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南条隆文と武道家
⑬
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「どうしました?」
自動ドアをあけて出てきた五十代前後にみえる男性は、血で汚れた服を着たわたしを目にしても驚いた様子がなかった。
(この人は医者だろう)
レインコートを着て、顔は何日も剃っていないような不揃いの髭で覆われている。
「あ、その前に中に入ってください」
わたしが口をひらこうとすると、医者らしい男性はわたしに肩を貸してくれた。
ソファが二つ置いてあるだけの狭い待合室を抜けて、診察室に入って、男性が部屋の電気をつけてから、わたしは診察台に腰をかけた。
「どうしましたか?」
わたしの前に立った医者があらためてきく。
「自宅に食べ目当てあての強盗が入ってきたんです」
なんといおうかと迷ってからとっさに説明をした。
シロに寄生されて自警団の人間に銃で撃たれたいうわけにもいかなかった。
つい数分まで、シロに寄生されていたと知ったら、この医者は警戒をしてわたしの治療をしないかもしれない。
「そいつらに銃で撃たれたんです。肩を撃たれました」
シロが現れて、食料が紙幣より貴重になってから食料を狙った強盗が多発しているというニュースを思いだしていた。
「ひどい」
わたしのとっさの作り話を信じたかわらないけれど、医者は顔をしかめる。
顔に疑いはみえない。
「傷を見せてください。服を脱いでください」
医者がわたしのTシャツの生地をつかんで、服を脱がそうとする。
濡れて重くなったTシャツをゆっくりと脱がして、床に置いてある患者が荷物をいれる籠にいれる。
目をそむけたくなるような変色した肌の傷口は血で覆われていて深さがわからなかった。
医者が手当をはじめる。
部屋の奥にある棚から治療の道具を持って、診察台の側にあるテーブルに置く。
椅子に腰をかけてからゴム手袋をして、ボトルに入った消毒の液体を小さな皿にいれる。
ピンセットでつまんだ綿をその液体に浸して、わたしの肩の傷を洗っていく。
傷口がひどくしみて、声をあげそうになったけれど、歯をくいしばった。
医者が綿を何回か交換して肩の血をふきとって消毒がおわった。
「傷は浅いです。弾は体内に入ってないと思います」
医者が拳銃の弾でえぐられたわたしの肩の傷に顔を近づけながらいった。
とんでもない一日だったけれど、よいこともあるようだった。
もし、肩の内側に弾が入っていたら、市内の病院で弾をとる手術ができるかわからなかった。
たまたまみつけた外科に医者がいて、手当てを受けることもできた。
「今は傷口を縫わないで血をとめます」
医者が止血剤が染みこんでいるというスポンジを肩の傷口に押しつける。
「今、傷口の皮膚を閉じてしまうと中で細菌に感染してしまうかもしれません。一週間程度経って、傷口が悪化してないのを確認してから縫ったほうがいいです」
「ありがとうございます。治療代はあとで払います。家が近いんで、あとで払いにきます」
「お金はいいですよ。今は使える場所もないし」
(この人は患者からの評判もいいんだろうな)
淡々とわたしの傷の手当をする医者を見ながら思った。
医者が止血剤を傷口に押しあててから数分で、血がぴったりととまった。
それから、医者がガーゼを貼って、肩に包帯を巻く。
すると、不快感がなくなったせいか、気力がすこしわいてきた。
(これで部屋に帰れる)
まだふらつく感覚があったけれど、マンションまで歩く体力は残っていそうだった。
「ほんとにひどいですね、その強盗は。銃で撃って食べ物を奪うなんて」
わたしが籠のTシャツをとって着ると、医者がいった。
「わたしも驚きました」
いいながら、手当をしてくれた医者に嘘をついたことに胸が痛んだ。
「あの、これから外に出るつもりですか?」
わたしは話題を変えるようにきいた。
医者が着ているレインコートは濡れていなかった。
「ええ」
医者は使った綿を床のゴミ箱に捨てながら答える。
