36 / 40
南条隆文と武道家
⑬
しおりを挟む
「どうしました?」
自動ドアをあけて出てきた五十代前後にみえる男性は、血で汚れた服を着たわたしを目にしても驚いた様子がなかった。
(この人は医者だろう)
レインコートを着て、顔は何日も剃っていないような不揃いの髭で覆われている。
「あ、その前に中に入ってください」
わたしが口をひらこうとすると、医者らしい男性はわたしに肩を貸してくれた。
ソファが二つ置いてあるだけの狭い待合室を抜けて、診察室に入って、男性が部屋の電気をつけてから、わたしは診察台に腰をかけた。
「どうしましたか?」
わたしの前に立った医者があらためてきく。
「自宅に食べ目当てあての強盗が入ってきたんです」
なんといおうかと迷ってからとっさに説明をした。
シロに寄生されて自警団の人間に銃で撃たれたいうわけにもいかなかった。
つい数分まで、シロに寄生されていたと知ったら、この医者は警戒をしてわたしの治療をしないかもしれない。
「そいつらに銃で撃たれたんです。肩を撃たれました」
シロが現れて、食料が紙幣より貴重になってから食料を狙った強盗が多発しているというニュースを思いだしていた。
「ひどい」
わたしのとっさの作り話を信じたかわらないけれど、医者は顔をしかめる。
顔に疑いはみえない。
「傷を見せてください。服を脱いでください」
医者がわたしのTシャツの生地をつかんで、服を脱がそうとする。
濡れて重くなったTシャツをゆっくりと脱がして、床に置いてある患者が荷物をいれる籠にいれる。
目をそむけたくなるような変色した肌の傷口は血で覆われていて深さがわからなかった。
医者が手当をはじめる。
部屋の奥にある棚から治療の道具を持って、診察台の側にあるテーブルに置く。
椅子に腰をかけてからゴム手袋をして、ボトルに入った消毒の液体を小さな皿にいれる。
ピンセットでつまんだ綿をその液体に浸して、わたしの肩の傷を洗っていく。
傷口がひどくしみて、声をあげそうになったけれど、歯をくいしばった。
医者が綿を何回か交換して肩の血をふきとって消毒がおわった。
「傷は浅いです。弾は体内に入ってないと思います」
医者が拳銃の弾でえぐられたわたしの肩の傷に顔を近づけながらいった。
とんでもない一日だったけれど、よいこともあるようだった。
もし、肩の内側に弾が入っていたら、市内の病院で弾をとる手術ができるかわからなかった。
たまたまみつけた外科に医者がいて、手当てを受けることもできた。
「今は傷口を縫わないで血をとめます」
医者が止血剤が染みこんでいるというスポンジを肩の傷口に押しつける。
「今、傷口の皮膚を閉じてしまうと中で細菌に感染してしまうかもしれません。一週間程度経って、傷口が悪化してないのを確認してから縫ったほうがいいです」
「ありがとうございます。治療代はあとで払います。家が近いんで、あとで払いにきます」
「お金はいいですよ。今は使える場所もないし」
(この人は患者からの評判もいいんだろうな)
淡々とわたしの傷の手当をする医者を見ながら思った。
医者が止血剤を傷口に押しあててから数分で、血がぴったりととまった。
それから、医者がガーゼを貼って、肩に包帯を巻く。
すると、不快感がなくなったせいか、気力がすこしわいてきた。
(これで部屋に帰れる)
まだふらつく感覚があったけれど、マンションまで歩く体力は残っていそうだった。
「ほんとにひどいですね、その強盗は。銃で撃って食べ物を奪うなんて」
わたしが籠のTシャツをとって着ると、医者がいった。
「わたしも驚きました」
いいながら、手当をしてくれた医者に嘘をついたことに胸が痛んだ。
「あの、これから外に出るつもりですか?」
わたしは話題を変えるようにきいた。
医者が着ているレインコートは濡れていなかった。
「ええ」
医者は使った綿を床のゴミ箱に捨てながら答える。
「シロがここまできています。わたしは自警団なんです。シロが市内までやってきったて知らせをうけました」
医者に忠告をした。
「そうですか」
それまで淡々とわたしの傷の手当をしていた医者が眉をあげる。
「できるだけここに隠れていたほうがいいですよ」
「わたしはこれから病院にいかないといけないんです」
医者はすぐに落ち着きをとりもどしていった。
「今わたしは、西沢病院で働いています。医師と看護師が人手不足でしてね、患者さんはいるのに。だから、病院にいかないといけないんです」
前からシロがやってくることを想定していたような口ぶりだった。
