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第1部 奈美編
♬8 チーズフォンデュは、もうとうぶん食いたくない
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「先輩の欲望って何ですか?」
そう後輩に問われた京は、答えに窮した。そんな事は考えたこともないからだ。人数が足らないからといって呼ばれた合コンの待ち合わせ場所でのことだった。
キャンパスで見かけたことがあるかもしれないその後輩は、ついさっきシルベから紹介されたばかりだった。もっとも彼、佐和田の方は京のことを知っていたらしく、握手を求めてきてうれしそうに光栄ですとかなんとか言っていた。
京は、内心なんでやねん? と思っていたが、その時不意に会ったばかりの佐和田が、「先輩の欲望って何ですか?」と問いかけてきたのだった。
京は、咄嗟に返答できなかった。後になって当たり障りのないところで、三大欲でも答えておけばよかったかなとは思ったものの、言葉が出てこなかった。
口ごもっていると、シルベの知り合いというやつが来て紹介されたので、そのままうやむやになってしまった。
「中嶋、清水は知ってたっけ?」
「いえ」
「あ、そりゃそうだわな」
「清水、こちら中嶋くん。バイト先が同じなんだ」
ちなみにシルベは、単位が足らず2回目の四回生であり、こんな時期に合コンとはと京は思ったのだが、既に卒業を諦めてヤケになったのか、或いは、就職が決まったのかもしれないという、いずれにせよ両極端な理由であることは明白だった。
なので、頭数だけ揃えたいから、とにかく顔だけ出してくれよというお誘いのLINEが来た時にも、京は敢えていろいろ詮索しなかった。
佐和田はと見ると特段なこだわりがあるようでもなく、なんとなく場繋ぎで聞いたみたいな感じなのか、もう既にこれから会う女子のことで頭がいっぱいのよう様子で、もう質問のことなど忘れているようだった。
「女の子はさ、直接お店に行くっていってたから」そういってシルベはみんなを促し、歩きだした。
確か図書館でチラ見したことがあった。仏教では、飲食欲、睡眠欲、色欲、財欲、 名誉欲の5つで『五欲』と称されるようだが、と京は、まだ佐和田のさっきの質問を考えていた。
しかし、よく言われる百八つの煩悩は、さてどうなるのか? その総称が五欲なのか?とそこで、お店に着いたようだった。
シャレオツなカジュアルイタリアンのお店で、女子ウケを狙ったとシルベからは聞かされていた。なんにせよ、女子はチーズとか好きだからな、と。
「予約してあります、シルベですが」そう言って、店員さんに誘導された先からは、既に女子たちの華やかな雰囲気がキラキラ輝いて漂ってくるかのようだった。
8名の完全個室に、ムードある淡い照明。もうこれだけで恋に落ちてもおかしくはなかった。むろん、京の場合は、恋に落ちるために来たのではないのだから、チーズフォンデュ命で、とにかく食いまくるつもりだった。花よりダンゴだ。
というわけで、8名がワチャワチャしながら各々席に座ったところで、先ずは乾杯。自己紹介が始まった。
「シルベさんて、あだ名なんですか? でもシルベスタ・スタローンには似てないですよね?」
「あ、それよく言われる」
「え、じゃ本名なんですか?」
「そうなんだよね。標準の標でシルベなんだよ」
みんなニヤケがとまらない。どの顔も輝いている。それもそのはず還暦過ぎた老人会でもないのだから。いや、還暦過ぎようが女性は笑顔を絶やさない。
ちなみに『箸が転んでもおかしいという年頃』は特にハイティーン向けのことわざ? らしいが、とにかく女性の華やかさは、その笑顔から溢れ出てくる光りなのだろうと京は思った。
笑顔が笑顔を生み、その笑顔がさらにまた笑顔を生む。そうやって世界中に笑顔が広がっていったならばどれだけ世界は素晴らしいものになるだろうと京は、ひとり感激を禁じえないのだった。
ところで、自己紹介も終わりフリートークに花を咲かせている中、京は黙々とチーズフォンデュと格闘していた。マジにフードファイター真っ青という勢いだったので、京自身もYouTubeに上げたろか、と思うくらいだったのだが、その暴飲暴食振りには、見る人が見ればとてもわかりやすい理由があった。
つまり。京は、このタイミングで非常にヤバい状況に陥っていたのだった。なので、それがわかりすぎるほどわかるので、どうしてもそれから意識を引き剥がしたい、あるいは、遮断したいという思いが、フードファイター真っ青の食いっぷりへと反映しているのだった。
その原因となっているのは、女子の一番端っこに座っている、京から見たら対角線上にある大人しい感じの女子の存在だった。
どうみても控え目な性格であろう彼女は、4人の女子の中でも飛び抜けて美人だったが、京には彼女の放つオーラが尋常ではないとわかった。
それは、なぜまた私はここにいるのだろうといった、いわば負の雰囲気も併せ持っていて、彼女の手折れそうな華奢な身体の中では常に陰と陽が鬩ぎ合っているようだった。
もちろんのこと、彼女は笑顔を絶やさなかったし、飛び切りのベッピンさんなので、男がほっとかないだろうが、ごく普通な男では、まったく相手にはならないだろうと京には思えた。
