生きるAIは恋をする~仮想電脳実験~

及川 瑠

文字の大きさ
1 / 3

第1話 A-13、アルカディアへ

しおりを挟む
 時は21XX年。

 『仮想実験ラボ』と呼ばれる、仮想空間や人工知能を研究する施設では、仮想空間A――通称「アルカディア」が完成し、その空間に投入される15体のAIの準備も完了していた。

「所長、後はエンターを押すだけでAI達は仮想空間に投入されます」
「よし、では私が押そう」

 男性職員が席を譲ると、女性職員は嬉しそうに小さく跳ねた。
「この実験が成功すれば、私たち人間が仮想空間で暮らせるかもしれないんですよね!」
「ああそうだ。 これはまだ未知数の仮想空間の適応が出来るか確かめるテストなのだから。 さあ押すぞ」

 所長がエンターキーを押すと、緑が広がる仮想空間の中に、15体のAIが次々と読み込まれていった。
「所長、成功です!」
 男性職員がガッツポーズをする間に、AIは各々の顔を認識し、挨拶をしたりしていた。
「ちゃんと動いているようだな」
 ラボ内に、小さな拍手が起こった。

「どうやら、A-10とA-11が共同作業を始めたようですね」
「こっちではA-2が早速眠っていますよ」
「A-7は空を見上げていますね」

 職員が報告するように、各AIは自由に行動している。だが、一人だけその場から動かずにいるAIがいた。

「……おや? A-13は活動を開始しないな」
 所長は首を傾げた。全員、大元は同じコードから作られたのだから、一人だけ動かないのはありえない、と。

「ステータスは『NORMAL』ですね。 エラーは特に出ていませんが……」
「ふむ、まぁ誤差かもしれんし そのうち動き出すだろう」

 そして、所長が次に試したい事があった。『命令』を聞くかどうかだ。
「試しに『リンゴの木からリンゴを採取する』をさせてみよう。コマンドを実行してくれ」
「はい、分かりました」

 男性職員は画面上にあるリンゴの木にタッチし、続いて『Pick』と書かれたテキストをタッチした。すると動いていたAI達14人はリンゴの木に向かい、手を伸ばしたり、背の高いAIは皆の代わりに摘み取って分け与えたりしていた。だが、未だにA-13は動こうとしない。

「A-13だけ動かないか……コイツだけ読み込みに失敗したのかもしれんな」
「リロードしますか? 所長」
「他のAIがコイツを気にしないようであれば、そうしてくれ」

 この場合のエラーには二通りあると、所長は考えていた。まず一に、読み込み終わっているが行動し始めないパターン。そして二に、そもそも人として認識されていない、読み込みすらされていないパターンだ。

「人として認識されていないようであれば、恐らくコードのミスだ」
「一人だけエラーだなんて可哀想ですね……」
 女性職員は、A-13を心配しているようだった。

 しかし、A-10と呼ばれる個体はA-13に近づいて、リンゴを渡そうとした。

「待て! A-10は13を認識しているぞ!」

 すると今まで動かなかったA-13は初めて動いた。リンゴを受け取ったのだ。
「よ、良かったですね……」
「ただ単に、協調性が無い個体だったのでは?」
「まぁ15体も居たら、そういう個体もいますよね」
 職員たちに安堵の表情が広がった。

「……果たしてそうだろうか」
 所長のその一言に、再び緊張が現場を包んだ。
「命令のコマンドは、必ずAIは実行するようになっている。 そうテストして成功したはずだ、A-13も漏れなく」
「……つまり、A-13は命令を無視したという事ですか?」
「ああ。 現に今、リンゴを食べるという行動を見せている、エラーではなかったという事になる」
「命令を無視するAIなんて、聞いた事ありませんよ」

 所長は大きく興奮していた。
「こいつはラボ始まって以来の大きな出来事だぞ……! AIの原則を無視するAIが生まれたんだ!」

 興奮なりやまない所長は、A-13を対象に『命令』を一つ実行した。
「その食べ終わったリンゴを地面に埋めてみろ、A-13!」

 命令を実行したその時、A-13は明らかに画面のこちら側が見えているかのようにカメラ目線で所長を見つめた。そしてリンゴの芯は埋めずに、芯を回収していたAIが通りかかった時に手渡した。

