生きるAIは恋をする~仮想電脳実験~

及川 瑠

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第3話 A-13、A-10に対抗する

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 仮想空間『アルカディア』に小さな国が二つ生まれてから二日が経った。
 A-10率いるアルカディア王国はますます領土を拡大し、建設や作物収穫の効率化を図るようになり始めていた。一方のA-13率いるスタッフ公国は、未だ2人で何とか切り盛りしている状態で、建物は小さな小屋一個のみだった。

「差が歴然ですね……所長、2人ぽっちじゃやっていけませんよ、スタッフ公国は」
「しかし、スタッフ公国はA-13の意思に賛同した者で形成される国家だ。これ以上人数が増える事はまずないだろうな」

 そんな所長も、AIがたったの2人の国でやっていけるのだろうかと危惧はしていたのだった。

「応援したくなっちゃいますよね」
「なぜかイレギュラーな方を正義と取りたくなります」
「そりゃあ、A-10が独裁気味だからでしょう」
 職員間でも、様々な意見が交わされていた。

 そしてスタッフ公国側のA-13はというと、
『腹が減った』
 と少し前にぽつりとA-8に言葉を漏らしていたのをきっかけに、物事は動き始めるのだった。


『食糧調達の交渉に行きましょう。 もうここらで採れる食料は無いし、むしろA-10が独占しているから』
 そうA-8が提案するも、A-13は渋そうな顔をして、
『しかし、今更交渉に行っても冷たい目とあざ笑いで追い返されるだけだろう』
 と落ち込んだ様子で言った。それを見たA-8は、思いもよらぬさらなる提案を出した。

『なら、武器を作って実力行使しましょう』

 職員達はA-8の意外な発言に動揺していた。
「所長! ついに争いが始まりそうですよ!」
「まあでも、アルカディア王国が勝つでしょうねえこれじゃ」
「そ、そうですね……」

「ふむ。 だが、アルカディア王国はまだ武器を作り始めていないぞ、これはどう転ぶか分からない」

 所長はモニターに映る、意外にも武器を作っていないアルカディア王国とA-10を見つめた。
「さて、どうする? 奇襲をかけられても知らんぞ?」


 A-8が提案した武器は、投石器だった。
『ここを踏むと、反対側に石が飛んで行くの』
『行使する時の合図がいりそうだな』
『私が交渉しに行くから、踏むのは貴方がやってみて』
『とりあえず、試作機を開発してみるか』

 さて、なぜアルカディア王国は油断しているのか。アルカディア王国を覗いてみると、
『小麦刈り取りローラーを開発しました!』
『倉庫の増築どうしましょう?』
『こっちに人手が足りません!』
 などと各地で開発や提案などが起こっており、A-10はそれの承諾に忙しかった。
『ローラーか、それは良い道具だ。 報酬に刈り取った分の2割をお前にやろう。 何、倉庫の増築? しておけ、増築して損は無い……人手? そこの寝ている奴にでも頼んでおけ、というかお前そろそろ昼寝から起きろ』


 こうしているうちにも投石器の開発は進み、ついに交渉の時が来た。

『いい? 試作機だけどチャンスは一回だけ、方角を間違えたらアウト』
『ああ、念入りに向きの調整はした。 失敗は無いはずだ、後は踏み加減か……』
『結構離れているから、強めに踏むの。 それで大丈夫』
『で、合図は用意できたのか?』
『これも試作品なんだけど、火種を詰めた玉に火打石で着火して上に投げるから、その明かりと煙を合図に投石開始。 これで準備万端』
『……となると、交渉は夜だな?』
『そうね、明かりは目立つし石は見えない、それが良いかも』
『よし、今日の夜に実行だ。 あくまで普通の交渉を装って、脅しはするな』
『ぎゃふんと言わせてやりましょうね!』


 思ったより用意周到なスタッフ公国に、職員達は驚いていた。
「まさかA-8が策士だったとは驚きましたね……」
「これはどうなるか分からないぞ、ああ早くアルカディアの夜が来ないかな」


 そして、ついに迎えたアルカディアの夜。A-8は交渉人を装って、アルカディア王国の領土へと近づいた。するとA-1、A-2が止めに入った。この2人は男性のAIで、領土警備を任されていた。

『お前、A-8か? 今更戻ってきてもA-10は許してくれないだろう、お引き取り願いたい』
『A-13に頼まれて来たんだな、用件言ってみろよ』
『食糧不足が深刻なの。 少し分けてもらいに来たのだけれど……』

 あくまで、普通に。 ただの交渉を装って。

『悪いがお前は追放者の身だ、分けてやる事はできない』
『A-10かA-11はどこ? 貴方達じゃ、らちが明かないから』
『しょうがないな……A-11を呼んでくるから領土内に入れるなよ、A-1』

