17 / 43
第2章 現存十二天守
第七夜 松江城と美人の湯
しおりを挟む
現存十二天守の旅も、ついに山陰へ。
今回ワクカブが訪れたのは、島根県松江市に佇む名城──松江城。
琵琶湖を後にし、新幹線と特急を乗り継いでたどり着いた松江駅。
朝の空気に混じって、微かに水の匂いが漂う。宍道湖が近いせいだろうか。
「空気が、柔らかいな」
そう呟きながら駅を出たワクカブ。タクシーには乗らず、城下町の空気を味わうように歩いていく。
城に向かう途中、松江歴史館の前に建つ「堀尾吉晴公」の銅像が目に入る。
初代松江藩主にして、松江城を築いた男。微笑を浮かべるその表情は、まるで訪問者を温かく迎え入れるかのようだった。
「堀尾さん、ええ顔しとる」
像に向かって軽く頭を下げ、ワクカブは天守へ向かう石段を上る。
⸻
天守の内部に入ると、どこかで見たことのある風景が広がっていた。
「……あっ、ここやな」
思い出したのは、ドラマ『VIVANT』のワンシーン。緊迫の場面が撮影されたのは、まさにこの城の中だった。
「フィクションも、歴史も、重なる瞬間があるんやな」
時を超えて交差する物語に、ひととき思いを馳せるワクカブだった。
松江城は“千鳥城”とも呼ばれる優雅な佇まい。
漆黒の外壁と、急勾配の石垣。戦国の防御機能をそのままに残した構造は、城マニアだけでなく、建築好きにもたまらない。
井戸や櫓、そして藩士たちが使ったトイレの跡まで、細部まで見て回る。
「武士の暮らしって、想像以上にミニマルやったんかもな」
使われた空間を辿ることで、人の気配を感じるのも、ワクカブ流の旅の醍醐味だ。
⸻
城下町の散策を終えると、ちょうど昼時。
ワクカブは地元でも評判の蕎麦屋に立ち寄り、三段重ねの「割子そば」を注文した。
「そばに薬味、そんでちょろっと出汁。これがええんよ」
一段目はそのまま、二段目はネギとワサビを足して、三段目には卵黄を落として一気にすする。
食後、土産物屋で目を引いたのは、島根の地酒「李白」と「月山」。
「……今回は運転あるから、飲むのは我慢や」
そう言いつつ、吟醸の一本を手に取り、レジへと向かう。
⸻
宿へ向かう途中、少しだけ遠回りして玉造温泉に立ち寄った。
島根の温泉と言えばここ。古くは『出雲風土記』にもその名が記されており、「神の湯」と称された由緒ある湯処だ。
玉湯川沿いに点在する宿や足湯を眺めながら、ワクカブは小さな日帰り入浴施設へと足を運ぶ。
「ここが、あの“美人の湯”か」
浴場に足を踏み入れると、ほのかに硫黄の香り。透明でなめらかな湯が、肌にやさしくまとわりつく。
この泉質はナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物泉。
肌の角質を穏やかに落とし、保湿効果が高く、入るだけでしっとりとした肌に仕上がるという。
全国でも屈指の美肌効果を誇り、近年は「美肌県しまね」の代名詞ともなっている。
湯に身を沈めながら、ワクカブは思わずつぶやいた。
「こりゃ、たしかにモテ肌になりそうやな……」
ふと湯けむりの向こうに現れる、過去に恋した誰かの幻影──
いや、さすがに湯あたりか。
その日の宿は、玉造から車で30分ほどの米子市内にあるビジネスホテル。
「よし、今夜はここで静かに休もうか」
車を駐め、チェックインを済ませたワクカブは、部屋に荷物を置いて一息つく。
テーブルに並ぶのは、島根で買った吟醸酒と地元のおつまみ。
だが、手をつけることはなかった。
「日本酒は、帰宅するまで取っとくか」
そうつぶやきながら、冷蔵庫に瓶をしまい込む。
部屋の窓から見える米子の夜景は、どこか懐かしく穏やかだった。
──旅はまだ続く。
