花散る男女

トリヤマケイ

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第1部 アイドル編

♬ 7 嫌がらせのターゲット

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   そして、アカシアの危機はそれで終わりではなかった。





   ゆりあもまた自殺未遂事件を起こしてしまったのだ。





 ゆりあが、自殺未遂するまで追い詰められてしまったのは、ファンの逆怨みによる、ありもしない誹謗中傷だった。




 アイドルになる前のゆりあを知っている京は長い間ずっと、貞操観念などない、ただのヤリマンだとゆりあをいわば、蔑んでいた。





    ただし、自殺願望の強い事からもしかしたならそうではないのかもしれないと薄々感じてはいた。



 アカシアのステージでゆりあと再会してからは、さらにゆりあの屈折した感情が垣間見えるような気がしていた。




 そう思うようになったきっかけというものはないが、京も自分なんてどうなってもいい、という想いがあり、ゆりあの歌う姿を眺めながら、ゆりあも実はそんな風なのではないのか、とふと思ったのだった。




 むろん、そんなことを考えてるんだろうなどと、ゆりあに聞くことなど出来ないが、京にはなぜか当たっているような気がするのだった。無論、ヲタクの都合のいい考えにすぎないのだが。




 そして、京がさらに考えたのは、ゆりあは自暴自棄になって、いろいろやらかすというのではないのではないかという事だ。




 自分はどうなってもいい、別に幸せになんてならなくてもいい、そう考えているばかりではなく、むしろ自分から積極的に自分を貶めるような事をしているような気がするのだ。





 もともと自分など穢れているのだから、もっと汚してやれみたいな、自分に罰を与えることによって、なんとか心の均衡を保っていられる、そうな感じではないかとタカシは、思っていた。

 



 そこに、あの事件が起こった。ヲタクは、御多分に洩れずほとんどのヤツが、推しメンといつかは結婚できると考えている。そんなおめでたいやつらばかりだ。





 猜疑心が強く、ギブアンドテイクは当たり前みたいな輩は、ヲタクにはなれない。





 それはともかく、ゆりあヲタのそいつは、ゆりあにいろいろと金品を貢いでいるのに、まったくなびかないということに腹を立てたらしい。




 そして、そいつかそいつの知り合いかは知らないが、そっち方面に詳しいやつにディープフェイクで、ゆりあがイケメンと手を繋いで、渋谷の円山町あたりを歩いている動画を作らせ、SNSで拡散したのだ。




 当初は、京もそのフェイク動画にまんまと騙された。ゆりあが、また、やらかしたと思った。




 ゆりあは心理的に生きるのが辛くて自虐している、そんな風に良い方に解釈をしていた自分が馬鹿みたいだと、京は思った。




 だが、そうではなかった。いや、そうではないと京はゆりあを信じたかった。




 そして、チームのメンバーからもハブられ、アカシアヲタにも糾弾されたゆりあは、ついに身の潔白を証明するために、睡眠薬のオーバードーズで自死しようとした。
   


 幸い一命を取り留めたが、そこから京に、ゆりあを護らなければ誰が護ってあげるんだという想いが芽生え、病室に毎日花を持って見舞いすることにしたのだった。




 その自分の心の変化を、京自身も理解できてはいなかった。太陽みたいな存在の南条クロエに必殺クロスカウンターパンチを喰らわされ、ぞっこんだったはずだった。





 サービス精神旺盛な南条クロエは、その派手なボディを惜しみなくヲタに晒していてくれていて、それ故に一見さんというか、ただの興味本位のファンも多い。SNSのフォロワーもアカシアの中でもダントツだった。




 だから、というわけではないが、好きなのは確かだと思うが、南条クロエに対して自分がいなければという感じが京にはさほどない。 




 ヲタクは口を開けば、推しメンと結婚したいと言うが、南条クロエと自分は果たして本気で結婚したいのかと自分の心に聞いてみると、そんな事もないのだった。




 確かにあの胸は賞賛に値しノーベル賞も取れそうなほどの威容だけれど、オッパイと結婚するわけではないのだ。




 一方、早乙女ゆりあに対して京は、やはり護ってあげたいという気持ちが強いのだった。




 だが、そもそもヲタクが推しメンと結婚できるはずもないのだ。




 例えば、聞くところによるとバンドをやっているとモテるらしく、メジャーのグループを卒業していたあるアイドルの過去のエピソードが流布され、男をとるか、グループを取るかの選択を迫られた彼女が、結局選んだ彼はバンドマンだったということもあったというのも記憶に新しい。




    つまりバンドマンで、そこそこのビジュアルだったならば、或いは、バンドをやっていない場合でも、少なくとも出会いが、アイドルとヲタクという関係でなければ、もしかしたら結ばれるというチャンスもあったかもしれない。




 偶然にも京と早乙女ゆりあの出会いは、アイドルとヲタクではないことは確かだ。しかし、どう贔屓目に見ても十人並みのビジュアルでもない京が推しメンと結婚できる確率は、限りなくゼロに近い。     




 だから、京が早乙女ゆりあを護ってあげたいというのも、僭上の沙汰で、おこがましいだけの話なのだが、それは、やはり過去の彼女との出来事に起因している。





    それが大きく影響しているのはたぶん確かだろうけれど、そこらへんの難しい複雑な心理の働きは、京自身には皆目わからない。




 そして、それは早乙女ゆりあに対しても過去は大きな影響力を持っていることは確かだろう。




    だが、早乙女ゆりあは、新しい自分に生まれ変わりたいという思いから、過去を棄て去りたいとも強く思っているかもしれないのだ。




 そうなると、過去の出来事に紐付いているような事物はすべて忌避したいのではないか。タカシはそう危ぶんでいた。





 しかし、自傷癖のある彼女を護る為には、自分は取るに足らないただのヲタクに過ぎないなどと卑下してはいられない。





 取るに足らないつまらない存在の自分でも早乙女ゆりあを護るためには、強くあらねばならないのだ。自分を卑下している暇など一切ない。




 たぶんだが、子どもの頃から孤立無援だったであろう彼女を救ってあげられるのは以前のゆりあを知っている自分しかいない、そういう強い気持ちがないことには京自身も、おそかれはやかれ早乙女ゆりあの闇に呑み込まれてしまうだろう。





   だから京は付かず離れずの距離感を持ってゆりあに向き合っていきたいと思っている。依田ちゃんとは異なり、あくまでもアイドルとヲタクの関係として、支えてあげられたならと京は思うのだった。

  
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