正義の剣は闘いを欲する

水杜 抄

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第一章 呪われし者

腐れ縁

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 さすがに憲兵騎士というべきか。
 ディーンはルイーズを目聡めざとく見つけつけるや否や、エフェルローンに向かってこう言った。

「なんだ、今日は女連れか? ったく、隅に置けないなぁ、お子様の癖に……って、精神なかみはおっさんだったっけか? ああ、わりぃ、わりい」

  そう言ってわざとらしく頭を掻くディーンをエフェルローンは鼻で笑うとこう言った。

「悪いなんて一ミル一ミリ程も思ってないくせに……ったく」

 面白くも無さそうにそう毒吐どくつくエフェルローンに、ディーンはニッと笑ってこう言った。

「ま、それはそうと……折角だし、一緒に飲まないか?」
「あ、それいいねぇ! 飲もう、飲もう!」

 元々宴会好きなギルはそう言うと、早速ルイーズの肩に手を回してそのまま隣に居座ってしまう。

「あ、あれ~?」
 
 ルイーズが困ったように視線を泳がせた。
 その様子を目を細めながら凝視すると、エフェルローンはこの嫌な流れに内心眉を顰める。

(このままいけば、唯の[食事]が盛大な[宴会]になっちまう……ったく、犯人の手がかりがまだ見つかっていないってのに)

 ルイーズは勤務初日ということを考慮して、このあとすぐにうちに帰すとして。
 エフェルローンはというと、このまま執務室に戻って資料の読み込みをしたいところである。

 それに何より、今日は宴会という気分ではない。

「なんだ、なんか問題アリか?」

 眉間にしわを寄せ、ふつと黙り込むエフェルローンに、ディーンは窺うようにそう尋ねて来た。

(ディーンやギルには悪いが、今日はこのまま辞退させてもらおう)

 そう心に決めると、エフェルローンは申し訳なさそうにこう言った。

「悪い、今日は止めておくよ。厄介な仕事あんけんも抱えてるし、ルイーズも今日が初出勤だ。初日から無理はさせたくない。それに、出来れば今夜中に資料の読み込みを……」
 
 と、話しているその隙から。
 ルイーズが要らぬ気を回してこう言った。

「私は大丈夫ですよ、伯爵。せっかくのお友達との交流です! 私のことは気になさらず楽しんで下さい!」
「と、彼女は申しておりますが、伯爵?」
 ディーンはニヤリとそう言うと、わざとらしくエフェルローンにお伺いを立てる。
「あー」

(ルイーズよ。俺にも俺なりの考えや計画、気分ていうのがあるんだけど)

 エフェルローンはげんなりとそう心の中で呟く。

 とはいえ、もうそれらしい言い訳も思い当たらない今、陽気で前向きで我が道を行く彼らに何を言っても無駄である。

(逃げられない、か)

 案の定、視線の先にはエフェルローンたちの木机テーブルの空いている席に、遠慮無く腰を下ろすディーンとギルがいる。

「まあ、いいじぁないかエフェル。お前の連れも『楽しんで』って、そう言ってくれてることだし?」

 エフェルローンの肩に腕を回し、ディーンは嬉しそうにそう言った。

「そうそう、適度な息抜きは大事だからね。という訳で……さ、食べよう、食べよう!」

 そう言ってルイーズの腰に手を回しながら、もう片方の手でメニューを開き始めるギル。
 彼は、それなりに可愛らしいルイーズの隣に陣取って大層ご機嫌のようであった。

 そんなギルの不埒な様子をげんなりと眺めながら、エフェルローンは不満そうにこう言った。

「ったく、誰がおっさんだって?」

 あきれ顔でそう呟くエフェルローンに、ルイーズが必死の形相でこう囁く。

「は、伯爵……た、助けて……」

 この事態を招いた現況であるルイーズをあからさまに無視すると、エフェルローンは片肘を突いてその上に顎を乗せる。
 それから、何を注文するかで意見を戦わせているディーンやギルをぼんやり眺めながら、一人、ため息交じりにこう言った。

「……結局この二人こいつら、俺の意見はなしは無視かよ……」

 こうして、エフェルローンとルイーズは、ディーンやギルと共に食事をすることとなるのであった。
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