「病院に地下室があって、シロがやってきた場合、われわれと患者さんが隠れる手はずは整っています」
「そうですか……」
医者は覚悟を決めているようで、外に出ないように彼を説得するのは無理だと思った。
モンスターに殺されるかもしれないのに、自分の職務をまっとうしようとする医者を立派だと思った。
「わたしは西沢病院にいます。一週間後、町がどうなってるかわかりませんが、もし可能だったら、一週間後、傷口を見せに病院まできてください。傷口に問題がなかったら、縫います。病院の場所はわかりますか?」
「はい」
「傷の消毒液と、包帯をお渡しします。一日一回交換をしてください。痛み止めも渡しておきます」
そういって、医者は部屋の奥にある医薬品が並んだ棚に移動する。
そのとき、診察所の外から足音が聞こえてきた。
ひとりではなくて、数人がなだれこんでくるようなせわしない足音だった。
「なんだ?」
異変に気がついた医者が、けげんそうにドアのほうをふりかえる。
それからすぐにドアが勢いよく開いた。
ドアを開けたのは拳銃を手にした遠野だった。
雨でパーマがかった髪とシャツが濡れている。
遠野の後ろの廊下には、数人の自警団の人間がいる。
その中には藤原さんもいる。
わたしも驚いていたけれど、部屋に入ってきた遠野も拳銃を突きつけながら、わたしの姿を見て、目をひらく。
「待て」
遠野の銃を見た瞬間、わたしは診察台に腰をかけたまま痛む両腕を小さくあげた。
「おれはもうシロじゃない。見ればわかるだろ」
自警団の人間たちを刺激しないようにゆっくりといった。
横目で見ると医者は棚の前で消毒液を持ったまま、武器を持った男たちが押し入ってきたことに戸惑っている。
「どうなってる?」
部屋に踏み込んできた遠野は、わたしの顔と腕をじろじろと見る。
「あの白い小さな蜂みたいなやつが身体からでたんだ」
「おまえ、肌の色を自分でかえられるんだろ」
遠野がわたしのこめかみに素早く銃をつきつける。
こめかみに当てられた銃口は、低温やけどしそうなほど冷たい感触がして、身体が凍りついた。
「今は人間のふりをしているんだろ」
「ちがう。あの蜂みたいなやつを吐きだしたんだ。そうしたら白い肌がきえた」
声がふるえないように注意をしたけれど、出てきた声は情けないほどか細い。
「おれの肌にもうシロの部分はない。全身を調べてもらってもいい」
「そんなに簡単に人間に戻れるならシロの数はもっと減ってるだろ」
遠野は人間かシロか見定めるようにじっとわたしを見る。
「そっちはどうしてここに?」
わたしは遠野が引き金を引く時間を伸ばそうとして聞いた。
「あなたがこのビルに入っていくのを見た人がいた」
遠野の後ろ、ドアの入り口に立つ藤原さんが答えた。
藤原さんはまだらな肌が消えたわたしをいぶかしそうに見ていたけれど、銃はおろしていた。
自警団の人間に尾行されていたのだ。
警察に追われている容疑者になった気分だった。
「おれはシロじゃない」
藤原さんに訴えるようにいった。
「うそつくな、てめ、コラッ!」
廊下にいる自警団の一員から怒鳴り声がする。
声のほうに目をむけると、住宅街でわたしをボウガンで撃とうとした少年の顔があった。
「こいつ、おれに自分がシロだっていった!」
髪を後ろで結んだ少年は腕を伸ばし、わたしに指をつきつける。
「あれはきみがおれにボウガンをむけていたからだ。撃たれないためにシロのふりをしたんだ」
「指から毒、だしやがっただろ」
少年が憎しみがこもった目でわたしを睨みつける。
わたしに脅されたのを恨んでいるようだった。
仲間の自警団がいるせいか、少年の顔からわたしへの怯えは消えている。
「あのときはシロに寄生されてたんだ。自分でも毒がでるなんて思わなかった」
「はやく、そいつやろう! また、毒だすぞ!」
少年が遠野をけしかける。
「ちょっと!」
部屋の奥にいる医者が少年の声をかき消した。
自警団の人間たちの視線が医者に集まる。
「あなたたちは?」
医者がわたしのほうに歩み寄ってくる。
「彼らは自警団です」
わたしは医者にいった。
「なにがあったかしらないけど、ここはわたしの診療所です。いくら自警団でも物騒なものをもって勝手に入ってこないでほしい」
医者は武器を持って興奮している男たちを前にして、落ち着いた声でいった。
けれど、消毒液をもつ手はふるえていた。
「そいつは、シロなんだよ!」
少年が非難するようにわたしに指を突きつける。
「は?」
医者はけげんな顔で、少年とわたしを交互に見る。
「彼はわたしの手当をうけていたんだ。シロなんかじゃない」
