【完結】異世界帰りの錬金術師が、わたしを救う。

シハ

文字の大きさ
33 / 40
南条隆文と武道家

しおりを挟む
 耳を両手でふさいだ女性が、悲鳴をあげてその場にしゃがみこむ。
 藤原さんは呆然として固まっている。
 わたしは口を手で覆ったままショックで身体がすくんでいた。

「やっぱり、頭が弱点なのか」

 遠野さんが靴脱ぎ場に近づき、死体を見おろす。
 声が興奮でうわずっている。

「申し訳ありません。お子さんの父親だったのに」

 ふりかえった遠野さんが洗面所でしゃがみこんでいる女性に声をかける。
 けれど、シロらしい男性を撃った遠野さんは罪悪感をもっているようにはみえない。

「……仕方がありません。あのヒトはシロになってしまったんですから」

 意外にも、女性ははっきりとした口調でいった。
 銃声、血、死体にショックを受けてはいても元夫の死を悲しんではいないようだった。
 シロになりかけていた元夫を家に匿っていても、元夫との間には愛情も友情もなくなっていたようだった。

「わたしも待避所にいきます」

 女性がゆっくり立ちあがると、ふいに靴脱ぎ場の男性が咳き込む声がする。

「なに?」

 とっさに藤原さんが横たわっている男性に銃をむける。

「……生きてる?」

 遠野さんも男性に銃をむける。
 けれど、生気がない男性に動く様子はない。
 そのままわたしたちが男性をじっと見ていると、もう一度咳き込む。
 すると、口の中から小さなものが出てきて、靴脱ぎ場に落ちる。
 白い蜂のような生物だった。
 弁当屋の前で、小坂さんが倒したシロの口から出てきたものと同じやつだった。

「虫?」

 小坂さんがかがみ込んで、蜂のような生物を見る。

(その蜂みたいなやつが、シロの正体だ)

 小坂さんから聞いた話を藤原さんと遠野にいうのはやめておいた。
 ふたりになぜわたしがシロのことを知っているのかと怪しまれたくなかった。
 すでに、わたしは素手でシロを倒して普通の人間ではないと思われている。

「おい、動いた」

 遠野さんがいった。
 小坂さんが倒したシロの口から出てきたやつは、死骸になっていた。
 けれど、そいつは靴脱ぎ場のタイルの上を力なく動いていて、弱々しく飛んだ。
 側にいる遠野さんのほうにふらふらとむかう。

「なんだよ、こいつ」

 遠野さんが近づいてきた白い蜂のようなやつを手ではらう。
 すると、後ろにいるわたしのほうにむかってくる。

 わたしは蚊をつぶすように、今にも地面に落ちそうなほど遅く飛ぶそいつを両手で叩こうとした。
 けれど、そいつはわたしの手をすり抜けて、わたしの手の甲にとまった。

(くそ)

 わたしは得体の知れないものに触れられてぞっとしながら手をふり、そいつを落とそうとした。
 けれど、そいつはわたしの手の甲に貼りついたように離れない。
 手をふるのをやめて見ると、血の気がひいた。

 そいつの頭が私の手の甲にめりこんでいて、さらに頭から下まで入りこんでいく。
 あっという間に、痛みもなくするするとわたしの手の中に腹の先まで入って消える。
 藤原さんと遠野さんが驚きの目をわたしにむける。

「南条さん、肌」

 わたしがあっけにとられていると、藤原さんが口を開いた。

「肌?」

「南条さんの肌がかわってる」

 いわれて腕を見ると、血が凍った。
 腕の皮膚の一部が真っ白になって、元の肌とまだら模様になっている。
 靴脱ぎ場に倒れている男性に目を移すと、男性の肌に白い部分がきれいに消えている。
 すべて人間の肌に戻っている。

(今度はおれがシロになった)

「あんたもシロだったのか」

 遠野さんがわたしの顔に銃口を突きつける。
 目に怒りが浮かんでいる。

「ちがう」

 わたしはあとずさって、廊下の壁に背中をぶつけた。

「見ただろ。あの蜂みたいなやつがおれについて、身体に入ったんだ」

 遠野さんをなだめるようにゆっくりといった。

「意識ははっきりしてる。おれは人間だ」

「……シロを倒したあの力、あんたが人間じゃないからだろ」

 遠野さんが興奮で息を弾ませながら憶測をする。
 藤原さんは戸惑った目でわたしを見ている。

「おれシロじゃない。あなたたちと会った公園でシロを倒しただろ。おれがシロだったら、どうして仲間のシロと戦うんだ」

「遠野さん、その人たちは公園で会ったシロとちがうんじゃないですか」

 藤原さんが自信がなさそうにいった。

「そうだ、あの人の肌は元に戻っただろ。おれは一時的に寄生されているだけだ」

 わたしは倒れている男性を指さしながら、藤原さんの発言にかぶせるようにいった。

「藤原さん、だまされるな。こいつら、びびったふりして、おれたちを油断させようとしてる」

 遠野さんがいった。

「怪しいやつだって思ってた。こんなときに、爪にマニュキュアなんか塗って」

(撃たれる)