「シロがここまできています。わたしは自警団なんです。シロが市内までやってきったて知らせをうけました」
医者に忠告をした。
「そうですか」
それまで淡々とわたしの傷の手当をしていた医者が眉をあげる。
「できるだけここに隠れていたほうがいいですよ」
「わたしはこれから病院にいかないといけないんです」
医者はすぐに落ち着きをとりもどしていった。
「今わたしは、西沢病院で働いています。医師と看護師が人手不足でしてね、患者さんはいるのに。だから、病院にいかないといけないんです」
前からシロがやってくることを想定していたような口ぶりだった。
「病院に地下室があって、シロがやってきた場合、われわれと患者さんが隠れる手はずは整っています」
「そうですか……」
医者は覚悟を決めているようで、外に出ないように彼を説得するのは無理だと思った。
モンスターに殺されるかもしれないのに、自分の職務をまっとうしようとする医者を立派だと思った。
「わたしは西沢病院にいます。一週間後、町がどうなってるかわかりませんが、もし可能だったら、一週間後、傷口を見せに病院まできてください。傷口に問題がなかったら、縫います。病院の場所はわかりますか?」
「はい」
「傷の消毒液と、包帯をお渡しします。一日一回交換をしてください。痛み止めも渡しておきます」
そういって、医者は部屋の奥にある医薬品が並んだ棚に移動する。
そのとき、診察所の外から足音が聞こえてきた。
ひとりではなくて、数人がなだれこんでくるようなせわしない足音だった。
「なんだ?」
異変に気がついた医者が、けげんそうにドアのほうをふりかえる。
それからすぐにドアが勢いよく開いた。
ドアを開けたのは拳銃を手にした遠野だった。
雨でパーマがかった髪とシャツが濡れている。
遠野の後ろの廊下には、数人の自警団の人間がいる。
その中には藤原さんもいる。
わたしも驚いていたけれど、部屋に入ってきた遠野も拳銃を突きつけながら、わたしの姿を見て、目をひらく。
「待て」
遠野の銃を見た瞬間、わたしは診察台に腰をかけたまま痛む両腕を小さくあげた。
「おれはもうシロじゃない。見ればわかるだろ」
自警団の人間たちを刺激しないようにゆっくりといった。
横目で見ると医者は棚の前で消毒液を持ったまま、武器を持った男たちが押し入ってきたことに戸惑っている。
「どうなってる?」
部屋に踏み込んできた遠野は、わたしの顔と腕をじろじろと見る。
「あの白い小さな蜂みたいなやつが身体からでたんだ」
「おまえ、肌の色を自分でかえられるんだろ」
遠野がわたしのこめかみに素早く銃をつきつける。
こめかみに当てられた銃口は、低温やけどしそうなほど冷たい感触がして、身体が凍りついた。
「今は人間のふりをしているんだろ」
「ちがう。あの蜂みたいなやつを吐きだしたんだ。そうしたら白い肌がきえた」
声がふるえないように注意をしたけれど、出てきた声は情けないほどか細い。
「おれの肌にもうシロの部分はない。全身を調べてもらってもいい」
「そんなに簡単に人間に戻れるならシロの数はもっと減ってるだろ」
遠野は人間かシロか見定めるようにじっとわたしを見る。
「そっちはどうしてここに?」
わたしは遠野が引き金を引く時間を伸ばそうとして聞いた。
「あなたがこのビルに入っていくのを見た人がいた」
遠野の後ろ、ドアの入り口に立つ藤原さんが答えた。
藤原さんはまだらな肌が消えたわたしをいぶかしそうに見ていたけれど、銃はおろしていた。
自警団の人間に尾行されていたのだ。
警察に追われている容疑者になった気分だった。
「おれはシロじゃない」
藤原さんに訴えるようにいった。
「うそつくな、てめ、コラッ!」
廊下にいる自警団の一員から怒鳴り声がする。
声のほうに目をむけると、住宅街でわたしをボウガンで撃とうとした少年の顔があった。
「こいつ、おれに自分がシロだっていった!」
髪を後ろで結んだ少年は腕を伸ばし、わたしに指をつきつける。
「あれはきみがおれにボウガンをむけていたからだ。撃たれないためにシロのふりをしたんだ」
「指から毒、だしやがっただろ」
少年が憎しみがこもった目でわたしを睨みつける。