「その人は一時的にシロに寄生されていただけかもしれません」
藤原さんが廊下の自警団の中から前に進みでて、診察室に入ってきた。
「もし、シロだったら公園にいたやつみたいに、わたしたちに攻撃をしようとするはずです。こうやって話をしている間にも」
藤原さんが緊張した顔で自警団の連中を見回すと、遠野がうなずいた。
「突然、失礼しました」
遠野が口をひらいた。
興奮してなにかをいおうとする少年を手で制しながら、隙間が空いた前歯をのぞかせて医者に笑みをむける。
「ここで、騒がれるのもいい迷惑すよね」
「もめごとは起こさないでくれ」
医者がいった。
「先生、よかったね。人間に戻れて」
遠野は医者からわたしに笑みをむけながら、銃口をわたしのこめかみから離す。
「ああ」
(おれがシロに寄生されていないって判断したのか)
そう思って息を吐いた。
けれど、期待はすぐに消えた。
「だまされないよ」
遠野が銃を持った手を素早くふりあげて、わたしの頭にむかってふりおろす。
避ける暇はなかった。
ふりおろされた銃のグリップの底がこめかみにあたって、衝撃と痛みが走って、次の瞬間には目の間が真っ暗になった。
自動ドアをあけて出てきた五十代前後にみえる男性は、血で汚れた服を着たわたしを目にしても驚いた様子がなかった。
(この人は医者だろう)
レインコートを着て、顔は何日も剃っていないような不揃いの髭で覆われている。
「あ、その前に中に入ってください」
わたしが口をひらこうとすると、医者らしい男性はわたしに肩を貸してくれた。
ソファが二つ置いてあるだけの狭い待合室を抜けて、診察室に入って、男性が部屋の電気をつけてから、わたしは診察台に腰をかけた。
「どうしましたか?」
わたしの前に立った医者があらためてきく。
「自宅に食べ目当てあての強盗が入ってきたんです」
なんといおうかと迷ってからとっさに説明をした。
シロに寄生されて自警団の人間に銃で撃たれたいうわけにもいかなかった。
つい数分まで、シロに寄生されていたと知ったら、この医者は警戒をしてわたしの治療をしないかもしれない。
「そいつらに銃で撃たれたんです。肩を撃たれました」
シロが現れて、食料が紙幣より貴重になってから食料を狙った強盗が多発しているというニュースを思いだしていた。
「ひどい」
わたしのとっさの作り話を信じたかわらないけれど、医者は顔をしかめる。
顔に疑いはみえない。
「傷を見せてください。服を脱いでください」
医者がわたしのTシャツの生地をつかんで、服を脱がそうとする。
濡れて重くなったTシャツをゆっくりと脱がして、床に置いてある患者が荷物をいれる籠にいれる。
目をそむけたくなるような変色した肌の傷口は血で覆われていて深さがわからなかった。
医者が手当をはじめる。
部屋の奥にある棚から治療の道具を持って、診察台の側にあるテーブルに置く。
椅子に腰をかけてからゴム手袋をして、ボトルに入った消毒の液体を小さな皿にいれる。
ピンセットでつまんだ綿をその液体に浸して、わたしの肩の傷を洗っていく。
傷口がひどくしみて、声をあげそうになったけれど、歯をくいしばった。
医者が綿を何回か交換して肩の血をふきとって消毒がおわった。
「傷は浅いです。弾は体内に入ってないと思います」
医者が拳銃の弾でえぐられたわたしの肩の傷に顔を近づけながらいった。
とんでもない一日だったけれど、よいこともあるようだった。
もし、肩の内側に弾が入っていたら、市内の病院で弾をとる手術ができるかわからなかった。
たまたまみつけた外科に医者がいて、手当てを受けることもできた。
「今は傷口を縫わないで血をとめます」
医者が止血剤が染みこんでいるというスポンジを肩の傷口に押しつける。
「今、傷口の皮膚を閉じてしまうと中で細菌に感染してしまうかもしれません。一週間程度経って、傷口が悪化してないのを確認してから縫ったほうがいいです」
「ありがとうございます。治療代はあとで払います。家が近いんで、あとで払いにきます」
「お金はいいですよ。今は使える場所もないし」
(この人は患者からの評判もいいんだろうな)
淡々とわたしの傷の手当をする医者を見ながら思った。
医者が止血剤を傷口に押しあててから数分で、血がぴったりととまった。
それから、医者がガーゼを貼って、肩に包帯を巻く。
すると、不快感がなくなったせいか、気力がすこしわいてきた。
(これで部屋に帰れる)
まだふらつく感覚があったけれど、マンションまで歩く体力は残っていそうだった。
