パサディナ空港で

トリヤマケイ

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#216 Hello, my desire

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*百合的な表現があります、ご注意ください










 全存在を包含する宇宙の最外周の縁こそが、不動の真の場所である……とは、アリストテレスの言葉らしいですが、今では、宇宙はダークパワーとかの力で、常に外に向かって引き伸ばされているらしいということがわかっているようなのです。







 実は図書館でなにか面白い本はないかとブラブラしていたとき、たまたま『場所論』の書かれた本を見つけたのでした。そして、それは思った通り興味深いものでした。







 主体主義の哲学がこれまで無視、あるいは等閑視してきた場所の概念は、私の考え方なり在り方に、とてもよく当てはまると思いました。私はなによりもでしゃばること、目立つことを嫌っているし、実際に私が表立って行動したらきっとうまくいかないでしょう。







 それは、あたかも[主体を支えている基体]の構造とよく似ているのでした。簡単にいうと、私は舞台空間という場所なのです。ドラマを成功させるためには、主役を気持ちよく演技させ、見栄えのあるものにしなければならない。私は、そのための裏方なのです。







 というわけで。
 前置きが長くなりました。
 実は私、先日、六本木の某スタジオで催された全裸撮影会に行ってきました。








 ただたんに、冒頭にこれだけ書くと、なんだただのエロオヤジかよってことになっちゃうでしょうから、もちろん、ただのエロオヤジにはちがいないのですが、こんなオヤジでも少しはモノを考えているんだぞってことをですね、表明したかった。いや、実に俗っぽいやり方ですかね。俗物です、はい。








 ま、それは置いといて。







 デルモの皆さんは、前もって、ネットにアップされている写真で確認したら五人いて、もうピチピチの美女ばかり。愛美ちゃんに、こずえちゃん。遥ちゃんに、絵美ちゃん。そして、私のもろタイプなあゆみちゃんの五人なのですが、私は、もう直にiphoneで、モニターに映るひとりひとりの顔写真を撮っちゃいました。
新規登録の手続きも無事に終え、あとは指定された撮影日を待つばかりとなりました。











 実は、私カメラが趣味といえば趣味なのですが、忙しさにかまけて最近は、さっぱり撮っていませんでしたので、予行演習として何度か近くのバラ園に足を運び、久々にバシャバシャと撮りまくりました。







 そういえば以前、月島から浅草まで撮影しながら歩いていったことがありましたが、移動しているときには、ほとんどシャッターを切りませんでした。いや、切れませんでした。これといった被写体にめぐり逢わなかったから……。そう言い訳めいたようにいいたいのですが、実のところシャッターを切れないという問題は、自分にあるのだと思います。










 自分の心のなかの鏡が曇っていると、そんな感じになります。なんにも感じられないんですね。これは、結構つらいです。それでも、やっぱり折角写真を撮りに来ているのですから、バシャバシャ写真を撮りたいので、カメラを構えて撮影するわけなのですが、ファインダーを覗きながら、シャッターを切るのが、つらいのです。








 撮っていて面白くないのはもちろんですが、それはなんのために撮っているのか、どんな狙いがあってこの写真を撮っているのかが、まるでないのでまったく意味ないじゃん、と虚しくなってしまうわけです。








 でも、撮影のたびに毎回研ぎ澄まされたようなシャープな感覚で、世界を見ることができるわけもないのですから、仕方ないといえば仕方ないのですが……。







 そして、あっというまに撮影当日。








 中目からメトロに乗り換えて、いよいよ六本木に着くと私は、少々緊張してきました。
 前の晩は、あゆみちゃんのプロフィールのリンクから辿って彼女のブログをみちゃったり、さらには、そこから彼女が書いているというケータイ小説サイトに飛んで、いろいろと読み漁っているうちにもう三時を回っていました。










 それで興奮するあまり、なかなか寝付けなかったので睡眠不足なはずなのですが、緊張しているせいか、ぜんぜん眠くはないのでした。きっと撮影を終えた帰りの電車のなかで睡魔が襲ってくるのではないか、そんな風に思っていました。









 指定された時間までには、まだ余裕がありましたので、私はアマンドの二階でコーヒー付きのケーキセットなどいただきながら、あゆみちゃんのケータイ小説サイトを開いて、印象に残ったエロい小説を再読しはじめました。