わたしに脅されたのを恨んでいるようだった。
仲間の自警団がいるせいか、少年の顔からわたしへの怯えは消えている。
「あのときはシロに寄生されてたんだ。自分でも毒がでるなんて思わなかった」
「はやく、そいつやろう! また、毒だすぞ!」
少年が遠野をけしかける。
「ちょっと!」
部屋の奥にいる医者が少年の声をかき消した。
自警団の人間たちの視線が医者に集まる。
「あなたたちは?」
医者がわたしのほうに歩み寄ってくる。
「彼らは自警団です」
わたしは医者にいった。
「なにがあったかしらないけど、ここはわたしの診療所です。いくら自警団でも物騒なものをもって勝手に入ってこないでほしい」
医者は武器を持って興奮している男たちを前にして、落ち着いた声でいった。
けれど、消毒液をもつ手はふるえていた。
「そいつは、シロなんだよ!」
少年が非難するようにわたしに指を突きつける。
「は?」
医者はけげんな顔で、少年とわたしを交互に見る。
「彼はわたしの手当をうけていたんだ。シロなんかじゃない」
「その人は一時的にシロに寄生されていただけかもしれません」
藤原さんが廊下の自警団の中から前に進みでて、診察室に入ってきた。
「もし、シロだったら公園にいたやつみたいに、わたしたちに攻撃をしようとするはずです。こうやって話をしている間にも」
藤原さんが緊張した顔で自警団の連中を見回すと、遠野がうなずいた。
「突然、失礼しました」
遠野が口をひらいた。
興奮してなにかをいおうとする少年を手で制しながら、隙間が空いた前歯をのぞかせて医者に笑みをむける。
「ここで、騒がれるのもいい迷惑すよね」
「もめごとは起こさないでくれ」
医者がいった。
「先生、よかったね。人間に戻れて」
遠野は医者からわたしに笑みをむけながら、銃口をわたしのこめかみから離す。
「ああ」
(おれがシロに寄生されていないって判断したのか)
そう思って息を吐いた。
けれど、期待はすぐに消えた。
「だまされないよ」
遠野が銃を持った手を素早くふりあげて、わたしの頭にむかってふりおろす。
避ける暇はなかった。
ふりおろされた銃のグリップの底がこめかみにあたって、衝撃と痛みが走って、次の瞬間には目の間が真っ暗になった。
自動ドアをあけて出てきた五十代前後にみえる男性は、血で汚れた服を着たわたしを目にしても驚いた様子がなかった。
(この人は医者だろう)
レインコートを着て、顔は何日も剃っていないような不揃いの髭で覆われている。
「あ、その前に中に入ってください」
わたしが口をひらこうとすると、医者らしい男性はわたしに肩を貸してくれた。
ソファが二つ置いてあるだけの狭い待合室を抜けて、診察室に入って、男性が部屋の電気をつけてから、わたしは診察台に腰をかけた。
「どうしましたか?」
わたしの前に立った医者があらためてきく。
「自宅に食べ目当てあての強盗が入ってきたんです」
なんといおうかと迷ってからとっさに説明をした。
シロに寄生されて自警団の人間に銃で撃たれたいうわけにもいかなかった。
つい数分まで、シロに寄生されていたと知ったら、この医者は警戒をしてわたしの治療をしないかもしれない。
「そいつらに銃で撃たれたんです。肩を撃たれました」
シロが現れて、食料が紙幣より貴重になってから食料を狙った強盗が多発しているというニュースを思いだしていた。
「ひどい」
わたしのとっさの作り話を信じたかわらないけれど、医者は顔をしかめる。
顔に疑いはみえない。
「傷を見せてください。服を脱いでください」
医者がわたしのTシャツの生地をつかんで、服を脱がそうとする。
濡れて重くなったTシャツをゆっくりと脱がして、床に置いてある患者が荷物をいれる籠にいれる。
目をそむけたくなるような変色した肌の傷口は血で覆われていて深さがわからなかった。
医者が手当をはじめる。
部屋の奥にある棚から治療の道具を持って、診察台の側にあるテーブルに置く。
椅子に腰をかけてからゴム手袋をして、ボトルに入った消毒の液体を小さな皿にいれる。
ピンセットでつまんだ綿をその液体に浸して、わたしの肩の傷を洗っていく。