「ほんとにひどいですね、その強盗は。銃で撃って食べ物を奪うなんて」
わたしが籠のTシャツをとって着ると、医者がいった。
「わたしも驚きました」
いいながら、手当をしてくれた医者に嘘をついたことに胸が痛んだ。
「あの、これから外に出るつもりですか?」
わたしは話題を変えるようにきいた。
医者が着ているレインコートは濡れていなかった。
「ええ」
医者は使った綿を床のゴミ箱に捨てながら答える。
「シロがここまできています。わたしは自警団なんです。シロが市内までやってきったて知らせをうけました」
医者に忠告をした。
「そうですか」
それまで淡々とわたしの傷の手当をしていた医者が眉をあげる。
「できるだけここに隠れていたほうがいいですよ」
「わたしはこれから病院にいかないといけないんです」
医者はすぐに落ち着きをとりもどしていった。
「今わたしは、西沢病院で働いています。医師と看護師が人手不足でしてね、患者さんはいるのに。だから、病院にいかないといけないんです」
前からシロがやってくることを想定していたような口ぶりだった。
「病院に地下室があって、シロがやってきた場合、われわれと患者さんが隠れる手はずは整っています」
「そうですか……」
医者は覚悟を決めているようで、外に出ないように彼を説得するのは無理だと思った。
モンスターに殺されるかもしれないのに、自分の職務をまっとうしようとする医者を立派だと思った。
「わたしは西沢病院にいます。一週間後、町がどうなってるかわかりませんが、もし可能だったら、一週間後、傷口を見せに病院まできてください。傷口に問題がなかったら、縫います。病院の場所はわかりますか?」
「はい」
「傷の消毒液と、包帯をお渡しします。一日一回交換をしてください。痛み止めも渡しておきます」
そういって、医者は部屋の奥にある医薬品が並んだ棚に移動する。
そのとき、診察所の外から足音が聞こえてきた。
ひとりではなくて、数人がなだれこんでくるようなせわしない足音だった。
「なんだ?」
異変に気がついた医者が、けげんそうにドアのほうをふりかえる。
それからすぐにドアが勢いよく開いた。
ドアを開けたのは拳銃を手にした遠野だった。
雨でパーマがかった髪とシャツが濡れている。
遠野の後ろの廊下には、数人の自警団の人間がいる。
その中には藤原さんもいる。
わたしも驚いていたけれど、部屋に入ってきた遠野も拳銃を突きつけながら、わたしの姿を見て、目をひらく。
「待て」
遠野の銃を見た瞬間、わたしは診察台に腰をかけたまま痛む両腕を小さくあげた。
「おれはもうシロじゃない。見ればわかるだろ」
自警団の人間たちを刺激しないようにゆっくりといった。
横目で見ると医者は棚の前で消毒液を持ったまま、武器を持った男たちが押し入ってきたことに戸惑っている。
「どうなってる?」
部屋に踏み込んできた遠野は、わたしの顔と腕をじろじろと見る。
「あの白い小さな蜂みたいなやつが身体からでたんだ」
「おまえ、肌の色を自分でかえられるんだろ」
遠野がわたしのこめかみに素早く銃をつきつける。
こめかみに当てられた銃口は、低温やけどしそうなほど冷たい感触がして、身体が凍りついた。
「今は人間のふりをしているんだろ」
「ちがう。あの蜂みたいなやつを吐きだしたんだ。そうしたら白い肌がきえた」
声がふるえないように注意をしたけれど、出てきた声は情けないほどか細い。
「おれの肌にもうシロの部分はない。全身を調べてもらってもいい」
「そんなに簡単に人間に戻れるならシロの数はもっと減ってるだろ」
遠野は人間かシロか見定めるようにじっとわたしを見る。
「そっちはどうしてここに?」
わたしは遠野が引き金を引く時間を伸ばそうとして聞いた。
「あなたがこのビルに入っていくのを見た人がいた」
遠野の後ろ、ドアの入り口に立つ藤原さんが答えた。
藤原さんはまだらな肌が消えたわたしをいぶかしそうに見ていたけれど、銃はおろしていた。
自警団の人間に尾行されていたのだ。
警察に追われている容疑者になった気分だった。
「おれはシロじゃない」
藤原さんに訴えるようにいった。
「うそつくな、てめ、コラッ!」
廊下にいる自警団の一員から怒鳴り声がする。
声のほうに目をむけると、住宅街でわたしをボウガンで撃とうとした少年の顔があった。
「こいつ、おれに自分がシロだっていった!」
髪を後ろで結んだ少年は腕を伸ばし、わたしに指をつきつける。
「あれはきみがおれにボウガンをむけていたからだ。撃たれないためにシロのふりをしたんだ」
