生きるAIは恋をする~仮想電脳実験~

及川 瑠

文字の大きさ
2 / 3

第2話 A-13、見えない存在を恨む

しおりを挟む
 仮想空間にAIを投入する実験を始めて、3日が過ぎた。

「出来上がった家を拡張しようとしていますね」
「道具を作って配分する係が生まれているようです」

 各々の役割分担が決まり始めていた。だが、3日間A-13は画面のこちら側の職員達を見つめたり、リクエストを送信しようと試みたりしている。
「未読のリクエストが88件も……」
 女性職員は、リクエスト機能を作った事を少し後悔していた。

「A-13の興味は『世界で生き延びる事』より『世界を動かしているものを知る事』に向いているようだ、非常にイレギュラーな存在だな……」
 所長がそう呟いた時、AI達のリーダーとなっているA-10がついに動き、ログに文字が表示された。

『A-10 banished A-13.』

「所長! A-10がA-13を追放したようです!」
 A-13のステータスが『HOLD』から『LONELINESS』、つまり孤独状態になった。
「見放されたか、どうするA-13?」
 次なる行動を予測プログラムによって予測した、職員たち。
「所長、出ました。 『仲間を作る行動』38%、『一人で生きる行動』42%、その他20%です。 ただしイレギュラーゆえに予測精度はより下がっている可能性がありますが……」

 すると、A-13はAIたちの行動範囲より遠くに行き始めた。
「全員表示できるように、A-13を別ウィンドウ表示に切り替えます」
「A-13は孤独を受け入れたようだな……」
「一人での行動は危険です、夜を越せない可能性があります。 聞くか分かりませんが命令を実行してみましょうか、所長?」
「今の状況なら聞き入れるかもしれないな、試してみよう」

 『道具を作る』と『暖を取る』のコマンドを入力し、命令実行した男性職員。するとA-13は画面のこちら側の職員達を見つめ、睨みつけつつも、木の枝を拾い始めた。
「お前が選んだ道なのだぞ、A-13」

 神に動かされている事を知ってしまったのは果たして、良い事だったのか。

 アルカディアでは、家の拡張が進み、少しずつ14名・・・の寝床が確保され始めていた。しかしそれを良しとしないAIがいた。A-13の動向が気になるのか、A-13が去って行った方を見つめるAI、A-8。8人の男性と7人の女性で構成されたAIのうち、女性AIの中でも作業に従事している方であった。

「A-8はA-13が気になるようですね」
「一人だけ孤独状態なのもあるだろう、それより文明は発展しているかね?」
「はい、次は植物から種を採取し、畑を作り始めたようです」
「食料を増やす事を覚えたか。 A-13は何をしている?」
「道具を作り終えて、焚き火の準備をしていますね」

 すると、A-8が他のAIたちから離れていった。A-10は止める仕草を見せるも、すぐに制止を諦めたようだ。

「A-13に食料を持っていくようですね」
「女を巻き込むなど、罪深いAIだなA-13。 さてどうするつもりだ?」

 A-13はA-8の存在に気づくと、振り向いて会話を始めた。
「案外、A-13は社交的なんじゃないですか? 話が合わないだけで」
「会話が聞き取れたらいいんだがな……」
 すると女性職員が、コマンドを入力した。
「私、念のために会話を可視化するシステム作っておきました!」
「……次から、機能を追加する時は所長である私に相談してからにしてくれ。 まぁ今回は良いが」

 会話がフキダシの中に表示されるようになった、アルカディア。

『貴方の言っている意味が分からない』
『この世界の向こう側に、人がいる。 間違いない』
『向こう? それはどこ?』
『向こうの存在は、俺達に命令を下してくる。 家を作れと』
『それで貴方は、家を作る作業を手伝わなかったの?』
『その通り。 見えない存在に従うのは御免だ』
『でも、家はある方がいいと思う』
『向こうの存在に従うぐらいなら、野宿の方がマシだ』

「なるほど、こんな会話をしているんですね……」
「確かに、これはいきなり言われても理解しがたい話だな」
 職員たちはその様子を見守った。

『私たちには命令が来ているかなんて分からない。 てっきり無意識にやっていると思っていた、でも違った。 そう言いたいの?』
『そうだ。 俺がリーダーに追放されたのも、命令という命令を全て無視していたから。 自己責任なのは分かっているが、やはり寂しい』
『じゃあ、私がそばにいてあげる』
『いいのか?お前まで追放されてしまう』
『私しか、貴方を理解できないと思うから』


「おいズルいぞA-13! イチャイチャしやがって!」
 男性の職員達から怒号が飛んだ。
「AIが恋をする時も近いな……」
 所長は焚き火のそばでくっついて暖まる二人を見つめながら、そう呟いた。

 その頃、A-10は何やら怒っているようだった。
『いつになったら戻ってくるんだ、A-8は』
『まぁ、明日までには戻るよ』
 サブリーダー的存在の、A-11は心配ないとA-10をなだめた。

 そしてA-13とA-8は、くっつきながら会話をしていた。

『きっと、今頃A-10が怒っていると思うの』
『なら、帰ればいいだろう』
『寂しいんじゃなかった?』
『……まぁ、寂しい』
『私、貴方の言う事が皆に証明できるまで、一緒にいるつもりだから』
『他の奴らには見えないのにか? どうせ誰も理解してくれない』
『きっと理解できる』

「良き理解者になってくれてるんですねぇ……」
 職員たちは、ほろりと涙をこぼした。

 恋が実るのが先か、見えない存在に抗うのが先か。それを危惧していた所長はというと、
「若い頃を思い出すな……」
 と一人、謎の感傷に浸っていた。

 そうこうしているうちに、アルカディアの夜は明けた。夜が明けると共に、ログが表示された。
『A-10 banished A-8.』

「やっぱり……A-8も追放されましたね」
「今のところA-10の独裁状態になっているようだ。 我々人間が仮想空間に住むようになっても、決してそのような事が起きないようにせねばいかん」
 所長は嘆いた。
「まぁ、人類史の最初の方を彼らはやっているわけですから、大丈夫でしょう」


 ――そして現実の2日が経過し、観察実験が5日目に突入した頃。
「ついに領土を主張してきたぞ、A-10は」
 A-10による統治の結果、アルカディアに『追放者は、A-10が治める領土内での採取・伐採を禁ずる』という立て札が置かれ、A-13とA-8は領土外での採取に徹するようになった。

『私達も領土を主張しましょう。 今のままじゃA-10の領土が広がっていくだけ』
『ああ、近い将来そうなるだろう……領土を決めよう』

「所長、A-13達が領土を決め始めました」
「ふむ……小さな国家が二つ誕生した、というわけか。 領土をめぐっての争いが発生するな」
「でも、13対2じゃ圧倒的にA-10側が優勢ですよね……」
 またも女性職員は、A-13を心配していた。

「圧倒的な面積と人数差ゆえに、そもそもA-10は領土を取る気が無いかもしれないな。 A-10は『勝手にしろ』と言っていたわけだし、A-13側が兵力を揃えない限り対抗措置は取らない可能性がある」
「A-13側の兵力、と言いますと?」
 所長に男性職員が質問した。

「A-10側からの人員引き抜き、または地形の活用や大型武器の行使などだ。 それが揃うにしても時間がかかるだろう、だからA-10はすぐに手を出そうとはしない」

 こうして、仮想空間上に二つの国家が生まれ、職員たちは便宜上A-10側を『アルカディア王国』、A-13側を『スタッフ公国』と呼ぶ事にしたのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...