 🦀





 すれちがった女の子たちの楽しげな声が、なぜかやけに耳に残った。大好きだったプラネタリウムのあった、いまはなき東急文化会館の幻影を見つめる。 









 その上空には、巨大なマカロンがふたつ、音もなくふんわりと浮かんでいる。
 なにかとっても大切なものを失ってしまった、そんな気分。








 日曜日。




 香織は、朝からウキウキしていた。
 きょうは、由紀と買い物に出掛けることになっている。




 先ず、代官山へいこう。そして、歩いて恵比寿だ。ランチは、モスがいい。




 ふたりは、渋谷で待ち合わせしていた。
 渋谷の改札は、クソ暑いのに人がいっぱい。
 みんないったいどこにいくんだろう。香織は、ケータイの時刻表示を見る。約束の時間は、もう過ぎていた。






 でも、いつものことだから、ぜんぜん気にしないけれども三十分過ぎたら、メールしてみようと香織は思った。香織は、手持ち無沙汰でケータイの画面を見つめながら、由紀の制服姿を思い浮かべる。由紀の通っている学校は、珍しくセーラーで、香織はセーラーを着れる由紀が羨ましかった。






 そして、もう少しで三十分という時、人ごみのなかに由紀を見つけたときには、涙が出そうになった。






 由紀は、香織に気付くと小さく手を振ってきた。「ごめんね。遅くなっちゃった」
 由紀は、ちょっとおどけてそう言い、舌を出してみせた。






 きょうは、ピンクのレース付きプルオーバーだ。ラインストーンやビーズが襟ぐりに煌く華やかなカットソーで、胸元のギャザーが、由紀の乳房を優しく包み込んでいた。






 軽く覗く鎖骨に、香織はドキリとした。
 でも、香織は、なぜか由紀が自分の目をまっすぐ見ないことに気付いていた。それに、由紀の雰囲気がなにかいつもとはちがっているような気がする。





 なにかがちがう。






 それがなにかはわからないが、決定的ななにかだ。






 昨夜、ケータイで喋ったときの由紀とはぜんぜんちがう。





 あの後で、なにかあったんだと思った。





 由紀が言った。




「暑いから、とにかくどっか入って涼んでから行かない?」





「うん。そうだね、そうしよう」






 香織は、好都合だと思った。





 さっきから襟足の辺りがざわざわしている。一刻も早く、由紀のあの甘い唇を吸いたいと思った。







 そうして由紀の愛を確かめたかった。






 エスカレーターを降りて、すぐのところに、ブランドの化粧品売り場があったはずで、そこに行こうと咄嗟に香織は思った。






 涼を求め、ふたりが駆け込むようにして、デパートのなかに入ると、一気に汗が引いていくのがわかった。







「涼しい!」






 由紀は、感嘆の声を上げる。






「あ、由紀。目の下のところに汚れがついてるよ」






「え? ウッソー!」






「ここじゃまずいから、トイレ行こうよ、ね?」
 香織は、先にたって歩き出し、トイレを捜した。






 トイレに入ると、由紀は、すぐさま大きなミラーを覗き込んだ。








「え? 香織、どこ? どこにも汚れなんてついてないじゃん」






 そういいながら、振り返る由紀の唇を、香織は、いきなり奪った。






「だめぇぇ」





「どうして? なにか後ろめたいことでもあるの?」






「そんなのないよ」






「じゃ、いいじゃん。いつものようにキスしよ」
「だって、誰か入ってきたらどうすんの」
「じゃ、個室にいこう」
「ええ! いいよ。きょうは、そんな気分じゃないんだもん」
「いいから」 