「指から毒、だしやがっただろ」
少年が憎しみがこもった目でわたしを睨みつける。
わたしに脅されたのを恨んでいるようだった。
仲間の自警団がいるせいか、少年の顔からわたしへの怯えは消えている。
「あのときはシロに寄生されてたんだ。自分でも毒がでるなんて思わなかった」
「はやく、そいつやろう! また、毒だすぞ!」
少年が遠野をけしかける。
「ちょっと!」
部屋の奥にいる医者が少年の声をかき消した。
自警団の人間たちの視線が医者に集まる。
「あなたたちは?」
医者がわたしのほうに歩み寄ってくる。
「彼らは自警団です」
わたしは医者にいった。
「なにがあったかしらないけど、ここはわたしの診療所です。いくら自警団でも物騒なものをもって勝手に入ってこないでほしい」
医者は武器を持って興奮している男たちを前にして、落ち着いた声でいった。
けれど、消毒液をもつ手はふるえていた。
「そいつは、シロなんだよ!」
少年が非難するようにわたしに指を突きつける。
「は?」
医者はけげんな顔で、少年とわたしを交互に見る。
「彼はわたしの手当をうけていたんだ。シロなんかじゃない」
「その人は一時的にシロに寄生されていただけかもしれません」
藤原さんが廊下の自警団の中から前に進みでて、診察室に入ってきた。
「もし、シロだったら公園にいたやつみたいに、わたしたちに攻撃をしようとするはずです。こうやって話をしている間にも」
藤原さんが緊張した顔で自警団の連中を見回すと、遠野がうなずいた。
「突然、失礼しました」
遠野が口をひらいた。
興奮してなにかをいおうとする少年を手で制しながら、隙間が空いた前歯をのぞかせて医者に笑みをむける。
「ここで、騒がれるのもいい迷惑すよね」
「もめごとは起こさないでくれ」
医者がいった。
「先生、よかったね。人間に戻れて」
遠野は医者からわたしに笑みをむけながら、銃口をわたしのこめかみから離す。
「ああ」
(おれがシロに寄生されていないって判断したのか)
そう思って息を吐いた。
けれど、期待はすぐに消えた。
「だまされないよ」
遠野が銃を持った手を素早くふりあげて、わたしの頭にむかってふりおろす。
避ける暇はなかった。
ふりおろされた銃のグリップの底がこめかみにあたって、衝撃と痛みが走って、次の瞬間には目の間が真っ暗になった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
僕だけ入れちゃうステータス欄 ~追放された凄腕バッファーは、たまたま出会った新人冒険者たちと真の最強パーティーを作り上げる~
めでめで汰
ファンタジー
バッファーの少年カイトのバフスキルは「ステータス欄の中に入って直接数字を動かす」というもの。
しかし、その能力を信じなかった仲間からカイトは追放され迷宮に置き去りにされる。
そこで出会ったLUK(幸運)値の高い少女ハルと共にカイトは無事迷宮から生還。
その後、カイトはハルの両親を探すため地下迷宮の奥へと挑むことを決意する。
(スライム、もふもふ出てきます。女の子に囲まれるけどメインヒロインは一人です。「ざまぁ」もしっかりあります)
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~
あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。
彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。
剣も魔法も得意ではない主人公は、
最強のメイドたちに守られながら生きている。
だが彼自身は、
「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。
自分にできることは何か。
この世界で、どう生きていくべきか。
最強の力を持つ者たちと、
何者でもない一人の青年。
その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。
本作は、
圧倒的な安心感のある日常パートと、
必要なときには本格的に描かれる戦い、
そして「守られる側の成長」を軸にした
完結済み長編ファンタジーです。
シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。
最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる