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谷崎春希と魔法使い
⑨
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リビングに入ってき花園くんは、Tシャツの上にバスケットボールチームのユニフォームを着たままの姿だった。
「待たせたな」
一瞬、別人かと疑ったけれど、低い声は花園くんのものだった。
魔法を使って、シロを倒した後は苦しそうな顔をしていたけれど、もう回復しているようだった。
わたしはあたりまえのように現れた花園くんを驚きながら迎えいれた。
花園くんはひとりではなかった。
後ろから男の子と女の子が部屋に入ってきた。
花園くんが後ろのふたりにわたしを紹介する。
「彼女が谷崎さん」
わたしは緊張しながら立ちあがり、会釈をした。
「小坂さんだ」
「はじめまして」
七分袖のTシャツに、ハーフパンツを穿いた女の子が穏やかにほほえむ。
はっとして、一瞬息がとまるくらいきれいな女の子だった。
年はわたしと同じくらいか、美人の彼女は二十歳にもみえる。
長い髪はわたしのごわごわした髪とちがって、艶やかで光っている。
「風井くん。彼があんたの友達を生きかえらせる」
花園くんが青いパーカーにジーンズを穿いた中背の男の子を紹介する。
男の子はジーンズのベルトの部分に古めかしい紺の布袋を提げている。
「風井です」
風井さんは人のよさそうな笑みを浮かべ、軽く頭をさげる。
寝ぐせのような逆立った髪をしていて黒縁の眼鏡をかけている。
顔が小さくて、きれいな目をしている。
手にノースフェイスのおおきなリュックを持っている。
花園くんがいっていたとおり、年はわたしとかわらないようにみえる。
ふつうの高校生のようで人間を生きかえらせる力があるようにはみえない。
花園くん、風井さん、花園さんには共通点がない。
趣味があう友達同士のようにはみえない。
(どんな関係なんだろう……)
花園くんたちは横たわる血の気がない綾子を見ても表情に変化がない。
(死んだ人間を見慣れているのかな……)
ただ、三人はわたしとは別世界に住む人間のようだった。
「さっそくだけど、きみの友達を生きかえらせる。おれたち、他にも生きかえらせなきゃいけない人がいるんだ」
風井さんは他の家にも配達しなければいけない荷物がある配達員のようにいった。
「あの、その前に、花園くん、どうなってるんですか? シロに毒をかけられたとき、なにがあったんですか?」
花園くんにきいた。
「……ちゃんと説明したほうがいいな」
花園くんは本意ではないような口ぶりでいった。
それから、綾子のマンションの近くでシロに毒をかけられ、身体が消えてからこの部屋にやってくるまでの経緯を話した。
わたしは立ったまま狐につつまれたように話をきいていた。
「おれたちは異世界にいっていた」
マクドナルドの壁から異世界への転移。
魔法使いとなった花園くん。
武道家となった小坂さん。
錬金術師となった風井さん。
日本に現れた異世界の魔物のシロ。
マンションの近くで、花園くんはシロの毒によって死ぬ間際、自分に粉をかけて異世界にワープをした。
異世界にワープできる粉は、錬金術師の風井さんが作ったアイテムだった。
そして、異世界で、風井さんが死んだ花園くんをアイテムによって蘇らせた。
異世界にいた風井さんと小坂さんは、花園くんとは別行動で錬金の素材を集めていた。
三人はアイテムによって、異世界でお互いに相手の居場所、安否がわかるということだった。
生きかえった花園くんは、風井さん、小坂さんと共に異世界から町に戻ってきた。
(やっぱり、夢?)