 香織は、由紀の腕を引っ張って強引に個室に入ってしまった。入ったらもうこっちのもんだと香織は、思った。由紀の身体をしっかり抱いて、情熱的なキスをした。







 そして、胸元のギャザーの上から、ゆっくりと由紀の乳房を揉みしだいてゆく。
「香織、だめだったら……」 






 そういいながらも、由紀は身悶えしながら甘い吐息を洩らした。






 香織は、キスしながら両手で擦るように由紀の身体を愛撫し、顎、首筋、そして耳朶を舐めて、耳にそっと息を吹き込みながら、「好き」と囁いた。







 それから、今度は耳朶を少し噛んでから、耳のなかに舌をゆっくり挿しいれていった。
 香織は、由紀が脇腹と耳が一番感じるのを良く知っている。





 ことに、耳はほんとうに感じるらしく、耳の中に息を吹きかけるだけでも、のけぞってしまうのだ。





 舌を入れられた由紀は、もう完全に香織のものだった。






 もう立っていられなくなった由紀を、蓋をした便座に座らせると、キスをしながらブラをはずして、ツンと上を向いたピンクの乳首に吸いついた。






「あぁぁ……」







 由紀の可愛らしい喘ぎ声に、たまらなくなって、またキスをした。


   


 ながいながいキス。






 香織は、永遠にこうして由紀の唇を吸っていたかった。
 由紀の唇。それは、まるで薔薇の花弁だった。
 甘く蕩けるような味がする。






 キスするだけで、もう腰が砕けそうだった。
 有線だろうか、ボサノバの気だるいメロディが、薄く流れてきた。






 世界は、由紀と香織のふたりだけになった。
 ずっとこうしていたいけれども、なぜか気が急いて仕方のない香織は、またたくまに由紀をショーツ一枚だけにしてしまった。







 ピンクのブラとお揃いのフェミニンな、かわいいショーツは、小花を散らしたバックレースタイプで、小憎らしいほど素敵だった。自分も、ショーツだけになって、また由紀にキスをした。貪るように由紀の唇を吸い、舌を絡め合うと、もうあそこがじゅくじゅくに潤ってくるのがよくわかった。








 香織は、理性をかなぐり捨てて、快楽の僕と化していくこの瞬間が、好きだった。ゾクゾクするようなこの快感は、他のものでは得られない悦びをもたらしてくれる。







 香織は、もう我慢することなくショーツの上から、一番敏感な突起を弄りつつ、由紀の胸を壊れ物に触れるようにして優しく揉んで、また乳首を口に含んだ。







 由紀は、眉根に皺を寄せて身悶える。
 そして、またながい接吻をした。
 キスしながら、香織は由紀の大切なところ全体をショーツの上から優しく撫でた。







 ショーツは、もう濡れて染みになっている。
 香織は、堪らなくいとおしくなって、ショーツの上から舐める。







 由紀の切迫した喘ぎ声が、トイレに反響する。
 薄手のショーツは、唾液と愛液で半透明となり、由紀の形状がはっきりとわかるほどだった。







 やがて香織は、するりとショーツのなかに手を滑り込ませる。
 火照ったそこは、濡れそぼり、やすやすと香織の細長い指を受け入れた。
 この指で、何度由紀をイカせたことだろう。
 香織は、人差し指を挿し入れて、なかで掻き回すようにした。







 由紀は、されるがままだったが、なぜか香織がショーツを脱がせて直にキスしようと顔を近づけると、驚くほど執拗に抵抗した。







 由紀は、膝頭をピタリと合わせて香織に脚を開かせなかった。






「ちょっと、由紀どうしたの?」





 香織は、顔を真っ赤にして俯いてしまう。
「そう。わかったわ。あたしに見せられない何かがあるわけね」






 香織は、そういうのがやっとだった。







 ここで、一気に爆発してしまったら由紀を失うことになってしまうのでは……という想いが、香織の怒りをなんとか押しとどめていた。
 その気になっていっぱい愛し合いたかったのに、興ざめもいいところだったけれど、由紀とのきょう一日を台無しにしてしまうのが怖かった。







 香織は、なんとか気を取り直し、涙ぐんでいる由紀に精一杯の笑顔をしてみせた。







「わかったわ、由紀。ね、でもキスして。いっぱいいっぱいキスして」






 香織は、胸が張り裂けそうになりながらそういった。







「ね、もっと強く抱きしめて。胸が苦しいよ」
 香織は、こみ上げてくる嗚咽を必死にたえながら、由紀にキスした。







 とめどなく流れる涙に頬を濡らしながら、もうこれで終わりなんだと香織は、思った。










 🦀






 六本木ヒルズとは逆方向に五分ほど歩いたところにスタジオはありました。なにぶん新参者なもので、おどおどしつつも参加マニュアルに沿って、スタジオの外からケータイで来訪したことを告げスタジオ内に入ってゆくと、身分証の提示を求められ、やっと待機ルームに通されたのでした。