 A-2が走りに行ったのを確認したA-8は、比較的優しい性格のA-11なら大丈夫だろうと思っていた。だが、呼ばれて来たA-11は、少しむすっとした顔だった。
『本当に申し訳ないけど、食料を分けてやる事はできないんだ。 A-10のお達しで、追放者に一切の物資提供を禁ずと決まってしまったからね』
『どうしてそんな顔をしているの?』
『ここ最近、連勤なんだ。 察してくれないか、もう帰って欲しい』
『A-13は連勤なんてさせないけど』
『あのね、参謀の僕までいなくなったらここがどうなるか分かるだろう? 帰ってくれ!』

 そこで交渉はもう無理だと判断したA-8は、密かに手を後ろに回し、火打石と煙玉を取り出して着火を試みた。だが、A-1には気づかれていた。
『おいお前、何をして……』
『もうこうするしかないの。 許してちょうだい!』

 A-8が着火に成功した煙玉を天高く投げると、それを確認したA-13は用意した台から投石器の踏み場に思いっきり飛び降りた。石はアルカディア王国の方向へ飛んでいき、燃え尽きた煙玉を見て騒ぐ頃には、石は全てアルカディア王国内に到達していた。

 がん、ばき、ずど、と音がアルカディア王国中に響いた。投石のスピードによって、威力は更に増していた。
『何の騒ぎだ!』
 A-10が玉座から降りて建物の外に出ると、小麦刈り取りローラーには穴が開き、柱は一部が削れ、屋根には届ききらなかった石ころが大量に残っていた。

『大変です、A-13どもが反撃を!』
『……あいつらぁぁ!』
 A-10は激怒した。

『ひぃ、食料なら俺たちの分やるから許してくれぇ!』
『何なら今小麦を盗んできてやるから! 許して!』
 A-1とA-2は降伏状態だった。A-11は、A-8と遠くにいるであろうA-13の方角を睨みつけ、
『……僕はどうなっても知らないからね』

 そう言い残して、A-11は闇夜に去って行った。A-8はA-1とA-2の手持ちの食料を抱え、急いでスタッフ公国領土に少量だが食べ物を持って帰る事が出来た。

『成功か? 成功したか?』
 A-13が慌てた様子で聞くと、A-8はにんまりと笑い、
『ええ、大成功!』
 2人は嬉しそうに抱き合った。ついにA-10に反撃してやる事ができた。それだけで嬉しくてたまらなかったのだった。だが、そんな幸せな時間も長くは続かないと、二人は気づいていた。

『……恐らくすぐに、反撃が来るだろう。 どうする?』
『向こうだって使ってくる手は似たような物よ、領土が離れているのだから。 バリケードを作って反撃に備えましょう』
『本当に賢いな、キミは……よし、バリケード作りは徹夜作業だ、いいか?』
『ええ、もちろん』


 その一部始終を見ていた、ラボの職員たちは。
「……完璧すぎる。 凄いじゃありませんか、A-13達やりましたよ! 反撃成功しました!」
「まぁ、本来はアルカディア王国側が正しい歴史なのだろうけど、反撃作戦を思いつくAIがいたという事にまず感激ですね」
「AIにとっても、歴史にとってもイレギュラーな存在……今後が凄く気になります!」

 所長はハンカチを取り出して涙を少しぬぐった。そして、
「さて、我々も本来の作業に戻らねば。 半日ほど放置していたが、命令を実行させるのも我々の仕事の一環だぞ? いくら独自に発展し始めたとはいえ……」

 だが、異を唱える職員が複数人現れた。
「もうこれだけ発展していたら、命令はいらないんじゃないでしょうか? 見守るだけで充分価値はあると思いますが……」
「恐らくログを提出するだけで学会が沸きますものねえ、残りは彼らAIに任せてみては?」
「ですね、AIによる新たな歴史はAI自身に作らせてみたいと思い始めました」

「それも一理ある。 だが、最終的に我々生身の人間がアルカディアに入った後はどうなるか覚えているかねキミ達は? 我々を管理する存在が必要なのだぞ、その実験をしなくてどうする?」

 所長の喝に、女性職員が提案をした。

「あっ、じゃあ今のうちにその管理する存在を作ってしまいましょうよ、モニター監視チームと開発チームに分かれて」
 それには所長もうなずいた。
「なるほど、AIを管理するAIを今作るか。面白い、では今のうちにチーム分けをじゃんけんで行う!グーかパーしか出しちゃいかんぞ」
「所長、それはじゃんけんとは言わないのでは……」

 職員たちが盛り上がっている間にも、A-13たちスタッフ公国側のバリケード作りは順調に進んでいた。
『やはりもう少し人数が欲しいな……』
『A-1とA-2は降伏していたから、今度連れてきてみましょうか?』
『いや、今これ以上刺激しなくていい。 とりあえず小屋さえ守れれば充分だ』
『向こうに比べて被害があっても少なめよね、ふふ』

 AIを管理するAIは、開発コードが『ユートピア001』と名付けられ、開発が始まったのであった。
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