傷口がひどくしみて、声をあげそうになったけれど、歯をくいしばった。
医者が綿を何回か交換して肩の血をふきとって消毒がおわった。
「傷は浅いです。弾は体内に入ってないと思います」
医者が拳銃の弾でえぐられたわたしの肩の傷に顔を近づけながらいった。
とんでもない一日だったけれど、よいこともあるようだった。
もし、肩の内側に弾が入っていたら、市内の病院で弾をとる手術ができるかわからなかった。
たまたまみつけた外科に医者がいて、手当てを受けることもできた。
「今は傷口を縫わないで血をとめます」
医者が止血剤が染みこんでいるというスポンジを肩の傷口に押しつける。
「今、傷口の皮膚を閉じてしまうと中で細菌に感染してしまうかもしれません。一週間程度経って、傷口が悪化してないのを確認してから縫ったほうがいいです」
「ありがとうございます。治療代はあとで払います。家が近いんで、あとで払いにきます」
「お金はいいですよ。今は使える場所もないし」
(この人は患者からの評判もいいんだろうな)
淡々とわたしの傷の手当をする医者を見ながら思った。
医者が止血剤を傷口に押しあててから数分で、血がぴったりととまった。
それから、医者がガーゼを貼って、肩に包帯を巻く。
すると、不快感がなくなったせいか、気力がすこしわいてきた。
(これで部屋に帰れる)
まだふらつく感覚があったけれど、マンションまで歩く体力は残っていそうだった。
「ほんとにひどいですね、その強盗は。銃で撃って食べ物を奪うなんて」
わたしが籠のTシャツをとって着ると、医者がいった。
「わたしも驚きました」
いいながら、手当をしてくれた医者に嘘をついたことに胸が痛んだ。
「あの、これから外に出るつもりですか?」
わたしは話題を変えるようにきいた。
医者が着ているレインコートは濡れていなかった。
「ええ」
医者は使った綿を床のゴミ箱に捨てながら答える。
「シロがここまできています。わたしは自警団なんです。シロが市内までやってきったて知らせをうけました」
医者に忠告をした。
「そうですか」
それまで淡々とわたしの傷の手当をしていた医者が眉をあげる。
「できるだけここに隠れていたほうがいいですよ」
「わたしはこれから病院にいかないといけないんです」
医者はすぐに落ち着きをとりもどしていった。
「今わたしは、西沢病院で働いています。医師と看護師が人手不足でしてね、患者さんはいるのに。だから、病院にいかないといけないんです」
前からシロがやってくることを想定していたような口ぶりだった。
「病院に地下室があって、シロがやってきた場合、われわれと患者さんが隠れる手はずは整っています」
「そうですか……」
医者は覚悟を決めているようで、外に出ないように彼を説得するのは無理だと思った。
モンスターに殺されるかもしれないのに、自分の職務をまっとうしようとする医者を立派だと思った。
「わたしは西沢病院にいます。一週間後、町がどうなってるかわかりませんが、もし可能だったら、一週間後、傷口を見せに病院まできてください。傷口に問題がなかったら、縫います。病院の場所はわかりますか?」
「はい」
「傷の消毒液と、包帯をお渡しします。一日一回交換をしてください。痛み止めも渡しておきます」
そういって、医者は部屋の奥にある医薬品が並んだ棚に移動する。
そのとき、診察所の外から足音が聞こえてきた。
ひとりではなくて、数人がなだれこんでくるようなせわしない足音だった。
「なんだ?」
異変に気がついた医者が、けげんそうにドアのほうをふりかえる。
それからすぐにドアが勢いよく開いた。
ドアを開けたのは拳銃を手にした遠野だった。
雨でパーマがかった髪とシャツが濡れている。
遠野の後ろの廊下には、数人の自警団の人間がいる。
その中には藤原さんもいる。
わたしも驚いていたけれど、部屋に入ってきた遠野も拳銃を突きつけながら、わたしの姿を見て、目をひらく。
「待て」
遠野の銃を見た瞬間、わたしは診察台に腰をかけたまま痛む両腕を小さくあげた。
「おれはもうシロじゃない。見ればわかるだろ」
自警団の人間たちを刺激しないようにゆっくりといった。