小坂さんと風井さんもわたしの反応をみながら丁寧に話をしてくれた。
けれど、話に現実味が感じられず、理解ができない。
「谷崎さんの友達を生きかえらせよう」
花園くんが話をしている途中、風井さんが口をひらいた。
「友達が生きかえれば、谷崎さんもすこしは納得するだろう」
「そうだな」
花園くんがいうと、風井さんは手にもっていたリュックを開け、金の釜のようなものをとりだす。
リュックにいれるのは無造作に扱われていると感じるほど高価そうなものだった。
彫刻が施されて、赤、青、白色の石が埋め込まれている。
お金持ちの家に飾ってありそうな年代物の調度品のようだった。
「これは異世界の錬金釜。これで、あなたの友達を生きかえらせるアイテムを作る」
風井さんは釜を絨毯の上におく。
「風井くんはこの錬金釜でおれがシロを燃やしたボールを作った」
花園くんが長い指を釜にむける。
(あのボールはこの世のものではなかったんだ……)
炎に包まれて、またたく間に消滅したシロを思い浮かべながら、すこし腑に落ちた。
「あのボールは魔導師ラニタの血、エルドラゴンの牙、レッドフラーの種子を組み合わせてつくったんだ」
風井さんが並びのいい歯を見せて、なぜかうっとりとほほえむ。
「エルドラゴンと魔導士はおれと小坂さんで倒した」
花園さんが誇らしげにいった。
「あのときの小坂さん、凄かったね。エルドラゴンをフルボッコにして」
風井さんが思いだしたようにいうと、なぜか小坂さんはなめらかな頬を赤らめる。
「彼女の髪を一本、抜いてくれないかな。錬金の素材で使うんだ」
風井さんが綾子に視線をうつす。
「あの、待ってください。彼女を生きかえらせるの」
わたしがいうと、花園くんがけげんな顔になる。
わたしは花園くんたちに説明をした。
シロがこの部屋に現れたこと、綾子の彼氏が彼女を見捨てたこと、彼氏と名古屋に退避するはずだった綾子は他に行き場所がないかもしれないこと。
わたしは今は綾子を生きかえらせていいのか迷っていること。
「おい、錬金の素材を集めるのは簡単じゃないんだ。モスンターに半殺しにされることだってある。風井くんと小坂さんはあんたのために、素材を集めてきたんだ」
話をおえると、花園くんがわたしを責めるようにいった。
「……でも、この町にはシロがやってきています。もう安全ではなくなりました」
わたしは花園さんの鋭い視線に委縮しながらいった。
「……もし、わたしの友達がまたシロに殺されたら、生きかえった意味がなくなります。彼女がまた苦しむだけです」
「町のシロはおれたちが倒す」
花園さんは断固としていう。
「いや、すべては倒しきれないよ」
風井さんが口をはさむ。
「おい」
花園くんが床にすわり、わたしの顔をのぞきこむ。
「おれには異世界にダチがいた。おれたちが長い間、泊まっていた宿屋で働いているガキだった。そいつは魔法に興味があってさ、宿屋に泊まっている間、おれは、毎晩、そいつに簡単な魔法をみせてやっていた。おれはこんななりだからさ、この世界ではだいたいのやつがおれをびびって避けていた。けど、異世界のそいつはおれをこわがっていなかった。おれは勝手にそいつを弟みたいに思うようになっていた」
花園くんが急に言葉につまる。
「けど、おれたちが、他の場所でモンスターと戦っていたときに、そいつは町に現れたシロに殺された。シロはその子の死体をモンスターに食べさせた。だから、もうそいつは生きかえることができない。そいつの親も殺された。町の人間たちも」
花園くんの目に怒りが浮かぶ。
「それでも、おれは、もし、チャンスがあるなら、あいつを生きかえらせている。あいつを死なせたことを後悔している。あんたにはおれと同じ気持ちになってほしくない。……おれたちはこの世界と、異世界でシロに殺された人たちを、生きかえらせてきた。その中で、蘇ったことを悲しむ人はすくなかった。シロたちが人間を殺しつづけて、もっとひどい状況になっても」
「……でも、わたしは花園くんみたいにシロを倒せる魔法はつかえません」
「おれたちは他にも生きかえらせなきゃいけないやつがいるんだ」
花園くんがじれたように絨毯の上に寝ている綾子の髪を抜こうとする。
「少し考えさせてください」
わたしは逃げるように廊下にでた。
綾子の部屋のドアを開けて、中に入る。
花園くんたちは犯罪グループなんかではなくて、アイテムによって確実に綾子を生きかえらせることができるようだった。
(どうしよう、どうしよう……)
その分、迷いもつよくなる。
わたしは混乱しながら部屋を見まわした。
半年前から部屋は変わっていなくて、綾子とこの部屋で過ごした記憶がよみがえる。
サンリオのキャラクターのぬいぐるみが置いてあるベッド、机、漫画と文庫本が並んだ本棚は白で統一されている。
壁際にキャリーケースが立てて置いてある。
仲山と退避するための荷物がはいっているんだろう。
ベッドがある壁にコルクボートがかかっている。
カラフルな画鋲でとめた写真が貼ってある。
海、川の風景。顔を寄せ合っている制服姿の綾子と仲山。綾子と高校の女子の友達。
(まだ、わたしの写真もある……)
その中にわたしもいる。
サンリオピューリオランドの入り口の前で綾子と並んで立っている。
わたしの部屋で綾子と顔を寄せ合っている。