 そこには、大判で撮られたのでしょう、B全の半裸の五人のポートレイトが飾られ、その迫力に私はたじろぎました。なにしろ、B全はデカい。あゆみちゃんのたわわに実った果実のようなおっぱいの質感といったら……もう言葉にはならないくらいなのでした。








 そうして、私は白日夢をみたのです。そこは、戸外で、戸外というか、砂漠のオアシスみたいなところで、椰子の木陰であゆみちゃんは、半裸のまま、その身を持て余すように横たわっているのです。半裸というのは、ミニスカに、お腹丸出しのクロップトップで、私は、なんとあゆみちゃんと一対一で撮影しているのでした。あゆみちゃんは、婉然と微笑みながらこういうのです。









「もっと大胆なポーズが見たいんでしょ?」









 私が逡巡していると、あゆみちゃんは、答えなど待たずにミニスカをずりあげて、大股開きするのでした。ミニスカの中は、ノーパンでした! 目が点の私は、もうファイダー越しにあゆみちゃんを撮るだけなんていう、ヘビの生殺しのような仕打ち? には我慢できずに、大切なカメラをかなぐり捨てて、あゆみちゃんに挑みかかっていきました。そして、あんなことや、こんなこと……。









 そうやってどのくらい呆然としていたのでしょうか、スタジオ付きのアシスタントと思われる若い男の子のなにやら説明している声で、我に帰りました。










 私はその説明の内容にまだ夢のつづきなのかと耳を疑いましたが、羊のように大人しい男たちは、待機ルームの奥にあるいくつかに区切られたパーティションの陰で、指示通り洋服を脱ぎはじめるのでした。








 銭湯でむかし見かけたような、網かごのようなものを指差して、アシスタントの若い男の子が、ここに手荷物や服を入れておいて下さい。貴重品はこちらでお預かりしますといい、はい、とは答えたものの、まさか、デルモさんといっしょに全員が裸になっての撮影大会なんだろうかなんて思ったりして、なんかすご~くエロいなぁ、なんてまたぞろスケベ心に火がついたりして……。









 そういったことをやはり想像してか、周りは異様な雰囲気に包まれていて、いよいよ時間がくると男たちは、嬉々とした表情を浮かべ次々とドアの向こうへと消えていくのでした。
 でまぁ、まるで銭湯にはいるようにスッポンポンになって、変な開放感と羞恥で異常にハイになっている自分を意識しつつ、愛機であるブロニカS2を手に勇んで重いドアを開け中に入ってみると……。











 脛毛や汚いおケツを丸出しにしたマッパの野郎たちが、所在なげにそこらじゅうに散らばっていて、若いデルモの美女のみなさんが、長い髪を振り乱して写真を撮っているのでした。それも、かっこいいスポーティな服を着たままで……。









          ◆        











 てなわけでして。
 普通ならば、お後がよろしいようでと落ちがついたところで、終わりなのですけれども、この小説まがいのものは、申し訳ないくらいなのですが、終わらないのですね。








 これは、オマケでもなんでもなくですね、昨夜、私、小津安二郎監督の彼岸花を観たわけなんです。しっとりと落ち着いた雰囲気のホームドラマと思いきや、実は羊の皮を被った狼みたいな化け物作品でした。








 先ず、冒頭の東京駅駅舎のカット。これはまぁ、無難なと思えるものの、よく見てみると斜めに傾いでいるのでした。そして、次のカットは、その駅舎を裏から撮ったカット。これもまたヘンテコリンです。








 映像で何かを言わんとしているとしか思えないショットなわけで、単に美しく撮るのならばいくらでも構図を考えて撮るのでしょうけれども、そんなことには頓着なくモンタージュ的なことをやっているようなのです。









 途中インサートされるビルの狭間のカットなども、絶対使わないようなカットであるのですけれども、これ以外は、映像的には過激な点は見られません。









 相変わらず会話の部分は見交わされることのない視線で、淡々とショットが重ねられてゆくのですが、そもそもいくら父親が反対していようが、娘の結婚というおめでたい主題の映画であるはずなのに、タイトルが「彼岸花」とはいったいどういうことなのか、などと多少憤慨しながら見終わったわけなのですが、実は、娘の結婚はテーマでもなんでもなかったようです。









 母親である田中絹代が、平山に明日はお弔いがあるけれども、やっぱりモーニングを着てゆくのかと問う場面があり、平山が、いや、明日はいいだろう、と答えると、「そうですね、お祝いの次にお弔いなんて、モーニングも戸惑ってしまうわね」みたいな感じで、田中絹代が言うのですが、「彼岸花」では、お弔いにはぴったりのタイトルではあるものの、祝言ではどうも縁起が悪いななんて思ったのですが、これまた実に的を得たタイトルであって、というのも手の届かぬ彼方に嫁いでいってしまう娘のことを彼岸に咲く花に喩えているわけで、娘を手放した父親の感情を的確に表している題名なのでした。










 冒頭の駅員の会話等から、波瀾が起こることを示唆していましたが、それに次いで友人の娘の結婚披露のシーンとなり、平山が祝辞を述べるくだりとなるのですが、いよいよ自分の愛娘が嫁ぐときになっても、肝心の結婚披露のシーンはワンカットも差し挟まれないというのは、いったいどういうことでしょうか。










 娘の結婚に反対であった平山は宴席でニコリともしなかったらしいですが、平山自身がたとえ気の進まない結婚であろうとも、物語の流れとしても娘の結婚披露を描くことが必然とも言い得る箇所であるにもかかわらず、披露宴の代わりのようにして親父どもの旧制中学の同窓会をえんえんと撮っています。










 その同窓会の翌日に竹島へと架かる橋の上で、海風を受け陽光を浴びながら、三上と平山が語るシーンは記憶に残る美しい場面でありますが、こんな美しいカットに最も相応しいはずの? 若い恋人たちの姿は一切出てきません。









 ということで、いくら鈍い私であろうともここら辺でどうもおかしいと気付きはじめたわけです。この映画はホームドラマ仕立てとなってはいるけれども、主人公は、節子でも平山家という家族でもない。娘の結婚もエピソードとして描かれているのみで、刺身のツマ程度の問題であって、家族の在り方とか、年頃の娘を持つ親の苦悩や悲哀を描いているわけでもないようです。









 ただただ世間の親父の代表として平山という父親が描かれているわけで、父親であるからその家族がたまたま出てくるだけであって、娘の幸せとか家族の在り方とかを描いたごく普通の所謂ホームドラマなどでは決してないのです。









 とりあえず映画は、最後に父親と娘夫婦との和解を予想させて終わりますが、面白いのは、そのための伏線として関西の連中が来るからという理由で同窓会を愛知の蒲郡に設定してあることで、相当和解にこだわっていたように思われます。











 平山は同窓会が終わると、その足で京都の祇園にある親戚に立ち寄り、そこで山本富士子演ずるところの幸子の口車に乗せられ、娘夫婦の住む広島へと向かうわけですが、頑固親父がそう簡単に広島に出向くわけがないということで、愛知→京都→広島と話しの運びに不自然さがないよう伏線を張っていたわけです。










 また、その幸子という綺麗な娘は、母親譲りで口が達者なのですが、それだけでなくとても利発な娘であって、実のところ節子の結婚も彼女の機転の利いた言動があったればこそ可能となったのであって、それは裏を返せば、平山が結婚に反対するのは明確な根拠があってのことではないということが、自明となるわけです。









 では、地位も名誉もある強い父親、平山が主人公であるこの映画が語りたかったものは、なんでしょうか。私には、そういった強い父親のエゴを描いてあるのではないかと思えてなりません。









 幸子が平山に語ったトリックという言葉がありますが、この映画はしっとりと落ち着いた雰囲気のホームドラマと思いきや、実は羊の皮を被った狼みたいな化け物作品と、この拙文の冒頭で述べたように我々は、まんまと小津のトリックに騙されたようです。









 映像的には、ほとんど過激なものはみられないものの、娘の結婚を題材に採りながら親のエゴを描くという、エグさによって小津は本編でも化け物ぶりをいかんなく発揮しているのです。










 ということで、映画の冒頭の立派な駅舎は、平山であり、その裏側、秘匿されたところの、つまり心のなかを描くとフィルムは、語っているようなのです。









 「hello, my desire」

 



 
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