜか当然のように悠真の部屋に入り浸っている。名門令嬢三姉妹に振り回されながら、静かだったはずの悠真の青春は少しずつ騒がしく揺れ始める。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

処理中です...