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南条隆文と武道家
⑥
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「びびったね。シロ、銃で撃ってもなんともなかった」
公園から歩道にでると、わたしの前を歩く遠野さんが横に並ぶ藤原さんに声をかける。
空がまた曇りだして、陽射しが消えている。
「わたしは動くことができませんでした」
藤原さんがくやしそうにいった。
「弾も外した。せっかく訓練してきてたのに」
「あの、銃はどこで手にいれたんですか?」
わたしは前を歩くふたりに気になっていたことをきいた。
自警団のわたしたちのグループでは銃をもった人はいなかった。
「おれのツテがあって、そこで銃と弾を手にいれました。シロのことがニュースになりはじめたとき、自分の身を守ろうと思って」
遠野さんがふりかえっていった。
「次、シロと出くわしたら先生にまかせっきりにしません。おれもやってやる。次はシロのこめかみ、狙います」
パーマがかかった髪。首の金のネックレス。チャラそうな笑顔。
遊び人風の遠野さんの風貌からツテとは反社の人間ではないかと思った。
「彼女だってやってやるすよ」
遠野さんがわたしから藤原さんに目をうつす。
「藤原さん、大学で弓道やってたから、自警団の訓練のときは一番、射撃のセンスあったんですよ」
銃を持った手で弓をひくマネをする。
「南条さんだけに負担をかけません。次はシロに弾をあててみせます」
真剣な表情の藤原さんが、早足で歩きながら、わたしのほうをふりかえる。
数ヵ月前まで、大学で弓道をしていた子が、拳銃を手にして歩道を歩いている。
一夜にして、住み慣れた町が戦場のようになり奇妙な感覚になった。
「藤原さんはどうして、自警団に?」
「珍しいですよね、女の自警団って」
藤原さんは何度もきかれたことのように苦笑する。
「あ、そういうわけでは」
「家族がシロに殺されたです」
藤原さんは表情をかえないでいった。
「わたし、実家が山梨なんですけけど、シロが甲府までやってきたって、ニュースがあってから、父と母と連絡がとれなくなったんです」
時折、顔をわたしにむけながら、淡々と話す。
「それからすぐに地元にいる姉から父と母がシロに毒をかけられたって、知らされました。その姉とも連絡がつかなくなりました。姉は東京に退避しようとしていたんですけど」
彼女の強い意思を感じさせる目には、シロへの怒り、憎しみがあるようだった。
「そうだったんだ」
わたしはなんといっていいかわらず、間の抜けた言葉をかけた。
(わたしも友達をシロに殺された)
藤原さんに共感していたから、そういおうとしたけれど、言葉をのみこんだ。
(美晴さんは小坂さんの薬で生きかえる可能性がある)
そう思って、後ろめたさを感じていた。
「わたしはシロと戦いたいんです。人がシロに殺されていくのが我慢できないんです。それと、家族の仇をとりたい」
藤原さんはそういってから、顔を前にむけて、歩きつづける。
急いで歩いていたから、公園を出てから数分で道の先に病院の建物が見えてきた。
時間が経って、身体からシロを倒した興奮が引いていったためか、シロを殴った手の痛みが強くなっていた。
わたしが腕の痛みを気にしていると、ズボンのポケットの携帯が鳴った。
「え」
痛みがないほうの手でスマホの表示画面を見たとき、小さな声が漏れた。
北野さんと表示されている。
美晴さんの苗字だ。
わたしは立ちとまって、おそるおそるボタンを押した。
「……もしもし」
聞こえてきた低くかすれた声は彼女のものだった。
喉が凍りついたみたいに言葉がでてこない。
黒い雲に覆われた空からまた小雨が降ってきていた。
「もしもし、南条さん」
「美晴さん」
わたしは声を絞りだすようにいった。
「うん」
相手の声が弾む。
「奇跡。小坂さん、南条さんの塾に通ってた子にシロの毒、治療してもらったんだ。」
相手は興奮しているのか、早口でしゃべる。
「……誕生日は?」
「え?」
「美晴さんの誕生日は?」
相手は美晴さんではないかもしれない。
なにかの目的でわたしをだまそうとしている可能性もある。
「7月21日」
相手はすぐに答える。
「好きな色は?」
「黒」
(なんだよ)
スマホを持っている手から力が抜けた。
美晴さんの誕生日は別の日だった。
好きな色もちがう。
「じゃなくて、誕生日は2月3日。好きな色は青」
相手がいたずらっぽく笑う。
(美晴さん!)
