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第1部 アイドル編
♬ 4 ゼロサムゲーム
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「ところでさ、オレらもういい歳じゃん。現場ではもっと上の世代の人もいるみたいだけど、自分もああいう人みたくなるのかなぁと思うと、ちょっと悲しくなる。
中には、家族持ちの人もいるのかもしれないけど、ドルヲタがどうのこうのじゃなくね、とにかくみんな自分を解放して最高に楽しんでるのは、よくわかるんだよ、わかるからそれに水を差すようなことは言いたくないんだけど。
ある日さ、ふと我に返って、アリとキリギリスじゃないけど、辛い事嫌な事は頰かむりしてやり過ごし、楽しいことだけしてきたツケがやがてまわってくるんじゃないかと、慄然とする日がくるような気がするんだよね、自分を含めての話なんだけど」
依田ちゃんは、何度か頷くとゆったりした調子で話し始めた。
「まあね、そうなんだよね。みんな自分をどうやったら解放できるか、理屈じゃなく知ってる連中だからね。
現代はどんな人でも様々な理由からストレス抱えてるからね、それを楽しみながら発散し解消してしまう方法を知っているアイツらは、ある意味凄いと思う。クスリに頼るとか犯罪に走るとかするヤツらもかなりいるわけだから。
むろん、自分が楽しい方へみんな行くわけだけれど、同じ楽しみでも、手が後ろに回っちゃうようなのは面白くない。
痴漢、下着泥棒、盗撮、万引き、大麻やら詐欺、その他もろもろの非合法な事に楽しみを見いだすのもありかもだけど、長い目で見るとアホとしかいいようがない。
相手の利益は自分の損失であるというゼロサム思考的な考え方は、誰かの富や幸せを奪い取れば奪い取った分だけ、自分の富が増し幸せになれる。他の人を傷つけたり損害を与えることによって自分が豊かになるという考え方になっていく。
幸せそうなカップルを見ると、何か自分が辱しめられたような、ごくごくつまらない存在のように思え、その幸せを台無しにしてやりたくなって、罵詈雑言を浴びせたり、いじめたりするのではなく、相手の幸せを自分の幸せのように感じられる世の中になるには、ここでもやはりパラダイムシフトしかありえない。
既存の常識を覆す感染症の誕生は、人類が全く未知の領域に入ったことの証しにほかならず、図らずも世界はパラダイムシフトするしかない状況に追い込まれたわけだ。
で、いいたかったことは、ドルヲタの連中は、彼女いない歴=年齢で、それはもう妖精とか馬鹿にされているけれど、富の奪い合いというゼロサム社会ではない、新しい世界のあり方である、Win-Winを実践している連中なんだよね」
京は、驚いていた。なにやらパラダイムとか聞いたこともない単語が飛び出してきて、依田ちゃんが別人に見えた。
「ま、本人たちは、そんな事気にもしてないで、力一杯応援してるだけなんだろうけどさ」
だいぶ酔いが回ってくるにつれ、呂律は回らなくなってきていたが、不意に依田ちゃんは眠たげな一重瞼をカッと見ひらき、「じゃあさ、まあ、志を同じくするヲタクとして仲良くなれたわけだし、互いに黒歴史を語って御開きとしようか」そう言い出したのだった。
京は、バカ笑いしながら
「小学生の頃の話だから、別に黒歴史でもないけど、人生でたぶんこれからも絶対やらないであろうことを、平気でやったことがあるよ」
依田ちゃんは、驚いた顔をして
「いいね、なにさ?」
「ある男子とちょい、もめてね、あまりにもムカついたのかな? 唾を顔に吐きかけてやった」
依田ちゃんは、テーブルをバンバン叩いて喜んだ。
「最高やな。でもなんでなん? そこまでやるってありえんくらい何かひどいことされたん?」
「いや、あるテレビのクイズ番組にその子の家族が出てたのをテレビで観たから、〇〇くんテレビ出てたよね? ってきいたんだけど、小バカにしたように知らぬ存ぜぬを突き通し続けてたから、ついキレちゃったんだと思う」
「なるほど。で、その子の反応は?」
「固まって無言で立ち去った」
依田ちゃんは、また大爆笑。
「俺も、黒歴史というほどの黒歴史はないんだけど、中一の頃からロックを聴きはじめて、いつだったか、イーノとかいたバンドでロキシーミュージックというのをだいぶ後になってから知ったんだけど、その記念すべきデビューアルバムには、レコードにいわゆるパンティが穿かされてあったらしいんだよ。
むろん、CDしか持ってなかったから、レコードが欲しくてたまらなかったんだけど、やっとヤフオクで見つけたはいいけど、パンツなしばかりだったんだ。でも、なんとか見つけ出して、今も部屋に飾ってあるけど、一度だけそのパンティを履いたことがある」
そして、何やら意味深に「ま、色気のない話だよね。もっと色っぽい黒歴史、これから作りたいもんだよね」と店の低い天井を仰ぎみるようにしてそう言った。
そんなわけで、京はアカシアのライブがあるごとに依田っちと現場に出かけた。
自分でもバンドの真似事をやっていた京は、ステージに立つという事がどんな感じなのかは知っていた。
今でも音楽を創りたいという気持ちは、相変わらず心のどこかでくすぶっている。
だから、バンドか何かスタイルはわからないが、いつかはやりたいとは思ってはいるが、いまは暫くアイドルを追いかけていくのもいいと考えていた。
アイドルを応援するということ。こんな形で、音楽というかショービジネスに関わっている自分が京には新鮮だった。
