パサディナ空港で

トリヤマケイ

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#187 Scarface スカーフェイス

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 *月*日
 
 
 
 春の嵐にしては冬に逆戻りしたかのような大荒れの陽気だった
 
 
 
 
 そういえば、ヘッセの『春の嵐』をもう一度読み返してみたかった
 
 
 
 
 
 
 林立するビルの谷間にビル風が渦巻くように吹き、体ごともっていかれそうになった
 
 

 
 
 
 
 荒涼とした原野よりも、さらに孤独を感じさせる、メトロポリス、東京
 
 
 
 
 
 
 その疎外感のせいだけではなく、ウインドウに映る目鼻立ちの整った自分の顔に、寒気がした
 
 
 
 
 
 
 
 いったい、オマエは誰なんだ
 
 
 
 
 
 
 
 
 過去の自分の顔からかけ離れた美しい顔立ちの男性が、そこに確かに現前していた
 
 
 
 
 
 
 
 
 その顔は誰かに似ているような似てないような、綺麗だけれどまったく個性のない顔だった
 
 
 
 
 
 
 
 
 先生にBTSのメンバーの写真を見せて、施術をお願いしたのだった
 
 
 
 
 
 
 しかし、仕上がりはアレン様にそこはかとなく似ていた
 
 
 
 
 
 
 
 
 ただ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 顔をいじって、たとえきれいになったとしても自分はどこまでいってもニセモノに過ぎない、という内なる自分の声がずっと鳴りやまない
 
 
 
 
 
 
 
 
 これも、精神的なダウンタイムというやつなんだろうか
 
 
 
 
 
 
 
 なぜまたいい年をして、顔を変えようなどと思い立ったのかと言えば
 
 
 
 
 
 
 
 推しメンに好かれたい一心で顔をいじったのだった、或いは推しメンの為にと言い換えてもいい、だから後悔はない
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 過去の自分とはおさらばし、国宝級の超絶イケメンとして、これからは生きていくのだ
 
 
 
 
 
 
 
 推しメンはチャラいのがタイプだというのを古参のヲタから聞いたから、清水の舞台から飛び降りる覚悟で、整形に踏み切ったのだった
 
 
 
 
 
 
 
 DDといえばDDだが、ずっとメインで応援していた推しメンが先日の生誕祭で卒業してしまった
 
 
 
 
 
 
 だから、推し変したのだった
 
 
 
 
 
 
 これまで生きてきて美容整形に興味はまったくなかったので、鼻を高くして、顎を削ってとか注文はなかったが、唯一口元が薄幸そうで、華やかな印象にしたいというのはあったので、M字のボリュームのある艶っぽい唇にしようと思った
 
 
 
 
 
 
 
 切開しないからダウンタイムが少ないというヒアルロン酸注入にしたが、みんなそれぞれ体質が異なるのだから、副作用は個人差があるのは当然だった
 
 
 
 
 
 
 自分の場合は、ぶっとい辛子明太子みたいに、やたらに腫れてしまった
 
 
 
 
 
 
 ダウンタイムが終われば腫れはひくだろうと思っていたけれど、M字になった唇は、大きくなったままで固まってしまった
 
 
 
 
 
 
 
 これはもう、アレン様に限りなく近づいた唇だった
 
 
 
 
 
 
 
 
 そして、きのう、不幸が一気に襲いかかってきた、とんでもないスクープ記事がネットを席巻したのだ
 
 
 
 
 
 
 
 それは、推しメンの熱愛報道だった



 やっぱり彼女はチャラいのが、大好物だった

 
 
 
 


 
 
 
 新しい美しい顔になってから参加したファンミのことが遠い過去の出来事のように、胸に去来する


 ハイタッチの際に、結婚を申し込んだのだ



 彼女は、「ありがとう」と優しく微笑んでくれただけだった
 
 
 
 
 
 
 顔をK-POPのミュージシャンばりに綺麗にしたのに、極端な低身長がまずかったのだろうか
 
 
 
 
 
 
 骨延長手術で10cm以上身長を伸ばせばよかったのだろうか、しかし、今となってはすべて後の祭りだった
 
 
 
 
 
 
 ワンチャンあるかもと期待していただけに、すさまじい脱力と絶望感に打ちひしがれた
 
 
 
 
 
 いったいなんのために美容整形したのか
 
 
 
 
 
 
 
 推しメンは、雰囲気イケメンのチャラ男に奪われてしまった、そして自分には美しい顔が残った
 
 
 
 
 
 
 
 これから、どう自分は生きていけばいいのかわからない
 
 
 
 
 
 
 
 しかし、だからこそヲタクは基本DDなのだ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 厄介かける次のターゲットを決めるのみ
 
 
 
 
 
 
 
 
 ◉藤◎鳥さん
 
 
 
 
 
 推しメン認定させてください🙇
 
 
 


 このスカーフェイスで、会いにいきます








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