笑い声をきいて、美晴さんが生きかえったと確信した。
「テレビ電話でかけなおそうか?」
「いや、いいよ。本物だ」
「南条さん、どこに?」
「市内の病院の近くにいる。自警団の人たちといる」
わたしは声を落としていった。
藤原さんと遠野さんに美晴さんとの会話を聞かれたくなかった。
前の道で立ち止まっているふたりは、わたしのほうをじっと見ている。
「美晴さんは部屋?」
「うん。小坂さんといる」
電話の向こうで動く気配があって、声が小坂さんにかわる。
「小坂です」
「小坂さん、ありがとう」
小坂さんがいっていた薬の効き目を疑っていた自分が恥ずかしくなった。
「南条さん、なるべくはやく部屋に戻ってきてください」
小坂さんが落ち着いた声でいった。
「わたしは南条さんのお友達の他にもシロに毒をかけられた人に薬を与えないといけません。今の南条さんならシロと戦えます。部屋にシロがやってきても北野さんを守れます。わたしが南条さんの爪に塗った薬も効果がありますから」
「効果は実感してる。シロとでくわしてね、倒すことができたよ」
「大丈夫でしたか?」
「うん。一緒にいた自警団の人も毒をかけられずにすんだ」
「よかった」
「ちょっと、自警団のひとたちとやらなければいけないことがあるんだ。それが終わったら、すぐにそっちにいく」
「南条さんが戻るまで、わたしが部屋にいます」
そういって、小坂さんから美晴さんにかわる。
「南条さん、気をつけてね」
「すぐに戻る」
「待ってる」
「うん、じゃあね」
晴美さんともっと話をしたかったけれど、藤原さんと遠野さんを待たせるわけにいかなかった。
スマホをズボンのポケットに戻そうとしたとき、動揺して地面に落としてしまった。
保護ガラスが割れてしまったけれど、そんなことは気にならなかった。
起こった出来事にまだリアリティが感じられなかったけれど、非力な自分が公園でシロを倒したのも、小坂さんが薬で美晴さんを回復させたのも現実だった。
(美晴さんは生きかえった)
自分にいいきかせると、涙がこみあげてきた。
公園から歩道にでると、わたしの前を歩く遠野さんが横に並ぶ藤原さんに声をかける。
空がまた曇りだして、陽射しが消えている。
「わたしは動くことができませんでした」
藤原さんがくやしそうにいった。
「弾も外した。せっかく訓練してきてたのに」
「あの、銃はどこで手にいれたんですか?」
わたしは前を歩くふたりに気になっていたことをきいた。
自警団のわたしたちのグループでは銃をもった人はいなかった。
「おれのツテがあって、そこで銃と弾を手にいれました。シロのことがニュースになりはじめたとき、自分の身を守ろうと思って」
遠野さんがふりかえっていった。
「次、シロと出くわしたら先生にまかせっきりにしません。おれもやってやる。次はシロのこめかみ、狙います」
パーマがかかった髪。首の金のネックレス。チャラそうな笑顔。
遊び人風の遠野さんの風貌からツテとは反社の人間ではないかと思った。
「彼女だってやってやるすよ」
遠野さんがわたしから藤原さんに目をうつす。
「藤原さん、大学で弓道やってたから、自警団の訓練のときは一番、射撃のセンスあったんですよ」
銃を持った手で弓をひくマネをする。
「南条さんだけに負担をかけません。次はシロに弾をあててみせます」
真剣な表情の藤原さんが、早足で歩きながら、わたしのほうをふりかえる。
数ヵ月前まで、大学で弓道をしていた子が、拳銃を手にして歩道を歩いている。
一夜にして、住み慣れた町が戦場のようになり奇妙な感覚になった。
「藤原さんはどうして、自警団に?」
「珍しいですよね、女の自警団って」
藤原さんは何度もきかれたことのように苦笑する。
「あ、そういうわけでは」
「家族がシロに殺されたです」
藤原さんは表情をかえないでいった。
「わたし、実家が山梨なんですけけど、シロが甲府までやってきたって、ニュースがあってから、父と母と連絡がとれなくなったんです」
時折、顔をわたしにむけながら、淡々と話す。
「それからすぐに地元にいる姉から父と母がシロに毒をかけられたって、知らされました。その姉とも連絡がつかなくなりました。姉は東京に退避しようとしていたんですけど」