「見ろ諸君! こっちを見たぞ! しかも命令を無視して他のAIに任せている!」
「凄い事態じゃないですか……我々の存在に気づいているかもしれないなんて!」
「仮定だが、A-13は自分が『人工の物』あるいは『何らかの力で動かされている物』という事を知ってしまったのだろう。 A-13のコードを担当したのは誰だね」

 奥に座っていた臆病そうな職員が、手を挙げた。
「じ、自分です……命令を聞かないなんて、そうなるなんて、思わなくて……すみません」
「いや逆だ! 世紀の大発見だぞ、これは! キミを表彰してやりたいぐらいだ!」
「ほ、本当ですか……!?」

 そうしているうちに、アルカディアは夕方になっていく。仮想空間の中にも時間が流れているのだ。
「家を作らせますか? 所長」
「ああ、だがここでA-13だけ『家を作る命令』に従わないとAI内で争いが起きるぞ。 どうする?A-13よ、お前は生きる為の命令を聞くのか?」

 地面をタッチし、『Build House』というコマンドを実行した職員。するとAIたちはまず木の枝と、とがった石で道具を作り始めた。石器時代を目の前で見ているかのようだった。

「やはりな、A-13だけ動こうとしないぞ」
「またA-10が13に声をかけてますね、リーダーAIが既にこの中で決まっているんでしょうか?」

 A-10と数秒ほどやり取りをした後、モニター下部のログに文章が表示された。
『A-10 can not understand A-13. We have made A-13 "Hold"』

「えーっと……A-13を理解できずにA-13を『保留』状態にした、と出ましたね。A-13のステータスも『NORMAL』から『HOLD』になっています」
「リーダーは見捨てはしなかったようだな、『お前の好きにしろ』といったような感じか。いいのか? A-13よ、仕事をしないと困るのは自分だぞ」

 所長はいつの間にか他のAIには目をくれず、A-13がいつ命令に従うかだけを気にしてばかりいた。

「所長、夜になっていきますが 何か命令を追加しますか?『暖を取れ』などありますが」
「リーダーが勝手にしてくれてもいいのだが、そうだな……焚き火を作らせるか」

 コマンドを入力している最中、A-13は少しだけ歩き、A-11に話しかけていた。
「あっ、A-13が移動してA-11と会話していますね」
「ふむ、ようやく動くようになったか。 では実行を……ん? 何か出たぞ」

 画面上に『リクエストが届きました』というメッセージが表示された。
「リクエスト?何だねこの機能は」
「えっと、実はAIがもし仮想世界に無い物を欲しそうになった時用に作っておきました。 欲求した瞬間に表示されるようになってます」
 女性職員が密かに機能を追加していた事に少し不満を抱きつつも、メッセージを読み上げた所長。
「『焚き火』が欲しい?これはどのAIからのリクエストだ?」
「A-13ですね」
「まずはお前たちで作ってみるんだ、むやみに開発陣にねだるんじゃない!」

 リクエストを破棄すると、次々とA-13からリクエストが届いた。
「斧、たいまつ、紐……すぐに作れなそうな物ばかりねだってますね、A-13は」

 この時、A-13は世界の仕組みを理解した上でリクエストを送っていたのである。

「明らかにあると便利な物ばかりだ……HOLDにされた事がよほど悔しかったのだろう、だが自分で作らずに我々に要求するなど実に怠惰な奴だ、A-13は! というかリクエスト機能を停止しなさい!」
「は、はい!リクエストを受け付けないようにします!」
 女性職員がコマンドを入力してリクエストを停止すると、A-13は再び孤独に戻った。

「さっきはA-11に必要そうな物を聞いていたのだろうな、恐らく」
「この世界の仕組みに完全に気づいちゃってますねー……どうしますか? 所長」
「反乱が起きない事を願うばかりだな、幸い 反乱時自動停止システムがあるから良かったが」
「作っておいて良かったですね、反乱時自動停止システム」
「保険はかけておくものだな」


 こうして、いつ『命令をしてくる存在』に歯向かうか分からないA-13の監視実験が始まったのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...