 わたしは遠野さんの怒りに満ちた目にして、説得をあきらめた。

(逃げよう)

 そう決めた瞬間、目の前の遠野さんに肩から体当たりをした。
 遠野さんはよろけて、靴脱ぎ場の収納ドアに身体をぶつける。
 前が開けると、わたしは靴脱ぎ場の男性を跨ぎ超えて、女性のサンダルを踏みつけて、ドアを開け、表に飛びだした。

 外は黒い雲が厚くなっていて、雨も強くなっていた。
 家の前の道路を右に走りながらふりかえると、玄関のドアが勢いよく開く音がして、遠野さんと藤原さんが飛びだしてくる。

 わたしは顔を前にむけて、目に映った曲がり角にむかって走った。
 すぐ後ろで銃声がする。
 弾がわたしの身体の側を流れていく。

 心臓が口から飛びでそうな恐怖を感じながら、曲がり角に近づく。
 角を曲がろうとすると、また銃声がする。
 次の瞬間、肩に衝撃を受けて、わたしは回転しながら地面に倒れた。

(撃たれた)

 そう理解すると、肩の肉が焼かれたように熱くなり、痛みにうめいた。
 遠野が足音を立てて走ってやってくる。

「逃がさないぞ」

 倒れているわたしに銃口をむける。
 雨に濡れた顔が興奮で上気している。

(殺されたたくない)

 すこしでも遠野から距離を空けようと思って、地面に背中をつけたまま蹴りあげるように力をこめて脚をあげた。
 スニーカーのつま先が、遠野の腰にあたって、わたしに銃を突きつけている遠野の足が地面から浮いて、後方にふっとぶ。
 遠野はアスファルトに身体を打った。
 起きあがれないで、痛みでうめく。

(小坂さんの薬は、脚の力も強くなるのか)

 わたしは薬の効果に驚きながら、痛みのない手を地面に突いて立ちあがった。
 遠野を蹴った脚に痛みが走る。
 近くにやってきていた藤原さんが、恐怖の目でわたしを見ている。

「おれはシロじゃない」

 青く塗った爪を彼女に見せて、小坂さんの薬について説明をしようと思ったけれど、とっさにやめた。

(余計、人間扱いされなくなる)

 わたしは銃を手にしている藤原さんが銃口をむけてくるのではと恐怖を感じながら、後ろにさがった。
 藤原さんは銃を構えないで、スウェットのポケットからスマホをとりだして、あとずさりながら、スマホの背面をわたしにむける。
 スマホから連続したシャッター音がする。
 藤原さんはわたしの写真を撮っているようだった。

「なにをしている?」

 きいても藤原さんは、後ろに歩きながらスマホをわたしにむけつづける。

(だめだ)

 わたしは自分がシロではないことを説明するのをあきらめて、身体のむきをかえて、曲がり角を曲がった。
 そのまま歩いて、ふりかえると、藤原さんの姿は消えていた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

東京ダンジョン物語

さきがけ
ファンタジー
10年前、世界中に突如として出現したダンジョン。 大学3年生の平山悠真は、幼馴染の綾瀬美琴と共に、新宿中央公園ダンジョンで探索者として活動していた。 ある日、ダンジョン10階層の隠し部屋で発見した七色に輝く特殊なスキルストーン。 絶体絶命の危機の中で発動したそれは、前代未聞のスキル『無限複製』だった。 あらゆる物を完全に複製できるこの力は、悠真たちの運命を大きく変えていく。 やがて妹の病を治すために孤独な戦いを続ける剣士・朝霧紗夜が仲間に加わり、3人は『無限複製』の真の可能性に気づき始める。 スキルを駆使して想像を超える強化を実現した彼らは、誰も到達できなかった未踏の階層へと挑んでいく。 無限の可能性を秘めた最強スキルを手に、若き探索者たちが紡ぐ現代ダンジョンファンタジー、ここに開幕!

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について

沢田美
恋愛
名門・雄幸高校で目立たず生きる一年生、神谷悠真。 クラスでは影が薄く、青春とは無縁の平凡な日々を送っていた。だがある放課後、街で不良に絡まれていた女子生徒を助けたことで、その日常は一変する。救った相手は、学年一の美少女三姉妹として知られる西園寺家の次女・優里だった。さらに家に帰れば、三姉妹の長女・龍華がなぜか当然のように悠真の部屋に入り浸っている。名門令嬢三姉妹に振り回されながら、静かだったはずの悠真の青春は少しずつ騒がしく揺れ始める。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

処理中です...