彼女の強い意思を感じさせる目には、シロへの怒り、憎しみがあるようだった。
「そうだったんだ」
わたしはなんといっていいかわらず、間の抜けた言葉をかけた。
(わたしも友達をシロに殺された)
藤原さんに共感していたから、そういおうとしたけれど、言葉をのみこんだ。
(美晴さんは小坂さんの薬で生きかえる可能性がある)
そう思って、後ろめたさを感じていた。
「わたしはシロと戦いたいんです。人がシロに殺されていくのが我慢できないんです。それと、家族の仇をとりたい」
藤原さんはそういってから、顔を前にむけて、歩きつづける。
急いで歩いていたから、公園を出てから数分で道の先に病院の建物が見えてきた。
時間が経って、身体からシロを倒した興奮が引いていったためか、シロを殴った手の痛みが強くなっていた。
わたしが腕の痛みを気にしていると、ズボンのポケットの携帯が鳴った。
「え」
痛みがないほうの手でスマホの表示画面を見たとき、小さな声が漏れた。
北野さんと表示されている。
美晴さんの苗字だ。
わたしは立ちとまって、おそるおそるボタンを押した。
「……もしもし」
聞こえてきた低くかすれた声は彼女のものだった。
喉が凍りついたみたいに言葉がでてこない。
黒い雲に覆われた空からまた小雨が降ってきていた。
「もしもし、南条さん」
「美晴さん」
わたしは声を絞りだすようにいった。
「うん」
相手の声が弾む。
「奇跡。小坂さん、南条さんの塾に通ってた子にシロの毒、治療してもらったんだ。」
相手は興奮しているのか、早口でしゃべる。
「……誕生日は?」
「え?」
「美晴さんの誕生日は?」
相手は美晴さんではないかもしれない。
なにかの目的でわたしをだまそうとしている可能性もある。
「7月21日」
相手はすぐに答える。
「好きな色は?」
「黒」
(なんだよ)
スマホを持っている手から力が抜けた。
美晴さんの誕生日は別の日だった。
好きな色もちがう。
「じゃなくて、誕生日は2月3日。好きな色は青」
相手がいたずらっぽく笑う。
(美晴さん!)
笑い声をきいて、美晴さんが生きかえったと確信した。
「テレビ電話でかけなおそうか?」
「いや、いいよ。本物だ」
「南条さん、どこに?」
「市内の病院の近くにいる。自警団の人たちといる」
わたしは声を落としていった。
藤原さんと遠野さんに美晴さんとの会話を聞かれたくなかった。
前の道で立ち止まっているふたりは、わたしのほうをじっと見ている。
「美晴さんは部屋?」
「うん。小坂さんといる」
電話の向こうで動く気配があって、声が小坂さんにかわる。
「小坂です」
「小坂さん、ありがとう」
小坂さんがいっていた薬の効き目を疑っていた自分が恥ずかしくなった。
「南条さん、なるべくはやく部屋に戻ってきてください」
小坂さんが落ち着いた声でいった。
「わたしは南条さんのお友達の他にもシロに毒をかけられた人に薬を与えないといけません。今の南条さんならシロと戦えます。部屋にシロがやってきても北野さんを守れます。わたしが南条さんの爪に塗った薬も効果がありますから」
「効果は実感してる。シロとでくわしてね、倒すことができたよ」
「大丈夫でしたか?」
「うん。一緒にいた自警団の人も毒をかけられずにすんだ」
「よかった」
「ちょっと、自警団のひとたちとやらなければいけないことがあるんだ。それが終わったら、すぐにそっちにいく」
「南条さんが戻るまで、わたしが部屋にいます」
そういって、小坂さんから美晴さんにかわる。
「南条さん、気をつけてね」
「すぐに戻る」
「待ってる」
「うん、じゃあね」
晴美さんともっと話をしたかったけれど、藤原さんと遠野さんを待たせるわけにいかなかった。
スマホをズボンのポケットに戻そうとしたとき、動揺して地面に落としてしまった。
保護ガラスが割れてしまったけれど、そんなことは気にならなかった。
起こった出来事にまだリアリティが感じられなかったけれど、非力な自分が公園でシロを倒したのも、小坂さんが薬で美晴さんを回復させたのも現実だった。
(美晴さんは生きかえった)
自分にいいきかせると、涙がこみあげてきた。
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