花散る男女

トリヤマケイ

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第1部 奈美編

♬7元カノのドッペルゲンガーと、二次元を愛すロマンチスト

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   京は、先週だったかバイトの帰りに元カノに似た女性とすれ違い、ハッとして何度も振り返ってしまった、ということがあった。しかし、ほんとうにそれほど似ていたのかと後になって思い返してみると、自分でももう自信が持てなかった。

   背格好とミディアムの髪、そして雰囲気がなんとなく似ていたのかもしれない。ANNA SUIの香水の匂いに彼女の想い出が紐付けられていた、とかいうのでもない。世界には3人とか5人とか、あるいは7人とかそっくりな人物がいるなどと、まことしやかに語られているのを聞いた事があるが、7人は、たぶん「男子家を出ずれば七人の敵あり」であるとか「男は敷居を跨げば七人の敵あり」と混同しているのではないか。

   実際に7人もそっくりさんがいたのではたまったものではない。七人の敵の方は、男子として社会に出て仕事やら何やら活動するならば、必ずや多くの競争相手や敵、そして障害が立ち塞がることを心得ておけという意味だろうが、女子は家庭にいるものというのが昔の日本のスタンダードだったから、ことわざには、それに類するような女子の敵に関することわざはないし、むしろ昔から「女の敵は女」というのが常識だったのかもしれない。殊に嫁と姑の骨肉の争いは、未来永劫続くのだろう。

   また、男の七人の敵の七人という数は、かなりな多さであり、男子は大変だと言えるけれど、「女の敵は女」となると七人どころではなくなり、言うなれば周りは敵だらけということになるわけで、よっぽど女性の方が強くなくては生きていけないということになる。

   女性の寿命の長さも、やはり男よりも強い生き物であることの証左ではないだろうか。子を産み育てるという役目を担っている女性は、忍耐強くならざるを得ないし生半可な覚悟では母にはなれない。

   ドッペルゲンガーの話から脱線したが、いや、ドッペルゲンガーの話などではなかった、元カノに似た人とすれ違ったっというだけの話だったが、世界には3人くらい同じ顔がいる、くらいがウソくさいながらも信憑性をなんとなく感じるギリギリのラインではないか、などと京は思うのだ。

   京が元カノと別れたのは、2年ほど前だ。ただし、どちらからも別れようと言ったことはないという、白黒はっきりさせることなく、なし崩し的に終わらせてしまった、そんなふたりの恋は今でも成仏できないまま、現世を漂っているのではないか、そんな風に想像することが京は、嫌いではなかった。

   あるいは、付き合っていた頃のままの元カノと自分が、未だに手を繋いで街中を歩いている、そんな場面に偶然出くわしてしまうのではないかと思うこともある。

   物理的にというとおかしいが、一切会うことなく連絡も取らなくなり、むりやり終わらせてしまった恋だっただけに、そのふたりの想いだけはまだどこかを彷徨い続けているのではないだろうか。

   それは、京がまだ元カノを忘れらない、ということではなく、京と元カノの育んだ「愛」というものは、単なるふたりの恋を超えた高次の存在であり、一度生まれた愛は風船のようにやがては萎びてしまうようなものではなく、そのパッションが世界を崩壊から救うのではないか、なんてロマンティックなことを考えるのだった。

   京の生き方じたい、音楽で食べていくといったとてもロマンティックなものだった。 というか、京は世界に対してロマンティックなアプローチしかできなかった。例えばもっと現実的にどうやったら集客を図れ、お金に繋げていくことができるかという、当たり前の思考がはなからなかった。

   いわゆる世界、この現実世界はひとつしかないが、実は世界のひとりひとりが異なる世界に住している。京の見ている世界と奈美の見ている世界は、同じひとつのものだが、見え方、捉え方はそれぞれ異なるはずなのだ。

   しかし、問題はそんなところにあるのではない。一番重要なことは、ふたりの価値観が一緒か否か。これに尽きると京は思っている。

   二次元の世界のキャラや主人公しか愛せないような人がいるけれども、現実的な思考ができずに夢ばかり見ている京も、物理的な身体はリアルにいるが、心は二次元に生きているようなものだ。

   奈美は、そんな京のことをある程度は、わかってはいるが現実的に物事を考えられないのは、まだ時期が来ていないからだ、くらいに考えているのかもしれない。

   だが、もっと奈美は現実的に物事を考えているはずなのだ。要は京が意を決して医大を受け直すとさえ宣言すれば、事は丸く収まるのだが、グズグズと先延ばしにして勉強もせずにバイトに明け暮れている事に対して、不満をぶつけてくるとか、話し合いしたいとかのそぶりもない奈美は、もうとっくのとんまになるようにしかならないと達観しているのかもしれない。

   一番心配な事を焦って突っ込んで話しても、こじれるばかりなのではないかと、頭のいい奈美は知っているのだ。

   京は、自分のことながら、どうしたらいいのかと懊悩はしていなかった。だが、奈美の事を考えるとやはり辛いのだった。







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