【完結】異世界帰りの錬金術師が、わたしを救う。

シハ

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南条隆文と武道家

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 住宅街の道で、シロの毒から回復した美晴さんとわたしが電話で会話をしてから、しばらくしたとき。
 自警団の男たちがわたしの部屋にやってきた。
 そのとき、部屋には美晴さん、小坂さん、眼鏡の少年、長身の青年がいたらしい。
 眼鏡の少年、長身の青年は藤原さんの友人のようだった。

 インターフォンが鳴り、自警団の見廻りだと思った美晴さんがドアをあけると、男たちが部屋に土足ではいりこんできた。
 部屋の足跡はそのときのもののようだった。
 自警団は三人いて、金属バット、鉄パイプなんかの武器をもっていた。

 興奮をしている男たちは、シロに寄生されたわたしを探しだして、殺そうとしていた。
 自警団のなかには、同じマンションに住む顔見知りの人間がいた。
 その人がシロに寄生されたわたしの写真を見て、部屋番号を自警団の仲間に知らせたのかもしれない。

 美晴さんは肌がまだら模様になったわたしの写真を見せられても、自警団にむかって一緒に暮らしているわたしはシロではないといった。
 男たちを部屋から追いだそうとした。

 自警団は美晴さんを武器で脅して、わたしに電話をかけさせて、わたしの居場所をききださせようとした。
 美晴さんは怯えながらそれを拒んだ。
 すると、自警団は美晴さんをシロだと疑いだした。
 美晴さんがシロに寄生されたわたしを守ろうとしたからだ。
 自警団のひとりが武器で美晴さんを殴ろうとした。

「北野さんは大丈夫だったのか?」

 わたしはたまらず、小坂さんの話を遮った。

「北野さんにケガはありません。自警団のひとたちは指一本、北野さんに触れていません」

 小坂さんは落ち着いたまま答える。

「自警団の人たちには部屋からでていってもらいました」

「どうやって?」

「小坂さんが自警団のやつ、ボコったんだ」

 長身の青年が口をはさんだ。

「あのひとたちに話をきいてもらえなかったから、軽く叩いただけです」

 小坂さんが弁解するようにいった。

「おれたちが、小坂さんをとめなかったら、自警団の人、危なかったかも」

 眼鏡の少年がいった。
 小坂さんは自分の行為を恥じるように頬を赤らめる。

「南条さん、ごめんなさい」

 小坂さんが赤い顔をわたしにむける。

「そのとき、テレビを壊してしまいました。部屋を散らかしてしまいました」

 床に落ちて画面が割れたテレビ、荒らされた部屋の様子は、小坂さんの立ちまわりによるものだったようだ。
 クッション、床についた血は、小坂さんの攻撃をうけた自警団のものだろう。
 弁当屋の前で倒れていたシロを蹴りつづけていた小坂さんの姿が思い浮かんで、小坂さんの隠された狂暴さに背中が冷たくなった。

 小坂さんはすぐに顔色を戻して、説明をつづけた。
 小坂さんが自警団に部屋からでていってほしいというと、男たちは話を素直にきいて、負傷した人間を抱えて外へでていった。

 三人の自警団の人間はいなくなったけれど、仲間を連れてまたやってくるかもしれなかった。
 わたしをかばった美晴さんは自警団に敵とみなされるようになっている。
 再びやってくる自警団の人数がおおかったら、今度は小坂さんも美晴さんを守れるかわからない。
 そこで、小坂さんはこの部屋から別の場所に美晴さんを避難させた。