喧嘩別れしたわたしの写真があるのが意外で、うれしかった。
写真から視線を外すと、ベッドの横の机に目がとまる。
机の奥の端にキーホルダーがついた部屋の鍵がある。
(あれ……)
それを見たときはっとした。
星のカービィのキーホルダーだ。
カラフルなラメが入った透明なケースの上に、いくつかの色の粘土を組み合わせてつくった星のカービィがついている。
それは中学生のときわたしが綾子の誕生日にプレゼントしたものだった。
百円ショップで買った道具で手作りをした。
綾子の誕生日、学校の帰り道に渡して、当時星のカービィにハマっていた綾子は声をあげて喜んでくれた。
「大事にする」
そういって、その場で部屋の鍵にキーホルダーをつけてくれた。
(まだつかってくれてたんだ……)
今は汚れたがついた粘土のカービィを見ていると笑みがこぼれる。
けれど、自分が恥ずかしくもなる。
わたしは喧嘩をしてから綾子からもらったペンケースをつかわなくなった。
リビングから花園くんたちが話す声がきこえる。
(綾子を生きかえらせる)
わたしは決めた。
(綾子は生きかえったことを悲しんだりはしないじゃないかな……)
にこにこ笑っている写真の彼女を見ながら思った。
「綾子がいってたぜ。おまえのことうざいって。他に友達ができなくて、綾子についてまわるって。綾子がおれと付き合いはじめてから嫉妬して、よけいうざくなったって」
仲山がいっていたことが嘘でもほんとうでもかまわない。
綾子はさっぱりした性格で、そこがわたしが彼女が好きなところのひとつだった。
一時的にわたしに怒っていても、もう怒りは消えていると思った。
わたしの都合のいい考えかもしれない。
(それでも、生きた綾子に会いたい)
喧嘩をして会わなくなった時間を埋め合わせたかった。
生きかえらせたことを恨まれるのが怖かったけれど、シロがいる世界でも綾子と一緒に生きたいと思った。
「彼女を生きかえらせてください」
また迷いがでないうちに、部屋を出て花園くんたちにいった。
「待たせたな」
一瞬、別人かと疑ったけれど、低い声は花園くんのものだった。
魔法を使って、シロを倒した後は苦しそうな顔をしていたけれど、もう回復しているようだった。
わたしはあたりまえのように現れた花園くんを驚きながら迎えいれた。
花園くんはひとりではなかった。
後ろから男の子と女の子が部屋に入ってきた。
花園くんが後ろのふたりにわたしを紹介する。
「彼女が谷崎さん」
わたしは緊張しながら立ちあがり、会釈をした。
「小坂さんだ」
「はじめまして」
七分袖のTシャツに、ハーフパンツを穿いた女の子が穏やかにほほえむ。
はっとして、一瞬息がとまるくらいきれいな女の子だった。
年はわたしと同じくらいか、美人の彼女は二十歳にもみえる。
長い髪はわたしのごわごわした髪とちがって、艶やかで光っている。
「風井くん。彼があんたの友達を生きかえらせる」
花園くんが青いパーカーにジーンズを穿いた中背の男の子を紹介する。
男の子はジーンズのベルトの部分に古めかしい紺の布袋を提げている。
「風井です」
風井さんは人のよさそうな笑みを浮かべ、軽く頭をさげる。
寝ぐせのような逆立った髪をしていて黒縁の眼鏡をかけている。
顔が小さくて、きれいな目をしている。
手にノースフェイスのおおきなリュックを持っている。
花園くんがいっていたとおり、年はわたしとかわらないようにみえる。
ふつうの高校生のようで人間を生きかえらせる力があるようにはみえない。
花園くん、風井さん、花園さんには共通点がない。
趣味があう友達同士のようにはみえない。
(どんな関係なんだろう……)
花園くんたちは横たわる血の気がない綾子を見ても表情に変化がない。
(死んだ人間を見慣れているのかな……)
ただ、三人はわたしとは別世界に住む人間のようだった。
「さっそくだけど、きみの友達を生きかえらせる。おれたち、他にも生きかえらせなきゃいけない人がいるんだ」
風井さんは他の家にも配達しなければいけない荷物がある配達員のようにいった。
「あの、その前に、花園くん、どうなってるんですか? シロに毒をかけられたとき、なにがあったんですか?」
花園くんにきいた。
「……ちゃんと説明したほうがいいな」
花園くんは本意ではないような口ぶりでいった。
それから、綾子のマンションの近くでシロに毒をかけられ、身体が消えてからこの部屋にやってくるまでの経緯を話した。
わたしは立ったまま狐につつまれたように話をきいていた。
「おれたちは異世界にいっていた」
マクドナルドの壁から異世界への転移。
魔法使いとなった花園くん。
武道家となった小坂さん。
錬金術師となった風井さん。
日本に現れた異世界の魔物のシロ。
マンションの近くで、花園くんはシロの毒によって死ぬ間際、自分に粉をかけて異世界にワープをした。
異世界にワープできる粉は、錬金術師の風井さんが作ったアイテムだった。
そして、異世界で、風井さんが死んだ花園くんをアイテムによって蘇らせた。
異世界にいた風井さんと小坂さんは、花園くんとは別行動で錬金の素材を集めていた。
三人はアイテムによって、異世界でお互いに相手の居場所、安否がわかるということだった。
生きかえった花園くんは、風井さん、小坂さんと共に異世界から町に戻ってきた。
(やっぱり、夢?)
