花散る男女

トリヤマケイ

文字の大きさ
13 / 81
第1部 奈美編

♬ 12 価値観と相性〜愛してると言われたい

しおりを挟む
   喧嘩するほど仲がいいだとか、喧嘩するカップルの方が長続きするとか、言われているようだが、京は自分の育った家庭環境が、あまり芳しいものではなかったので、恋人同士の喧嘩や夫婦喧嘩は、あたりまえだと思っていた。

   しかし、世間様はそうではないらしい。

   たしかに子どもがまだいない夫婦では、いくつになっても若いカップルみたいに手を繋いで散歩したり、ほんとうに仲睦まじいという印象を京は持っているが、喧嘩などしたことがない、そんな奇跡みたいなカップルや夫婦もいるのだ。

   京には、そういう相手は未だ現われていないと奈美と付き合う前には考えていた。元カノとは何か前世からの因縁で出会わずにはいられなかったが、同様に前世からの因縁で絶対に結ばれることがない、みたいな感じで事あるごとに喧嘩していた。

   とても恋人同士とは思えない、憎しみ合っているカップルだった。愛し合う目的で、愛し愛され癒し癒されるのが、愛し合うカップルだが、憎しみ合うカップルもいる。

   京はそういう環境で育ってきたから、自分の恋愛観なり結婚観はかなり偏っていて、元カノとの場合もレアなケースだとはまったく思っていないが、実際には京の恋愛観はだいぶ偏っているようだ。

   前の前の元カノとは、やはり障害を乗り越えられずに音信不通となってしまったのだが、ずっと好きなままだった。別れざるを得なかった理由があったからだが、そのお陰で京は、もぬけの殻のようになってしまった。

   そして、次に出会ったのが元カノというわけだから、京は相当女運がないのかもしれない。

   ほかの恋人たちがどんな理由から喧嘩をはじめてしまうのかは知らないけれど、むろん喧嘩して険悪な雰囲気になりたいやつなんてひとりもいやしない。

   恋人同士の喧嘩は、やはり不可抗力的にはじまってしまうのだ。その理由は、相手のことを愛するあまり、あまりにも束縛し過ぎてしまうとか、浮気だとか、嫉妬し過ぎてしまうとか、負けず嫌いで絶対に非を認めない、自分の意見を押し通す等々、カップルの数だけ喧嘩の理由はあるだろうけれど、価値観の違いと相性が悪いケースは、致命的な結果、つまりやがては別れることになる。

   たとえいくらヴィジュアルがいいから、好きな顔だからといったところで、価値観があまりにもかけ離れていたり、いわゆる相性が悪いと長続きはしないし、それでも別れないでいるとなると憎しみ合うために交際している、或いは憎しみ合うために結婚しているようなものだ。

   京と奈美の場合も些細なことから口喧嘩的なケースになることもあるが、それ以上に発展することはない。奈美との場合は、喧嘩みたいな雰囲気が長続きしないのだ。

   だから、その点に関しては、元カノとはまったく違うので、京もこれはホンモノの恋人なのかなと思っていたのだが、元カノとはまた別な意味で巨大な壁が立ち塞がっていたというわけなのだ。

   帯に短し襷に長しというやつなのだろうか、恋人とめぐりあい、この人こそ運命の人と誰もが信じて輝ける薔薇色の未来を想い描くだろうが、そうは問屋が卸さない。

   恋人とめぐりあうだけでも大変なことだと思うのだけれど、さらに価値観も同じ、相性もいい相手にめぐりあうのは、大袈裟でなく、奇跡に近いのでないだろうか。

   幼い頃、両親の喧嘩で暴力を振るう父から逃れ母が裸足で家から飛び出したという強烈な思い出がある京には、そう思えてならないのだった。

   両親が仲睦まじい家庭に育った方には、とても信じられないことだろうが、京にしたら四六時中、仲が悪く事あるごとに喧嘩しているのが家庭の思い出だった。

   むろんの事、両親は離婚したのでその家庭の思い出は、ごく短い期間のことでしかないのだが、京の人格形成に影響を及ぼしていることは確かなことだろう。

   奈美の場合は、そのおっとりした性格からすると、麗しい家庭環境によって、すくすくとまっすぐに育ったお嬢様という感じだった。

   そんな奈美とは喧嘩らしい喧嘩をしたことはなかったが、付き合いはじめた最初の頃に、京が我慢できずに奈美を責めてしまったことがあった。

   それは、言い争いといった類いのものではなく、奈美があまりにも毅然としていて、京に甘えるような仕種を見せたことがなかったので、「俺たち付き合ってんだろ?   ならもっと俺に甘えてくれよ」そういって、京は一方的にひとりで怒ったのだ。

   その京の発言で、ふたりが気まずくなるようなことはなく、奈美も自分の心の垣根を取り払えたのかもしれない。自分でもわかっているのだが今一歩踏み出せないということはよくある。

   京は、その時咄嗟に「もっと甘えてくれよ」と言ってしまったのではなく、京は京なりに結構悩んだ末での発言だった。気まずくなったり、ウザがられたりしたらどうしようというのがあった。

   でも、悩んで発したその一言でふたりの心は、ぐっと近づくことができのだから、言葉とはほんとうに大事だなとそのあと京は、思ったのだ。

   相手をいとも容易く傷つけるのも言葉だし、誤解を解くのも言葉だし、一言はかなり大きい。

   殊に女性は、毎日でも「愛してる」と恋人から言われたい生き物だろう。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ピンクローズ - Pink Rose -

瑞原唯子
恋愛
家庭教師と教え子として再会した二人は、急速にその距離を縮めていく。だが、彼女には生まれながらに定められた婚約者がいた。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

25cmのシンデレラ

野守
恋愛
デパートに靴を買いに来た梨代は、自分の足に合う25センチのサイズが無くて落ち込んでいた。そこで偶然起こった暴漢騒ぎ。とっさに靴を投げて助けた男性は、まさに梨代が買おうとしていたブランドのメーカー「篠塚製靴」に勤める篠塚だった。しかも篠塚グループと呼ばれる現代財閥の御曹司だとか。 後日お礼として非売品の靴を届けに来た篠塚は、梨代にとある仕事の依頼を持ちかけて……。 御曹司が庶民を体験⁉ 王子様の「逆」シンデレラスト―リーが始まった! と思いきや、事態はあらぬ方向に。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

12年目の恋物語

真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。 だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。 すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。 2人が結ばれるまでの物語。 第一部「12年目の恋物語」完結 第二部「13年目のやさしい願い」完結 第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中 ※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。

処理中です...