「それで、北野さんはどこにいるんだ?」

 わたしは美晴さんが無事らしいことにほっとしながらきいた。

「……南条さんにわたしたちのこと、教えるよ」

 小坂さんはわたしの質問に答えないで、側にいる眼鏡の少年と長身の青年をうかがうように見る。

「うん」

 眼鏡の少年がうなずく。

「しょうがねえ」

 長身の青年も小坂さんに同意する。

「北野さんは異世界というところにいます」

 ふたりの答えをきいた小坂さんが、わたしに顔をむけていった。

「異世界?」

 わたしは異世界といわれてもぴんとこないで、なにかの店の名前だと思った。

「わたしたちが北野さんを異世界に連れていきました。あ、紹介が遅れましたけど、ふたりはわたしの友達です」

 小坂さんが側のふたりを手で示す。

「風井です」

 寝ぐせなのか、スタイリングしたのか髪が逆立っている風井くんがぺこりと頭をさげる。
 よく見ると整った顔立ちで、同年代の女子に好意を持たれそうな外見をしている。

「花園です」

 花園くんがわたしを見おろして軽く頭をさげる。
 短い髪を銀に染めて、鋭い目をして、片方の手首に白い虎のタトゥーをした花園くんと向かいあうと、迫力に気圧された。
 
 ヤンキーっぽい花園くんと小坂さんは住む世界がちがって見える。
 それがどうして友人なのか不思議に感じた。
 わたしは風井くんと花園くんに自分の名前と、小坂さんが通っていた塾の講師だといった。
 さっと自己紹介をした後、小坂さんが異世界についての説明をはじめた。

「わたしと風井くん、花園くんは今、異世界から南条さんの部屋に戻ってきたんです」

 異世界とはこことは別にある世界のことらしい。
 数ヵ月前まで高校生だった小坂さん、風井くん、花園くんは、本人たちも理由はわからないけれど、マクドナルドの店内の壁にできた穴から異世界にワープをしてしまった。

 そこで、小坂さんたちはRPGのキャラクターのように能力を得て、職業をもった。
 小坂さんは武道家、風井くんは錬金術師、花園くんは魔法使いとなった。
 美晴さんをシロの毒から回復させた薬、爪に塗ることによってわたしの力をつよくした薬は、風井くんが錬金術で作ったアイテムらしい。

 異世界で小坂さんたちは国の有力者、町人等から依頼を受けてモンスターを倒して、お金を稼いでいた。
 その異世界に突然、シロが現れた。
 シロは異世界に住む人間たちを虐殺して、たちまち異世界を支配した。
 けれど、寿命が短いシロは一年足らずで異世界から姿を消した。

 それが、どういうわけかそのシロが日本に現れた。
 異世界から帰ってきた小坂さんたちは、この世界でシロに殺された人間を、錬金術師の風井くんが作ったアイテムで生きかえらせる活動をしているということだった。

 現実離れして信じられない話だったけれど、シロを一撃で倒した小坂さんのつよさ、花園くんが作ったアイテムの効果を実感していると、自分でもおかしいと思いながらも、すべてを否定はできなかった。

「南条さんに寄生したのは珍しい弱いシロです。異世界にもいました。人間の体内にとどまっていることができないで、二三日、ほうっておけば、身体からでてきます。そうなれば、肌も元にもどるんです」

 わたしが呆然としていると小坂さんがいった。

「風井くん、南条さんにケガを治すアイテムを試してもらおう」

 小坂さんが風井くんがズボンに提げている紺の袋を指さす。
 それは小さなウェストポーチくらいのサイズで、若者には不似合いな古い布でできていた。

「アイテムの効果を実感してもらえれば、わたしたちの話をすこしは信じてもらえる」

「そうだね」

 風井くんが急に声を弾ませる。

「南条さん、この葉っぱを食べてください。ぼくが錬金術で作りました。身体の痛みがすぐになくなります」

 風井くんが袋から手のひらサイズの一枚の赤い葉っぱをとりだした。

(薬草みたいなものか……)