小坂さんと風井さんもわたしの反応をみながら丁寧に話をしてくれた。
けれど、話に現実味が感じられず、理解ができない。
「谷崎さんの友達を生きかえらせよう」
花園くんが話をしている途中、風井さんが口をひらいた。
「友達が生きかえれば、谷崎さんもすこしは納得するだろう」
「そうだな」
花園くんがいうと、風井さんは手にもっていたリュックを開け、金の釜のようなものをとりだす。
リュックにいれるのは無造作に扱われていると感じるほど高価そうなものだった。
彫刻が施されて、赤、青、白色の石が埋め込まれている。
お金持ちの家に飾ってありそうな年代物の調度品のようだった。
「これは異世界の錬金釜。これで、あなたの友達を生きかえらせるアイテムを作る」
風井さんは釜を絨毯の上におく。
「風井くんはこの錬金釜でおれがシロを燃やしたボールを作った」
花園くんが長い指を釜にむける。
(あのボールはこの世のものではなかったんだ……)
炎に包まれて、またたく間に消滅したシロを思い浮かべながら、すこし腑に落ちた。
「あのボールは魔導師ラニタの血、エルドラゴンの牙、レッドフラーの種子を組み合わせてつくったんだ」
風井さんが並びのいい歯を見せて、なぜかうっとりとほほえむ。
「エルドラゴンと魔導士はおれと小坂さんで倒した」
花園さんが誇らしげにいった。
「あのときの小坂さん、凄かったね。エルドラゴンをフルボッコにして」
風井さんが思いだしたようにいうと、なぜか小坂さんはなめらかな頬を赤らめる。
「彼女の髪を一本、抜いてくれないかな。錬金の素材で使うんだ」
風井さんが綾子に視線をうつす。
「あの、待ってください。彼女を生きかえらせるの」
わたしがいうと、花園くんがけげんな顔になる。
わたしは花園くんたちに説明をした。
シロがこの部屋に現れたこと、綾子の彼氏が彼女を見捨てたこと、彼氏と名古屋に退避するはずだった綾子は他に行き場所がないかもしれないこと。
わたしは今は綾子を生きかえらせていいのか迷っていること。
「おい、錬金の素材を集めるのは簡単じゃないんだ。モスンターに半殺しにされることだってある。風井くんと小坂さんはあんたのために、素材を集めてきたんだ」
話をおえると、花園くんがわたしを責めるようにいった。
「……でも、この町にはシロがやってきています。もう安全ではなくなりました」
わたしは花園さんの鋭い視線に委縮しながらいった。
「……もし、わたしの友達がまたシロに殺されたら、生きかえった意味がなくなります。彼女がまた苦しむだけです」
「町のシロはおれたちが倒す」
花園さんは断固としていう。
「いや、すべては倒しきれないよ」
風井さんが口をはさむ。
「おい」
花園くんが床にすわり、わたしの顔をのぞきこむ。
「おれには異世界にダチがいた。おれたちが長い間、泊まっていた宿屋で働いているガキだった。そいつは魔法に興味があってさ、宿屋に泊まっている間、おれは、毎晩、そいつに簡単な魔法をみせてやっていた。おれはこんななりだからさ、この世界ではだいたいのやつがおれをびびって避けていた。けど、異世界のそいつはおれをこわがっていなかった。おれは勝手にそいつを弟みたいに思うようになっていた」
花園くんが急に言葉につまる。
「けど、おれたちが、他の場所でモンスターと戦っていたときに、そいつは町に現れたシロに殺された。シロはその子の死体をモンスターに食べさせた。だから、もうそいつは生きかえることができない。そいつの親も殺された。町の人間たちも」
花園くんの目に怒りが浮かぶ。