だが、そのライブの形態は、前とは異なるものであり、京はこの世界を未知のウイルスが席巻する前の動画で、ヲタクたちが押し合いへし合いしながら、いかにも楽しそうにヲタクしている様を羨ましいと思った。
中には、家族持ちの人もいるのかもしれないけど、ドルヲタがどうのこうのじゃなくね、とにかくみんな自分を解放して最高に楽しんでるのは、よくわかるんだよ、わかるからそれに水を差すようなことは言いたくないんだけど。
ある日さ、ふと我に返って、アリとキリギリスじゃないけど、辛い事嫌な事は頰かむりしてやり過ごし、楽しいことだけしてきたツケがやがてまわってくるんじゃないかと、慄然とする日がくるような気がするんだよね、自分を含めての話なんだけど」
依田ちゃんは、何度か頷くとゆったりした調子で話し始めた。
「まあね、そうなんだよね。みんな自分をどうやったら解放できるか、理屈じゃなく知ってる連中だからね。
現代はどんな人でも様々な理由からストレス抱えてるからね、それを楽しみながら発散し解消してしまう方法を知っているアイツらは、ある意味凄いと思う。クスリに頼るとか犯罪に走るとかするヤツらもかなりいるわけだから。
むろん、自分が楽しい方へみんな行くわけだけれど、同じ楽しみでも、手が後ろに回っちゃうようなのは面白くない。
痴漢、下着泥棒、盗撮、万引き、大麻やら詐欺、その他もろもろの非合法な事に楽しみを見いだすのもありかもだけど、長い目で見るとアホとしかいいようがない。
相手の利益は自分の損失であるというゼロサム思考的な考え方は、誰かの富や幸せを奪い取れば奪い取った分だけ、自分の富が増し幸せになれる。他の人を傷つけたり損害を与えることによって自分が豊かになるという考え方になっていく。
幸せそうなカップルを見ると、何か自分が辱しめられたような、ごくごくつまらない存在のように思え、その幸せを台無しにしてやりたくなって、罵詈雑言を浴びせたり、いじめたりするのではなく、相手の幸せを自分の幸せのように感じられる世の中になるには、ここでもやはりパラダイムシフトしかありえない。
既存の常識を覆す感染症の誕生は、人類が全く未知の領域に入ったことの証しにほかならず、図らずも世界はパラダイムシフトするしかない状況に追い込まれたわけだ。
で、いいたかったことは、ドルヲタの連中は、彼女いない歴=年齢で、それはもう妖精とか馬鹿にされているけれど、富の奪い合いというゼロサム社会ではない、新しい世界のあり方である、Win-Winを実践している連中なんだよね」
京は、驚いていた。なにやらパラダイムとか聞いたこともない単語が飛び出してきて、依田ちゃんが別人に見えた。
「ま、本人たちは、そんな事気にもしてないで、力一杯応援してるだけなんだろうけどさ」
だいぶ酔いが回ってくるにつれ、呂律は回らなくなってきていたが、不意に依田ちゃんは眠たげな一重瞼をカッと見ひらき、「じゃあさ、まあ、志を同じくするヲタクとして仲良くなれたわけだし、互いに黒歴史を語って御開きとしようか」そう言い出したのだった。
京は、バカ笑いしながら
「小学生の頃の話だから、別に黒歴史でもないけど、人生でたぶんこれからも絶対やらないであろうことを、平気でやったことがあるよ」
依田ちゃんは、驚いた顔をして
「いいね、なにさ?」
「ある男子とちょい、もめてね、あまりにもムカついたのかな? 唾を顔に吐きかけてやった」
依田ちゃんは、テーブルをバンバン叩いて喜んだ。
「最高やな。でもなんでなん? そこまでやるってありえんくらい何かひどいことされたん?」
「いや、あるテレビのクイズ番組にその子の家族が出てたのをテレビで観たから、〇〇くんテレビ出てたよね? ってきいたんだけど、小バカにしたように知らぬ存ぜぬを突き通し続けてたから、ついキレちゃったんだと思う」
「なるほど。で、その子の反応は?」
「固まって無言で立ち去った」
依田ちゃんは、また大爆笑。
「俺も、黒歴史というほどの黒歴史はないんだけど、中一の頃からロックを聴きはじめて、いつだったか、イーノとかいたバンドでロキシーミュージックというのをだいぶ後になってから知ったんだけど、その記念すべきデビューアルバムには、レコードにいわゆるパンティが穿かされてあったらしいんだよ。
むろん、CDしか持ってなかったから、レコードが欲しくてたまらなかったんだけど、やっとヤフオクで見つけたはいいけど、パンツなしばかりだったんだ。でも、なんとか見つけ出して、今も部屋に飾ってあるけど、一度だけそのパンティを履いたことがある」
そして、何やら意味深に「ま、色気のない話だよね。もっと色っぽい黒歴史、これから作りたいもんだよね」と店の低い天井を仰ぎみるようにしてそう言った。
そんなわけで、京はアカシアのライブがあるごとに依田っちと現場に出かけた。
自分でもバンドの真似事をやっていた京は、ステージに立つという事がどんな感じなのかは知っていた。
今でも音楽を創りたいという気持ちは、相変わらず心のどこかでくすぶっている。
だから、バンドか何かスタイルはわからないが、いつかはやりたいとは思ってはいるが、いまは暫くアイドルを追いかけていくのもいいと考えていた。
アイドルを応援するということ。こんな形で、音楽というかショービジネスに関わっている自分が京には新鮮だった。
だが、そのライブの形態は、前とは異なるものであり、京はこの世界を未知のウイルスが席巻する前の動画で、ヲタクたちが押し合いへし合いしながら、いかにも楽しそうにヲタクしている様を羨ましいと思った。
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