 わたしはこれまで見たことのない葉っぱを口にいれるのをためらった。

「身体に害はありません」

 風井くんがわたしの態度にかまわないで葉っぱを差しだす。

「副作用みたいなものはないのかな?」

 わたしは葉っぱを手にしながらきいた。

「爪に塗った薬だけど、たしかにおれの力がすごくつよくなった。けど、力を使った後、筋肉が痛くなった」

「ごめんなさい。それは失敗作だったみたいです。うまく作れていれば、力を使った後、身体に痛みは起きません」

 風井くんが悪びれずいった。
 何度も失敗作を作っているような口ぶりだった。

「でも、その葉っぱは問題ありません。たぶん」

 風井くんの言葉に葉っぱを口にいれることへの抵抗がつよくなる。

「ブラハ地方の神々の森にあるホツリーの葉、三頭亀の甲羅、セクシの実を組みあわせて作りました。隠し味でサフィアの果汁をいれています」

 風井くんが眼鏡の奥の眼を光らせる。

「ちなみに南条さんの爪に塗った薬は、モンゴリラの毛、ミューススネークの血、ハーニンニクの根を組み合わせて作りました」

 自分の仕事に満足しているような笑みを浮かべる。
 どうやら、風井くんはわたしがきいたこともない素材でアイテムを作るのが好きなようだった。

「いいから、はやく食べて」

 花園くんがさらに説明をつづけようとする風井くんをおおきな手で制して、いらつきながらいった。
 わたしは花園くんの迫力の気圧されたように厚みのある葉っぱをちぎって、口にいれた。
 甘みがあって、これなら問題はないと思って、残りも口にいれた。
 葉っぱを噛んでみると、グミみたいな感触で、甘い汁がでてくる。
 そして、噛んだ葉っぱを一息に飲み込んで、胃の中に落ちるとすぐに、身体に変化がおきた。

「すごい」

 不快だった全身の痛みが、うそみたいに消えている。
 遠野に銃で撃たれた肩をぐるぐるまわしても、痛みはすこしもない。
 銃で殴られたこめかみに触れてみると、腫れもひいている。

「とりあえずは、小坂さんたちの話、信じるよ」

 まだまだ疑問はあったけれど、小坂さんたちにいった。
 この世界中を探しても銃で撃たれた身体の痛みを一瞬で消す葉っぱなんてないだろう。
 痛み止めの薬でもここまできれいに痛みはなくならないはずだ。

「まだ、信じてないすよね」

 花園くんがわたしの顔をのぞきこみながら、手を広げる。
 すると、手の前に小さな白い光が現れて、それは杖になった。
 黒い巨大な杖で、銀色の蛇の彫刻がされていて、宝石のような石がついている。

「ふん」

 杖を握った花園くんが声をあげると、またまた信じられないことに部屋に異変が起きた。
 床に落ちていたテレビ、ノートパソコン、観葉植物、家具、キッチンの冷蔵庫まで床から数センチ浮かびあがって、宙でとまる。

「これがおれの魔法」

 魔法使いだという花園くんがいった。

「わかったから、やめてくれ」

 ポルターガイスト現象を目のあたりにしたようにぞっとした。
 浮いていたものがゆっくりと床に戻ると、花園くんの手から杖が消える。
 花園くんは走った後のように、顔に汗がうっすら浮かんで、呼吸がはやくなっている。

「こんなことで体力、使わないでよ」

 小坂さんがあきれたような目を花園くんにむける。
 花園くんは魔法を使うとエネルギーを消耗するようだった。

「小坂さん、北野さんを異世界というところから、ここに連れてきてくれ。彼女、ひとりでへいきなのか」

 わたしはすぐに美晴さんのことを思いだしていった。

「異世界はこの世界より安全です。今は異世界にシロはいませんから」

 小坂さんは穏やかな表情で断言する。
 けれど、異世界にはモンスターがいるようだし、シロもほんとうに一匹もいなくなったのかもわからない。

「じゃあ、彼女を連れてきてくれ」

「……でも、今ここに戻ってくるのは危険だと思います」

 小坂さんが顔を曇らせる。

「シロがいるし、自警団も南条さんと北野さんを攻撃しようとしています」

 わたしは言葉に詰まった。
 小坂さんのいうとおり、わたしの部屋は美晴さんにとって安全な場所ではない。
 外にはシロとわたしをシロだと思いこんでいる自警団がいる。

(美晴さんがここに戻ってきてもすぐにべつの場所に避難したほうがいいだろう)

 そうなったら、シロだと疑われているわたしと美晴さんは一緒に退避しないほうがいい。

(美晴さんが奇跡的に蘇生したのにすぐに別れないといけないのか)

 そう思うと身体の一部を失ったような寒々しさを感じた。

「……南条さんも異世界にいきませんか?」

 わたしがショック状態でその場に立っていると、風井くんが腰の袋から小さな瓶を取りだして、散歩に誘うような軽い口調でいった。



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