「それでも、おれは、もし、チャンスがあるなら、あいつを生きかえらせている。あいつを死なせたことを後悔している。あんたにはおれと同じ気持ちになってほしくない。……おれたちはこの世界と、異世界でシロに殺された人たちを、生きかえらせてきた。その中で、蘇ったことを悲しむ人はすくなかった。シロたちが人間を殺しつづけて、もっとひどい状況になっても」
「……でも、わたしは花園くんみたいにシロを倒せる魔法はつかえません」
「おれたちは他にも生きかえらせなきゃいけないやつがいるんだ」
花園くんがじれたように絨毯の上に寝ている綾子の髪を抜こうとする。
「少し考えさせてください」
わたしは逃げるように廊下にでた。
綾子の部屋のドアを開けて、中に入る。
花園くんたちは犯罪グループなんかではなくて、アイテムによって確実に綾子を生きかえらせることができるようだった。
(どうしよう、どうしよう……)
その分、迷いもつよくなる。
わたしは混乱しながら部屋を見まわした。
半年前から部屋は変わっていなくて、綾子とこの部屋で過ごした記憶がよみがえる。
サンリオのキャラクターのぬいぐるみが置いてあるベッド、机、漫画と文庫本が並んだ本棚は白で統一されている。
壁際にキャリーケースが立てて置いてある。
仲山と退避するための荷物がはいっているんだろう。
ベッドがある壁にコルクボートがかかっている。
カラフルな画鋲でとめた写真が貼ってある。
海、川の風景。顔を寄せ合っている制服姿の綾子と仲山。綾子と高校の女子の友達。
(まだ、わたしの写真もある……)
その中にわたしもいる。
サンリオピューリオランドの入り口の前で綾子と並んで立っている。
わたしの部屋で綾子と顔を寄せ合っている。
喧嘩別れしたわたしの写真があるのが意外で、うれしかった。
写真から視線を外すと、ベッドの横の机に目がとまる。
机の奥の端にキーホルダーがついた部屋の鍵がある。
(あれ……)
それを見たときはっとした。
星のカービィのキーホルダーだ。
カラフルなラメが入った透明なケースの上に、いくつかの色の粘土を組み合わせてつくった星のカービィがついている。
それは中学生のときわたしが綾子の誕生日にプレゼントしたものだった。
百円ショップで買った道具で手作りをした。
綾子の誕生日、学校の帰り道に渡して、当時星のカービィにハマっていた綾子は声をあげて喜んでくれた。
「大事にする」
そういって、その場で部屋の鍵にキーホルダーをつけてくれた。
(まだつかってくれてたんだ……)
今は汚れたがついた粘土のカービィを見ていると笑みがこぼれる。
けれど、自分が恥ずかしくもなる。
わたしは喧嘩をしてから綾子からもらったペンケースをつかわなくなった。
リビングから花園くんたちが話す声がきこえる。
(綾子を生きかえらせる)
わたしは決めた。
(綾子は生きかえったことを悲しんだりはしないじゃないかな……)
にこにこ笑っている写真の彼女を見ながら思った。
「綾子がいってたぜ。おまえのことうざいって。他に友達ができなくて、綾子についてまわるって。綾子がおれと付き合いはじめてから嫉妬して、よけいうざくなったって」
仲山がいっていたことが嘘でもほんとうでもかまわない。
綾子はさっぱりした性格で、そこがわたしが彼女が好きなところのひとつだった。
一時的にわたしに怒っていても、もう怒りは消えていると思った。
わたしの都合のいい考えかもしれない。
(それでも、生きた綾子に会いたい)
喧嘩をして会わなくなった時間を埋め合わせたかった。
生きかえらせたことを恨まれるのが怖かったけれど、シロがいる世界でも綾子と一緒に生きたいと思った。
「彼女を生きかえらせてください」
また迷いがでないうちに、部屋を出て花園くんたちにいった。
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