彼女は、飛鳥という名前だった。
「チーズフォンデュは、もうとうぶん食いたくないな」と京は、ぼそりと呟いた。
そう後輩に問われた京は、答えに窮した。そんな事は考えたこともないからだ。人数が足らないからといって呼ばれた合コンの待ち合わせ場所でのことだった。
キャンパスで見かけたことがあるかもしれないその後輩は、ついさっきシルベから紹介されたばかりだった。もっとも彼、佐和田の方は京のことを知っていたらしく、握手を求めてきてうれしそうに光栄ですとかなんとか言っていた。
京は、内心なんでやねん? と思っていたが、その時不意に会ったばかりの佐和田が、「先輩の欲望って何ですか?」と問いかけてきたのだった。
京は、咄嗟に返答できなかった。後になって当たり障りのないところで、三大欲でも答えておけばよかったかなとは思ったものの、言葉が出てこなかった。
口ごもっていると、シルベの知り合いというやつが来て紹介されたので、そのままうやむやになってしまった。
「中嶋、清水は知ってたっけ?」
「いえ」
「あ、そりゃそうだわな」
「清水、こちら中嶋くん。バイト先が同じなんだ」
ちなみにシルベは、単位が足らず2回目の四回生であり、こんな時期に合コンとはと京は思ったのだが、既に卒業を諦めてヤケになったのか、或いは、就職が決まったのかもしれないという、いずれにせよ両極端な理由であることは明白だった。
なので、頭数だけ揃えたいから、とにかく顔だけ出してくれよというお誘いのLINEが来た時にも、京は敢えていろいろ詮索しなかった。
佐和田はと見ると特段なこだわりがあるようでもなく、なんとなく場繋ぎで聞いたみたいな感じなのか、もう既にこれから会う女子のことで頭がいっぱいのよう様子で、もう質問のことなど忘れているようだった。
「女の子はさ、直接お店に行くっていってたから」そういってシルベはみんなを促し、歩きだした。
確か図書館でチラ見したことがあった。仏教では、飲食欲、睡眠欲、色欲、財欲、 名誉欲の5つで『五欲』と称されるようだが、と京は、まだ佐和田のさっきの質問を考えていた。
しかし、よく言われる百八つの煩悩は、さてどうなるのか? その総称が五欲なのか?とそこで、お店に着いたようだった。
シャレオツなカジュアルイタリアンのお店で、女子ウケを狙ったとシルベからは聞かされていた。なんにせよ、女子はチーズとか好きだからな、と。
「予約してあります、シルベですが」そう言って、店員さんに誘導された先からは、既に女子たちの華やかな雰囲気がキラキラ輝いて漂ってくるかのようだった。
8名の完全個室に、ムードある淡い照明。もうこれだけで恋に落ちてもおかしくはなかった。むろん、京の場合は、恋に落ちるために来たのではないのだから、チーズフォンデュ命で、とにかく食いまくるつもりだった。花よりダンゴだ。
というわけで、8名がワチャワチャしながら各々席に座ったところで、先ずは乾杯。自己紹介が始まった。
「シルベさんて、あだ名なんですか? でもシルベスタ・スタローンには似てないですよね?」
「あ、それよく言われる」
「え、じゃ本名なんですか?」
「そうなんだよね。標準の標でシルベなんだよ」
みんなニヤケがとまらない。どの顔も輝いている。それもそのはず還暦過ぎた老人会でもないのだから。いや、還暦過ぎようが女性は笑顔を絶やさない。
ちなみに『箸が転んでもおかしいという年頃』は特にハイティーン向けのことわざ? らしいが、とにかく女性の華やかさは、その笑顔から溢れ出てくる光りなのだろうと京は思った。
笑顔が笑顔を生み、その笑顔がさらにまた笑顔を生む。そうやって世界中に笑顔が広がっていったならばどれだけ世界は素晴らしいものになるだろうと京は、ひとり感激を禁じえないのだった。
ところで、自己紹介も終わりフリートークに花を咲かせている中、京は黙々とチーズフォンデュと格闘していた。マジにフードファイター真っ青という勢いだったので、京自身もYouTubeに上げたろか、と思うくらいだったのだが、その暴飲暴食振りには、見る人が見ればとてもわかりやすい理由があった。
つまり。京は、このタイミングで非常にヤバい状況に陥っていたのだった。なので、それがわかりすぎるほどわかるので、どうしてもそれから意識を引き剥がしたい、あるいは、遮断したいという思いが、フードファイター真っ青の食いっぷりへと反映しているのだった。
その原因となっているのは、女子の一番端っこに座っている、京から見たら対角線上にある大人しい感じの女子の存在だった。
どうみても控え目な性格であろう彼女は、4人の女子の中でも飛び抜けて美人だったが、京には彼女の放つオーラが尋常ではないとわかった。
それは、なぜまた私はここにいるのだろうといった、いわば負の雰囲気も併せ持っていて、彼女の手折れそうな華奢な身体の中では常に陰と陽が鬩ぎ合っているようだった。
もちろんのこと、彼女は笑顔を絶やさなかったし、飛び切りのベッピンさんなので、男がほっとかないだろうが、ごく普通な男では、まったく相手にはならないだろうと京には思えた。
彼女は、飛鳥という名前だった。
「チーズフォンデュは、もうとうぶん食いたくないな」と京は、ぼそりと呟いた。
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