今回ワクカブが訪れたのは、島根県松江市に佇む名城──松江城。
琵琶湖を後にし、新幹線と特急を乗り継いでたどり着いた松江駅。
朝の空気に混じって、微かに水の匂いが漂う。宍道湖が近いせいだろうか。
「空気が、柔らかいな」
そう呟きながら駅を出たワクカブ。タクシーには乗らず、城下町の空気を味わうように歩いていく。
城に向かう途中、松江歴史館の前に建つ「堀尾吉晴公」の銅像が目に入る。
初代松江藩主にして、松江城を築いた男。微笑を浮かべるその表情は、まるで訪問者を温かく迎え入れるかのようだった。
「堀尾さん、ええ顔しとる」
像に向かって軽く頭を下げ、ワクカブは天守へ向かう石段を上る。
⸻
天守の内部に入ると、どこかで見たことのある風景が広がっていた。
「……あっ、ここやな」
思い出したのは、ドラマ『VIVANT』のワンシーン。緊迫の場面が撮影されたのは、まさにこの城の中だった。
「フィクションも、歴史も、重なる瞬間があるんやな」
時を超えて交差する物語に、ひととき思いを馳せるワクカブだった。
松江城は“千鳥城”とも呼ばれる優雅な佇まい。
漆黒の外壁と、急勾配の石垣。戦国の防御機能をそのままに残した構造は、城マニアだけでなく、建築好きにもたまらない。
井戸や櫓、そして藩士たちが使ったトイレの跡まで、細部まで見て回る。
「武士の暮らしって、想像以上にミニマルやったんかもな」
使われた空間を辿ることで、人の気配を感じるのも、ワクカブ流の旅の醍醐味だ。
⸻
城下町の散策を終えると、ちょうど昼時。
ワクカブは地元でも評判の蕎麦屋に立ち寄り、三段重ねの「割子そば」を注文した。
「そばに薬味、そんでちょろっと出汁。これがええんよ」
一段目はそのまま、二段目はネギとワサビを足して、三段目には卵黄を落として一気にすする。
食後、土産物屋で目を引いたのは、島根の地酒「李白」と「月山」。
「……今回は運転あるから、飲むのは我慢や」
そう言いつつ、吟醸の一本を手に取り、レジへと向かう。
⸻
宿へ向かう途中、少しだけ遠回りして玉造温泉に立ち寄った。
島根の温泉と言えばここ。古くは『出雲風土記』にもその名が記されており、「神の湯」と称された由緒ある湯処だ。
玉湯川沿いに点在する宿や足湯を眺めながら、ワクカブは小さな日帰り入浴施設へと足を運ぶ。
「ここが、あの“美人の湯”か」
浴場に足を踏み入れると、ほのかに硫黄の香り。透明でなめらかな湯が、肌にやさしくまとわりつく。
この泉質はナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物泉。
肌の角質を穏やかに落とし、保湿効果が高く、入るだけでしっとりとした肌に仕上がるという。
全国でも屈指の美肌効果を誇り、近年は「美肌県しまね」の代名詞ともなっている。
湯に身を沈めながら、ワクカブは思わずつぶやいた。
「こりゃ、たしかにモテ肌になりそうやな……」
ふと湯けむりの向こうに現れる、過去に恋した誰かの幻影──
いや、さすがに湯あたりか。
その日の宿は、玉造から車で30分ほどの米子市内にあるビジネスホテル。
「よし、今夜はここで静かに休もうか」
車を駐め、チェックインを済ませたワクカブは、部屋に荷物を置いて一息つく。
テーブルに並ぶのは、島根で買った吟醸酒と地元のおつまみ。
だが、手をつけることはなかった。
「日本酒は、帰宅するまで取っとくか」
そうつぶやきながら、冷蔵庫に瓶をしまい込む。
部屋の窓から見える米子の夜景は、どこか懐かしく穏やかだった。
──旅はまだ続く。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる