花散る男女

トリヤマケイ

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第1部 アイドル編

♬3 反省会

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   物販もチェキも終了し、会場を後にした京と依田ちゃんは、反省会という名の呑み会で、互いの傷を舐め合うように、ふたりにしては饒舌に喋った。










 未だに興奮冷めやらぬ京だったが、声を出さない状態でもこれなのだから、依田っちのいうMIXとかいうやつを打ったり、モッシュやダイブとやらをやったら、どうなるのだろうと思った。 








 しかし、もう何年経っても状況は変わらないのだろうか。京がMIXを打つなんて日はもう来ないのかもしれなかった。 










 治験を終えたワクチンや薬は、一時は感染を抑えるかもしれないが、さらなる強力なモンスターが現れるといった、イタチごっこが容易に京には想像できた。











    ここに来て一気に感染者が激減したのは不気味以外のなにものでもないが、ただの新しいインフルエンザとはわけが違うのだ。










    今までの常識では通用しない、ありえないものが世界に登場してきたということ。










 つまり、世界は大きな転換期を迎えたとの認識を早く持たなければならないだろう。










 即ち、いま人類に不可欠なのは認識の転換なのだ。現在の常識が絶対であるというアンカリングにより正しい認知が歪められている。










 京も、アイドルの魅力に取り憑かれるという、これまでにない経験をし認識の世界が大きく変わってきていた。










 それは、京個人のちっぽけな認識の変化だったが、ヘドバンも健康を害すると言われているし、まあ、アカシアにはヘドバンするような激しいビートの楽曲はないだろうが、声も出せない、MIXも打てない、ヘドバンも出来ないとなると、ライブの意味がないような気もするのだった。










「対バンも悪くなかったね」と依田ちゃんがボソっと言って、ニンマリと笑った。









「なに、推し増しするの?」








「へへへ。わからない。そっちはどうよ?」






「とりあえず、ゆりあをどうするか悩んでる」







「なるなる。どっちも甲乙つけがたい美人やからなぁ」







 そう言って依田ちゃんは、巨体を震わせて笑った。







「衣装もよかったね」と京。







「そうやね、衣装担当はPが兼任してるらしい」






「自前にしないとバカ高いのかな」








「いや。そんなことないと思う。ただ、既製品ではオリジナリティ皆無やからな。まあ、アイドルの衣装は、似たり寄ったりなのは、否定できひんけど」








 京は、相づちを打ちながら







「よくわかんないけどさ、対バンのじゅじゅだっけ?   あのチームの衣装、ゴスロリだよね?」








「せやねん。いちばん小柄な子が、みおりゆうたかな。呪いがコンセプトらしいから、ゴシックな雰囲気なんやろけど、ビジュアルいいから、同じモノトーンのモード系というのもありなんちゃう。知らんけど」








「そういえばアイドルなんて全然興味なかったけど、大人数のミリタリーな衣装のチームは、テレビで知ってたよ」








「ああ、ナチスの親衛隊みたいな格好で物議を醸した例のグループね、あのままイケイケの軍服路線で行けば面白かったんやけどな」








「それでさ、聞きたかったんだけど、なぜまたアイドルにハマったわけ、EVITAやSepultura、Slip notとかメタル命だったんじゃないの?」







「それはそう。せやけど、ある日不意に思ってん。オレ、このままメタルだけの人生でいいんかなって。井の中の蛙大海を知らずのまま、死んでしまってもええのんかなって」 








 やっぱり依田ちゃんは面白いと京は思った。








「なるほど。それでいろんなジャンルを聴いたわけだ?」






「ま、そうなんやけどさ、ジャズは雰囲気あるけど、ちょいわけわからへんし、クラシックもいいなと思うのはあるねんけど、長いし大仰過ぎて。やっぱり明確なメロディとリズムがないとあかん、それに何と言っても、ヴォーカルやな」








「なら、とりあえず洋楽でビルボード的なキャッチーなやつを聴いたわけ?」









「いや、メタルやったら英語でも全然気にならないんやけど。それで、日本のロックとかボカロとかYoutubeで聴いてる内に、どんなアルゴリズムだか知らへんねけど、アイドルグループがオススメで表示されるようになって、とりあえず聴いてみたんや」







「それで、ハマったってわけ?」









「んーなんていうか、ゴリゴリの兄ちゃんたちのメタルばかり聴いてたわけやから、軽いカルチャーショックに見舞われたって感じやな。で、聴いていくうちに、デスボやってる女子もいたし、マグマみたいなプログレやってるグループもいて、これは侮れないなと思ってん。じゅじゅもね、アレンジは完全にロックやねん。新曲はマジヤバイ。余談とかイデアとか」











「なるほど。で、やがて運命の人、依田っちの推しメンに出会ったわけだ」








「ま、そうなんやけど。実は彼女オレが推しに決めた直後に、卒業発表したんや。ちょい前の話ね。アイドルはいつ辞めてもおかしくないから。ヲタクはみんなそれを周知の事実として覚悟しているんやろうけど、やっぱりつらいものはつらい」








「それで、推し変だっけ?  したという流れか」 








「いや、そうやないんや。はじめて推したアイドルが突然卒業ってなって、さあこれからアイドルヲタクやるぞって矢先の出来事だから、ショックで。こんな俺でも彼女を選ぶにはそれなりに葛藤があってん。簡単に決めたわけじゃないんやから」









 京は、熱く語る依田ちゃんのひたむきさに、ちょっとだけ感動していた。いつも居眠りしているという、あのナマケモノみたいな依田っちのイメージは覆された。








「それで、新しい推しを見つけるか、ヲタクやめるかってなってた時に、ちょうどパンデミックが来てん。で、ライブどころじゃなくなって、ヲタ活も中止せざるを得ない状況になった。








   実は、とんだとばっちりで運営から出禁食らってたというのもあるんやけどな。それから、一向に収束する気配がないまま、推しが別のチームでアイドル復活という、信じられないニュースが飛び込んできたんや」
 






 京は頷く。








「わかった。それがミリアなんだろ」







「ご名答。アカシアという新しいチームだということもわかって、もう嬉しくて小躍りしてもうてん」
 





 そのときの事を思い出し興奮さめやまぬ依田ちゃんだったが、ウルウルしながら遠い目をしてビールを一気に飲み干した彼が、ひと息ついたところで、京はやおらいい出した。














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