横目で見ると医者は棚の前で消毒液を持ったまま、武器を持った男たちが押し入ってきたことに戸惑っている。
「どうなってる?」
部屋に踏み込んできた遠野は、わたしの顔と腕をじろじろと見る。
「あの白い小さな蜂みたいなやつが身体からでたんだ」
「おまえ、肌の色を自分でかえられるんだろ」
遠野がわたしのこめかみに素早く銃をつきつける。
こめかみに当てられた銃口は、低温やけどしそうなほど冷たい感触がして、身体が凍りついた。
「今は人間のふりをしているんだろ」
「ちがう。あの蜂みたいなやつを吐きだしたんだ。そうしたら白い肌がきえた」
声がふるえないように注意をしたけれど、出てきた声は情けないほどか細い。
「おれの肌にもうシロの部分はない。全身を調べてもらってもいい」
「そんなに簡単に人間に戻れるならシロの数はもっと減ってるだろ」
遠野は人間かシロか見定めるようにじっとわたしを見る。
「そっちはどうしてここに?」
わたしは遠野が引き金を引く時間を伸ばそうとして聞いた。
「あなたがこのビルに入っていくのを見た人がいた」
遠野の後ろ、ドアの入り口に立つ藤原さんが答えた。
藤原さんはまだらな肌が消えたわたしをいぶかしそうに見ていたけれど、銃はおろしていた。
自警団の人間に尾行されていたのだ。
警察に追われている容疑者になった気分だった。
「おれはシロじゃない」
藤原さんに訴えるようにいった。
「うそつくな、てめ、コラッ!」
廊下にいる自警団の一員から怒鳴り声がする。
声のほうに目をむけると、住宅街でわたしをボウガンで撃とうとした少年の顔があった。
「こいつ、おれに自分がシロだっていった!」
髪を後ろで結んだ少年は腕を伸ばし、わたしに指をつきつける。
「あれはきみがおれにボウガンをむけていたからだ。撃たれないためにシロのふりをしたんだ」
「指から毒、だしやがっただろ」
少年が憎しみがこもった目でわたしを睨みつける。
わたしに脅されたのを恨んでいるようだった。
仲間の自警団がいるせいか、少年の顔からわたしへの怯えは消えている。
「あのときはシロに寄生されてたんだ。自分でも毒がでるなんて思わなかった」
「はやく、そいつやろう! また、毒だすぞ!」
少年が遠野をけしかける。
「ちょっと!」
部屋の奥にいる医者が少年の声をかき消した。
自警団の人間たちの視線が医者に集まる。
「あなたたちは?」
医者がわたしのほうに歩み寄ってくる。
「彼らは自警団です」
わたしは医者にいった。
「なにがあったかしらないけど、ここはわたしの診療所です。いくら自警団でも物騒なものをもって勝手に入ってこないでほしい」
医者は武器を持って興奮している男たちを前にして、落ち着いた声でいった。
けれど、消毒液をもつ手はふるえていた。
「そいつは、シロなんだよ!」
少年が非難するようにわたしに指を突きつける。
「は?」
医者はけげんな顔で、少年とわたしを交互に見る。
「彼はわたしの手当をうけていたんだ。シロなんかじゃない」
「その人は一時的にシロに寄生されていただけかもしれません」
藤原さんが廊下の自警団の中から前に進みでて、診察室に入ってきた。
「もし、シロだったら公園にいたやつみたいに、わたしたちに攻撃をしようとするはずです。こうやって話をしている間にも」
藤原さんが緊張した顔で自警団の連中を見回すと、遠野がうなずいた。
「突然、失礼しました」
遠野が口をひらいた。
興奮してなにかをいおうとする少年を手で制しながら、隙間が空いた前歯をのぞかせて医者に笑みをむける。
「ここで、騒がれるのもいい迷惑すよね」
「もめごとは起こさないでくれ」
医者がいった。
「先生、よかったね。人間に戻れて」
遠野は医者からわたしに笑みをむけながら、銃口をわたしのこめかみから離す。
「ああ」
(おれがシロに寄生されていないって判断したのか)
そう思って息を吐いた。
けれど、期待はすぐに消えた。
「だまされないよ」
遠野が銃を持った手を素早くふりあげて、わたしの頭にむかってふりおろす。
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